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泥棒は図書室で推理するThe Burglar in the Library
ローレンス・ブロックLawrance Block(藤村裕美訳・国書刊行会)
イギリス風カントリーハウス「カトルフォード・ハウス」に友人キャロリンとやってきたバーニィ。実は恋人レティスのイギリス風好みに合わせた旅行のはずだったのだが、直前にレティスは、結婚することになった、と言い出したのだ。そこでキャロリンを誘ったわけだが、実は隠された目的が・・・。かつてその屋敷に滞在したレイモンド・チャンドラーが、ダシール・ハメットに贈った、献辞とサインの書かれた『大いなる眠り』の初版本がそこにあるのではないかと思われるのだ。その価値、推定二万五千ドル!屋敷についたバーニィは早速図書室でそれらしき本を発見する。ところが降り積もる雪に閉じ込められた屋敷で、次々と殺人事件が・・・。
★★★
おなじみバーニィ、今回はちょっと趣向を変えて「イギリス・コージー・ミステリ」に挑戦、というわけで『ねずみとり』と『そして誰もいなくなった』を足して二で割ったような事件に遭遇します。イギリス風の居心地のいいカントリー・ハウス、その立派な図書館でまず第一の死。そして第二の死はその屋敷へだどりつく唯一の橋とともに川底への転落。電話線も切断され、いよいよ皆の考えることは・・・「犯人は私たちの中にいる」・・・さらに第三、第四の死体が続々と。いやはや、とにかくたくさん人が死にますが、いつもの軽妙な語り口と、おしゃれな会話は健在。とにかく文句なく楽しめるのは確かですね。田舎屋敷ミステリのご多分にもれず、この作品も最後には全員を図書館に集めての謎解きがあります。犯人はある段階で、「こいつあやしい・・・」と分かるかもしれませんね。でも細かい点の謎解きがちょっと意外なこともあるかも。私はあまり犯人のことは気にせず読んでしまいました。というのも、「犯人探し」をしながら読み進めるって感じにならないんですよ、楽しくて・・・。
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泥棒プロフェッショナルBank Shot
ドナルド・E・ウエストレイクDonald E.Westlake(渡辺栄一郎訳・角川文庫)
デカいヤマをぶち当てるのをまつ間、けちな百科事典詐欺で食いつないでいたドートマンダーの元へ、またもやケルプが持ち込んだ「うまい話」とは?猜疑心いっぱいのドートマンダーだが、ケルプの甥で元FBI(!)捜査官のビクターの話を聞いてやや乗り気になる。新しい社屋の建築のためにトレーラーハウスで仮営業をしている銀行を襲うというものだ。しかもそのやり方が聞いてあきれる。トレーラーハウスごと銀行を失敬するのだ。ドートマンダーの彼女メイや、車のプロ、マーチ、マーチのお袋、そして錠前屋ハーマン・Xといったメンバーが集まって壮大な計画にとりかかることになったのだが。
★★★
ドートマンダーシリーズ第二弾。前回「なみの五倍も苦労させられて、しかもすんだときには一文にもならなかった」ケルプが持ちかける話なので、どうも信用しきれないドートマンダーですが、今回はどうでしょう?
今度も個性的な面々が勢ぞろいです。ケルプとマーチはおなじみですが、新顔は元FBI捜査官のビクターにハーマン・X。ビクターはいまいち正体不明なところがありますが、表面はいたって無邪気。ニコニコわらいながらじっと見つめて話しかける(まるで捜査官のような質問をする)彼にドートマンダーは少々へきえき。ハーマン・Xのほうは、最近は「組織」のための仕事ばかりで自分自身の仕事はまったくしておらず、贅沢が趣味のハーマンも仕事に飢えていたのでした。
さてさて、今回の仕事の特徴はトレーラーハウスごと盗む、という点ですね。しかも、ハウスについていたはずの車輪が取り外されていることが分かったため、まずは車輪泥棒からはじめなければなりませんでした。あらゆる困難を乗り越えてついにトレーラーを盗むことに成功した彼らを待ち受けていた運命とは?
洒落た?会話や間抜けな警察官など、多彩なエピソードがちりばめられていますが、話の筋そのものはきっちり構成されていますので、荒唐無稽という感じではありません。もう、銀行強奪からラストにいたるまで、映画にしたらいいだろうな〜、と思える大活劇?というか、なんというか。しかしそれより、私は最後のオチにされてしまったディーマー署長とヘップルホワイト警部の運命が思いやられてなりません^_^;
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ホット・ロックHot Rock
ドナルド・E・ウエストレイクDonald E.Westlake(平井イサク訳・角川文庫)
「うまい話をもってきてやったんだよ」せっかく当てにしていた300ドルを受取りそこなって、がっかりしながら刑務所を後にしたドートマンダーにケルプが持ち込んだ「うまい話」とは?アフリカの小国タラブウォの国連大使アイコー少佐から依頼された、大エメラルド奪取計画だった。ニューヨークで行われている「アフリカ展」の展示品であるエメラルドを盗み出すために、ドートマンダーとケルプは錠前師のチェフウィック、運転手のマーチ、いかさま賭博師のグリーンウッドを仲間に引き入れ、週150ドルのお手当てと、成功報酬15万ドルのために計画を練るが・・・
★★★
ジョン・アーチボルト・ドートマンダー、37歳、イノリイ州生まれ、孤児院育ち、二度目の刑務所暮らしが、仮釈放という形で終ったばかり・・・。アイコー少佐ご自慢の身辺調査書に書かれているドートマンダーは、こんな経歴を持っています。今はちょっと疲れて病み上がり、といった風情。このドートマンダー、実は天才的犯罪プランナーなのです。(その割には、二度の刑務所暮らしが腑に落ちないですが)その彼も、今回の仕事はちょっと気に入りません。何となくアイコー少佐なる人物が信用できない?しかしどこまでも無邪気なケルプに引きずられるように仲間を募り、仕事にかかることにしますが・・・。
万全の計画のもとに行動しているはずなのに、うまく行かないのは何故なんだ?ケチのついた仕事からは手を引きたいのに、どうしても逃れられない運命。ドートマンダーがしぶしぶ腰を上げて練る計画は、回を追うごとになんだかスケールが大きくなって、アイコー少佐を震え上がらせるのですが、この人も異常な執念深さでなんとかリクエストに答え、エメラルド奪回を祈るのです。ところがどんな運命の悪戯なのか、なんともお粗末な結果になってしまい、経費はかさむ一方です。
しかし、この登場人物の魅力的なことといったら、なんなんでしょう?どこと言って取り柄もなさそうな中年男のドートマンダー、普段は別に大胆不敵などと言うこともなく、しみったれた詐欺まがいのことをして食いつないでいるのに、いざとなるとやることがすごい!それに彼の仲間(?)達も、かなり個性的。なんだか目に浮かぶな〜、彼らがおなじみの「O・J・バー&グリル」で犯罪計画を練っているところ。ところがこの計画が、不思議なことにことごとく失敗するんですから、世の中わかりません。何が悪いって?いや、計画に抜かりはないし、彼らの手腕もたいしたもんなんですが。
とにかく、登場人物すべてが、作者の多彩な描写で、すごく味がありますね。アイコー少佐なんか、気に入ったなぁ。悪党もいるんですけど、こいつも魅力的。センスあるナンセンス(?)な笑い、とでも言うべきなのかしら、言葉一つ一つが凝ってるな〜と思います。ついニヤニヤしながら読んでしまいました。
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