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No.010 ある教師の苦悩の時代

ある高校で教師をしている一人の男がいた。これはその彼が新卒でその学校に配属された若かりし頃の話である。

まず彼が配属された、その高校は荒れていた。いわゆるツッパリという生徒がかなりおり、先生たちは完全にナメ切られていた。その中にあって、当然のごとく先生に成り立ての彼は先頭切ってナメられた。

彼の授業中はお菓子を食ったりゲームをしたりする生徒が当たり前のようにいて、その上生徒たちは自由に出入りをする。授業中だというのに、生徒が勝手に出たり入ったりするのだ。

また、彼が廊下を歩いていると、いきなり後ろからバケツで水をバッシャーンとかけられて、身体の後ろ半分がずぶ濡れになったこともあった。体育系クラブの生徒何人かに呼び出されて囲まれて怒鳴り散らされたこともあった。また、靴を隠されたり自家用車に落書きされたりしたこともあった。

こうした形でタダでさえストレスが溜まっているのに、それに加えて彼は教頭先生にずいぶんと使われているような存在だった。

「駅で登校前にタバコを吸ってる生徒がいるという情報があった!あんた、明日から駅で朝の6時から見張っていてくれ!」

なんて言われると、次の日から朝の5時ごろ起きて6時までに駅に出勤しなければならない。


また、仕事が終わって家でくつろいでいると、夜の11時ごろ、また電話が鳴る。またあの教頭からだ。


「○○公園で生徒がたむろしてタバコを吸ってるという情報があった!あんた、大至急その公園に行ってみてくれ!それから明日っからしばらくの間、毎日その公園を見張ってくれ!」

なんて言われると従わざるを得ない。


そういうわけで、朝は6時から駅で見張り、夜は11時過ぎまで公園で見張るという、かなりハードな生活が続いた時期もあった。


ところでその教頭は、歩き方とかしゃべり方にずいぶんと特徴があった。日ごろから教頭のことをあんまりよく思っていない彼は、ある日授業中に教頭のモノマネをしてみた。

「教頭ってこ〜んな歩き方するだろ! で、話に詰まったら『あ・・なんですか・・。』ってすぐ言うだろ!」なんてやると、これがまた生徒にかなりウケた。試しに違う授業でやってみたらこれまたウケた。

こうなったらやめられない。初めて燃えるものを見つけた。教頭のモノマネだ。彼は調子に乗りまくってレパートリーをどんどん増やしていき、芸の幅も広がっていった。だがこんなことをしょっちゅうやっていては本人の耳に入らないはずはない。

やっぱり教頭本人に伝わり、彼はソッコーで職員室に呼び出しをくらってさんざん怒られてしまった。
当然のごとく教頭のモノマネは禁止になってしまい、彼はまたストレスのみの生活に戻ることになってしまった。

学校の先生というと「飛び出せ青春」とか「金八先生」とか(二つともすごく古いけど)、爽やか・熱血というイメージがあるが、その実体は必ずしもそうではない。近年、教師の出勤拒否とかノイローゼの話も多く聞く。

社会的信用があり、休みも多い楽な仕事と言う人もいるが、現実は相当ハードな精神状態で職場に向かっている人も多くいるようである。みんなが楽してる仕事なんてないのかも知れない。