Top Page  心霊現象の小部屋  No.68  No.66


No.67 ホテルマンの仕返し

「もしもし、フロントですか?302号室に泊まってる藤田という者ですが、風呂の蛇口のお湯の方をひねっても、お湯が出ないんだけど。水しか出ないんだけど、どうなってんだよ。」
出張でこのホテルに泊まっていた藤田雄二さんは、風呂のお湯が出ないことに頭に来てフロントに電話をかけた。「は・・さようでございますか・・。誠に申し訳ありません。すぐに係の者を行かせますので・・。」


フロントからの返事が終わって数分後、一人のホテルマンが藤田さんの部屋にやって来た。名札には野呂見(のろみ)と書いてある。
「あのぅ・・。お湯が出ないということでお伺いいたしました。どうもすいません。」
「どうなってんだよ、あんたんとこは!」

昼間、仕事で頭にくることがあってイライラしていた藤田さんは激しい口調でホテルマンにつっかかった。

「すいません・・、すぐに見てみますので・・。」
何かいかにも鈍(にぶ)そうなというか、どんくさそうなホテルマンだった。蛇口のあたりをあれこれいじりまわしているが、いっこうに進展がない。

「こんなんで金取る気かよ!」「お前がホテル代払え!」
「す、すいません、すいません・・。」
さんざんまくしたてていると、突然シャワーから水が噴き出した。
「うわっ冷たい!」ホテルマンはずぶ濡れになってしまった。

「もういいから部屋を代えてくれ。」と藤田さんは言い、結局別の部屋を用意してもらうことで解決した。


そしてそれから一年が経った。藤田さんはまた出張に出ることになった。場所は一年前と同じ場所。ホテルも会社指定なので一年前と同じホテルだ。

あの時のことが藤田さんの頭をよぎる。「去年泊まった時は、昼間に頭に来ることがあったので、あのホテルマンにやつ当たりして悪いことを言ってしまった。あいつはまだいるだろうか・・?名前は確か野呂見(のろみ)と言ったな。ノロそうだったから野呂見(のろみ)で、よく覚えてる。もし顔を合わすようなことがあったら一言謝っておこう。」

そう思いながら藤田さんはチェックインした。荷物を部屋に置いて、ちょっとホテル内を歩き回ってみたが、野呂見の姿は見えない。「辞めたのかな?」そう思いながら夜も遅くなったので藤田さんはベッドに入ってそのまま眠ってしまった。


「ピピピピピピ!」突然枕元の電話が鳴った。モーニングコールだ。6時にセットしておいたはずだ。
「うわっ、もう6時かよ・・。」寝ぼけながら藤田さんは電話の受話器をあげた。「は〜い・・。」

「あ、あの、あの、モーニングコールはこれでよろしかったでしょうか・・?」
電話から何か聞き覚えのある声がする。

時計を見るとまだ夜の3時。そしてその声は、あの独特のスローモーな喋り方・・野呂見だ。
「あんた、野呂見さんか!」と言うと、その瞬間電話は切れてしまった。


間違いない、奴だ。今日俺がこのホテルに泊まってることを知って去年の仕返しに嫌がらせの電話をかけてきたのだ。「会ったら謝ろうか」という気持ちは吹っ飛んでしまった。すぐにフロントに電話をかけた。

「野呂見って社員がいるだろう。あいつをすぐこの部屋に来させてくれ!」
「は・・?野呂見は今はここにはおりませんが・・。退職したというか、何と言うか・・。」

「嘘をつくな!さっきその野呂見から電話があったんだよ!すぐ来るように言ってくれ!」怒ったように受話器をガチャンと置いた。すると間髪入れず再び電話が鳴る。
「もしもし、藤田ですが。」

「あ、あの、あの・・、すいません、すいません。」
「あんた野呂見さんだろ!いやがらせかよ、これは!」
そう言った瞬間、またもや電話は切れてしまった。


「まったく・・。執念深いというか、暗いというか・・。」などと思っていると、今度はバスルームの方から突然「シャーッ」という音が聞こえてきた。風呂場のシャワーがいきなり水を噴き始めたようだ。

今度は野呂見が合い鍵を使って、部屋の中に入っていやがらせをしている!頭に来て藤田さんはすぐに風呂場のドアを開けた。
「野呂見さんよ!」

怒りながらドアを開けると、そこには、風呂の上のカーテンレールからヒモをぶら下げ、首を吊(つ)っている野呂見の姿があった。舌を出し、両目は完全に白目になっている。シャワーは野呂見の身体にかかり、服はびしょ濡れになっている。

「つ・・冷たい。冷たい・・。す、すいません・・すいません・・。」
首を吊っている野呂見がかすかに喋った。

「うわあぁぁぁっ!」

腰が抜けたような状態とはこういうことをいうのだろうか。下半身の力が一気に抜け、逃げようにも足がまともに動かない。それでも必死になってこの部屋から逃げようとする際、藤田さんは転んで壁で頭を打ち、そのまま気を失ってしまった。


目を覚ますと外は明るくなっていた。
「昨日のはいったい・・?確か野呂見が電話をかけてきたり、風呂場で首を吊(つ)っていたりしていたような・・?あれは夢だったんだろうか?」

そう思っていると部屋の電話が鳴った。出てみるとフロントからだった。
「おはようございます。藤田様でしょうか?昨日は何かうちの方で失礼があったようで・・。」

やはり俺は昨日、フロントに電話をかけている。ではあれは夢ではなかったのか。


悩んでいると、ドアの下の隙間から新聞が差し込まれてきた。拾い上げて開いてみると、それは十ヶ月前の新聞だった。その中の小さな記事にすぐに目がいった。
「ホテルマン自殺 職場のホテルで首を吊る」

新聞には野呂見の写真が載っていた。職場の人間関係や仕事上のミスなどで悩んでいたらしい。どう見ても仕事が出来そうなタイプには見えなかったから、やはりそれ相応の悩みがあったのだろう。


恐ろしくなった藤田さんは、すぐに荷物をまとめ、早々に部屋を出た。廊下に出て通路を歩き、曲がり角まで来た時、もう一回、振り向いて今、自分がいた部屋を振り返ってみた。

するとその瞬間、今、藤田さんが出てきたばかりの部屋のドアが内側からガチャリと開いたのだ。もちろん、中には誰もいないはずなのに・・。

部屋の中から出てきたのは野呂見だった。

野呂見は廊下に出ると、足元からだんだん透明になり、そのまま頭まで消滅した。