▼世界に広まったゾンビ像



アメリカのジョージ・A・ロメロ監督のホラー映画「ゾンビ」によって、ゾンビという言葉は広く世界中に知れ渡ることとなった。

「ゾンビとは、よみがえった死体であり、人間の肉を好み、人間を襲う。ゾンビに噛みつかれた人間もゾンビとなって、人間を襲うようになる。体は腐っており、疲れを知らず、いつまでも人間を追いかけてくる。」

「ゾンビ」の映画以降に作られた映画や、ゲームに登場するゾンビによって、世間一般では「ゾンビ」に対してこういったイメージが定着した。

そして今ではゾンビは世界中で愛される超有名モンスターにまで成長した。だが映像で見られるゾンビは、映画によって脚色されたものであり、本物のゾンビは人間を襲ったり、増殖したりするようなことはない。



ドラキュラに実在のモデルが存在したように、ゾンビにもまた、発想のベースとなった本物のゾンビが存在する。

その本物のゾンビも、やはり死体がよみがえって動き出すというという点では映画と共通しているのだが、問題は、その「本物のゾンビ」も、本当に死体がよみがえったものなのかどうかという点である。

この点は推測ながらも解明されており、正確には死者ではなく、「仮死状態にある者」である。

仮死状態になっている者を、あえて精神を破壊した状態でよみがえらせ、自分の意思を持たない、言いなりに動く奴隷として作成されたものが本来のゾンビの姿なのある。



一口に仮死状態と言っても抽象的で分かりにくいが、

「意識もなく、呼吸や心臓が停止している、あるいは極端に機能が落ちているために外見上ではそれが確認出来ず、完全に死亡しているように見えるが、実際には生きており、適切な処置により蘇生する可能性のある状態」

のことを指す。

感電した場合や水におぼれた時、凍死寸前の時などにこうした状態になる場合があるらしい。

この状態の時に「適切なる処置」をすれば、蘇生する可能性があり、ゾンビ製作の手順は、ターゲットを仮死状態にするところから始まる。

▼ゾンビの制作

もともとゾンビの原点は、ハイチ共和国で生まれた宗教・ブードゥ教にあるとされている。

ブードゥ教といえば、呪術によって、呪いの針を相手の体の中に埋め込むという秘術で有名な宗教で、実際、呪いをかけられて針を取り出す手術を受けた人は数百人に昇るという。

ブードゥ教が紹介される時、この点が大きくクローズアップされて紹介されることが多いが、ブードゥ教自体、決してオカルトテイックな秘密の宗教ではなく、全世界でブードゥー教および、その類似宗教を信仰している者は、五千万人とも八千万人とも言われている巨大な宗教である。

ただ、宗教法人として認可された教団はなく、組織だって布教活動を行っているというわけでもなく、全世界の信者を束ねる組織もないので、世界に広まった民間信仰という言い方が正しい。



このブードゥ教の中に呪術者と呼ばれる者たちが存在しており、ゾンビ作成は、この呪術者が行っている。

作成に当たり、呪術者はゾンビパウダーと呼ばれる粉を使用する。

ゾンビパウダーとは、死体の骨をすりつぶした粉に、ヒキガエル、トカゲ、ボアグラテと呼ばれる豆などを加えて粉末にしたもので、これに一番肝心な成分であるフグ毒のテトロドトキシンを加える。(ハリセンボンの毒という説もある)この毒には呼吸中枢や心筋を止める働きがある。

このゾンビパウダーを、ターゲットとする者の体内に入れる。その方法は、「飲ませる」「傷口に塗る」「家の前にまいておく」「肌に塗る」など、諸説あるが、何らかの方法で、このゾンビパウダーを使ってターゲットを仮死状態におとし入れる。

ターゲットとされた者の家族は、本人が死んだものと思い込んで、埋葬する。その後、墓の付近に人がいなくなったのを見計らって棺を掘り出し、呪術者が解毒剤を与える。日本のように火葬の国では無理だが、土葬の習慣のある国なら可能である。



よみがえった死体は毒の効力と、仮死状態における脳の酸欠状態で脳に損傷を負っており、自発的意思のない、いいなりに動く、ある意味精神障害者となって復活する。

ゾンビパウダー以外にも、チョウセンアサガオやセイヨウハシリドコロから抽出されたエキスを使って昏睡状態や記憶喪失を誘発させる場合もあるという。

仮死状態におとし入れるために、最初に与える毒が過剰であればそのまま死亡するし、少なければ、頭が正常な状態で復活してしまう。

そのあたりの技術が、果たして医学的な根拠に基づいているものなのか、ブードゥ教の秘術なのかは定かではないが、言いなりの人間を作れるのだとしたら、これは秘術の部類に入るのかも知れない。ゾンビに関して研究をしている学者でさえも、その秘術の部分は見せてもらえないという。

こうして作られたゾンビは、いわば奴隷のような状態であり、農園などに労働力として販売されたりする。ゾンビは売られた農園で、文句も言うこともなく、給料をもらうこともなく黙々と肉体労働に励む。

映画のように疲れを知らないということはない。人間だから疲れる。あまりに過酷な環境で酷使されると過労死する。こうしてゾンビは、その一生を、今度こそ本当に終える。

元々、昔のハイチの特定の地域では、人間をゾンビ化することは、犯罪者に対する刑罰として行われていたのだという。

犯罪者の精神を壊し、死ぬまで働かせるのだ。

確かに現代のように、刑務所に入っている犯罪者を国民の税金で養うよりも、労働力として使い、給料も払わず、死ぬまで働かせて使い捨てにする方が効率的な使い方と言えなくもないが、果たしてこういった刑罰が人権的にどうかという気はするが。



死刑にされることも恐ろしいが、ゾンビにされて家族や友達の記憶も全て失い、自分が自分ではなくなるということも恐ろしい。人々はゾンビされないよう、法を守り、秩序ある社会を形成していた。

また、この地では、家族に死者が出た時、勝手にゾンビにされないように、死体が腐り始めるまで見張っていたり、死体の首を切り落としたり、死体を切り刻んで埋葬したりする家族もいた。

▼死んだ人間が数年後に現れた。

死んだ人間が何年も経って姿を現すという事例は世界中で報告されており、その多くは「結局よく似た他人だった」というパターンが多いが、中には本当に

「実は葬儀の後、しばらく経って生き返っていたのだ。」

という場合もある。

また、以前2ちゃんねるで

「去年ガンで死んだ親父が、さっき帰って来て、今、台所でメシ作ってるんですが、どうしたらいいでんしょうか。」

といった書き込みがあったが、これが本当ならばこちらは心霊現象の部類に入る。

このファイルのテーマであるゾンビに関する話としては、植物学者のウェイド・デイビス博士が自分の著書である「蛇と虹」で、こういった話を紹介している。

1980年、ハイチの小さな村エステレに、一人の男が現れた。彼の名はクレルヴィル・ナルシス。この村で、18年前の1962年5月に41歳で死亡した男だった。

当時の彼を知っていた村人たちは大騒ぎとなった。あの時、2人の医師から死亡宣告を受けて埋葬されたはずの男がいきなり姿を現したのだから。

よく似た他人ではないかと本人に色々聞いてみると、当時の思い出を詳しく語り始め、間違いなく本人だということが確認された。

ナルシスの話によれば、自分はあの当時、弟と、土地の相続を巡ってトラブルになっており、弟と呪術師の陰謀によって死んだように見せかけられてゾンビにされたのだと言う。

その後2年間ほどハイチの奥地の農場で、奴隷として働かされていたが、自分が何をしているのか分からなかった。

ある日農場の現場監督と呪術師がケンカとなり、激しく争っている間にドサクサにまぎれてナルシスは農場から逃げ出した。

行くあても記憶もなかったが、何とか救貧院に保護してもらい、そこで十数年間を過ごした。そしてついに生まれ故郷であるエステレ村と、これまでの全てを思い出したのだ。だが、弟と呪術師を恐れていた彼はすぐには村に戻らず、救貧院でじっと時を待っていた。

風の頼りに弟も呪術師も、すでに死んでいるという話を聞き、18年ぶりに故郷へ戻って来たのだと言う。

基本的に一度ゾンビになった者は、もう二度と普通の人間には戻れないらしいが、彼の場合、幸運にも症状の軽いゾンビだったようで、再び人間として復帰することが出来たのだ。

また、これはデイビス博士紹介の話ではないが、同じく1980年、エリナイという村をふらふらと歩いていた一人の女性が保護されたことがあった。
名前はフランシーヌと言うので調べてみると、この4年前、彼女は18歳の時に死亡していることが分かった。

この時は医師からも死亡宣告を受け、死体も埋葬されていた。この4年間に何があったのかは不明らしいが、彼女もまたゾンビ化された可能性が高い女性だった。

▼全て自分と同じ死体

ここから先はゾンビとは全く関係がないが、死体つながりで掲載してみた。「よく似た他人」のお話。

イギリスに住んでいた一人の男・スティーブンは、ある日趣味であるバードウォッチングに泊まりで出かけていた。ホテルに着いて、何となく友人の一人に電話すると、電話に出た友人が

「お前、生きてたのかー!」

と、意味不明なことを言う。

友人の話を聞けば、スコットランドのケアンゴーム山でスティーブンの死体が発見されたと連絡を受けたというのだ。

その死体は登山者のもので、身元が分かるものは何も持っていなかったが、たまたま顔の分かる人がいたのか、これはスティーブンの死体に間違いないということでスティーブンの両親にも連絡がいき、両親も確認に行ったが、やはり

「うちの息子に間違いありません。」

と証言し、スティーブンの死体と断定されたという。一緒に確認に行った義理の弟もスティーブンだと認めていた。

「今、この辺りではお前、死んだことになってるぞ。」

と友人に教えてもらい、彼もその死体を見に急遽(きゅうきょ)保管場所に駆けつけることにした。

我が子が死んだと思い込んでいた両親は大喜びし、無事再会を果たした後、死体を見せてもらった。

その死体は、スティーブンと顔がそっくりなのはもちろんのこと、体型もそっくりで、更に、着ていた防寒着もスティーブンが着ていたものと同じもので、セーターも同じもの、下着も同じもの、腕時計も同じものだった。

気持ちが悪いくらい何もかもそっくりで、みんなスティーブンと同じものを身に着けていた。

世の中に自分とそっくりの人が3人はいると言われるが、そのうちの1人だったのだろうが、服まで同じというのは珍しいパターンだった。結局この死体の身元は分からないままだったそうである。


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