不自然な死Unnatural Death | 1927 |
ドロシー・L・セイヤーズDorothy L.Sayers(浅羽莢子訳・創元推理文庫) | |
「だが、その女のこと、殺されかけてると考えたんなら―」ある料理店で、ピーター・ウィムジイ卿とチャールズ・パーカー警部が、殺人の疑いのある死に直面した時の対処法について話し合っていた時、突然、ある男が口を挟んできた。その男は医者で、ある金持ち老婦人の突然の不自然な死に疑問を持ったばかりに、職を失う羽目に陥ったと言う。俄然興味を持ったピーターが関係者に呼びかける新聞広告を出したところ、新たな死体が。いずれも自然死として片付けられてしまうような状況ではあるのだが、その裏には財産をめぐる複雑な相続問題が絡んでいた。 ★★★セイヤーズの長編第三弾。(第二弾をまだ読んでないぞ〜^_^;) 死を身近に扱う職業をしている人間は結構しばしば、「不自然な死」に出会うものなんでしょうか。ピーターとチャールズがそんなことを話し合っている席に突然割り込んできた男(医師)が、ごく最近体験したある出来事を実感を込めてふたりに語るところからこのストーリーは始まります。大変な金持ちのお婆さんが、若い身内の娘に全財産を残して死んだ…そんなに急にいけなくなるとは思っていなかったのに…死ぬ直前にはやや妄想的になっていて、看護婦を解雇したりしていた…頭はかなりしっかりしていたが、遺言書を書くのだけは断固として拒否していた…医師の話だけではなんともいえないところでしたが、興味を持ったピーター卿らが調べを進めるにつれ、財産を相続した若い娘(曾姪)の不審な行動が明らかになってきます。無理やり遺言を書かそうとしたりして、しかし、遺言がなくってもその娘しか相続人がいないのは明らかですし、死期を少々早める為に、殺人まで犯す必要があるとは思えません。一体誰に?何故?そしてどうやって?老婦人は殺されてしまったのでしょうか。 この作品は○○ダニットなんですけど、先入観を持って読むのもつまんないかもしれないので、未読の方のために伏字にしときます(笑)でもあとがきには書いてるけど(^_^;)ところで、セイヤーズは、当時の女性に対する見方(「法律的な頭脳を持った女の人には滅多に会えません」トラッグ氏のセリフより)にかなりムカツいていたに違いないですね。この特異で挑戦的で頭のよい女性をこの時代に創造したのだから。ただ、まだそこに人間らしさと言うか、魅力を付け加えるまでには至ってないけど。その点、クリンプスン夫人なんかは、古さと新しさがうまくミックスされた面白い人物になってて◎(*^^*)扱いやすいキャラクターではありますしね。 人間関係(親戚関係?)が今ひとつ掴みづらいことと、バンターがあんまり活躍しなかったこと、やや後半の盛り上がりに欠けていることが不満点として上げられますが、まずまずの出来だと思います。読んでいて楽しいことはもちろんですよ♪ |
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火刑法廷The Burning Court | 1937 |
ジョン・ディクスン・カーJohn Dickson Carr(小倉多加志訳・HM文庫) | |
出版社ヘラルド・アンド・ソンズの編集者であるエドワードは売れっ子作家ゴードン・クロスの原稿を預かっていた。女性の毒殺犯を扱ったというその原稿に添えられた写真をみて、エドワードは目を疑った。1861年に殺人の罪で断頭台に送られ、その上火刑に処せられたマリー・ドーブリー、それは彼の妻マリーそのものだった。ちょうどその頃、エドワードの友人マークの伯父マイルズの死に毒殺の疑いが浮上していた。墓を暴く決意をした彼らは、マイルズの死体が棺から消えていることを知る。屋敷の使用人がみたという、古風な衣装を着け、マイルズの部屋からあるはずのないドアを通って消えていった女とは一体何者なのか? ★★★起訴状・証拠・論証・要約・評決の五部構成。最初の起訴状・証拠、この二部あたりまではゾクゾクするようなサスペンスフルな展開です。実を言うと、エドワードの心理に重点を置いた描写にちょっと違和感があって、(カーってこんな感じだったっけ?)なんて思いながら読んだんですけど。エドワードが妻マリーに抱く疑いと恐怖にも、やや唐突という感じがあって、すこしストーリーに乗り切れないままに墓暴きという場面に付き合わされるしで、最初はかなり不安感でいっぱいでしたね〜。しかし、墓が暴かれてそこにあるべき死体がなかったり、ヘンダーソン夫人の証言の怪しさが魅惑的で、そのうちすっかり引き込まれてしまいました。 第三部にはブレナン警部が登場して、物語はぐっと現実に近づいてくるんですけど、不思議なことにマリーという女性(エドワードの妻)への疑いはいや増すばかりで、「え〜、もしかしてホントに、魔女(?)」とか思ったりして。そんなふうに思わされてしまうところがさすがカーと言うべきなのか(笑)ここらへんの緊迫感の作り方はうまいですね。「幽霊」の登場も効果的で、どっちつかずの混乱した不安定な心理に追い込まれていきます。それだけに第四部の要約は抜群の出来。からからに渇いた喉においしい水・・・って感じ。死体焼失の謎にも論理的解明がつくし、伏線との整合性も綺麗に嵌ってきてここちよい。しかも探偵役にも個性があって雰囲気ばっちり。わ〜、これってサスペンスでもあり、本格でもあり、だったんだわっ。よいよい(^^) というわけで、満足満足と思っていたら・・・まあ、あとはいいますまい。しかし、これほど、本格ミステリとして、あるいはサスペンス、怪奇小説としても、どちらとして読んでも完成度&満足度が高いというのは珍しいような気がしますね。うん、おすすめ♪ |
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法の悲劇Tragedy at Law | 1942 |
シリル・ヘアーCyril Hare(宇野利泰訳・HM文庫) | |
10月、イギリス・マークショア州に巡回裁判がやってきた。”きれもの”バーバー判事閣下をはじめ、事務官デリク、書記官ビーミッシュらのご一行は町を行進し、法廷となる州役所へとやってくる。厳粛なる開廷の辞が読み上げられ、いよいよマークハンプトン巡回裁判が開始された。初日の夜は雨の降り出した月のない夜だった。灯火管制の暗闇のなか、招待された晩餐の酒に酔ったバーバーの運転する車がある男を轢いたことが悲劇の始まりだった。高名なピアニストだという被害者から莫大な賠償金を要求されるはめになってしまったのだ。得体の知れぬ脅迫状、毒入りのチョコレート…奇妙な出来事がバーバーの身辺で続発する。 ★★★あとがきの解説によると、イギリスには13世紀以来「巡回裁判」という制度が存続しているそうです。(今はどうなのかな?)日本にはない特殊な制度なので、読みはじめは、?って感じですが、別に難解なことはありませんので、特に知識がなくても大丈夫みたいです。 ストーリーは、巡回裁判の華やかな(しかし、第二次世界大戦がはじまろうかという時代背景もあって、かなりセコくなっているらしい)幕開き、そしてその夜の自動車事故から始まります。人をはねたといっても、ちょっと指を怪我した程度らしい、もしかしたら小指を切断することになるかも?しかしまあ、判事閣下がご心配なさるようなことはありませんよ…(しかし、その夜の冒険を妻に知られるのはうまくない)…というわけであまり深刻に心配してなかったバーバーでしたが、損害保険に入ってなかったこと、当の被害者が高名なピアニストだったことから大変な窮地にたたされることになります。バーバー夫人ヒルダはそんな夫のために奔走しますが、どうやら判事の職はあきらめざるを得ないという事態に。そのほかにも、脅迫状、襲撃事件などが相次ぎ、事態は混乱します。 450ページほどの物語なのですが、殺人事件が起こるのは、400ページ目に迫ろうかという終盤になってからです。ここまでの間、物語はゆったりとうねりながら進んでいきます。こういう展開だとさぞ退屈だと思われるでしょうが、意外にそうでもありません。物語を「読んでいる」というよりも、物語のなかに入りこんで、その時代に彼らとともに生きているような錯覚を覚えてくる、そんな心地よさがあります。登場人物の造型の面白さ、品のあるユーモアと皮肉なまなざしが感じられる魅力的な作風はちょっとディケンズみたいだなあ、なんて思ってしまいました。 ミステリとしても、最後の謎解きはぴりりと引き締まっていて、そこへ至るまでの真犯人の個性的な描き方から考えても納得出来るものでした。上にも書いたように、時間の流れに沿って進行していき、その結果として殺人事件が起こる、という描き方はよく考えるとちょっと変わっていますけど、非常に意を尽くされているという印象。滋味があるというか味わい深いというか、とにかく読み終わった後の満足度の高い作品だと思いました。やっぱ、イギリスミステリはいいですね(^^) |
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誰の死体?Whose Body? | 1923 |
ドロシー・L・セイヤーズDorothy L.Sayers(浅羽莢子訳・創元推理文庫) | |
建築家シップスの自宅の風呂場で、鼻眼鏡付きの裸の死体が発見された。母親の元公妃からその話を聞いたピーター・ウィムジイ卿は、大好きな稀覯本の競売を万能の従僕バンターに任せて、早速現場に赴いた。朝食前に浴室でその死体を発見したシップス氏はすっかりまごついていたが、やがてサグ警部によって身柄を拘束された。シップス老夫人(氏の母親)からの連絡でそれを知ったピーター卿は、捜査に本腰を入れることになる。奇しくも行方不明となっていたユダヤ人実業家がその死体の正体かと思われたが、事はそう簡単ではなかった。 ★★★ドロシー・L・セイヤーズの初長編。 真っ裸に立派な金鎖のついた鼻眼鏡だけをかけた死体、それは金持ちのようでもあり、労働者風でもあり。髪には上等の整髪料を使い、指にはマニキュアまでしてあるというのに耳は真っ黒で全身蚤の食い跡だらけ?しかも死体は死後一日以上もたってから、シップス氏の浴室に窓から運び込まれたらしい。全く不可解な死体ですね〜。おあつらえ向きにユダヤ人実業家がその直前に行方不明になっているのですが、顔は確かに似ているとはいえその人物であるはずがない、ということが確かめられました。しかし、そのユダヤ人が当日、シップス氏の住むバターシーあたりで目撃されているのも確かなのです。一体この死体は誰の死体なのでしょうか? わたしはセイヤーズは初めて読んだのですけど、素人貴族探偵ピーター卿の噂はかねがね聞いておりました(笑)もう少し年寄りだとばっかり思ってたのですけど、実は青年なんですね〜。ちょっぴり口数が多いような気もしますけど、なかなか好青年です。この青年探偵をはじめ、登場人物がみんなよく描かれていて感心しました。特にピーター卿の尊敬すべき母親であるデンヴァー先代公妃、完璧なる従僕バンターなどの魅力的なこと♪ううん、今まで読まなかったの、勿体無かったわっ(*^^*) ストーリー展開は派手ではなく、気の利いた会話がここちよく続くうちにピーター卿の推理の進み具合を追うという感じです。エピソードがややブツ切れの感じがあって全体像がつかみにくいような気はしました。そのせいか(?)私自身の推理は混乱してさっぱりだったんですけど、とにかく楽しく読めるので大満足でした。真犯人は意外性があるというよりもちょっと突飛な気がしましたけど、まずまず説得力のある真相だったし、考え方も面白いと思いました。登場人物の魅力と、殺人事件そのものの面白さと、両方いい感じに楽しめる、やっぱりイギリスミステリっていいなあ〜♪というのが読後の素直な感想ですね。 |
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翼ある闇メルカトル鮎最後の事件 | 1991 |
麻耶雄嵩(講談社文庫) | |
ゲルマン・ゴチックを基調とした無骨な造作の洋館、「蒼鴉城」。駆け出しの探偵小説家である私(香月実朝)が、友人で、「蒼鴉城」の主、今鏡伊都の依頼を受けた探偵木更津悠也とともにそこを訪れた時、すでに惨劇の幕は切って落とされた後であった。伊都のものと思われる胴体は、足首を切られ鉄の靴を履かされていた。やがて見つかった首は伊都の息子有馬のものだと判明、有馬の胴体と伊都の首が発見された部屋は完全なる密室…。その後も今鏡家の人々をつぎつぎと襲い、首を落す犯人の真意はどこにあるのか。 ★★★麻耶雄嵩のデビュー作。なんでも21歳の現役京大生だったのだとか。 父親の経営する探偵社の社員でありながら、自分の興味を惹く事件しか引き受けない名探偵木更津が、「蒼鴉城」を訪れる気になったは、依頼の手紙のすぐあとに届けられた脅迫状のせいでした。「この差出人は…僕を知らないか、知り過ぎているかのどちらかだよ」・・・というわけで早速やってきた彼らを待っていたのはすでに死体となった依頼人とその息子。奇怪な古物趣味の装飾品で飾られた洋館、世の中から隔絶された世界に住む人々、つぎつぎと現れる死体は必ず首を切られており、しかも死後に何かと手を加えられている、等々と雰囲気満点。ふう〜ん、これが新本格ってやつなんですねっ(^^) なるほど、デビュー作だけあってあんまり文章はうまくない気がしました。セリフなどもやや独りよがりな感じで分かりにくい。ラストにはちょっと虚をつかれてしまい、この作者のスタンスはこういうことだったのかと妙に納得してしまうけど、アナスタシア云々は興ざめというか、馬鹿馬鹿しくなってくる。全体的に衒学趣味爆発って感じなのは作者の趣味というかスタイルだからいいと思うし、私も嫌いではありませんがこの作品に関してはしっくりきませんでした。こういうのの匙加減はむずかしいですね。ついでに言うと、名前とか作りすぎてるの、嫌い。(でも、実はそこにも意味はあったんですけど…) と、まあ文句ばっかり言ってますけど、面白かったですよ〜(^^)木更津探偵の第一の推理も楽しかったし、二つ目のメルカトル鮎のにも感心してしまったし(あ、メルカトル鮎っていうのは一族のほかの人が雇った探偵でして、格好も性格もなんだかすごいんです(笑)本名は龍樹頼家っていうんですよ。なぜ、「最後の事件」なのかは……)。そのあともなんだかんだ色々あって、真相にたどり着くまでにどんでん返しのすごいのも体験できて、顔がほころびっぱなしになること請け合いです♪見立てにも、「おおっ!」と膝を叩いてしまいました(全然読んでないくせに^_^;)。それにそれに、特にあの、首が入れ代わっていた事件の真相(?)には参った。犯人は幕末の剣豪なみの、据えもの斬りの名人だったらしいです。そのあとの「密室ができるまで」もすご過ぎる!これだけ笑わせてくれたんだから、やっぱり面白かったんですね♪(え?楽しみ方が違う?まあいいでしょ〜)まあ、本当のことを言うと、ここまで階層を深くしてしまうと、オドロキにも新鮮さがなくなってくるのが欠点かな〜(笑)ところで、「名探偵」木更津悠也の今後はどうなんでしょ…。 |
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黄色い部屋の秘密Le Mystere de la Chambre jaune | 1908 |
ガストン・ルルーGaston Leroux(堀口大學訳・新潮文庫) | |
著名な学者、スタンジェルソン博士はフランスの片田舎にある「団栗屋敷」で娘マチルドとともに研究の日々を送っていた。ある夜、離れの実験室のそばの「黄色い部屋」に寝泊りしていたマチルドが襲われた。マチルドの悲鳴が響き渡ったその時、「黄色い部屋」へのドアは鍵と閂で硬く閉ざされていたのだが、ドアを破った父博士らは、そこに瀕死の娘以外の何者をも発見することは出来なかった。難攻不落の密室の謎に挑むのは、警視総監の命を受けた名探偵ラルサンと、弱冠十八歳の「レポーク紙」記者、福助頭(!)のルルタビルである。 ★★★密室ものの古典的傑作といえばこの作品ですかね(^^) ルルタビル、本名をジョセフ・ジョゼフィンというこの少年新聞記者が挑むことになった「黄色い部屋事件」は、その不可解性によって世間の注目の的です。鉄格子のはめられた窓の鎧戸は内部から、また実験室へのドアも内部から施錠されており、この二つのほかには外へ通じる道はない「黄色い部屋」。その部屋で「人殺し!助けて!」というマチルドの叫び声とともに、ピストルが発射され、家具の倒れる大きな音が。完全なる密室殺人未遂事件の謎は深まるばかりです。名探偵ラルサンはその卓越した推理力で、犯人とスタンジェルソン父娘の間に、余人には窺い知れない恐るべき秘密がある、犯人は故意に逃がされたのだ、それ以外にこの犯行を説明する方法はない!と断言。いやまったく、お嬢様とその婚約者の秘密ごっこには読んでても飽き飽きなので、この回答でいいんじゃないの〜、と思いそうになりますね(笑)しかし、ルルタビルはこんなことでは決して満足しません。 やたらとメロドラマチックになってしまうのには閉口ですが、ルルタビル君はなかなかの天才ですね。廊下(ガルリー)の曲がり角で犯人を追い詰めるあの印象的なシーンは忘れがたいですが、あそこから出発して犯人を割り出すなんて、凡人には不可能。「あの晩僕を、・・・が犯人だという考えから遠ざけた理由」その第一からして…おいおい〜って感じじゃありませんか〜(笑) ま、そんなことは序の口です。やっぱり密室のトリック、というか謎(?)というかの解明にはもうどうしたらいいのか。まったく、傑作ですよね♪密閉された空間を開く鍵は時間の魔術……っと、これ以上はネタバレになりますが、ホントにマジックですよ。このマジックに一番驚かされたのは実は・・・だったに違いない(^_^;) この作品はすごい昔(中学生のころ)に読んだことがあるんですが、その時はいまいち釈然としなかったものです。頭でっかちだったんですね〜(爆)。でも、今回再読して、やっぱり密室ものの一つの形、原点、って感じで感服いたしました(^^) |
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アラビアン・ナイト殺人事件The Arabian Nights Murder | |
J・ディクスン・カーJohn Dickson Carr(森郁夫訳・ハヤカワポケミス) | |
アデルフィ・テラス一番地の図書室の円卓を囲んで、四人の男が腰掛けている。四人の男とは、カラザース警部、ハドリイ警視、警視庁の副総監、そしてかのギデオン・フェル博士。今夜語られるのは、「アラビアンナイトの殺人」として世に知られた物語。この奇怪な事件の発端から関わったカラザーズ警部が今夜一人目の語り部だ。ある夜、カラザーズは部下からウエイド博物館周辺で奇妙な出来事が連続したと聞かされる。半信半疑、当の博物館へ赴いたカラザーズが、展示物の馬車を覗いたところ、中から死体が転げ出た。凶器は展示品のまがまがしい短刀、白や黒の付け髭の謎は、新たな謎を呼ぶ。胡散臭い博物館関係者の証言に手を焼くなか、新たな証人が登場するが・・・。 ★★★カラザーズ警部、ハーバート卿(副総監)、ハドリイ警視の三人が語り継ぐ「アラビアンナイトの殺人」、フェル博士の慧眼がその真相を鋭く見抜く。(むむ、安楽椅子探偵ってヤツかあ〜) とにかく〜、最初のカラザーズ警部が語る事件の外観が、なんとも奇っ怪なんです(^_^;)舞台は東洋趣味の博物館。白い付け髭の男が妙なことを言った途端に退場し、お次は博物館へ忍び込もうとした男が、付け髭という言葉を聞いた途端に失神。箱のまわりで踊る爺さんはいるし、死体のそばには謎めいた料理本(?)が。凶器の象牙の柄のナイフはなんだか想像を絶する形をしているみたいで、どうやったらこれで心臓を一突きできるものやら(ーー;)怪奇のてんこもりでして、せめて状況を把握したいという悲壮な努力にもかかわらず、ほとんど何がなんやらです(ってこれは、カラザーズ警部のことでもあるけど、読んでいる私のことでもあるのですが^_^;)。ところが、途方に暮れる警部のもとへ一通の手紙が! で、ハーバート卿に話が引き継がれるわけですが、これは面白かったですね〜♪その場に居合わせた人物が、その目で見た状況を語るのですが、奇想天外な告白(笑える〜)によって次々と謎が明らかに(^^)読みにくかったカラザーズさんの話を頑張って読んだ甲斐があったってもんです。ここで奇っ怪な部分はほとんどクリアになり、登場人物の背景など現実的な部分も出てきて、いよいよハドリイ警視が犯罪の核心部分へ。へらへら笑ってばかりいた私も、ここからちょっと頭を切り替えて時間の問題に取り組みました。地味ですが堅実な捜査ぶりが披露されます。なるほど、語り部を三人に振り分けたのはうまいやり方だなあと、ここに来て感心しきり。 長さと読みにくさが、ちょっと一般受けしそうもない感じですね。しかし、これがすらすら読める文章だったら、ここまで面白いかどうか?難しいところですね(ーー;)フェル博士が最後に素晴らしい真相を披露するんですが、すでにヘロヘロになっていた私は「ごもっとも〜♪」と一も二もなく拍手。なんだか、勢いで納得させられてるみたいな気がするんですよね〜^_^;これって私の頭が弱いのがいけないのか、それとも作者の思うつぼなのかっ?(笑) |
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鬼火 | |
横溝正史(角川文庫) | |
『鬼火』『蔵の中』『かいやぐら物語』『貝殻館奇譚』『蝋人』『面影双紙』 『鬼火』―諏訪湖にある岬の突端にたつアトリエ。偶然そこへ足を踏み入れた私は、荒れ果てた部屋の片隅で奇怪な絵を目にする。それは、従兄弟同士に生まれつきながら憎みあうことを定められた二人の男が、ともに泥濘地獄へ堕ちる運命を象徴したものであった。 『蔵の中』―雑誌「象徴」の編集長磯貝は、蕗谷笛二という男が持ち込んだ原稿を読み始めた。「蔵の中」と題したその短編小説は、実に風変わり、かつ磯貝にとっては不気味な内容であった。 『かいやぐら物語』―精神を病んで南方の海辺の別荘に療養していた私は、毎夜あてどもなく深夜の浜辺をさまようのが日課だった。ある夜、貝殻で美しい音色を響かせる美女に出会った私は、不思議な物語を聞かされた。 『貝殻館奇譚』―恋敵の月代が死の淵へ転落していくのを見届けた美絵は、岬の丸太小屋からこちらを覗く人影を認めて恐怖する。美絵は貝殻館へ目撃者を誘い出し、奇怪な仕掛けを見せつけて…。 『蝋人』―芸妓として一人前になったばかりの珊瑚には惣兵衛という旦那がついていた。ところが珊瑚は今朝治と出会ってしまう。惹かれあう二人は密会を重ねたが、ついに惣兵衛旦那の知るところとなり…。 『面影双紙』―学生時代の友人R・Oが私にこれを語ってくれたのは、八月の暑い盛りだった。道修町小町と呼ばれた美しい母のこと、養子の、物堅い一方の父のこと。商売で扱っていた人体模型のこと。 ★★★昭和八年から十一年ごろに発表された短編を集めたもの。粒揃いですよ(^^) 『鬼火』・・・「憎み合い、のろい合いながら、常に相寄る魂を持った二人」の「因果といえば因果、宿縁といえば宿縁」を描いた作品。血が近いというのが却って憎悪を募らせるってことはありますよね、確かに。最後まで運命が過酷に彼らを絡ませたって感じです。しかし、冒頭のアトリエの描写もすごいし、沼のシーンも迫力あるし、それらに微妙な情念を絡ませて、不思議と悲しい物語に仕立てているあたり、すごいですね〜。 『蔵の中』・・・これは仕掛けが面白い。ねちっとした文章がなんともいえぬ味わいの小説はよく出来ているなあ、と思っていたら…。小説の中の出来事と、現実(?)の出来事とが、模糊としてまざりあって、読んでいるととっても不安定な気持ちになります。結末はちゃんとつくんですが、やっぱり不安定な気持ちのままで終わってしまいました。怖い。 『かいやぐら物語』・・・かいやぐら、は蜃気楼のことですね。これはとても美しくって、怖くって、とっても気に入りました。単純なお話しですが、印象が鮮やかです。月の美しい晩に、わたしも海に出てみたくなりました。ところでこの話を読むと、昔中学校で習った歌を思い出しました。「遠い遠い昔夜の浜辺で/若者ただ一人竪琴を弾いていた/その夜の空は晴れ月は輝き/黄金色の波が瞬いていた/竪琴の響きは遠くの沖へ/静かに静かに流れていった//その調べにあわせ波の中から/夢のような歌が若者を呼んでいた/その歌に誘われてすべてを忘れ/声を求め沖へ泳ぎだした/夜が明けて砂浜に残る竪琴/その日から若者を誰も見ない」(歌詞、間違ってるかもしれませんが、大好きな歌でした) 『貝殻館奇譚』・・・貝殻館の仕掛けがなんとも幻想的ですごいんです。結末もとても面白い趣向なんですが、少し現実実を持たせすぎてしまった感じがもったいないような気もします。 『蝋人』(ロウの字が違うんですが、出ないんですよ〜)・・・蝋人形の使い方が素晴らしく効果的でよいです。蝋人形の今朝治と惣兵衛旦那の対決は現実ともなんともつかない感じで迫力ありますね〜。盲目となった珊瑚は哀れで魅力的で…。 『面影双紙』・・・ふわっとした上方言葉がだんだん怖くなっていきます。何が怖いのかわからないうちに、現実の怖さが押し寄せてくるという感じ。母と子の対峙する空間ともおもえぬ光景が、夢のようでもあり、現実のようでもあり…。謎を残した終わり方も、この物語に似つかわしいですね。 以上六編、妖しくって、摩訶不思議で、凄まじくって……そんな世界を堪能できます。 |
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