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空蝉処女(うっせみおとめ)
横溝正史(角川文庫)
短編集。『空蝉処女』『玩具屋の殺人』『菊花大会事件』『三行広告事件』『頸飾り綺譚』『劉夫人の腕輪』『路傍の人』『帰れるお類』『いたずらな恋』
★★★表題作については「ロマンチシズムの極地!」とのことです〜♪ワクワク(^^)
『空蝉処女』終戦によってようやく人間らしい感情を取り戻した私は、月夜のそぞろ歩きでふいに美しい歌声に出会う。歌声の主は空襲のさなかに記憶を失った美女であった。・・・名月を愛でる場面がとても美しいです(^^)山のあなたの空遠く…♪奥ゆかしくも神秘的な雰囲気が良いですね。ラストはなんちゅうか、…うふふっって感じです(笑)『玩具屋の殺人』おもちゃ屋の店には、なんとなく神秘的な妙に薄気味悪い雰囲気がある?戦後の殺風景な焼け跡に華やかにオープンした玩具屋に、ある夜忍び込んだ子供が見つけたものは。・・・ううっ、もうちょっと楽しい話かと思ってましたが(^_^;)横溝センセイお得意のアレが…(爆)こういう「語り」は好きですが。『菊花大会事件』新聞記者宇津木俊助のそばをけたたましい勢いで通り過ぎていった自動車が、カーブを曲がった途端に爆発した。死んだ男のポケットからは菊花大会の入場券に赤白の文字の羅列が。・・・宇津木俊助はあんまり活躍しない…っていうか、ブンヤ根性がいやらしいほうに出ているようですが(^_^;)時局を感じさせる作品です。『三行広告事件』由利先生の依頼人が毒を盛られて死んだ。かねてから気になっていた、不動産の三行広告と何か関係があるのだろうか?・・・どうも、遊びごころが感じられないのですが…。こういう作品をどういう思いで書いておられたのか、そちらの方が気になってしまったり。『頸飾り綺譚』山名耕作は妻の頸飾りをとうとう入質してしまった。代わりの模造品にも気がつかない様子の妻に一安心したのもつかの間、ある日その頸飾りをなくした妻は、懸賞をつけて探し出すと言い出す。・・・へへ、面白かったです(^^)こういうオチは大好き。ちなみに、この作品の山名耕作と「山名耕作の不思議な生活」の山名耕作とは別人だそうです。『劉夫人の腕輪』ふと興味をもって、とある倶楽部で催された中国の芝居を見に出かけたわたしは、そこで出会った劉夫人の腕輪が気になる。・・・よく分らんけど、悪女だったのよね?徳泰とかも悪人だったのかしらん?まあ、いいけど(^_^;)『路傍の人』気まぐれに散歩しているわたしが、なぜかいつも出会ってしまうあの男の正体は?ひょんなことから近づきになった二人は、ある女を追い詰める。・・・事件そのものは別になんてことないが、男の造詣が面白い。で、このひと、その後も登場するのかな?『帰れるお類』わたしの友人の山野三五郎が、どんなに好人物であるかということを、わたしは前から書いてみたいと思っていた。どんなに好人物なのかというと。・・・おもわず顔がほころびますなあ(*^^*)幸せなような切ないような。いいお話でございます……。『いたずらな恋』モテモテ男の磯部富郎は、五十嵐夫人の好意が、自分にだけ特別に働いていることを感じ始めていた。そんなある日、彼は夫人から相談事を持ちかけられる。・・・しょーもない話ですが、楽しい話です。横溝先生はこういうテイストの作品がお上手ですねえ〜♪うふふっ(^^)
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血蝙蝠
横溝正史(角川文庫)
短編集。『花火から出た話』『物言わぬ鸚鵡の話』『マスコット綺譚』『銀色の舞踏靴』『恋慕猿』『血蝙蝠』『X夫人の肖像』『八百八十番目の護謨の木』『二千六百万年後』
★★★横溝唯一のSF「二千六百万年後」を併録したファン待望の傑作集!えっえすえふ…?
『花火から出た話』有名な学者の銅像の建立式に打ち上げられた花火かた飛び出た花束に隠された秘密とは?・・・なかなか愛らしい話です(^_^)しかし「実は僕は・・・だったんです」って、ちょっと無理があるような(笑)『物言わぬ鸚鵡の話』口の聞けない少女の貰ったプレゼントの鸚鵡は、なぜか舌を抜かれていた。・・・なんか、ムショウに悲しい話。『マスコット綺譚』早苗のマスコットには、ある秘密が隠されていたのだ。・・・いや〜、手遅れになってないと良いですけど…(^_^;)最後に、と思った私は心が汚れているのですよね。『銀色の舞踏靴』映画を鑑賞していた三津木俊助の膝の上に落ちてきたものは、銀色の艶かしい舞踏靴。由利先生もの。・・・あ、これ面白かったです〜♪頑固者の博士もなかなか可愛らしかったし。意外と犯人はまともだったけど(笑)『恋慕猿』カフェの女給瞳の常連客は、なぜか何時も猿を連れていた。ある日その猿が、血塗れの姿で瞳の元へ。・・・カワイそーな猿の直実ちゃん(T_T)しかし、この男はなんて馬鹿野郎なんだ(けっ)。『血蝙蝠』肝試しに幽霊屋敷に入った通代は、そこで本物の死体に出くわしてしまう。三津木は、ひょんなことから奇怪な男に付け狙われる通代を救う。由利先生もの。・・・本筋はともかく、サイドストーリーの女優と俳優の純愛がええですな。まーしかし無理に、蝙蝠屋敷で密会しなくても(^_^;)『X夫人の肖像』年は離れているが幸せだったはずの夫婦に何があったのか?五年前に失踪したお澄の面影が、ある画家の作品に甦る。・・・ううっ、人を愛するとこんなにも凄いことができてしまうのですね(T_T)『八百八十番目の護謨の木』恩人の殺害犯に問われた恋人の疑いを晴らすため、三穂子は遠くボルネオの地に降り立つ。・・・ときは日華事変勃発当時だとか!すげ〜(^_^;)悪者は意外な伏兵でした。それにしても、某登場人物、豹変しすぎ(爆)『二千六百万年後』評判の修養書を枕に、懇々と眠りこんだわたしの見た夢は。・・・これが横溝唯一のSF。軽いタッチが楽しい作品。昭和16年に書かれたとは!しかし、なんとなく「なるほどねぇ…」という感じも。
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ユダの窓The Judas Window 1938
カーター・ディクスンCarter Dickson(砧一郎訳・HM文庫)
「・・・近く結婚しようとしている若い男が、将来の妻の父親をそのグロヴナ街の家に訪れた」若い男ジェイムズ・アンズウェルは、駅に見送ってくれた婚約者のメアリーが何故あんなに青ざめた顔をしていたのかが腑に落ちなかった。メアリーの父の、電話でのどこか冷たい堅苦しさの残る口振りも。果たして将来の父子の面会は、奇妙な雰囲気に包まれていた。アンズウェルは、勧められるままに口にしたウィスキー・ソーダを口にした途端、気を失ってしまう。やがて目を覚ましたアンズウェルは、傍らに横たわるメアリーの父の死体に気がつく。その部屋は完全な密室で、彼らは二人きりだった。
★★★
「密室殺人」「不可能犯罪」の名作〜♪
将来の義父となる人物に初めて逢う、なんて時はだれしも緊張するものでしょうが、本編の主人公アンズウェルもなんだか妙な振る舞いをしてしまったり、危なげなことを口走ったりして、印象が悪いのです。というのも、最初は愛想が良かったはずのメアリーの父親が、いよいよ初対面という時になって気持ちががらっと変わったらしく、冷たいあしらいをしたからなのでした。一服盛られた、と思う間もなく昏倒して、気がついてみると死体と一緒。しかも状況は完全なる密室に死体と二人っきり。外部の人間を部屋に入れてやるには、自分でドアの重いボールトを外してやらなければならない始末。アンズウェルが犯人でないことは確かですが、では真犯人はどうやってこの犯罪をやってのけたのか。ヒントは「ユダの窓」。アンズウェルの弁護人となったメルヴェール卿は言います。「ユダの窓は、君たちの家にもある。この部屋にもある。……困ったことに、それに気がつく人間がほとんどおらんのじゃ」。
プロローグの「起こったかもしれないこと」と、エピローグの「ほんとうに起こったこと」を除いた、ほとんど全てがロンドン中央刑事裁判所(オールド・ベイリーといったほうが雰囲気が出ますねぇ)での「起こったらしいこと」、つまり裁判過程で占められています。法廷ものは割と好きなのです(^^)独特の雰囲気の中で、ギリギリの真実が暴かれていく…そういう緊張感、よいですね。この作品の法廷も、次々に明かされる真実、徐々に解きほぐされる謎の数々がメリヴェール卿の老練(というか何というか ^^;)なる手腕にかかって白日のもとにさらされる、スリリングで飽きさせない展開が素晴らしい出来でした。裁判に関わる人々の法廷理念のようなものもうかがわれて、気持ちよかったし。ま、それよりもなによりも「ユダの窓」が魅力的でした。ネーミングといい、トリックそのものといい、ちょいと唸ってしまいましたね。どうも、密室トリックものというと、笑える仕掛けだけが目立つことが多いような気もしますが、この作品はサスペンスフルなストーリー・テリングの巧みさとトリックそのものの魅力が上手く融合した名作ではないでしょうかっ!…ってな感じで、面白かったです〜オススメ(^_^)
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お役者文七捕物暦−蜘蛛の巣屋敷 1959
横溝正史(徳間文庫)
「・・・年のころは二十二三、さかやきをながくのばして、いっけんやくざかと思える風態だが、その男っぷりのよいことといったら、文字通どおり水も垂れんばかりである」お役者文七、シリーズ初登場。おんな狂言師、板東三津次一座が、大名勝田家の姫の所望で舞台を披露したその夜、お局篠の井は胸騒ぎを覚えていた。不運続きの勝田家にとって久しぶりの朗報である、一の姫の婚礼を控え、用心にも用心を重ねたにもかかわらず、「土蜘蛛の精」と名乗る幽鬼のごとくあやしい男に姫は陵辱され、屋敷に居合わせた女狂言師、板東蓑次にその姿を見られてしまったのだ。
★★★「小説の泉」に昭和32年11月より連載された、長篇捕物帳「お役者文七捕物暦」の第一弾。今回が初めての文庫化です。
もともと、板東三津次の師匠にあたる板東彦三郎の名跡を継ぐと思われていた文七ですが、サイコロに身を持ち崩して勘当され、いまやすっかりヤクザ稼業。ところが、どういう風のふきまわしか、三津次が勝田家に招かれたと知るや、蓑次と名乗ってその一座に紛れ込み。で、舞台をつとめたその夜、うろうろと屋敷を徘徊していたおかげで勝田家の姫の悲劇に遭遇し、この事件に深く関わるようになっていくわけですが。
あとはもう、謎というほどのものはなく、かつての勝田家と「土蜘蛛党」との確執、さぐりを入れる文七に降りかかる数々の困難、文七に惚れている女たち、勝田家の内部に巣食う悪意と怨念、「土蜘蛛の精」の正体・・・等々が情感たっぷりの活劇に中に描き出されていく、というストーリー。文七の秘密も明かされます♪
いかにも映像にしたら男どもが喜びそうな(失礼^^;)お話で、読んでいて少々辟易するところもあったけど、ハラハラドキドキ、涙あり笑いあり、結構おもしろかったです。ていうか、こういう作品は四の五の言わず、作品世界に身を投げ出して読むのが正解かと(^_^)
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ウィッチフォード殺人事件The Wychford Poisoning Case 1926
アントニー・バークリーAnthony Berkeley(藤村裕美訳・国書刊行会)
ロンドン郊外の町ウィッチフォードで、会社経営者ベントリー氏が死んだ。死因は砒素中毒。しばらく前から不仲だったベントリー夫人は、その直前に蝿取り紙を二ダースも購入していた。あらゆる状況が、夫人の有罪を示唆していたが、どっこいシェリンガムは信じない。「万が一、ベントリー夫人の釈明が説得力を持つとしたら、彼女はおそらく有罪だと言わざるをえない。反対に釈明が説得力を欠く子供っぽいものだとしたら、ぼくは彼女の無実をほぼ確信する」てなわけで、弁護側の無給の探偵となることを決意したシェリンガムは、助手のアレックとともにウィッチフォードに乗り込む。
★★★ロジャー・シェリンガムシリーズ第二弾。副題は「犯罪学の試み」(笑)
相変わらずよく喋る男ですな、シェリンガムは。そばにいたら耐えられないかもしれません。
国中の人々が有罪だと思っているベントリー夫人ですが、シェリンガムは納得できません。ひとつだけどうにも答えの出せない疑問があるからです。「・・・いったい全体、どうしてこうも砒素の量が多いんだ?」とにかく、あまりにおあつらえ向きの証拠が山のように、ベントリー夫人の有罪を指し示しているのです。二、三百人はゆうに殺すことができる量の砒素を前に、シェリンガムは言います。「人を毒殺しようってときに、致死量がどれくらいか調べてみないやつがいるとおもうか?」
最初は、砒素中毒の症状のあらわれ方から考えて、すぐにでも容疑者を絞り込めると楽天的だったシェリンガムですが、だれにも機会があったことが判明。では動機は?シェリンガムは殺人の動機を六つに分類して説明します。利益・復讐・邪魔者の排斥・嫉妬・人殺しの欲望・信念。この中ではわずかに「信念にもとづく殺人」のみが除外されるだけ。調べれば調べるほど、真相は遠く…。
アイルズ名義のものほど毒が強くありませんが、この作品ではシェリンガムの口を通して、作者の女性観などが語られていて興味深いですね。しかし、ソーンダースン夫人にしても、ピュアフォイ夫人にしても、いかにも典型的ってかんじですなあ(笑)ま、この典型的っていうか類型的な人間を使うのが巧い作家ではありますね。
シーラをめぐるドタバタとかはめんどくさい感じだし、ラストは何が論証されたのか全くわけがわからないうちに解決してしまってますが、シェリンガム曰く、「今回の事件は心理学のおもしろい練習問題だった」というわけなのです。そーゆー見方で読めば確かに(笑)
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