TheLastBreath「Introduction」

TheLastBreath「Introduction」
 
 何時もの朝が始まる。
 俺の場合大抵ベッドの上からシーツなんて蹴り捨ててあって、パンツ一枚の姿で枕を握りしめた状態から身体の感覚が目覚める。ボサボサの髪はシャワーを浴びねば癖が消えないだろう。伸びちまったヒゲも剃らねばならない。
 寝惚けた脳裏に夢見の光景がフラッシュバックする。
 何時頃の夢だろうか。駅のプラットホーム、俺は小さなガキで、目の前には俺より更に背丈の低い女の子が立っている。
 だが彼女が誰なのかは覚えが無い。ただ、既知のようで、初めて見るような曖昧な印象がある。
 白いガウンを着たその子は、親であろう人影から列車に乗るよう手招きされながらも、酷く泣きそうな顔で列車から視線を背けている。
 俺が何か言おうとすると、少女は向こうから近寄ってくるなり手にしていた切符をこっそり俺の手に握らせた。
 そしてそのまま振り切るように列車とは正反対の方向に走り去る。
 列車が消え、人影が消え、少女も消える。
 真っ白な空間に投げ出された俺の手には、スタンプの押されたしわくちゃの切符だけが残った。
 ──また、この夢だ。
 夢の内容なんて何度も見ればいくつかは覚えているものだが、最近特にこの夢を思い出す事が顕著になった。俺はその少女に気でもあるのか。誰だかすら覚えてもないクセに、何か思い残す事でもあったのか。
 ──悩むだけ、下らないか。
 頓挫した疑問符を投げ捨てて天井を仰いだ。
 漸くエンジンのかかった頭が、有無を言わず寝室を出ろと命令を下す。
 キッチンに着いたら焼いておいたトーストにジャムを塗りたくり、そのまま惰性で朝早いニュース番組に目を凝らす。窓の外には太陽が既に顔を覗かせていて、つまらない古ビルとごちゃごちゃした繁華街が唯一の浄化の時を迎えている。
 床には無造作に脱ぎ捨てた背広と、散らばった文房具に身分を明かす手帳。一張羅の癖にアイロンなんて勿論かかってないから、出掛ける前に少し整えておかねばなるまい。
 
 これが俺の何時もの朝だ。
 これから先もきっと、生きている限りこの在り来たりな時間は繰り返されるのだろう。
 
 そう思うと、面白くないなと考える反面、逆に安堵も覚えたりしてしまうのだ。
 

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