女ともだち―レンデル傑作選3―The New Girl Frend and other stories | |
ルース・レンデルRuth Rendell(酒匂眞理子他訳・角川文庫) | |
短編集。『女ともだち』『ダーク・ブルーの香り』『四十年後』『殺意の棲む家』『ポッター亭の晩餐』『口笛を吹く男』『時計は苛む』『狼のように』『フェン・ホール』『父の日』『ケファンダへの緑の道』 『女ともだち』―「もう一度やってみる気はないかと思って」どんな男でも、夫さえも恐怖の対象でしかないクリスが、ふとした事から親友の夫の密かな楽しみに付き合うようになる。最高の夜の終わりに彼女を襲う破局とは?不精ひげに毛ずね…う〜ゾクゾク 『ダーク・ブルーの香り』―キャサリンが自分のもとを去ってから、彼女のことを想わずに過ごした日など一日もない。手ひどい裏切り行為を今でも許せない。しかし探さずにはいられない。やっぱりあんまり酷い裏切り方はするもんじゃないですね^_^; 『四十年後』―ある日の新聞が教えてくれた四十年前の真実。疎開した田舎でわたしが出会ったロマンスは、ジュリエットの台詞とともに心に残っていた。入り組んだ夢想と甘いさくらんぼにうっとりしていたら・・・ 『殺意の棲む家』―「この家には殺人犯が住んでいましてね」条件のよさにひかれて買った家に住む夫婦はやがて精神を蝕まれていく。そしてある風の強い夜に家は動き出す。興味を持たずにいられると思うほうが間違ってます。 『ポッター亭の晩餐』―高級レストランでのデートで、ある人物に出会ったニコラスは屈辱的な目に。名誉にかけての約束をニコラスは守り通す?大逆転は気持ちいい(^^)頑張って守り通してください。 『口笛を吹く男』―不法滞在者ジェレミーは、仕事場で鍵を拾った。ボスのマニュエルにも言わず、鍵を使って盗みに入った彼を待ち受けていた運命とは。周到な復讐、ほとんど信じられないほど執念深いわ〜 『時計は苛む』―友人の家に久しぶりに滞在していたトリクシは、近所の画廊で気に入った時計を買おうとするが、すでに売約済みだった。後日その画廊を訪ねてみると。出来心、というか、悪魔の囁き?時計の音にも似ているかも。 『狼のように』―42歳にして結婚を考えた「わたし」は婚約者モイラにエディプス・コンプレックスを指摘される。そんな「わたし」の楽しみは母の作ってくれた縫いぐるみを着て「ルーピーする」こと。楽しみ方は人それぞれでいいですけど。 『フェン・ホール』―リドゥン夫妻の所有地でキャンプを張った少年は、ガラス壜にを光にかざすフローラに出会う。嵐に遭った少年たちは夫妻の住む母屋に泊まるが。「わたし、嵐をみるのって、大好き」私もです♪ 『父の日』―マイケルは最近妻に捨てられた夫の話ばかりが気になってしょうがない。なぜなら、妻とともに子供までが自分から引き離されてしまうから。男の人は、結婚する前に二度は考え直す必要があるらしい。 『ケファンダへの緑の道』―売れないSFファンタジー作家アーサーからかつて鉄道の線路が走っていた「緑の道」のことを聞いたわたしは、その道をみつけ、さらに支線をも発見する。その道はアーサーの言ったとおりの道だった。キツネノテブクロ、ヨモギギク、そして黄金色のミモザ。香りとともに届けられたのは彼の心の風景。 ★★★レンデルの短編集、初めて読みましたが、いいですね〜(^_^) まるで悪夢をみているように、わかりきった結末へ落ちていく、これがある種の快感になってしまうという素敵な本ですが、気をつけないとあなたの心に巣食う狂気、老醜、いびつな形に押しこめられた愛、思い出したくない過去、もろもろのおっそろしい姿をみせつけられて、主人公とともに転落してしまうかもしれませんよ。五感にうったえる描写も印象的。 特に好きな作品はというと、『ダーク・ブルーの香り』裏切った女がばあさんになっているのを期待する気持ちがよくわかる。あたしってば、いやなやつ(^_^)この作品ではヒヤシンスの甘い香りが効果的。『殺意の棲む家』こういう「物体」が主役の話って好き。これでは音の使い方がいいですね。『時計は苛む』思い込みの激しいばあさんが、すごい苛められよう^_^;これもやっぱり、音。『狼のように』どんなきっかけでわたしの内なる狂気が目を覚ますかと思うと、怖い〜。わたしがモイラだったら・・・即座に別れてます、あの時点で。そして地味な感じなんですがなぜか心に残ったのが『フェン・ホール』ガラス壜に透ける光、嵐の夜・・・このイメージが強烈です。あとになって思い出すとしたらこの作品かも。 『口笛を吹く男』と『ケファンダへの緑の道』は他の作品とちょっと味わいが違う感じ。とくに『ケファンダ…』はフィニイを思い出しました。しかし、毒の混ぜ方がやっぱりレンデル。 レンデルの長編は読みづらいという声をよく聞きます。実は私も^_^;そんなかたはまず、短編を手にとってみられることをお勧めしますね。長時間お付き合いしたくない人物とも、短編でなら。エッセンスが凝縮されていますので、短編でもダメだった人はレンデルとはご縁がなかったということで(笑) |
|
ページの先頭へ | |
ミステリの棚入り口に戻る | |
殺しにいたるメモMinute for Murder | 1947 |
ニコラス・ブレイクNicholas Blake(森英俊訳・原書房) | |
第二次世界大戦終戦直後、戦意昂揚省の広報宣伝局局長ジミーの元へ一通の手紙が届いた。戦死したものと思われていた元同僚チャールズがドイツでの諜報活動のお土産をもって帰国するという知らせだった。ジミーの秘書ニタはこの手紙を見て取り乱す。実はニタはもともとチャールズの婚約者だったのだが、いまではジミーと不倫の関係を結んでいたのだ。チャールズがドイツのお土産「シュトゥルツの毒」(カプセル入り青酸)をもって局に顔を出し、その場は即席の歓迎会となったが、なんとニタが青酸によって毒殺されてしまう。狙われたのは本当にニタだったのか、それともジミーなのか? ★★★ニコラス・ブレイクの作品を初めて読みました。何となくシビアでシリアスな作風を想像していたのですが、そんな感じではなかったですね。衆人環視の中の殺人、たまたまそこには局職員でアマチュア探偵のナイジェル・ストレンジウェイズがいたため、彼は否応もなくこの事件に巻き込まれていきます。戦後の混乱した世相を反映して、人間関係も複雑です。死んだと思っていた元恋人にニタはどういう対応をするつもりだったのか?チャールズの反応は?ジミーの妻アリス(チャールズの双子の妹でもある)がその場に居合わせたのはただの偶然?使用済みの青酸カプセルが見つからないのはなぜなのか?この殺人事件に機密ファイルの紛失、職員の不審な行動といった要素が絡まって、物語は進行していきます。やがてジミーが襲われ瀕死の重傷を負うという事件が起こりますが、ジミーは病院行きを断固として拒否。この事件の裏には驚くべき裏切りの真相が? と列挙してみると、さぞかし起伏に富んだストーリーに思えるかもしれませんが、案外静かに進行します。地味な印象の作品で、謎も単純におもえるのですが、意外に難問です。第十章でストレンジウェイズがさまざまな要素を書き出したメモを並べ替えながら考える、という場面がありますが、これを使って研究すれば、私にも犯人がわかったかもしれませんね?それだけはありえないか(^_^;)読者に対してはフェア・プレイですが、犯人にとっては非情な罠が最後に・・・。しかし、ストレンジウェイズがいうほど犯人に肩入れできなかった私としては、やっぱりこいつが犯人だったのか!という感じでした。パズルとしての面白さにサスペンスの色合いもあり、特にあの最後の追いつめ方はなかなか迫力がありました。犯人の精神的な弱さもろさと、追いつめた男の非情さの対比が鮮明でちょっと怖かったですね。どっちも嫌いだから、私としてはどっちが犯人でもいいや、なんて思ってたんですが(^^ゞしか〜し、作者は女嫌いなのか?女はどれもろくな描き方ではありませんね^_^;ま、それはともかく、第十一章のストレンジウェイズとブラント警視の謎解き(というか説明)にかんしては長すぎて飽きてしまいました。 ニコラス・ブレイクは詩人としても有名で、そちらの名義はセシル・デイ・ルイス。息子は俳優のダニエル・デイ・ルイス。 |
|
ページの先頭へ | |
ミステリの棚入り口に戻る | |
8(エイト)The Eight | 1988 |
キャサリン・ネヴィルKatherine Neville(村松潔訳・文芸春秋) | |
1790年、春。千年近く外界から遮断されたままだったモングラン女子修道院から、修道女たちが旅立った。ムーア人の作った、強大な力を持つといわれる伝説のチェス・ボード「モングラン・サーヴィス」。フランス革命の嵐のなか、この魔力をを利用しようとする人々から守るため、このチェス・ボードは幾人もの修道女によってバラバラに持ち出されたのだ。パリの叔父の下へむかったヴァランティーヌとミレーユもまた、その駒を託され、チェス・ボードの奪回を狙う陰謀のただ中に放り込まれた。そして、1972年、12月、公認会計士事務所で働くキャサリンは、理不尽な人事によりアルジェリアへの転勤を余儀なくされた。出発を前に占い師の奇妙な言葉を聞かせれ、チェストーナメントでの殺人事件に遭遇した挙句、「モングラン・サーヴィス」という謎めいた言葉で送り出されたキャサリンは、幻のチェス・セットを捜し求めるゲームに巻き込まれる。200年の時を経て二人の女の運命が交錯したとき、秘められた謎が解き明かされる。 ★★★う〜ん、なんといったらいいのか(^^ゞ壮大な、歴史冒険ロマンエンターテイメントと言う感じかしら〜(*^^*)ミレーユもキャサリンもヨーロッパやアメリカを飛び出して、サハラ砂漠まで縦横無人に活躍します。呪いのチェス・ボード「モングラン・サーヴィス」・・・この中にはある「公式」が隠されていて、その「公式」を手に入れた者はこの「世界」を手に入れたも同じ。悪の手におちることを怖れてモングラン修道院の奥深くに隠されていたこのチェス・ボードが、革命という混乱のなかで再び世に出てしまった。従姉妹ヴァランティーヌの命がこの陰謀によって奪われたことから、ミレーユはモングラン・サーヴィスを守り抜くことを自らに誓います。ストーリーは、この恐怖政治時代のフランスと現代が並行して進んでいきます。占い師の言葉に込められた暗号や、ソラリンというチェスの名人の謎めいた行動に引き寄せられるように、キャサリンはモングラン・サーヴィスを探す過酷な旅へ出発します。 とにかく雰囲気が面白い。まともに考え始めると到底ついていけないけど^^;哲学やら音楽やら天文学やら思想やら(?)、それにチェスのこ難しいルールも出てくるし。しかし、ご心配なく(^_^)あまり深く考える必要はないのであ〜る。むしろ楽しんでくださいね、って感じ。人の名前にしても、ルソー、ヴォルテール、ロベスピエール、マラー、リシュリューだのという歴史の教科書にでてきたよ〜な?という大物だの、ワーズワース、ブレイクといった詩人、バッハも出てくるし、エカチェリーナ女帝も、忘れちゃったけど数学のえらい人も出てくるし、ここまで出すと重厚になるか浅薄になるかきわどいところですが^^;にこにこしながら読めます。(ただし内容は結構シリアス)ミレーユが自らの使命を悟り、信念に従って行動していくところ、超カッコイイ!赤毛のイメージがぴったりだわっ。フランス革命の頃の歴史の知識がちょっとあったほうがより楽しいかもしれないけど、あんまり関係ないわね。一方現代のほうは活劇連発でして、話の運びは面白いのですがエピソードが月並みなのがちょっと^_^;しかし、リリーは気に入りました♪キャリオカも♪冒険ありロマンスありの少女漫画といったら言い過ぎかもしれないが、前半じっくり作ったぶん、後半はすっ飛ばしてくれます。キャサリンがこのゲームに巻き込まれていく理由づけは何となく弱いにもかかわらず、勢いで連れて行かれてしまった。しかし、あんなにも暗号を使う必要性が分からんわ〜、面白いけどね。全てをチェスのゲームに見立てて再構成していくあたり、面白いです。 ミレーユは雄雄しくかっこよく、キャサリンとリリーも困難の山を切り抜けて生還し、いよいよ謎の解明が楽しみだああ、とおもっていたんですがしかし!最後に近づくにつれて、何となく尻すぼみしてしまった印象があるのはなぜなんだ〜。ぶち上げた謎の大きさに負けた感じも^^;それに、このゲームは一応、正と邪の戦いということだったんですよね?黒のキングの正体がいまいち得心いかなかった私・・・。 実はこの本、新聞の「びっくりした!」本の紹介に書いてあったんですよね。それでどんなビックリが待っているんだろう、と思いつつ読んでしまったんですが、ビックリはしませんよ〜^^;だから、そういう邪念なしに読むことをお勧めします。エンタメとしては大変楽しめます♪チェス知らなくっても、(多分)大丈夫。私でも大丈夫だったし(^^ゞ |
|
ページの先頭へ | |
ミステリの棚入り口に戻る | |
蒼穹のかなたへInto the Blue | 1990 |
ロバート・ゴダードRobert Goddard(加地美知子訳・文春文庫) | |
身に覚えのない不正行為の罪を着せられて会社を追われ、英国国防次官のダイサートがロードス島に所有する別荘の管理人として怠惰な毎日を送っていたハリー。かつて追われた会社の経営者の娘ヘザーがダイサードのゲストとして別荘を訪れ、ある日突然失踪するという事件が起こり、ハリーは窮地に立たされる。ヘザーの行方は不明のまま捜査は行き詰まり、ハリーの手元にはヘザーが失踪する前三ヶ月の間に撮られたと思われる数枚の写真が残された。謎に追い立てられるように故国イギリスに帰ってきたハリーが、写真をもとにヘザーの行動をなぞるうち、巨大な陰謀の渦に巻き込まれていく。 ★★★帯の文句は「ダメ男にも骨はある」。わずかばかりの金と笑いと食べ物と酒、それだけで構成された生活に逃げ込んでいた男ハリーが主人公の「ダメ男」です。読み始めの印象では、骨がありそうにも見えません。 53歳のこの男、まず最初のつまずきは経営していた会社の倒産でした。共同経営者のチップチェイスにはさっさと逃げ出され、一人途方にくれていたハリーを助けたのが、学生時代この会社でアルバイトをしていたダイサート。彼の紹介でマレンダー一族の経営する会社に就職したハリーは、経営者の息子ロイと対立、不正行為の濡れ衣をきて会社を去ることになったのです。またまたダイサートの世話で別荘の管理人としてロードスに住んで9年、全ての厄介ごとを明日に引きのばして生きてきたハリーは、この時点ではかなりのダメ男ですね^_^;ところがヘザーが極めて異常な形で失踪し、後に残された写真を手に入れたことから、プライドがむくむくと頭をもたげたわけです。(もともとプライドの高い男だとおもうけど、くじかれるとすぐに卑下してしまうんでしょうね。イギリスという階級社会では、こういうタイプの人が育ちやすいのかも、とか思ったりしました。)イギリスに戻ったハリーはヘザーの足跡をたどる形で、徐々に謎の核心に迫ります。 ゴダードの語り口は私の好みからすると、少々くどいのですが^^;この描写がすごく好きな人も多いでしょうね、ロマンス小説って感じで。それに『リオノーラの肖像』のときも感じたのですが、いっぱい話のネタを持ってる人だとおもいます。『リオノーラ』はちょっと消化不良気味?なんて書いたのですが、今回はうまく使ってまとめているな〜という印象。物語そのものも、すごいびっくり!ということはないし、ようやく動き出したな、と思えたのは下巻の中ごろからなんですが、全体的な構成はうまいですね。確実に進展する手ごたえがあるので、楽しんで読めます。(細かい点ではちょっと??な部分もあるのですが、まっいいかあ^_^;)悪人は、かなりはっきり正体を打ち出してますので、別に犯人探しをさせようという意図はないんですよね。私は「この人が悪い人なのかぁ、ちょっと残念、でも悪い人じゃなかったということになると、そりゃないだろ!って感じだし、でもやっぱり残念・・・」とうじうじ考えつつ(この悪人、かなり好きだった)、ハリーってなんて無邪気なのかしら、とも考えつつ、複雑な気持ちでした。ハリーと悪人の関係も、終盤の手前までわからなかった〜(かなり恥ずかしいぞ)このオチを、安易だと考えるか、人生の妙だと感じるかは、そのときの精神状態によるみたいな気がします(^_^;) この話は、男の人がよく書けてるな、と思いました。ハリーにしても、ダイサートにしても。他にもちょっと面白いキャラがたくさん。ミルティアディス警部なんか、もうちょっと使ってくれたらよかったのに。それに比べると女性はいまいちかな?特にヘザーの描き方は、ハリーの人生においての象徴的な人物という感じで、あれだけ捜し求めたわりには現実味のない人になってたような気がします。ラストはちょっと、ほろっとしますね。ハリーって、ダメ男で、無邪気で、骨も少しはありそうで、とても身近な人です。 |
|
ページの先頭へ | |
ミステリの棚入り口に戻る | |
リオノーラの肖像In pale Battalions | 1988 |
ロバート・ゴダードRobert Goddard(加地美知子訳・文春文庫) | |
長い沈黙の果てにリオノーラは娘ピネロピに長い物語を語り始めた。それは自らの子供時代、さらに彼女の母の時代へとさかのぼっていく。裕福ながら、虐げられ、傷つけられた「ミアンゲイト」で過ごした子供時代。それは彼女の母、彼女が名前を受け継いだリオノーラの謎に包まれた生涯と深く関係していた。第一次世界大戦の激戦地ソンムで戦死した父ジョンの親友フランクリンは、療養のため訪れたミアンゲイトで亡き親友の妻、リオノーラに出会い、強く惹かれていく。だが彼女は深く心を閉ざし、金持ちのアメリカ人と不可解な関係を結んでいるようだ。やがてそのアメリカ人が殺されるという事件が起こり、きわどい均衡を保っていたミアンゲイトは徐々に崩壊し始める。 ★★★ロバート・ゴダードの第二作目。「ミアンゲイト」というイギリスの壮大な田舎屋敷を舞台にした、母娘二代にわたる物語です。ゴシック・ロマンス風のあじわい、と文庫のあとがきにも書いてありますが、イギリスの由緒ある邸宅ってどうしてこんなにサスペンスチックな物語が似合うんでしょうね(^^) 物語はリオノーラの、憎悪と無関心に歪められた少女時代から始まります。リオノーラは祖父母夫婦に育てられるのですが、実は血のつながらない(祖父の後妻)祖母オリヴィアはなぜかリオノーラを憎み、傷つけることを楽しみ、祖父は全てから逃れようとするかのように暗くふさぎこんでいます。つらく淋しい日々ののちにようやく幸せな結婚生活を手に入れたリオノーラのもとへ、ウィリスと名乗る男がやってきて、彼女の両親や祖父母についての真実の物語、37年前にミアンゲイトで起こった出来事を話し始めるのです。その後、語り手をそれぞれに変えて、長い時をかけて真相はその姿をあらわにします。 全体の印象としては、謎を小出しに解きほぐしていく展開が読み手をひきつけると思いますが、ちょっといろいろな要素を入れすぎて、てんこもりの消化不良(?)って感じはしました。月並みとはいえ、戦争の悲惨さ、それによって傷つけられ、もはやもとにもどることのない人々の心や生活などを描くことによって、反戦の思いも伝わってくるし、志を遂げられなかった人たちもたくさん出てきて、その挫折感、哀しみなどが底流としてずっと流れている感じで、そういう点は非常によかった、と言うか心を打ちました。 人物はそれなりに厚みがあってよかったと思うけど、ただ、オリヴィアのあのべったりとした平面的な悪女ぶりはどうなんでしょ。もうちょっと書き込んであげないと可哀相っていうか^_^;でもね〜、いかにものオリヴィアより、かえってリオノーラのほうが悪女じゃないじゃろか〜?とおもった私は心がねじれているんでしょうね(苦笑)だって、人の運命を狂わせているのは・・・ 基本的な構成にちょっと不満の残る作品ですが(ネタバレするのでいえない)最後に「リオノーラの肖像」を残した人物の生涯に思いを馳せると、この結末の必然性には深く納得できます。そういうことで、許してあげます(笑) |
|
ページの先頭へ | |
ミステリの棚入り口に戻る | |
生者と死者とThe Quick and The Dead(There was an Old Woman) | 1943 |
エラリイ・クイーンEllery Queen(井上勇訳・創元推理文庫) | |
「あいもかわらず名誉毀損ですよ」異常なほど、わたしたちの立派な名前、にこだわり訴訟を繰り返すサーロウ・ポッツ。裁判に負けて、ついに自らの手で正義をおこなうと言い放ち、拳銃を手に入れた彼を持て余した弁護士のパクストンはエラリー・クイーンに相談を持ちかける。こうしてエラリーは、靴で築き上げた巨万の富の象徴であり、老婆コーネリアが君臨する世にも不思議な「靴の家」に滞在することになる。やがてサーロウと異父弟との決闘騒ぎが持ち上がり、エラリーたちは弾をすりかえることで事をおさめようとする。ところが、すりかえたはずの空弾はいつのまにか再び実弾にかわっていた。サーロウは殺人の道具として利用されただけなのか? ★★★これは『靴に住む老婆』という邦題でも出ているみたいですね。『災厄の町』の翌年に出版されたものです。イメージがまたちょっと違う感じですが、私は個人的にはこっちのほうが好き(^^)面白いわっ♪「・・・ハリウッドの映画のセットさながらの舞台装置のなかでうんぬん・・・」という描写が出てくるんですが、お話しそのものがまさにそういう感じで。この雰囲気があほらしい、と思う人にはまったく受けないだろうな(^_^;)と思いますけど、まあ好きずきでしょうね。 マザー・グースの童謡のモチーフが入り込んできたいきさつが、後になって分かるのですが、読者を幻惑させるという意味ではうまい使い方ですよ。幻惑というと、とにかく飾りが多くって^_^;その飾りを取っ払ってしまうと、犯人は非常にシンプルな存在なんですが。つまり、余計なところはともかくとして、実際に何が起こったか、という観点からのみ考えると、犯人は大体二人のうちどっちか(あるいは共犯か?)というところまで絞ることができる、ハズ(^^ゞなんですが・・・。いや、私もね、こいつじゃないかな〜、とは思ったんですよ、ホントに(ただの勘?)そしたら、・・・が犯人だって?ふふふ、そうくるかあ、と喜んでしまいました。どんでん返しの規模は小さかったけど、今回はエラリーの解説もうるさく感じなかったです。すっきりさせていただきました(^^) しかし、犯人にとってはかなりの賭けじゃなかったかな?だって最後にもし・・・が告白したら?たいして大きな危険ではなかった、とエラリーは言ってるけど、そうでもないでしょ。一世一代の謀りごとには、少々の危険はつきものってわけかもしれないが、この犯人像にはちょっとあわない気もした。 最後にまた一つアラさがしを〜(^_^;)エラリーがしかけた罠に、彼はなぜ乗ったのかしらん?あの拳銃の秘密をしっていたのは彼のほうなのに。・・・まあいいや、それはともかく、ニッキー・ポーターってなんなの? |
|
ページの先頭へ | |
ミステリの棚入り口に戻る | |
もうひとりのぼくの殺人Murder through the Looking Glass | |
クレイグ・ライスCraig Rice(森英俊訳・原書房) | |
「自分はどこへ向かっているのだろう?そしてなぜ、この列車に乗っているのか?」ジェフリー・ブルーノは走る列車の中で目を覚まし、はげしい恐怖にとらわれた。頭の中にうかぶ、知るはずのないメロディー。ポケットには「保険外交員ジョン・ブレイク」という名刺とスーザンという女からの手紙。パニックに陥ったジョフリーが次に目にしたものは新聞に掲載された「殺人容疑で指名手配中、ジョン・ブレイク」という見出しの付けられた自分の顔写真だった。ニューヨークの自宅に帰ってきたジョフリーは自分の記憶の中に奇妙な空白があることに気がつく。自分の中にもう一人の自分がいるというのだろうか? ★★★クレイグ・ライスがマイケル・ヴェニング名義で書いたメルヴィル・フェア・シリーズの第二作にあたるのが本書だということです。第一作めは『眠りをむさぼりすぎた男』(国書刊行会)。 物語は、ジョフリー・ブルーノという男が、フィラデルフィア行きの列車の中で目を覚ますところから始まります。目が覚めたとき、自分が何をしていたのか分からなくって、一瞬ドキっとすることってよくありますが、どこに向かっているともわからない列車の中で気が付くというのは恐怖ですね〜。しかも、ポケットには知らない名刺(J・Bの頭文字だけは一致しているところがまた怖い)聞いたこともない女からの手紙、そしてそして、指名手配犯としての自分の写真! 訳のわからない陰謀に、突然投げ込まれたかのような主人公の心情とおなじく、読者の私のほうも、物語の途中から読み始めたような不安定な気分で読み進めることになってしましました。ロザリーという女性の登場も唐突だし、いまいちジョフリーの環境というか、人間関係はつかめないまま(ジョフリー自身もよくわからなくなっているのかも)。ジョフリーは案外素直にもう一つの人格を認めたようなかんじですけど、ここらへんあたり、もうちょっと粘って欲しかったな。。 ジョフリーには何がなんだかわからないままだし、ようやく会えた関係者のスーザンも不可思議な反応を示すし、ロザリーもやたらとつきまとうし。そんな中で神出鬼没のグレーの紳士、メルヴィル・フェア氏の果たす役割とは?ジョフリーの行動を追いかけつつ、登場人物の物語が効果的にはさんであって、それが最後にうまく融合して真実が見えてくるという構成で、散漫で平坦な印象もありますけど、それぞれの人間としての生き様はよく描かれているとおもいます。 メルヴィル・フェア氏の存在感が妙な感じ。グレーの色合いそのものの人物だなあ。そして物語の結末もまた・・・。皮肉の中に一抹のほほえみが見え隠れするこのラストは、いかにもライスらしいです。 |
|
ページの先頭へ | |
ミステリの棚入り口に戻る | |
災厄の町Calamity town | 1942 |
エラリイ・クイーンEllery Queen(青田勝訳・HM文庫) | |
エラリー・クイーンがスミスと名乗って滞在しているアメリカの田舎町ライツヴィルでは、一組の夫婦が話題になっていた。三年前、結婚を目前に突然姿を消したジムが舞い戻り、再びノーラに結婚を申し込んだのだ。ジムの失踪以来、世間を憚って生きていたノーラだが、帰ってきたジムを何もいわずに受け入れ、二人は結婚した。幸せな時期もつかの間、ノーラは夫が書いたと思われる三通の配達されない手紙を発見する。妻の殺害計画とも取れる文面に動揺するノーラ。そして新年前夜のパーティーで、滞在していたジムの妹が毒殺される、という事件が起こった。妹はノーラの身代わりになったのか? ★★★架空の町ライツヴィルを舞台とする作品は五篇あるそうで、この作品はその第一作目だそうです。 ライツヴィルは、アメリカの田舎町という設定で、町の名士ジョン・F・ライト氏の家庭内で起こった愛憎渦巻く殺人事件が住民こぞっての関心事というわけ。日本の同じような田舎だともっとじめじめした感じになるかもしれないけど、ここでも「なるほどね、金持ちは人殺しをしたって、きまってうまく罪をまぬかれるんだ」なんていう陰口の的になっています。うふふ^_^;私でもご近所の金持ち(別におつに澄ました嫌な連中ではなかったとしても)のうちでこんな事件が起こったら、無関心ではいられませんとも。 推理ものとしてはそんなに驚かされるような要素はないので、やっぱり人間ドラマ、として読むべきなんでしょうね。それにしてはちょっと描かれてない部分がわかりにくいですけど。たとえば、ジムの空白の三年間とか、帰ってきたときの行動もいまいちじゃないですか?あんなんでなんでノーラがすぐに納得して結婚したんだか(^_^;)まあ、ノーラは三年前に捨てられてから生ける屍(?)のようになっていて、ジムが帰ってきたということを、自ら捨ててきた世間へのカムバックのきっかけとして歓迎したのかも、なんて悪意的読み方をしてしまった私でした。ノーラって、犠牲者的かわいそうさを売りにしているのかしらん?と思いつつ読んでいたのですけど、内面ではかなり分裂していたのかもしれませんね。災厄の町の犠牲者そのもの。このひととお母さんのハーミーあたりの人物描写は面白いと思うけど、ローラ&パットはあんまり意味ないじゃん、みたいな^_^;そ、それを言うと、あえてエラリーがこの事件にかかわったという設定は必要だったんでしょうか、みたいな疑問も。でも、人間ドラマだからいいかしら。 あと、瑣末的で、こんなことをいうと推理小説は読めないよ、とも思うけど一点だけ気になったことが。犯人が毒を入れることが出来たとはやっぱり思えない。毒を入れて待っていた、というのも無理があるし、その場で、というといつ、どうやって人に見られずにいれたんだろう? 謎解き、なんて期待して読むと面白くないかもしれませんけど、事件に至るまでの張り詰めた雰囲気、そして裁判の場面も物語半ばを引き締めているし、最後の悲劇になだれ込むまで、飽きさせない構成になってますね。最後のエラリーによる解説という形にこだわらなくてもいいのに、と思ったのも確かですけど。 |
|
ページの先頭へ | |
ミステリの棚入り口に戻る |