1829年4月、スウェーデンで漁師をしているヤンセン親子は、いつもの漁船に乗ってノルウェー沿岸を北上していた。だが、北極圏に入ると、それまでは穏やかな海だったものが、途端に荒れはじめ、暴風雨になってしまった。

すさまじい暴風雨は何日間も続き、船は押し流され、全く生きた心地がしない。数日後やっとおさまったと思ってホッとしたが、どうも周りの風景が奇妙である。

船の前と後ろには空が広がっているものの、上空にも海があるのだ。いや、上空だけではない。右にも左にも、海の壁のようなものがある。まるで水の中のトンネルを航行しているかのようだ。

この奇妙な風景は数日間続いた。そしてやっといつもの風景・・つまりちゃんと水平線だけが見える普段の海にもどった。いや、でもやっぱり何か違う。上に見える太陽が妙に赤いし、海自体も何か変だ。今まで航行してきた海とは明らかに異質のものを感じる。

違和感を感じながらも船を操縦していると、やがて目の前に巨大な船が現れた。ヤンセン親子は助けを求めようと近づいて行ったのだが、その船の乗組員たちを見てびっくりした。

彼らは全員身長が4メートル以上もあるのだ。親子はとっさに身構えて戦闘に備えたが、意外にも巨人たちは親切であった。

巨人たちは極めて友好的に接してきて、これから我々の国に案内しようという。巨人たちの言葉は聞きなれないものであったが、サンスクリット語に似た言葉で、かすかに理解は出来た。この後、ヤンセン親子が連れていかれたのはイェフという町だった。

巨人たちは高度な文明を持ち、見たことのないような機械が数多く存在していた。建物は黄金で色どられ、何もかもが巨大だった。農作物も豊富で、リンゴは人間の頭ほどの大きさがあった。

巨人たちはみんな陽気で優しく、平均寿命は800歳前後だという。ヤンセン親子はこの国の王から滞在の許可をもらい、この後2年ほどこの国で過ごすことになる。

そして2年後、ついにヤンセン親子は元の世界に戻る決心をする。旅立ちに際して巨人たちは金塊と、この地底世界の詳細な地図を土産に持たせてくれた。ヤンセン親子は乗ってきた漁船に乗り込み、地底世界の海を出発した。

再び水のトンネルを抜けてようやく元の世界へ帰ってくることが出来た。だが、帰ってきたと思ったら、そこは最初に迷い込んだ北極の海ではなく、反対側の南極の海だった。

北極から入って南極に抜けてしまったのだ。親子は途方にくれたが、スウェーデンに帰るには、膨大な旅になるが、このまま航海していくしかない。しばらく航海していたのだが、更なる不運が親子を襲った。嵐に巻き込まれてしまったのだ。

この嵐でヤンセン親子の船は破壊され、沈没してしまった。それと同時に巨人たちが持たせてくれたお土産も海中深く沈んでしまった。息子のオラフ・ヤンセンは、氷山に乗って漂流しているところを、たまたま通りかかった捕鯨船に救助された。


<地球の中は空洞になっていて、北極にある水のトンネルを通って、親子は地底世界に迷い込んだという。地底には中心に「地底の太陽」が存在している。>


ヤンセン親子の体験したこの事件は、誰も信じず、結局狂人の妄想だということで片付けられた。だがヤンセン親子に限らず、北極海では同様の体験をした船乗りが何人もいるという。

ヤンセン親子が、この体験をしたのとほとんど同時期に、他にも3件ほど、極めてよく似た事件が発生している。また、南極海においても同様の事件が起こっている。1947年、アメリカ空軍のバード少将が北極上空を飛行中に、見知らぬ世界へ迷い込んだとの報告もある。

ノルウェーの漁村などではこういった体験談などが昔から伝えられ、また船乗り自身の手記としても残されているという。


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