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No.97 殺人犯から私を守ってくれた女性の霊

今田美紀さんは、石油会社に勤める父の都合で幼い頃から海外を転々とする生活をしていた。イラク・ベネズエラ・サウジアラビアとまわり、アメリカのテキサス州に住んでいた時に高校時代を過ごし、そのままこの土地でアメリカの大学へと入学した。

大学生といっても、お父さんの仕事の都合でアメリカに引っ越して来たわけだから学生の一人暮らしというわけにはいかず、美紀さんは両親と共に、あるマンションに住んでいた。

美紀さんは、大学生になってアルバイトを始めた。ある日の夜、美紀さんはその日のバイトを終え、マンションに帰って来てエレベーターに乗った。自宅のある12階のボタンを押す。

ドアが閉まる直前に、妙に冷たい風が一瞬エレベーターの中に吹き込んだ。

「うわっ、今日はちょっと寒い。」


そう思いながら、エレベーターの階数の表示を見ていると8階でポーンと音がして、エレベーターが止まった。誰かが8階でボタンを押していたようだ。エレベーターのドアが開くと、そこには白人の男性が1人立っていた。

エレベーターの中は美紀さん1人だったが、立っていた白人の男性はこれまでに何回か見たことのある男性で、ここの住人ということは知っていたので、別に一緒に乗ってこられても怖いということはなかったが、一応、

「上に行きますよ。」と声をかけた。

だが男は、「あぁ、はい。」

と返事をして、エレベーターに乗り込もうとした。しかし次の瞬間、男は

「うわあっ!」

と悲鳴を上げ、何歩か後ずさりしたかと思うと、そのまま背中を向けて走って逃げて行った。



「何、あれ?」

美紀さんには男の行動が理解出来なかった。エレベーターの中にいたのは美紀さんだけだったので、逃げ出した原因が美紀さんであることは間違いないのだが、意味が分からない。

「失礼な奴ね。」

そう思いながら、自宅の部屋のドアを開けた。

「ただいまー。」と言って家に上がろうとすると父親が

「え? あ・・、おぉ・・、美紀か。一瞬、知らない女の人が入ってきたのかと思ってびっくりしたが、よく見たら美紀じゃないか、お帰り。」

と、ここでも何か妙な発言をされた。

「さっきの男といい、お父さんといい・・、化粧が崩れたのかしら?」

ひょっとしてひどい顔になっているんじゃないかとちょっと不安になって鏡を見てみたが、いつもの自分の顔である。

美紀さんも妙な感じはしたが、別に大したことでもないので、あまり気に留めることもなく、そのまま普段通りの時間を過ごして寝てしまった。



それから数日後、美紀さんが大学からマンションに帰って来ると、マンションの前にパトカーが停まっていた。

「何かあったのかしら?」

そう思いながらマンションのエレベーターに乗ろうとしてボタンを押した。エレベーターが上から降りて来てドアが開くと、そこにはこの間の白人の男と警官が4人乗っていた。何だかこの白人の男が捕まったような感じだった。

「あ、この間の人!あの人、何かの犯人だったのかしら。」

美紀さんはつい男の顔を見た。その瞬間、男と目が合ってしまった。すると男はまた「うわぁっ!」と悲鳴を上げ、突然暴れ出した。

暴れるといっても、逃げ出そうとするような暴れ方ではなく、何か警官の後ろにまわりたがっているような暴れ方だった。前回同様、いかにも美紀さんを恐れているような感じだ。

「何回も失礼な奴!」

そう思いながら、美紀さんは怒った顔で男をにらんでやった。すると男はまた更に暴れ出した。警官たちが男を押さえつけてパトカーに突っ込むまで、その男は何度も美紀さんの方を振り返っては悲鳴のような声を上げていた。



美紀さんが家に帰ってドアを開けると、母親が真剣な顔をして駆けよって来た。

「さっき、びっくりするようなことがあったのよ。このマンションに住んでいる男が、強姦殺人の容疑で捕まったんですって。怖いわね、すぐ近くにあんな人がいるなんて。あなたも十分気をつけなさいよ。」

興奮してしゃべる母親の話を聞きながら、美紀さんは靴を脱いで家の中へ入った。

「さっき、エレベーターが開いた時、警官たちと一緒に乗っていたあの男が、強姦殺人の犯人だった・・? 

何日か前、私が乗っているエレベーターに乗ろうとして、何にびっくりしたのか知らないけど、あの時悲鳴を上げて逃げていったあの男・・。

もし、あの時一緒に乗って来られていたら、私もやられてたかも知れない。」


そう思うとゾッとした。



そしてその翌日、美紀さんが学校から帰ると、またもや母親が真剣な顔をして駆けよって来た。

「今日、警察から連絡があって、あなたを警察まで連れて来てくれって言われたのよ。美紀、何か警察に呼ばれるようなことしたの?」

「そんなことするわけないじゃない。何で私が警察に呼ばれるのか、全然分からないわ。」

不審に思いながらも、美紀さんは母親と一緒に警察署へと出向いた。警察署に着いて用件を告げると、担当の刑事さんらしき人が出て来た。

「あの殺人犯が変なことを言うんですよ。

『俺が殺したのは、俺がマンションから連行されてる時に、1階でエレベーターを待っていた、あの女だ。殺したはずの女が、エレベーターのドアが開いたら目の前に立っていやがったんでびっくりしたんだ。

あの女は、数日前、俺が8階からエレベーターに乗ろうとした時も、エレベーターの中にいやがった。

たびたび俺の目の前に現れるんで、怖くなって自首する気になったんだ。それで電話してマンションまで警察に来てもらったんだ。』

と。

あの時、1階でエレベーターを待っていたのはあなたでしたよね。

それでちょっとお願いがあるのですが、マジックミラーごしに犯人と合ってほしいんですよ。あの犯人も、意味不明のことを言っているんですが、あなたを見れば、また新たな供述が聞けるかもしれません。」



美紀さんは、言われた部屋へと入り、マジックミラーの前に立った。美紀さんからは犯人の姿は見えないが、犯人からは美紀さんが見える。

「はい、結構です、ありがとう。」
「あ・・、はい。もういいんですか。」

美紀さんは部屋から出て、刑事さんに
「どうでした?犯人は何か言ってましたか?」と尋ねた。

「ええ、更に変なことを言い出したんですよ。左側のあの女だ、と言うんですよ。部屋にはあなた一人しかいなかったのにね。」

犯人は精神鑑定を受けることになったと、後日、この刑事さんから聞かされた。



また、犯人逮捕の翌日、被害者の写真が新聞に掲載されたのだが、その写真を見て美紀さんの父親が

「あ、この女の人だ! いつか、美紀が帰って来た時に

『一瞬、知らない女の人が入ってきたのかと思った』って言ったことがあったけど、この女の人だよ、あの時入ってきたのは。

おや?と思ってよく見たら、いつもの美紀の顔になってたんで、単なる見間違いだと思ってたんだが・・。

だが、美紀のこれまでの話を聞くと、被害者の霊が本当にいたのかも知れないな。」


美紀さんがあの日、エレベーターに乗った時、冷たい風が吹き込んだように感じたのは、被害者の霊が一緒に乗り込んで来た瞬間だったのではないだろうか。

美紀さんも、ずっと自分の背後に被害者の霊がいたというのもゾッとしたが、もし、彼女がいなかったらあの時、自分も襲われていたかも知れない。そう思うと、被害者の女性は、美紀さんの後ろに立っていることで、美紀さんを守ってくれていたことになる。

おそらくそうだろうと解釈し、美紀さんは被害者の女性の冥福を祈り、心の中で感謝の言葉を述べた。