5月になりました。

 小学校に入学して1ヶ月、ナナは小学校が大好きになっていました。
友達も大好き、先生も大好き、給食も大好き。飼育小屋にいる白いくじゃくのハクも、大きな羽根のサクラも大好き。

 通学路にいるメイちゃんも大好き。

  運動場のブランコも、裏山のすべりだいも大好き。

 そして、運動場のかたすみにある「ふねこうえん」、ナナのお気に入りです。
大きな船に、すべりだいやジャングルジム、のぼりロープと、いろんなあそびがつまっているのです。

「ただいまー。ママ、おやつー。」
きょうもナナは元気いっぱい、学校から帰ってきます。そして、おやつを食べてから、また元気いっぱい、
「ふねこうえんに行ってきまーす。」

 もちろん、着がえたシャツのむねには、椿の花のバッジ。ナナのお気に入りです。このバッジをつけていると、たくさんの友達に会えるような気がするのです。

 ある朝。

「おはよう。」 「おはよう。」 「おはよう。」
 きょうもナナは、お友達やメイちゃんにあいさつしながら学校に到着。
くつばこで、ふと、ひとりの男の子に気がつきました。
 4年生ぐらいかな、すぐそばの『おとしものコーナー』をじっとのぞきこんでいます。

「そういえば、きのうもいたよなあ、あのおにいちゃん。」




 次の朝。
きょうもあの男の子が『おとしものコーナー』の中を見つめています。

「おにいちゃん、何か落としたの?」
ナナは、思い切って聞いてみました。男の子はちょっとびっくりしたようにふりむくと、
「ああ、ちょっとな。」
そう言うと、走って行ってしまいました。


 その次の朝。
やっぱりきょうも来ています。

「おはよう、おにいちゃん。やっぱり何かおとしたんでしょ。ナナもいっしょにさがしてあげようか。」

「ああ、ありがとう。でもな、もう見つかったんだ。ほら、ここにある。」
男の子は、『おとしものコーナー』のガラスケースの中をゆびさしました。

 そして、ちょっとまよってから話し始めました。

「実はさ、だれにも言うなよ。あれは、オレの父さんの時計なんだ。」
 指をさしているそこには、キラキラ光る大きな時計があります。文字ばんの中に小さな文字ばんが3つもあって、ボタンも3つついています。

「すごくかっこいいだろ、な?」
「うん、すごくかっこいい、すごくかっこいい。」
ナナもうなずきました。

「で、友達にも見せたくなってさ、父さんにないしょで引き出しのおくから出して、こっそり学校に持ってきたんだ。」
「うん、うん。」
ナナもまた、うなずきます。

「だれかがひろって、とどけてくれたんだね。よかった、よかった。」
「うん、よかった。」
「じゃあ、先生に言って早く返してもらえばいいのに。」
「それだよ、それで困ってるんだ。」
「どうして?」

「だって、学校に時計は持ってきちゃいけないんだぞ。先生に言ったら、オレが持ってきたってバレちゃうじゃないか。」
男の子は、深いためいきをつきました。

「えっ、時計って持ってきちゃいけないの?」
「うん。おまえは1年生になったばかりだから知らないかもしれないけどな、学校には学校で使うものしか持ってきちゃいけないんだ。
教科書とかえんぴつとか体操服とか図工で使うあきばことかさ。」

「ふぅん、そうなんだ。」

「そういうわけで、オレは毎朝ここに来て、きょうも時計があるかどうかたしかめてるんだ。
 いいか、ぜったいぜったいだれにも言うなよ。」

そう言うと、男の子は走って行ってしまいました。

「まったくもう、ややこしいなあ。正直に言ってしまえばいいのに・・・。」
そのうしろすがたに、ナナはつぶやきました。


 そのまた次の朝。
あの男の子が『おとしものコーナー』の前で、なんだかとってもあわてています。

「ない、ない、時計がない。」

 そこへ、ナナが走ってやってきました。
「おにいちゃん、はい、どうぞ。」
さしだしたナナの手のひらには、あの時計が。

「おまえ、これどうしたんだ?」
「いま、先生に言ってかえしてもらってきた。
『ナナ、1年生だから、時計を持ってきちゃいけないって知りませんでした、ごめんなさい。』って言ったら返してくれたよ。」

 男の子は、目を丸くしてナナを見ました。そして、ニヤッとわらって言いました。
「おまえ、すごいな。」
「ううん、本当のことを言っただけだよ。」
ナナもニヤッとわらいました。

「ありがとうな。オレ、5年3組のカミノだ。よろしくな。」
「わたしは、1年1組、ナナ。よろしくね、カミノ。」
「おい、よびすてはやめろよな。『カミノくん』だろ。」

 こうして、ふたりは友達になりました。ふたりはいつもふねこうえんであそびました。
カミノはナナの知らない小学校のことをいろいろおしえてくれました。


 ナナとカミノには、ちょっと気になる男の子がいました。6年生ぐらいかな、カミノより背が高くて、そして、きのうも、きょうも、、ふねこうえんで何かをさがしています。

「おーい、何さがしてんだー?」
「いっしょにあそぼうよー。」
ふねこうえんのマストのてっぺんから、ふたりは声をかけてみました。

 

 ふりむいたその子は、こまったように言いました。
「うーん、いま、あそべないんだ。さがしものがあるんだ。」
ナナとカミノが聞きます。
「何さがしてるんだ?オレたちもいっしょにさがしてやるよ。」
「うん、いっしょにさがそう。」

 ナナとカミノは、するするとマストをおりました。その子はにっこりわらってふたりに近づいてきて、そして、ゆっくりと話しはじめました。


「ぼくのうちはきびしくてね、ひとりで自由にあそびに行ったりできないんだ。見つかるとたいへん、しばらくは、みはりの者が、ぼくにぴったりくっついてみはってるんだ。
 それでも、ぼくはときどき、こっそりうちをぬけだしてあそびに行くんだよ。
 で、またこっそりうちにもどるんだ。」

「ふーん、たいへんだなあ。」
カミノが言いました。

「このまえも、いつものとおりうちをぬけだして、ちょっと遠くの船の中であそんでたんだ。ぼくは船が大好きなんだ。
 でも、外で声がしてね、見つかりそうになったから、あわてて船から出てうちにもどったんだ。だれにも見つからなかった。」

「よかった、よかった。」
ナナも言いました。

「いや、それが、よくなかったんだ。わすれものをした。」

「わすれもの?」
ナナとカミノが同時に聞きました。

「うん、わすれもの。父さんの時計。」

「えっまた時計?」
ナナはおもわず、カミノの顔をみました。

「うん、父さんの大切にしている時計。キラキラしてて細いくさりがついてて、すごくきれいなんだ。
 いつもはおくの部屋にしまってて、めったにみせてもらえない。
 で、もっとよく見たい、さわってみたいって思って、うちをぬけだすときこっそり持って出たんだ。」

「まったく、もう。」
ナナは、ちらっとカミノの方を見ました。
 その子の話はつづきます。

「でも、見つかりそうになったとき、あわてて時計をかくしてにげたんだ。
 見つかったときに時計を持ってるってわかったら、いつもの100倍もおこられて、みはりの者ももっときびしくなって、もう2度と外にあそびに出られないって思ったんだ。
 時計はかくしておいて、あとで取りにもどろうって思ったんだけど・・・。」

「見つからないんだな。」
カミノが本当に悲しそうに言いました。

「まったくもう、ややこしいなあ。正直に言ってしまえばいいのに・・・。」
ナナも言いました。

「ああ、どうしよう。いろんな船をさがしたんだけど・・・。」
その子は今にも泣き出しそうです。

「そうかあ、つらいよなあ。だから船の近くをさがしてたんだなあ。
 でも、ここにはないよ。だって、ここでなくしたものは、小学校の『おとしものコーナー』にとどくんだ。」

きっぱりとそう言ってから、カミノがいきおいよく立ち上がりました。そして、その子の背中をポンとたたきました。

「オレたちがさがしてやるよ。やくそくする。まかせとけ。」
「うん、まかせとけだよ。」
ナナも言いました。

「オレはカミノ。」
「わたしはナナ。」

「ぼくはモトノリっていうんだ。」
3人は顔を見合わせてニカッとわらいました。
「よろしくね、モトちゃん。」
ナナはなんだかうれしくなりました。


「さあて・・・。」
カミノが口をひらきました。
「で、その時計、どこにかくしたんだ?」

「えーと・・・。」
モトちゃんは、目をつぶって思い出すように話します。
「屋根がついた石のたてものが4つあって、その中には船がうかんでるんだ。その中でもいちばん大きな船の中であそんでた。で、見つかりそうになってにげるとちゅうに、たてもののかべの穴にかくした。で、外にでた。」

「かべの穴?」
「どんなかべ?どんな穴?」

「大きな石をつみあげてつくったかべだよ。その石のひとつに、小さな穴が3つあいてたんだ、よこにきちんとならんでね。」
「めずらしいたてものだなあ。このへんにそんなのあったっけ?」
「だいじょうぶだよ。みんなでさがせば、きっと見つかるよ。」
「そうだな。まかせとけよ、モトちゃん。」


 その日からまいにち放課後、ナナとカミノとモトちゃんは、ふねこうえんに集合しました。それから、海や川に行って、船の近くのたてものをしらべます。
 でも、モトちゃんが言うような、屋根のついたたてものは見当たりません。

 さがしつかれたら、1つのアイスを3人で分けて食べます。

「ああ、見つからないなあ。次はどこを調べようか。」
カミノは、アイスをひとくち食べてからモトちゃんにわたしました。

「ぼく、地図持ってるんだけど・・・。」
モトちゃんは、アイスをぺろりとひとなめして、ポケットから地図を取り出しました。

「それを早く言えよなあ。」
ナナとカミノは、急いでその地図を広げて見てみました。

「この地図、ちょっとちがうみたい。」
アイスをなめながら、ナナが言いました。

「うーん、この町のかたち、にてるんだけどなあ。モトちゃん、この地図、ちょっと古いんじゃないの?」
カミノがそう言うと、
「そんなはずはないんだけど。新しい地図なんだけど・・・。」
と、モトちゃんの声が小さくなりました。

「ま、いいか。とにかく、暗くなる前にもう1ヶ所さがそうぜ。」
カミノは、てきぱきと地図をおりたたんでポケットに入れてから、アイスをモトちゃんにさしだしました。

「きちょうな、さいごのひとくちは、モトちゃんにやろう。元気出せよ、ほい。」
「ありがと、カミノ。」
モトちゃんは、本当にうれしそうに残りのアイスを食べました。
 そして、3人はまた、さがしはじめました。

 次の日も、その次の日も、3人はいっしょうけんめいモトちゃんの時計をさがして、船がある場所をさがしまわりました。


 そして10日がたったある日。
 その日、モトちゃんはふねこうえんに来ませんでした。ナナとカミノは、ふねこうえんのマストのてっぺんにのぼって、モトちゃんのことを考えます。

「モトちゃん、来ないね。」
「あいつ、時計持ち出したこと、父さんにバレちゃったかな。」
「すごくおこられて、で、外に出られないのかも。」
「オレたちだけでもさがそうぜ。さがしだして、今度あいつが来たときにわたしてやろうぜ。」
「うん、そうしようよ。」

「よし、さがしに行くか。」
カミノがするするとマストからおりました。ナナもあとを追いかけます。

「ねえ、次、どこをさがす?」
「うーん。もう、この町の海も川も、船があるところは全部さがしたしなあ。」
「そうだよね。えーっと、つぎは・・・。」

 そのとき、ナナに何かがひらめきました。
「そうだ、はくぶつかんだよ、カミノ。」
「はくぶつかん?」
「そう。まえに、ナナがこまって泣いてるときに、中学生のおねえちゃんが教えてくれたんだよ。『こまったときははくぶつかんだよ』って。」
「そうか、はくぶつかんか。何かわかるかもしれないな。よし、行ってみるか。」
ふたりは、走り出しました。


 はくぶつかんの中はしーんとしていて、ナナはいつもちょっとドキドキします。ナナとカミノは、展示されている家のもけいや船や写真や、そのほかのたくさんのものをしらべてまわりました。

そして。

「おい、ナナ。これ、これ見てみろよ。」
カミノが小さくさけびました。
 そこにあったのは、大きな石。そばにある写真には、石に四角い穴がきちんとならんであいているようすがうつっています。

黄色い上着を着たおじちゃんが近づいてきて、ふたりにやさしく説明してくれます。

「むかしはこうやって、大きな石に『くさび』を打って、四角く割っていたんだよ。そうして、その石は、橋を作ったり、くらを作ったり、お城を作ったりするのに使われたんだよ。」

「きっと、モトちゃんの船のたてものも、こんな石でできてるんだね。」
「うん、そうだな。で、こんなかんじの穴に時計をかくしたんだな。」
「早くさがしてあげなくちゃね。」
 ふたりは、出口へと急ぎました。


と、そのとき、ナナが急に立ち止まりました。

「どーした?ナナ。」
「カミノ、あれ見て。」
ナナのゆびさす方向には、テレビの画面のようなものがありました。そして、そこにうつっていたのは・・・。

 川に船がうかんでいて、その船はみんな屋根のついたたてものに入っています。
「ここだよ、きっと。」
「うん。ここだ、ぜったい。」
ふたりは、かけよって、くいいるように画面を見つめました。

 そこは、『浜崎』という町でした。


 浜崎にある『おふなぐら』、そのたてものは、むかし、川に面していました。岸につけた船をいれておく『くら』だったのです。
 今はうめたてられて、川からはずいぶん遠くにあります。もう、船もありません。むかしは4つあったたてものも、もう1つしか残っていません。

 はくぶつかんの画面は、まだ船があり川があったころの『おふなぐら』のようすを再現していました。

「よおし、浜崎だな。行ってみよう。」
 ふたりはまた、走り始めました。


 『おふなぐら』は、浜崎の、むかしのたてものか残るまちなみに、静かにたっていました。

「ここが川だったなんて、信じられない。」
「この中に、船がうかんでたなんてね。」

 ふたりは、さっそく中にはいろうとしました。
 でも、その入り口のとびらはぴたりと閉じて、びくともしません。

「うーん・・・。こまったぞ・・・。」


次の日。

 ナナとカミノがふねこうえんに行くと、モトちゃんはもう来ていました。カミノが口をひらきました。

「わかったよ、モトちゃん。キミが時計をかくした場所。浜崎っていう町のね、『おふなぐら』っていうところさ。
 屋根のある石のたてもの、たぶん、まちがいないと思う。
 でもね、もうそこには船はないんだ。ずいぶん昔にうめたてられててね。」

 それから、思いきってカミノがききました。
「モトちゃん、キミはどっからきたんだ?」

 モトちゃんはこまったような顔をしました。それから、少しわらったような気もしました。でも、どこか泣いているようにも見えました。

「浜崎の『おふなぐら』だね。ありがとう、キミたちに会えて本当によかった。
 とっても楽しかったよ。ナナ、カミノ、ありがとう。」

 そう言うと、モトちゃんはゆっくりとおじぎをしました。びっくりするくらいきれいな、おとなのひとのおじぎでした。
そして、くるりと背を向けると、走って行ってしまいました。


「あいつ、来ないよなあ。」
カミノがためいきをつきました。最後にモトちゃんと話してから1週間がすぎていました。
ナナとカミノは、毎日くらくなるまでふねこうえんで、モトちゃんを待っています。

「時計、見つかったのかなあ。」
ナナもマストの上によじのぼって、遠くを見つめます。
 でも、いくら待ってもモトちゃんは来ませんでした。


 そんなある日の朝。

 1年1組のナナの教室に、カミノがあわててかけこんで来ました。

「ナナ、大変だ。ニュースだ、ニュース。『おふなぐら』にはいれるぞ。とびらが開くぞ。」
「えっ?いつ?どうやって?」
ナナもあわてて聞きかえしました。

「こんどの日曜日、『浜崎おたからはくぶつかん』っていうおまつりがあるんだって。そのときだけ、1年に1回だけ、とびらが開くらしい。中にはいれるんだ。」
「えっ、じゃあ、モトちゃんの時計をさがせるの?」
「うん、さがせるさ。ぜったい、さがしてやる。やくそくだからな。」
「やったー、早くモトちゃんに知らせなきゃ。」

 でも、その日もモトちゃんは、ふねこうえんにあらわれませんでした。


 きょうは、『浜崎おたからはくぶつかん』の日。
そう、『おふなぐら』のとびらが開く日です。

 

 ナナとカミノが『おふなぐら』に着いたとき、もうそのとびらは開いていました。そうっとのぞきこむと、中はうすぐらくて、ひんやりとしています。
 ふたりは、ゆっくりとおくのほうへと進んで行きました。

 まわりのかべを注意深く見ながらもっと進んでいくと、左側のかべに小さな穴があいているのが見えました。よく見ると、きれいな四角い穴が3つ。

「これかもしれない、モトちゃんが言ってたのは。」
「時計、ある?」
「ううん、ないな。あ、ちょっと待って。今、なにか見えたような。」
「うん。なにか光ったよね。」

 ふたりは、その穴をじっと見つめました。すると、ぼんやりと、そしてだんだんはっきりと、時計のかたちがうかびあがってきました。

 小さなまるい時計。細い細いくさりがついていて、キラキラかがやきはじめました。

 カミノはその時計を、そっと手のひらにのせました。くさりがゆらゆらとゆれています。

「これだ。」
「モトちゃんの時計だ。」
ふたりは顔を見合わせました。


 そのときです。

 入り口からいきおいよく風が吹いてきました。その風にのり、モトちゃんの時計はカミノの手からするりとすべり、そして、そのままふわりとうかびました。
 そして、風にのってゆっくりゆっくり、波のようにゆれながら、また入り口のほうへうかんで行きます。

「あっ、まってー。」
ナナがあわてて追いかけようとしたとき、いつのまにかそこには、モトちゃんが立っていました。

モトちゃんの手には、しっかりと時計がにぎられていました。

「ありがとう、ナナ、カミノ。ぼくはぼくの時代に帰るよ。でも、また、ぜったいに会いに来るから。」
モトちゃんはわらっていました。

 カミノがさけびました。
「また、あそぼうな。」

「またいっしょに、アイス食べようね。」
ナナもさけびました。

「うん、ぜったいに会いに来る。ぼくたちはずっと友達だからね。」
そう言うと、モトちゃんのすがたは、そのままぼんやりときえていきます。そしてとうとう、見えなくなってしまいました。


 ナナとカミノは、しばらく動くことができませんでした。
 どのくらいたったでしょう。ふと気づくと、さっきまで時計をのせていたカミノの手のひらには、小さな椿の花のバッジがひとつ。

「あ、これ・・・。」

ナナは、じぶんのシャツについているバッジを見ました。

「おんなじだ・・・。」
「うん。それ、カミノのだよ、きっと。」

カミノも、じぶんのシャツにバッジをつけてみました。

「あいつ、本当は、ものすごく遠いところから来たんじゃないか?」
「うん。まだ、ここが川だったころから。」

「時計、父さんに返せたかなあ。バレておこられたりしてないかなあ。」
「だいじょうぶだよ、きっと。」
「うん、そうだな。」

 ナナとカミノは、もうしばらくモトちゃんには会えないような気がしていました。
「でも、会えるよね。いつか、どこかで。」
「うん、ぜったい会えると思う。なんだか、わかるんだ。」

 ふたりはそう言いながら、『おふなぐら』を出ました。外の世界はまぶしくて、なにもかもがキラキラとかがやいていました。

「なんだかいつもとちがって見えるよ。」
「うん。オレたちの町、けっこういいな。」

 そうして、ふたりは歩き始めました。

( 3.『ナナちゃんのカンツォネッタ』 につづく  )

©とびや

「時計をポケットに入れてたまま、ふねこうえんであそんでさ、それから友達に見せて、そのあとまたあそんで、裏山にも行ってさ。で、気がつくと、なくなってたんだ。
 いっしょうけんめいさがしたんだけど、どこにもなくてさ、父さんにも言えないし・・・。で、次の朝、ここにとどいてたんだ。」


ナナちゃんとふしぎなおともだち