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中途の家Halfway House 1936
エラリー・クイーンEllery Queen(井上勇訳・創元推理文庫)
エラリーは久しぶりに会った友人ビルから電話を受けた。ビルがあうことになっていた義弟のジョーが、何者かに殺されているのを発見したと言うのだ。ビルの話によると、ジョーは突然電報をよこして、ビルにあってほしいと言い、奇妙な場所にあるあばら家を指定したと言う。ビルは、一人の女が家から飛び出すのを目撃し、いまわの際のジョーから、ベールをつけた女に刺されたと聞かされた。やがて死んだジョーに関して、意外な事実が判明する。ビルの妹ルシーと結婚していたジョジフ・ウィルスンは、ニューヨークの富豪ボーデンの娘婿、ジョジフ・ケント・キンバルと同一人物だったのだ。ジョーは二つの家庭を行き来していた。そして、殺人現場こそ、二つの家をつなぐ「中途の家」だった。ジョーが、最近になってルシーを百万ドルもの生命保険の受取人に指定していたことが判明し、ルシーはこの事件の犯人として裁判を受けることになる
★★★二重生活か。日本ではちょっと成り立たないかな?重婚罪というのもあるようですけど、実際のところは難しいでしょうね。アメリカでは、ある意味簡単なのかなぁ。戸籍もないと聞きますし。しかし、最初に結婚したほうが本当の結婚と認められるみたいですが、本名を偽っての結婚でも、そっちのほうが早いと有効と言うことなんだろうか・・・と本筋とはあまり関係ないことなんですが、ちょっと考えてしまいました。
お話は、前半はなかなかきびきび進みます。ジョーの信じられないような正体が暴かれ、保険金問題が出てきて、ルシーが疑われ、裁判にかけられて・・・。結局ルシーは有罪と言うことになるんですが、まあ、指紋とかいろいろありましたからね。しかし、いかにも頭の悪い犯罪ではありませんか、ルシーがしたとしたら。と言うわけで、ルシーではないんだろう、と言う推論で考えると、ルシーを陥れるためにいろいろ画策しているわけだから・・・、あるいは、罪を着せるべきルシーに動機がありうる、ということを知っているとしたら・・・犯人像もだんだん、わかってきました???はずなんですが、どうも推理は苦手でして。今回も挑戦の前に敗北です(~_~;)
とはいえ、後半の話にはかなりいらいら。アンドリアも、さっさと話せばいいものを、ぐずぐず泣いてばかりいるし。最後の謎解きでは、エラリーの御託がちょっと長すぎでしょう。マッチの件で、犯人はもう分かったから、早く動機とかをおしえてよ〜、と胸の中で毒づいてました(笑)その動機はかなり、怪しかったですね。なぜなら、動機のもととなる人物があんまり魅力的でないから(ーー;)こいつのためにそこまでするか〜?と言う疑問符が。まあ、それは個人の趣味と言うことで・・・。
いろいろと不満はありましたが、犯人がこの人物であり、この人物以外にはありえない、と言う論理の積み重ねには納得です。どっちかと言うと、「ちぇっ、なんでわからなかったのだ〜」という自己嫌悪にとらわれました。次はがんばるぞ!
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ボーン・コレクターThe Bone Collector 1997
ジェフリー・ディーヴァーJeffery Deaver(池田真紀子訳・文藝春秋)
金曜日の夜十時半。タクシーに乗り込んだT・Jとジョンを待ち受けていた運命とは・・・。パトロール巡査サックスが通報を受けて駆けつけた現場でみたものは、地面から突き出した人間の手。そしてその頃、T・Jは迫りくる恐怖に震えていた。そしてここに一人の男がいる。かつてニューヨーク市警IRD(中央科学捜査部)部長を務めた男、不慮の事故で首から下の一切の自由を失った男、いまは安楽死支持団体「レーテ・ソサエティ』からやってくるバーガー医師を心待ちにしている男、リンカーン・ライム。そのライムのもとへ、この誘拐殺人事件の捜査協力を要請するために二人の男がやってきた。はじめは断ったライムだが、次第にこの事件に引き込まれていく。そして、ライムの病室は事件の捜査本部としての活動を開始した。わずかな手がかりをもとに犯人のプロファイリングを進めるライム。故意に残されたと思われる手がかりは、彼らをどこに導こうとしているのか。
★★★リンカーン・ライムシリーズ第一弾。ライムとサックスの衝突ばかりの出会いから、やがて二人はお互いになくてはならない存在になってゆく・・・ラブ・ストーリー。
最初は、何故かなかなかページが進まなかったのです。どうも、ライムという人物の像がうまくつかめなかったせいらしく、だんだん理解がすすんだ後半はすごい勢いで読み進みました。そういう意味では、私はサックスの立場で読んでいたのかもしれません。サックスはパトロール巡査からようやく開放されようというその日に、運悪くこの事件にぶつかってしまったのでした。それなのに、ライムにはかまわずこき使われるし、やったこともない鑑識の仕事まで・・・。冗談じゃない!と思うサックスの心の中は、ライムへの反感で一杯です。とにかくライムって人物は、彼の今の状況を考えると理解はできるけど(こういう言われ方、ライムはすッごく嫌がるに違いない)口は悪いし、その口の悪さにもまして言葉が足らないので、ちょっと!何考えてんの?、と思うサックスに共感。しかし、ライムのほうも美しくって、冷たくって、反抗的なサックスにいらいらしたり、でも気になってしょうがない。この二人の心の動きが事件のバックでとてもいい雰囲気を出してますね。
事件は、『ボーン・コレクター』という19世紀の犯罪者に心を奪われた犯人が、驚くべき素早さで次々と犠牲者を選び出し、恐るべき方法で殺害しようとします。ライムたちの活躍で危機一髪救われた人もいれば、残念ながら間に合わなかった場合も。犯人はあまりにも多くの犯罪を犯しすぎたのかもしれません。わずかな手がかりをもとに、ついにライムによってそのアジトが暴かれますが、犯人はついにサックスをも標的にしてきます。
かなり、殺人現場の描写がすごくって、被害者のことを思うと、も〜怖くって少しページをめくるのがいやになった場面もありますが、みんな勇敢なんですよね。それと、手がかりを調べる場面、すごく詳しく描写してあるのですが、こういう瑣末的なのは実はあまり好きではないのですが、この本に関してはあまりうるさく感じなかったのは不思議でした。
事件の解決もすごいのですが、それにもましてラストのもっていき方のうまさには感動です。ライムに生きることを強制することなど、誰にもできません。が、死にたくない!と願った瞬間があるなら、ライムにこれからも生き続けてもらいたい・・・。人は、他人の都合で生き死にを決められてはならないのだから。
とにかく時間との戦い。ぐずぐずしていると次の犠牲者は死んでしまう、という極限の状況で、あくまで冷静に、でも時には時間が待ちきれないとでも言うようにいらいらと、手がかりを読み、指示を出し・・・スーパーマンのごときライムですが、サックスのことになると妙に人間的・・・ここが魅力なんだな〜。
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闇に踊れ!The Dark Fantastic 1983
スタンリイ・エルンStanley Ellin(安倍昭至訳・創元推理文庫)
一人の男がテープレコーダーに向かう。―プリゼンテーション。それが、いまきみが目にしているものである。告白ではない、断じて。―チャールズ・ウイター・カーワン。自らの名前を冠した「ウイター・ストリート」に住む。古い家柄の生まれであり、住居の隣にはアパートメントビルを持つ。末期的肺癌患者であり、余命は数ヶ月。しかしある理由から、その数ヶ月を数週間に縮めようとしているのだ。数十人の住民の命を巻き添えにして。アパートメントビルの爆破、それこそが、彼が生涯の最後に成し遂げようとしている大事業であった。一方、私立探偵ミラノは、ある盗まれた絵画の行方を突き止めることを保険会社から依頼されていた。目をつけた画廊で出遭ったクリスティーンに心を奪われるミラノ。彼女はカーワンが爆破しようとしているアパートにかつて住んでおり、いまも彼女の母や兄弟はそこで暮らしているのだ。クリスティーンから妹のロリーナのことで相談を受けたミラノは、ロリーナがアルバイトをしているというカーワンの自宅を訪ねることになる。
★★★というストーリーなんですが、これを読んだだけではミラノがカーワンと何のために接触したのか分かりませんね〜(~_~;)そこらへんを説明し始めると長くなるのですが、ロリーナの精神状態が不安定なのが心配なクリスが、ミラノに相談し(これは、画廊の内偵をする見返りなんですが)最近アルバイトをしているカーワンをちょっと探ってみようというわけだったのです。そんなことから、全く関係なかったミラノがこの爆破事件に、自らは自覚せず、関わり合いになってくる・・・というわけ。
ストーリー展開が、まず、カーワン教授が悪魔的計画をテープレコーダーへ吹き込むという場面(彼はこのテープをもとに事件後「ヘンドリック・ウイター財団」を設立し、かつての・・・アパートメントビルが建てられる前の不動産の状態に復元したい、という希望を抱いており、これが大事業の骨子なのです)と、ミラノの盗まれた絵画を追う事件が交互に語られて、その二つを結ぶリングは「クリスティーン」という女性、という形になっています。ついにX(エックス)デーがやってきて、ある誤解からミラノはカーワンに捕らわれて最後を見届けることになるのですが、結局ミラノと、カーワンはお互いをろくろく知りもしないままです。
カーワンがなぜ、このような悪魔的大事業を思い立ったのか・・・。自分の本心を押し殺して生きてきた半生と黒人などの有色人種に対する激しい嫌悪感を、カーワンはテープに赤裸々に告白しています。自分のまわりにむらがって、目障りで目障りで、反吐が出そうな存在。しかし彼は、社会的には人種的偏見のない人間として有名だったのですが・・・。ともあれ、カーワンの黒人種に対するすさまじいほどの差別意識も、他の登場人物の本心の暴露も恐ろしいほど(しかも、罪悪感は全く感じられない)。アメリカって、ここまで(本当のところは)差別の根が深いのか・・・と暗澹たる思いです。そして、なぜ、この大事業が、「アパートメントビルの爆破」なのか。それは、そこがカーワンが嫌悪してやまない人々の巣窟だからなのです。クリスティーンもその一人。だんだんミラノに心を開いていく彼女ですが、ある部分ではどうしても心を開こうとはしません。これまで何度も傷つけられてきたから。やや、過剰反応ではないの?と思うようなことも、実際に自分に向けられた言葉だったり、行為だったとしたら、と考えると、どんなに傷つくことだろうと想像できます。
作者が、そういう社会的問題を描こうとしたわけ?かどうかよくわからないのですが、いえるのはカーワンの祖父の時代にさかのぼる怨念が作品全体に漂っている、ということ。その怨念は、自分たちの世界に異物が入りこんで来たことに対する恐怖感と、その異物に対して自分たちが無力であることの不安感。リベラリズムを賛美するふり、でも「本当は違うだろう!」と叫べなかった事なかれ主義の敗北感。そういうものが絡まりあって、異常な「恨み」を膨れ上がらせてしまった、そんなある男の狂気の物語。・・・と単純にいえないような、妙な不安感が残って、心が重いな〜。
しかし、絵画の事件と、爆破事件と、この二つの事件に、人間を結びつけるため以上の必然性があまり感じられないのですが。どうも印象が散漫・・・というか、カーワンの異常性のほうが心に強く残るので、絵画事件のほうはあんまり・・・どうでもいい、というか・・・(~_~;)
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そして赤ん坊が落ちるAnd Baby will fall 1988
マイクル・Z・リューインMichael Z. Lewin(石田善彦訳・HM文庫)
ソシアル・ワーカーのアデル・バフィントンが責任者を務める支所に、ある夜侵入者があった。たまたま残業していたアデルに、男はファイルを見せることを要求し、いくつかをコピーして出て行った。その男はソシアル・ワーカーに対する反感を口にしていた。やがてブライアン・ウォンプラーという人物がころされるが、これはかつてアデルの同僚だったソシアル・ワーカーと同姓同名の別人であるということが分かる。ちょうどその頃、アデルの勤める福祉事務所にある相談が寄せられた。女性と二人の子供が失踪したようだというのだ。その家族は世間との交渉を断った不自然な暮らしをしていたという。二つの事件は複雑に絡み合いやがて恐るべき真相が姿をあらわす。
★★★
アルバート・サムスンの「恋人」、ソシアル・ワーカー、アデルがはじめて主人公を演じます。サムスンもところどころで登場してます。
ストーリーにはこれといって派手な展開はないのです。夜の侵入者、といってもさほど乱暴を働いたわけではなく、ファイルにかかれていた情報がほしかっただけのようです。その後、ひとつの殺人事件、そして母親と二人の子供の失踪事件。これとても、本当に事件なのかどうかははっきりしないまま、しかしアデルのソシアル・ワーカーとしての直感でこの問題に深入りしていくのですが、探っていくうちにブライアンが抱える問題と奇妙にねじれてつながっていることが分かる・・・という展開です。
私は非常に惹きつけられて、どんどん読み進めたのですが、あとで考えるとそんなにすごい事件が起こっているわけではないのに(最終的にはもう、こわ〜い真相にたどり着きますが)なんでここまで引っ張っていく力があるのかな〜?と不思議でした。謎が謎を呼ぶ、という感じですね。それとソシアル・ワーカーのもとへ持ち込まれる、本筋とは関係ない事件が、かなり興味をそそる、というのもあります。それと人物造形の妙、というのが大きいかな。アデルの知性、キングという劇作家の奇矯さ、プロフィット刑事の奇妙なバランス、そしてもちろんサムスンの暖かさ。(サムスンって、とても、いい人なんですよ)
最初の侵入事件と、殺人事件と、失踪事件とを結びつけるリングはちょっと弱いような気がします。が、最後の恐るべき真相にたどり着いたとき、ブライアンの運命も必然かな〜、なんて思ったりしました。
アルバート・サムスンシリーズ、パウダー警部補シリーズから派生した作品ですが、シリーズ化はされていない(?)ようです。私はサムスンシリーズの初期のものを四作品しか読んでないのですが、(パウダーシリーズは未読)、サムスンはとても好きな主人公です。『A型の女』から読むといいのかもしれませんが、私的には『沈黙のセールスマン』が好きです。これらの作品は独立しつつ、それぞれの登場人物が他の作品にも顔を見せる、という形をとっているようで、『そして赤ん坊が落ちる』にちょっとだけ登場するキャロリーという女性刑事も、パウダーシリーズの重要人物だそうです。
この作品もそうなんですが、リューインの作品は台詞に独特のテンポがあって、それは翻訳のせいなのか、原文がそういう感じなのか、よく分からないのですが、私はこの感じがとても好みなんですけど、みなさんはどうでしょうか。
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死ぬためのエチケットA Lovely Day to Die 1984
シーリア・フレムリンCelia Fremlin(田口俊樹訳・創元推理文庫)
短編集。『死ぬにはもってこいの日』『危険なスポーツ』『高飛び込み』『逞しい肩に泣きついて』『悪魔のような強運』『博士論文』『夏休み』『ボーナス・イヤーズ』『何よりも必要な場合には』『死ぬためのエチケット』『すべてを備えた女』『テスト・ケース』『奇跡』
★★★シニカルで辛らつで・・・でもほのかに人間の愚かさにたいする赦し、も見え隠れする、そんな短編が集められています。面白かった、というには少し身近過ぎて、生々しすぎて・・・
『死ぬにはもってこいの日』この私が死にぞこないの別人に自分の死に方を決めさせると思う?かつて母と娘が交わした約束。その約束をついに果たさなければならない時が来たのだろうか。・・・人間がいよいよ死に瀕したとき、本当に求めることはなんなのか、なんてことは結局分かりません。娘が一生懸命自分を納得させようとしていることが・・・わかるな〜。でもこの結末はあまりにも・・・
『高飛び込み』かつて難なく主導権を握っていた夫婦関係、いつの間に逆転してしまったのか。何もかも妻に助けてもらい、人を見下した一瞥に耐えなければならなくなるとは。それもこれも心臓のせいだ。そんな彼を「死者の岩」が誘う。もう一度あの若い日のように。・・・かつての、彼女を魅了した自分に対する嫉妬。思い出してくれ!との思いもむなしく・・・オチは残酷なようでもあり、やっぱりね、でもあり。
『夏休み』愛するハロルド亡き後の淋しい暮らし・・・?これがびっくりするほど性に合っていようとは。こまごましたことを考えることもないし、何より夏休み!もう夏休みの旅行に出かけなくていいなんて、ああ幸せ。ところが息子夫婦が余計なことを。・・・あ〜分かる気がする。人は良かれと思っていうんでしょうが、余計なお世話だって!しかも善行を施している自己満足に浸られた日には。しかし、哀れなるかな・・・、最後はひねりが効いてますね。
『ボーナス・イヤーズ』豪華客船の常連客イーディス。彼女は落ち込んでいる人の扱いが得意だ。今回の獲物はローナ。夫に先立たれ、子供たちには置いてきぼりにされ・・・そんなローナの宝石箱がどこに置いてあるか、イーディスは横目でちゃんと確かめておいたのだ。・・・孤独な老婦人、どこにでもいるような・・・?でも、彼女たちもそれぞれ裏の顔があるものです。ひとくくりにしちゃだめですよ。これ、イチオシです。
『テスト・ケース』しばらくはふたりだけでいようよ。そんなバーナードの言葉にうっかりうなずいたおかげで、ローズはいまや失意の泥沼にあえいでる。もう子供を持つには遅すぎるかもしれない、もう・・・。バーナードは頑なに家庭の生々しさを拒絶する。それなのに、愛人が妊娠したといって家に押しかけるとは・・・!私にどう説明するつもりなの?・・・もうちょっと早く、何とかならなかったものでしょうか・・・強行突破したらよかったのかな?こういう男の場合。しかし、この結末は深いですね。暖かくやわらかい胎内で育つ子供には、等しく青い空の下にいる時間が与えられる(といいんだけど)。
『奇跡』―一風変わった才能をもつ息子レニー。パトリシアは、息子のこの才能を愛した。でも父親のアーノルドは・・・。ある日レニーがおこした「奇跡」に世間は沸き立った。しかしその中に本当の喜びの「奇跡」があったのだ。・・・大げさな外見に惑わされて、本質が見えてないってこと、きっとよくあるんでしょうね。感動のラストです。
***表題は『死ぬためのエチケット』となってますがこれはEtiquette for Dyingが原題です。A Lovery Day to Dieは『死ぬにはもってこいの日』の原題で、この短編集の原題でもあるようです。lovery、っていうのは素敵な言葉ですね。イギリスの人はよくこの言葉を使うんだそうですよ。
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さまよえる未亡人たちThe Wandering Widows 1962
エリザベス・フェラーズElizabeth Ferrars(中村有希訳・創元推理文庫)
新しい職を得てイギリスに帰国することになったロビンは、その前の休暇をスコットランドで過ごすことにした。グラスゴー行きの飛行機に乗ろうとした空港で、ロビンはある中年婦人が男と交わす不審な会話を聞いた。その後その女性とは飛行機で隣り合わせになり、おしゃべりを交わしたのだが、その上スコットランドでも仲間と楽しそうにはしゃぐ彼女と遭遇する羽目になる。彼女―アマンダと仲間たち・・・ミス・ブレア、キャロライン、ヘレンの四人組は自らを夫にほったらかされた「未亡人」だと名乗っている。ロビンたち(四人とシャーロットという本当の未亡人)が一緒に遊びに行った翌日、突然キャロラインが不審死を遂げる。自殺?それとも・・・。前日の遠出でキャロラインはヘレンから酔止め薬をもらって飲んだのだが、それに毒が入っていたのか。だとすると、本当に狙われたのは・・・?
★★★スコットランドのマル島というところが舞台のお話ですが、スコットランドというと荒涼とした風景を思い浮かべてしまって、観光するようなところがあるんだな〜、とみょうに感心してしまいました。でも、風景の描写もなんだか淋しげな感じで、殺人事件の舞台としてはいい雰囲気ですよね。
ストーリーはのっけから怪しげな会話が聞こえてきていかにもそそられるんですが、事件が起こった後も誰も彼も怪しげな様子で、みんな裏があるぞ〜って感じですよ。まあ、登場人物みんな、何かしら悩みを抱えているんですから、しょうがないか。ロビンが見つける手がかり(?)も殺人事件そのものと関係しているのか、それとも個人の裏事情に絡んでいるのか・・・どうも悩ませられます。で、犯人なんですが、これにつながるヒントが〜(~_~;)ほんの一言なんですよ!私ぜんぜんわからなかったです、と白状しましょう。
プロットはよく出来てるな、と思いました。が、犯人がなぜ、ここまでの犯罪を犯したのか、という意味では犯人の背景がちょっとよく分からなかったかもしれないです。それと、本当に意味での真犯人は?
このお話の中では三人の人物が死ぬことになるんですが、最初のは殺人、最後のは自殺。で、もうひとつは、私はてっきり殺人だと思ったんですが、自殺なんでしょうね。この人物はこれらの(過去も含めて)一連の出来事に関して、主導的役割を果たした人物だと思っていたのですが、違ってたのかな〜?そこがなんとなく気になりつつ・・・(はは、なんだかこれを読んだのではなにが言いたいのかぜんぜん分かりませんね^^;でもネタばれするかもしれないので、はっきり書けないよ〜)
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ビッグ・ボウの殺人The Big Bow Mystery 1891
イズレイル・ザングウィルIsrael Zangwill(吉田誠一訳・HM文庫)
十二月はじめの凍えるような朝のロンドン・ボウ地区。ここで下宿屋を営むドラブダンプ夫人は時計を見てぎくりとした。いつもより30分も遅く目がさめてしまったらしい。慌てて下宿人のコンスタント氏を起こそうと声をかけるが、コンスタント氏は起きようとしない。不安に駆られたドラプダンプ夫人は近所に住むグロドマン氏―元刑事にして『わたしの捕らえた犯罪者たち』の著者―の助けを求めた。鍵も掛け金もかかっている部屋の中で、一体コンスタント氏に何が起こったのか。ドアを蹴破って部屋に入った二人が見たものとは・・・?
★★★これは密室殺人もの、ということなんですが、でもちょっと違うかな?すごく、意外な結末でした。
なにをいってもネタばれになりそうなんで、ちょっと困ってしまいますが、ストーリーの最後まで、犯人らしい人物が全く思い浮かばなかったです。謎解き(というか犯人の告白なんですが)を読むと、ストーリーのはじめからかなりヒントが与えられていた事に気付き、な〜るほど・・・という感じでした。トリックは全くフェアなものだと思いました。読み終わってみると、確かに「犯人」以外の犯人は考えられないんですよね。動機が難しいところだと思いますが、でもかなり納得できるものでしたし。「犯人」の人物像がうまく描かれていたので、とってつけたような感じにはなってないのです。それと、おもしろかったのは、犯人の告白の中で、いくつかの出来事は偶然に過ぎない、と言っているところです。「あらゆるものを説明しようとするのは、初心者の常です。・・・・そして、行き過ぎは、足りな過ぎよりも始末が悪いものです」確かにそのとおりで・・・ひとつ二つは偶然の出来事があるのが自然ですよね。この偶然の出来事の使い方がミステリでは難しいところですが。
実はもっと重たい作品かな、と思っていたのですが、軽妙でとても読みやすかったです。なかなかユーモアのある書き方で、当時の社会情勢を知らない私にも理解しやすいところはありがたかったです(^.^)
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殺人交差点Nocturne pour assassin Carambolages  
フレッド・カサックFred Kassak(平岡敦訳・創元推理文庫)
最愛の息子ボブを不名誉な死に方で失い、悲嘆に暮れるルユール夫人。ボブは友達の恋人ヴァイオレットを力ずくで犯そうとして、彼女に刺され、ボブもまた最後の力でヴァイオレットを絞殺したのだ。しかし、「私」だけはそれが巧妙に見せかけた第三者による殺人事件であることを知っている。なぜなら。二人を殺したのは「私」だから・・・。十年の時効を目前に、「私」の前に現れた脅迫者。ルユール夫人と「私」との間で高い値をつけたほうに殺人の証拠を売る、という。何とか金をかき集めようと二人はそれぞれに努力するが・・・。他に「連鎖反応」を収録。
★★★二人の人物が交互に語る独白、というスタイルでストーリーが進みます。息子を溺愛する母親。この母親(ルユール夫人)もちょっと異常な感じですが、息子のほうも友達の彼女に言い寄ったり、あんまりろくなヤツではないですね。そんな恋愛と友達関係のもつれが原因で二重殺人の汚名を着せられて殺されるわけなんですが、母親のほうも特有の嫉妬深さで、ヴァイオレットのせいでボブは不名誉な死に方をさせられた、と信じきり、まさか他に二人を殺した犯人がいようとは考えていませんでした。ところがそこに殺人の現場を映したテープが存在することがわかり、母親は汚名を着せられた息子の名誉回復のため、犯人の「私」はもちろん証拠隠滅のため、金を求めて奔走します。
この物語の根本のトリックが・・・残念ながらミエミエでした。作者がこう思い込ませようとしているな、というのが最初の段階で分かってしまって、最後の悲劇も予想がついてしまいました。あんまりにも表現に気を使いすぎてかえって逆効果になってしまって・・・。難しいところですね。フランス語で読むべきか〜^^;トリックはともかく、心理劇としてはなかなか。特に「私」が殺人を犯すシーンは映像を見ているようで印象的でした。
「連鎖反応」愛するダニエルとの結婚が決まり、モニクとの関係を終わらせようとしたジルベールに思いがけないことが。モニクのおなかにはジルベールの赤ちゃんがいるというのだ。養育費を請求されて切羽詰ったジルベールが考えついたのは、「二重打ち(キャノン)」。昇進と昇給をかけたジルベールの奮闘が始まる。・・・これはブラックユーモアのきいた佳作です。ジルベールの心の動きもなかなかおもしろいし、最後のとんとん拍子と、やっぱりのオチに至る展開が小気味いいですね。
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