すべてがFになるThe Perfect Insider | 1996 |
森博嗣(講談社文庫) | |
三河湾に浮かぶ妃真加島、そこにある研究所には、コンピュータ・サイエンスの天才であり、かつて両親を殺害したとして裁判にかけられた経歴を持つ真賀田四季がいる。彼女は15年前にその研究所の地下にはいり、一度も外に出ることなく研究を続けているという。機会を得てその研究所を訪れていた犀川創平と西之園萌絵は、彼女の部屋から四肢を切断されたウエディングドレス姿の死体が発見された現場に居合わせた。その部屋は厳重に監視、記録されており人間が入りこむことは不可能な、完全な密室であった。ただ一言、残されたメッセージは「すべてがFになる」。 ★★★第一回メフィスト賞受賞作。 冒頭、萌絵が四季博士にインタヴュー(?)する場面から始まります。いきなり3桁×4桁の暗算なんかしちゃって、なんだかアカデミックっていうか。まあ、あんまり意味があるとも思えませんが、ふうむ、この二人は頭がいいんだなあ〜と感じ入りますね。しかし突然「数字の中で、7だけが孤独なのよ」っていわれても困っちゃいますが(^_^;)全体的に、コンピュータ用語(プログラミング用語というのかな?)がたくさん出てきて、気持ち的にはかなり怯むところもありますが、難しいカタカナは読み飛ばしてしまって差し支えない…こともないか?(笑)根本的なトリックの理念も、説明は出来ないけど、コンピュータの天才だったらこんな仕掛けをしたんだろうなあ、というのは推理できます。 観念的、思想的な部分でとても面白いものがあります。「私には正しい、貴方には正しくない……」「いずれにしても、正しい、なんて概念はその程度のことです」うう、かっちょいい♪やや観念的に過ぎるセリフも、四季博士が言うとちょっと価値ありげな感じです。 ・・・と、いかにもアホが抱きそうな感想はともかく、ストーリーはよく出来ていると思います。題名とトリックがピッと嵌ったときの感触がなんとも言えず気持ちいい。犯人のキャラがすごすぎるけど、大胆なトリックとうまく融合して、いかにも天才だあとため息をつかせる感じは見事♪それだけに、いよいよクライマックスというところで、VRでみんなが集まるところはイマイチ安っぽく感じられて、わたし的にはマイナスでした。がっ、それは多分わたしがゲームをしないヒトだからでしょう。 しかし、犀川&萌絵シリーズって10話完結らしいですね。この二人を主人公にしてのシリーズ化、というのは驚きです。この作品単独ではとても面白いのですが……どうもシリーズっていうのにはそぐわないかんじだけど、どうなんでしょうね?犀川に関しては、もうちょっと無機質な人物にしてもいいんじゃないかな、と思ったりしたんですが、シリーズ内で二人の仲を発展させていこうということなら、まあそれはそれで(^_^;) それはともかく、四季博士の「他人の干渉によって死にたい」っていう考えは、すごく官能的ですねえ〜。このセリフだけで意味なくうっとりしてしまった私でした。 |
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暗闇の薔薇The Rose in Darkness | 1979 |
クリスチアナ・ブランドChristianna Brand(高田恵子訳・創元推理文庫) | |
嵐の夜、「尾行者」の影に怯えながら車を飛ばすサリーの目の前で、一本の巨大なニレの木が音を立てて倒れ道をふさいだ。どうしても通り抜けなければならない!恐怖に駆られるサリーを救ったのは倒木のむこうで止まった一台の車だった。車を交換してそれぞれの目的地に行けばいい。後で取り替えればいいのだから。しかも車種も同じではないか。翌朝になってサリーは相手に連絡を取ろうとするが電話は繋がらない。友人たちはいつもの冗談だと思っているが、その車から死体が発見され、サリーは途方もない謎の渦中へ。死体が発見された車のナンバーは、なぜかサリーのものだったのだ。 ★★★この作品が、クリスチアナ・ブランドの最後の長編ミステリ、ということらしいです。 のっけからやってくれます。「配役」と題したページが冒頭にあり、被害者の名前と登場人物が列挙されて「以上の九人のなかに、殺人の被害者と犯人がいる。この殺人には共謀はないものとする。」という一文が。おお〜、本格だ〜、フーダニットだあ〜と喜びながら本文に入っていくと、なんとも強烈な導入部が出迎えてくれます。嵐の夜、巨大な倒木に阻まれた道、何者かに追い詰められた(?)美しきヒロイン、豪雨と暴風をついての車の交換!ドラマチックですね〜。この素晴らしく映像的な描写といい、作品全体、とくに登場人物に施された風俗的な装飾も、晩年の作品とは思えないほど挑戦的です。 車の交換という基本的な着想と、死体移動のトリック。その上に緻密に作り上げられた複雑なプロット。謎めいた「八人の親友」たちと、何よりヒロイン・サリーの正体と言動のわけわからなさ。読者はチャールズワース警視正とともに、袋小路をさまようことを余儀なくされます。この間のチャールズワースとジンジャーのやりとりは、いい息抜きになって楽しめますね。そしてすべてが明らかになる大団円へ!いや〜、この部分はワクワクしました(^^)次から次へと新たな真相が。ううん、素晴らしい♪ ・・・そうなんですよね。最後のどんでん返しにつぐどんでん返しのところはすっごく面白かったのですが、冒頭から死体発見までの導入部と、ラストの謎解きの部分以外は・・・登場人物に波長がイマイチあわなかったせいか、あまり楽しめませんでした(^_^;)というか、導入部があまりにも魅惑的だったせいで、中盤の展開がグズグズに感じられてしまったのかも。殺人事件そのものと、サリーと尾行者の問題と、焦点がボケてしまう感じもあるし。サリーの抱える苦悩はよく分かるのですが、なぜか共感できないために、読んでてちょっとめんどくさかったり。しかし、ラストのそのまたラストで明かされる「尾行者」の真実と、それが殺人事件と関連してくる真相にたどりつく過程、冒頭の強烈な印象をフラッシュバックさせて衝撃的な結末にいたる構成は素晴らしいですね。さすがさすが、といったところでしょう。 |
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恐ろしき四月馬鹿 | |
横溝正史(角川文庫) | |
大正十年に、「新青年」に掲載された、横溝正史の処女作『恐ろしき四月馬鹿』と、他十三編を収録。 ★★★横溝先生にも処女作っていうのがあるんだよな〜と妙な感慨を抱いた短編集。 『恐ろしき四月馬鹿』 |
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悪魔のような女Celle Qui N'Etait Plus | 1952 |
ボアロー、ナルスジャックBoileau-Narcejac(北村太郎訳・HM文庫) | |
しがないセールスマン、ラヴィネルの恐るべき計画、それは愛人リュシエーヌと共謀して妻ミレイユを殺害することだった。二年前、ミレイユとラヴィネルはお互いを受取人に、二百万フランの生命保険に入っていた。そして今彼らは、ミレイユの死体を車のトランクに入れ、夜のドライブに出発しようとしている。すべてはうまく行き、あとは上手に死体を発見するだけだった。ところが思いもかけない事態がラヴィネルを驚かせ、彼は徐々に追い詰められる。そして迎えた「あまりに衝撃的な結末」とは? ★★★帯のことばは、「あらゆる恐怖の原点となった不朽の名作」。たしかに原点的な作品です。 愛人と共謀しての妻殺し。いわゆる保険金殺人ですね。ビクビクものの主人公に対して、愛人のほうは度胸満点です。完璧な計画、まんまと成功し、保険金を手に新しい生活・・・のはずだったのですが、なぜかあるべきところに死体がない!この事実は主人公をパニックに陥れます。その後も主人公を混乱させる展開が次々と起こり、頼りの愛人には突き放され、目の前の事実を受け入れることも出来ず、彼は何を信じてよいのか分からなくなって・・・。 と、なかなかサスペンスフルです。しかしやはりこれを新鮮に感じるには少々人間がすれっからしになっちゃってるみたいです(~_~;)半分いかないところでネタが割れてしまったので、「あまりに衝撃的な結末」に関しては興味が半減してしまったのが残念なところ。しかし主人公の立場にたって読むと、執拗な心理描写とスリリングにたたみかける展開のかみ合わせはさすがに素晴らしい。ネタバレした目でも、十分読むに耐えられる作品ではあると思います。却ってそのほうが、主人公の姿がはっきり見えて面白いのかも?主人公の哀れさには涙をそそられますね〜。やはり、身の程を知れ、っていうことでしょうか。250ページにも満たない短めの作品ではありますが、この内容なら切れ味よく短編で読みたいところ。 最後のセリフは「不朽の名作」にふさわしいものでした。罠にかけた者と、罠にかけられた者。最後まで読んで、このセリフに込められた恐怖を存分に味わってください。 |
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水の戒律The Ritual Bath | 1986 |
フェイ・ケラーマンFaye Kellerman(高橋恭美子訳・創元推理文庫) | |
ロサンゼルス市警フットヒル署の刑事、ピーター・デッカーは連続レイプ事件の捜査に追われていた。そんなある日、ユダヤ人村で敬虔な信仰生活を送るユダヤ女性が襲われるという事件が起こった。同一犯の犯行か?地元住民からの迫害に悩まされていたユダヤ村の人々は、相次ぐ事件に警察への不信感をつのらせるが、一方デッカーたちも閉鎖的なユダヤコミュニティー内部での捜査に困難を感じていた。夫を亡くして以来、ここで二人の子供を育てているユダヤ女性リナ・ラザラスが暴漢に襲われそうになった夜、警備員の女性が無残な死体となって発見される。 ★★★原題の「The Ritual Bath」というのはユダヤ教徒が清めの儀式を行う、ミクヴェと呼ばれる水浴場をさしているそうで、事件はこの聖なる場所(?)のすぐ近くで起こります。儀式のあとのミクヴェを掃除し、洗濯機を回していたリナは鋭い悲鳴を聞いて驚きます。静かで閉鎖的なユダヤコミュニティーで起こった忌わしい事件に、人々は戸惑い恐怖します。捜査協力のために、リナに接近したピーターは次第に彼女に惹かれるようになりますが、リナとの間に立ちはだかる「異教徒」という壁は、乗り越えるには困難なものに思われます。ピーターはリナや、ラビのアーロン・シュルマンらに働きかけ、警備員を置くように説得しますが、人のいいこの警備員の女性が殺されるという事件が起こり、レイプ事件との関係も含め謎は深まっていきます。 いやあ、面白かったです。ユダヤ人社会って、未だにこういう形で存在している・・・というのは知識としては知っていましたが、神学校があって、そこでユダヤの律法というものの研究に一生を捧げている人がいて、その家族たちが村を形成している(いったいどこから収入を得ているんだろう?ユダヤ人=金持ちのイメージですが、寄付金とかがあるのかな〜、と下世話な疑問)。そうした村では今でも、厳格なユダヤの法律(?)にもとづいた生活を送っているのですね〜。無宗教の(っていうか、普段は神様についてなんか考えることない典型的ニッポン人である)私にとって、未知と驚きの世界です。奇妙な気がするのも確かですが、ピーターとラビ・シュルマンが離婚と不義の子について話し合う場面では、どういう訳か感動してしまいました。信仰ってすごいものだな〜とちょっと真剣に思ったりして。生きていくための指針がすべて、信仰の中にあるというのは、ある意味で楽なのかもしれませんね。しかし、私のような怠け者には絶対出来ない生活だ〜(爆) リナのことがとっても気になります。宗教観をそこなわずに外の世界へ出て行くことって、可能なのでしょうか?欲を言えば、ピーターがちょっとありきたりなんですが、リナとの対比としてごく普通のアメリカ男(じつは彼にも色々あったりはするんだけど)の存在というのは大事な部分ですね。ミステリとしてはまだこなれてない感じなのですが、そういう点も含め、ピーターとリナの今後に大いに興味を感じています。続きを読もうっと! |
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リラ荘殺人事件 | |
鮎川哲也(角川文庫) | |
荒川上流に、周囲をライラックの木に囲まれた洋館「リラ荘」がある。いまは日本芸術大学の寮として学生たちに開放されている「リラ荘」に、七名の学生がやってきたのは、夏休みも終わろうとする8月20日の夕方のことだった。七人の間は愛憎こもごも、微妙に険悪なムードも漂う中、橘秋夫と松平紗絽女の婚約が発表される。一方当地では炭焼の男が崖から転落死する事件が起き、その死体のそばに尼リリスのレインコートが落ちていた。その上、彼らの持っていたトランプのうちの一枚もそこにあったという。スペードのA…この事件を発端に、学生たちを恐怖のどん底につきおとす、恐るべき連続殺人事件が幕を開けた。 ★★★この本は病院の待合室で(ほとんど)読みました。いいですね〜こういうのは(^^)集中できて、待ち時間もあっという間♪ 「リラ荘」に集まった七人の学生たち。そのうちの牧数人と尼リリスは婚約中。橘と紗絽女も婚約する仲。チビの安孫子宏は紗絽女にご執心だが、想いはかなわず。日高鉄子も橘を愛しているが、残念ながら彼女は醜女で×。美術部洋画科から音楽部声楽科に転向した行武栄一はお嬢さん育ちのわがまま娘リリスと全くそりがあわない。(一体何でこの人はリラ荘にやってきたんでしょうね?)炭焼き老人の事件と七人は何の関係も無さそうに見えますが、トランプカードが置かれていたことから、皆の緊張が高まります。そして紗絽女、橘が相次いで不審な死を遂げ、そのそばには続き番号のトランプが…! 実は最初から突っ込み入れっぱなしで(^_^;)洋画科から声楽科に転科なんてことありうるわけ〜とかね(笑)なかなかいい男らしい牧が、なんで尼リリスなんて女と婚約?!とか。そういう数々のくだらない疑問を踏み越えて、邪念をすてて読みすすめると、最後の謎解きでは本当ににんまりさせてもらえます。数々の伏線が、それは巧妙に張り巡らされ、どんな会話や行動のチェックもゆるがせにしてはいけなかったのね〜と気がつきますが、それは私には無理な芸当(^_^;)中には少々??なのもありますけど。(砒素のこととか、吹き矢の毒とか。第一吹き矢で人が殺せるのかな?) 殺人がいかにして行われたか、に焦点が絞られていますので、それについての面白さは文句なしですが、その反面、動機なんかは手抜きって感じ。(こんな動機で人を殺すか〜?)作者のこの作品へのスタンスがはっきりしすぎていて、味気ないといえば確かですが、小気味いいといえなくもない。しかし、もうちょっと味付けしてほしかったなあ〜(笑)(本当はライラックとかお面とか、使うつもりだったんじゃないの〜?) 探偵は星影竜三。ラスト近くになって突如登場し、神業の如き推理力を発揮するすごい男ですね。しかし、この作品では人となりはほとんど見えてこない。人間なのか、この男?!(探偵はもうちょっと人間臭いほうが好きだな)と思っていたら、最後の最後でちょっと人間味を感じたりして。本当はどういう人なんでしょうねっ? |
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緑のカプセルの謎The Problem of the Green Capsule | 1939 |
ジョン・ディクスン・カーJone Dickson Carr(宇野利泰訳・創元推理文庫) | |
イギリスの小さな村ソドベリイ・クロスでは、菓子屋で売られた毒入りチョコレートを食べて、幼い子供が死ぬという痛ましい事件が起こっていた。村では大荘園の主人マーカス・チェズニイの姪、マージョリイに疑いがかかってるが、今ひとつ証拠がなく、逮捕は免れていた。そんなある日、マーカスはショーをやると言い出す。心理学上のテストだというがその裏には毒殺事件のトリックが隠されていたらしい。ところがマーカス自身がそのショーの最中に毒殺される事件に発展し、数少ない関係者はお互いに無実を証明しあう。袋小路に陥ったエリオット警部は近くに住むフェル博士に応援を求める。 ★★★カーだよ〜、ということで内心ぐふふ〜(^^)と笑いながら読み始めたのですが、あにはからんや。ちっともオカルトチックじゃないし、怪奇趣味というほどのこともないし、意外。「心理学的手法による純粋推理小説」なんだそうであります。 第一の謎は村の菓子屋の事件。ストリキニーネを仕込んだチョコレートは一体いかにしてその店に持ち込まれたのか?姪に容疑が掛かっていることからマーカスは独自に推理を進めていたらしい。エリオット警部が着任して一息入れる間もなしに、マーカスが毒殺されるという事件が起こってしまう。そこで第二の謎は「透明人間」の正体と、強固なアリバイによる犯罪の不可能性ということになります。 第一の謎のほうは、なんだかお手軽な解決で肩透かしという感じですね。それにひきかえ、「透明人間」(ネモ博士)というのはいいですね〜(^^)衆人環視の中、殺人の絶好のチャンスをつかんだのは一体誰だったのでしょう?ショーの後に出されるはずだった十の質問というのもなかなか凝っていて、隠された真意がフェル博士によって解明されていくくだりには感心しました。時計の針の使い方なんてのにもにんまり。それにあのフィルムの謎・・・、これは思いもよりませんでしたね〜。これによってすべてがカチッと所定の位置にはまっていく様は見事。皮肉なオチもじわっと効いてきます。しかしここまで殺人者にとって都合のいいようにものごとが進むものなんだらうか(^_^;) 細かい謎が出てきては解決するので退屈というほどではないのですが、全体的にはメリハリに乏しく、平坦な印象。エリオット警部の恋物語なども興味をそそりますが、エリオット警部を骨抜きにする効果しかあげてない感じが(笑)ま、それはともかく、派手さはないが、じっくり読むと緻密な構成にため息が出てくるような作品です。フェル博士の毒殺に関する講義も聞くことが出来て、得した気分♪ |
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闇に浮かぶ絵Painting the Darkness | 1989 |
ロバート・ゴダードRobert Goddard(加地美知子訳・文春文庫) | |
1882年10月、ロンドン。静かで満ち足りた生活を送るウィリアム・トレンチャードとコンスタンスのもとへ、一人の来客があった。ジェイムズ・ノートンと名乗るその男が語った訪問の目的は、彼らの平穏を永久に破壊するに十分なものだったのだろうか。彼はかつてコンスタンスが婚約しており、結婚を目前に自殺したと思われていた、ジェイムズ・ダヴェノール――本物だとすれば准男爵家の世嗣――だと名乗った。兄は亡いものとしてすでに准男爵を継いでいた弟ヒューゴーも、母キャサリンでさえもジェイムズを本物とは認めない。ただコンスタンスだけは…。不安に駆られたトレンチャードは独自に彼の身辺を探るが、反対に何者かの罠にはまる。ジェイムズとは一体、何者なのか? ★★★ゴダードの本はまだこれが三冊目だというのに、う〜むいかにもゴダードだぁ〜と思える作品でありました。 まずはなんといっても話が進まないところがいかにも(笑)上下巻ものなんですけど、上巻の2/3くらいまではもうクダクダ、グズグズで、とにかく描写がわたしの好みよりはかなりくどい!もっと簡潔に、さっさと進めんかい〜、と毒づいておりましたが、この雰囲気がなかったらゴダードとは言えないんだもんね(^_^;) 次に登場人物がいかにも。男どもはそろって優柔不断っぽいか、あるいはゴクつぶしだし^_^;主人公ジェイムズにも際立った魅力がなくって面白くない。でもまだ男のほうはマシで人間味を感じさせるけど、女ときたら・・・意思が強いのはよくわかるけどちっとも魅力的でない怖い人か、単純さが可愛らしいとしか言えない人か。一応ヒロイン(?違うかな)のコンスタンスに至っては、気持ちが変化していくのは当然なんだけど、それを納得させる深みが全然ないので、共感できないし(ーー;)と、いうわけで肩入れしたくなる人物がいないのが残念でした。あ、プローン−プローンはなぜか応援したくなったけど(笑)こいつってへなちょこなんだか、大物なんだか?それに有名な人物が意表をつくキャラで(^_^;)サービス精神旺盛なゴダードらしい。 文句ばっかりですが、ストーリーは最初はグズグズですけど後半はスピード感があって大変楽しめました。ジェイムズが本物が偽者かを謎として描くなら、ギリギリきわどい部分もありましたが、まあ許せるかな。裁判場面の挿入も効果的でよし、です。登場人物がかなり多いのですが、上手な使い方ですね。途中でいろいろ推理する楽しみがあってよかったです。しかもほとんど裏切られてしまったし(^^)ただ、最後に近づくにつれてご都合主義になってきた感じは否めませんでした。特に最大の秘密(これの「真相」は不愉快で嫌い)に関しては・・・はあ、そうだったんですか、と納得するしかないので、やや不完全燃焼気味。黒幕もいまいちだし。 しかし、イライラはさせられるけど不思議と最後まで読ませてくれる作家ですね(笑)ミステリ、と思って読むと肩透かしかもしれませんが、これ見よがしの派手な展開もなしにこれだけ楽しませてくれるところはすごい。 |
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