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No.68 死してなお、殿のために働く石職人の霊



慶長2年、讃岐(さぬき)の丸亀城。当時の城主は山崎家治。城を建設するにあたり、高い石垣が組まれた。石垣は当然、敵の侵入を防ぐためのもので、城は水を満たした堀や、高い石垣で守られているのが普通であった。

この石垣を組んだのは、当時石垣作りの名人と言われた羽坂重三郎という石職人だった。

ある日、まだ城を建設中のころ、城主の家治は城を視察に来た。
「おお、高い石垣じゃ。これなら誰も登ってくることは出来まい。こんな石垣を乗り越えられるとしたら鳥くらいのものであろうな。」
家治がこう言ったのを聞いて、ちょうどそこに居合わせた石職人の重三郎は
「おそれながら、殿様、私でしたらこの石垣を登ってみせまする。」
と申し出た。


「なに?この石垣を登れると申すのか。」「はい、これ一本にて。」と言って、重三郎は30センチくらいの鉄の棒を差し出した。自分が設計した石垣だけに、継ぎ目も大きさも組み方の法則も知り尽くしている。

重三郎はものの見事に一本の鉄の棒を、あちこちの隙間に差し込んでは、するすると石垣を登りきったのである。
「見事じゃ、さすがに職人、誉めてつかわす。」
驚いた家治はこの技に感心したかのように言葉を発した。


そしてそれから数日後の夜中。重三郎が寝ていると、城からの使者という人間が重三郎を訪ねてきた。

「重三郎殿、殿からの言いつけであるが、ただ今城にくせ者が侵入し、みんなで探しているのであるが見つからぬ。残る怪しいところといえば、ニの丸にある井戸の中だけなのであるが、あそこは深くて誰も入ることが出来ないのじゃ。どうか、そなたの力を貸してはもらえぬか。」

「そうか、あの石垣を登りきった私の技術を殿様が頼りにしてくれたのか」そう思って重三郎はすぐに城に向かった。そして城に着いて重三郎は、例のニの丸の井戸にするすると降りていったのだが・・底に到達すると同時に上から大きな石が次々と井戸の底めがけて投げ込まれてきたのだ。

底にいた重三郎は、わけが分からないまま石に激突してそのまま死んでしまった。

この命令を下したのは城主である家治。あの時石垣を登っていく重三郎が敵のスパイのように見えたのだ。
「もしもこの男が敵方についたら・・。」
そう思って不安になった家治は重三郎を殺すことを決めたのである。


それから家治は心の安息を取り戻し、しばらくは平和に暮らしていたのだが、だんだんと城の中に妙な噂が流れるようになった。

「ニの丸の井戸で水の音を聞いたぞ。」
「いや、あそこは石を大量に投げ込んだ上に干上がってるはずだから、水などあるわけがない。」

「あの井戸の周りで昼間だというのに青白い炎を見た。」などという部下が後をたたず、誰も気味悪がって井戸には近づかなくなってしまった。

噂を聞いた家治も怖くなり、恐怖の夜が続いた。そんなある日、夜中にふと目を覚ますと誰かが上から顔を覗き込んでいる。びっくりしてよく見ると、それは血まみれの姿になった重三郎であった。

「ひぃっ!迷ったか!重三郎!」と、家治が叫ぶと、
重三郎の霊が答える。

「お殿さまぁぁぁ・・・。井戸の中には怪しい人間はいませんでしたぜ・・。」



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