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No.144 イギリス・エジンバラの死体の売人



※(エジンバラは、スコットランドの首都。スコットランドは独立国家ではなく、北アイルランド連合王国(イギリス)を構成する国の一つである。)

▼ウイリアム、死体販売を思いつく

1827年、イギリスのエジンバラの、ある街の片隅に「タナーズ・クローズ」というさびれた安ホテルがあった。

ホテルの主人はウイリアム・ヘアという男である。だがウイリアムは、このホテルの主人になってからの年月はまだ少ない。

このホテルの以前の主人は、病気で亡くなっている。だが以前からウイリアムと、ここの奥さんはいい仲になっており、ホテルの主人が死ぬと、ウイリアムはすぐにこの奥さんと結婚し、ホテルも女も手に入れていたのだ。

そして、このホテルに泊まっているお客でジョン・バークという男がいた。職業は靴屋であるが、住所不定のようなもので、このホテルに長期滞在しているというよりも、もう、このホテルに住んでいるようなものだった。愛人も一緒にここに住んでいた。

ウイリアムとジョンはずいぶんと仲が良かった。ホテルの主人とお客という立場であったが、長い間このホテルに住んでいるジョンは、すでにここが自分の家のようになっていたのだ。


しかしある日、このホテルで事件が起きた。宿泊客の1人が部屋で死亡しているのが発見されたのだ。このお客も何泊もしているようなお客で、料金はまだ支払っていない。その上死亡されたのでは、ホテル側としては損失以外の何物でもない。

このお客は身寄りのない独身者であった。死亡事件処理が一段落した時、ウイリアムは、ふと思い立った。

「このまま棺(ひつぎ)に入れて、親切に埋葬してやったって、こっちには1円にもならねえ。この野郎、宿泊料金も払わねえで死にやがって。

それよりも、大学の医学部で死体を買ってくれるという話を以前、誰かから聞いたことがあるな。ダメで元々で、一応連絡してみるか。」

この当時のイギリスでは死体の解剖は法律で禁止されており、大学教授や医学部では解剖用の死体を欲しがっている状況だった。

医学部といえどもなかなか死体を手に入れるのは難しい時代だったのである。


ウイリアムは、エジンバラ大学医学部教授のロバート・ノックス教授に連絡を取り、死体を売りたいと話を持ちかけると、教授の方はすんなりと合意してくれた。

「これは儲けになる。」と喜んだウイリアムだが、1人で運ぶのは困難だ。ウイリアムはジョンに話を持ちかけた。

「死体を運ぶのを手伝ってくれたらお前にも分け前をやるぜ。」と、事情を説明するとジョンもすぐに乗ってきた。

2人は荷車に死体を積み込むとすぐに出発し、ノックス教授の家を訪ねると、驚くほどあっさり交渉は成立した。教授は死体を7ポンド10シリングで買ってくれた。この死者の未払いの宿泊料金を引いてもまだ4ポンド余る。


▼墓を掘り起こす仕事

「死体ってのは金になるんだな。」帰り道、ジョンが感心したように言うと、「2人で死体売りでも始めるか?」と、ウイリアムも持ちかけた。

死体なら墓場に行けば調達出来る。この一件がきっかけになり、2人は墓場から死体を掘り起こして売るという商売を考えついた。

この地域は土葬であり、日本のように死者を火葬してから埋めるのではなく、死体をそのまま棺に入れて、埋めたり地下の納骨堂に納めたりして埋葬していたのだ。

さっそく深夜に2人は近くの墓場に出かけ、墓場を掘り起こす作業を始めた。お供(そな)えものなどが多く置いてあるような、いかにも最近埋められたような墓に狙いを絞って墓を掘り起こし、棺を開けてみる。

「うわっ、ダメだ腐ってやがる。」
「こりゃハズレだな。」

腐乱(ふらん)した死体や白骨化したものでは売り物にならない。あくまでも新鮮な死体が必要なのだ。

しかしなかなかうまくはいかない。昨日今日埋められた死体にはなかなか遭遇しない。だが苦労のかいあって、1827年11月30日、この日は状態のいい死体に巡り合うことが出来た。

早速以前買ってもらったノックス教授の家まで荷車で死体を運んだ。またもや教授は買ってくれた。今度は10ポンド払ってくれた。

医学のためとはいえ、得体の知れない連中が持ち込んだ誰とも分からない死体を買うなどということは、もちろん現代では違法である。200年近く前の時代だからこそこういった商売が成り立ったのだ。


それからも2人は墓場で発掘を続けたが、やはりいい死体を見つけることは難しい。

「だったら死体を作っちまえばいいんじゃねえか?」どちらともなく話を切り出した。「そうしよう、その方が手っ取り早い。」

2人は墓場荒しから殺人へと方向転換した。狙うのはウイリアムのホテルに泊まりに来たお客である。


▼連続殺人の開始

ウイリアムのホテルは、ホテルの中でも最底辺のようなホテルで、料金も格安だが、泊まりにくる客も日雇い労働者や浮浪者のような者が多い。その上、目立たないところに建っているためか、1日にお客が1人などという日もちょくちょくあるようなさびれたホテルだ。

少々いなくなってもシラを切り通せば、単なる行方不明で済みそうな客もいる。

2人が誰かを殺す機会を狙っていた時、ちょうどホテルの宿泊客の1人が高熱を出して部屋で寝込んでいるという話を聞いた。

これを知った2人は早速部屋を訪れ、1人が身体を押さえつけ、もう1人がお客の顔に枕を押しつけてそのまま窒息死させた。

この死体を売ると、また10ポンドになった。


次の犠牲者はホテルの宿泊客ではなかったが、2人が酒場で知りあったある女性である。俺たちのホテルで続きを飲もうと誘ってホテルに連れ込み、かなり酔わせた上でジョンが身体を押さえつけ、ウイリアムが女の鼻と口をふさいで殺してしまった。

この死体もノックス教授は10ポンドで買ってくれた。殺す時には首を絞めないで窒息死させてあるので外見上殺人の痕跡は残っていない。

ノックス教授も、この2人がたびたび死体を持ってくるのでおかしいとは思ったろうが、あえて何も聞かずにいつも買い取ってくれた。


1828年4月9日、この日ジョンは酒場で酒を飲んでおり、そこでメリーという売春婦と知り合った。ジョンは「俺の部屋に来ないか。」とメリーを誘い、部屋で更に酒を飲ませていると、酒の飲み過ぎからか、メリーはぐったりと動かなくなってそのまま死亡してしまった。

殺す手間が省(はぶ)けた。この死体は再びノックス教授に買ってもらった。しかしこのメリーは、これまでの死体のように、「いなくなっても怪しむ人間はほとんどいない」といった種類の人間ではなかった。

この辺りでは結構有名な売春婦で、彼女を知っている者や惚(ほ)れている男も多くいたのだ。

ノックス教授の解剖台に乗った彼女の死体は、一緒に解剖に立ち合った学性の1人がメリーだと気づいた。この学性も以前、メリーを買ったことがあるのだ。

メリーの失踪はエジンバラの夜の街でも噂になっていた。


そういったことはつゆ知らず、2人はまた次のターゲットを探していた。メリーには少し知恵遅れの娘がいたが、ある日、この娘がウイリアムのホテルを訪ねてきた。

「母親の行方を探しているのですが、このホテルに男と入ったという話を聞いてここへ来たのです。何か母について知っていることはありませんか。」

と尋ねられたので、ウイリアムは「お母さんはここに泊まってるよ。今から会わせてあげよう。」

と言ってホテルの中へ誘い、そのまま殺して死体はまたもや売り飛ばした。

次に2人は、この街でも有名だった知恵遅れの男を殺し、またもや死体をノックス教授に売った。この時にはかなり抵抗した跡があり、見ただけで殺人の可能性がある死体だったが、教授はやはり何も聞かずに買い取った。

ウイリアムもジョンも、以前はなるべく自然死に見せかけるように配慮していたが、やることがだんだんと大胆になってきていた。


▼逮捕

10月31日、この日が2人にとって最後の殺人となった。犠牲者は女ホームレスで、酒を飲ませてかなり酔わせた上にいつものように窒息死させた。

一方、以前、死体となって売られたメリーには彼氏がいたのだが、メリーが蒸発して以来、行方を必死になって探していた。再三警察にも捜索を頼み、ようやく警察も本気で捜索をしてくれることとなった。

以前メリーを買ったという、ノックス教授の学性も証言を求めらた。メリーの足取りを追っていた警察は、メリーが最後に目撃されたのは、ウイリアムのホテルに男と入っていったというところまで突きとめた。

メリーは顔の知られている有名な売春婦だっただけに、その日に彼女を見たことを覚えていた人も結構いたのである。


11月1日、前述の女ホームレスを殺害した翌日、警察はウイリアムのホテルを抜き打ち捜査した。ホテルには、ウイリアムとジョン、それにジョンの愛人が揃(そろ)っており、昨日2人が殺した女ホームレスの死体も発見された。3人は即刻逮捕された。

ウイリアムとジョンが最終的に何人殺したのか正確な数は不明であるが、結局ジョンは13件の殺人で絞首刑を宣告された。

しかしウイリアムの方は積極的に検事に協力したということで釈放となった。また、ジョンの愛人も、彼が何をしていたのか全く知らなかったと言い張り、こちらも釈放された。

2人は口を揃えてジョンにそそのかされたと言い、結局ジョン1人が有罪となったのだ。1829年1月28日、ジョンは公開で処刑され、この時には多数の見物人が訪れた。この時代、処刑は多くの見物人の前で行うのはよくあることだった。

生き延びたウイリアムの方は、それからしばらくしてホテルもつぶれてロンドンで乞食となり、そのまま死亡した。

死体をよく買い取ってくれていたノックス教授は罪に問われることはなかったが、事件が公になり、大学側や生徒たちからも異様な目で見られて嫌がらせにもあい、居心地が悪くなって大学を退職することとなった。

処刑されたジョンの死体はエジンバラ大学の医学部に寄贈された。皮肉にもジョンがかつて死体を売っていたところへ自分自身が送られたのだ。

ジョンの死体はモンローという医学博士が学生たちと一緒に解剖し、骸骨の標本が作られた。出来あがった標本には「ジョン・バーク 殺人者」というプレートがつけられて飾られた。


▼当時の墓場でありがちだった出来事

ウイリアムとジョンに限らず、この時代には死体泥棒が多く発生していた。特に17世紀から19世紀の間はその全盛期で、医学関係者が高値で買ってくれるために商売として成り立ち、死体の盗掘団も発生したほどだった。

新しく死体を埋葬する際には死体が盗まれないように、遺族が交代でしばらくの間、墓を見張ったりすることもよくあったようである。

また、「売る」という目的以外にも墓を掘り起こす者もいた。死体に性欲をかきたてられる男たちである。

若い女の新しい死体が埋められたことを知ると、そういった男たちは深夜墓を掘り起こし、死体を全裸にして自分も裸になり、墓場でSEXを始める。

何回かイッて満足すれば引き上げるのだが、また元通りに埋葬して帰ればまだマナーのいい方で、死体をそのまま放置して帰ったり、中には自宅に持ち帰る者もいた。


また、これは死体の盗難のことではないが、当時は死の判定があやふやだったために、まだ生きているのに死んだと思われて棺(ひつぎ)に入れられて埋められた人たちも多くいた。

棺の中で意識が戻り、そのまま死を待つだけの状態となるのは相当な恐怖である。

昔は「死体がよみがえって街をさまよい、人の生き血を吸う」という吸血鬼伝説が信じられていたので、時々埋葬後に何年か経って墓を掘り起こし、死体の状態を確認する習慣のある地方もあった。

この時、死体が白骨化していれば、もう身体がなくなっているわけだから、この死体が吸血鬼となることはない。逆に何年も経っているのに腐敗していなければ、吸血鬼となっているとみなされ、心臓に杭(くい)を刺すなどの吸血鬼退治が行われた。

その死体の確認作業をする際に棺を開けると、フタの裏にかなり引っかいたような跡があったり、死体の体勢が乱れている場合がある。そういった場合は棺の中で息を吹き返し、苦しんだあげくそのまま死亡した可能性が高い。

そういった事態を極力避けるために、死体が腐り始めるまで埋葬を遅らせたり、万が一棺の中で生き返った場合でも、もう一度死ねるように、毒を一緒に入れて埋葬したりする地域もあった。



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