Top Page 文書館 No.045 No.043
タクシー運転手の経験談 ▼助手席の女の子よろしくね あるタクシー運転手が、夜の3時ごろ、一人の男のお客を乗せた。50代くらいでスーツを着ていて髪型もきちんとした、いかにも管理職という感じの人だった。 家の前に到着して、そのお客が降りる間際に運転手にこう言った。 「運転手さん、それじゃ、助手席の女の子、あとよろしくね。」 この人は最初から一人で乗っていたので、この人が降りると他は誰も乗っていない。 最初から自分一人で乗っているのに、酔って、友達と一緒に乗って帰ったと勘違いする人は多い。 例えばお客が目的地まで寝ていて、到着した時に運転手が「着きましたよ。」と言って起こすと 「あれ?あいつ、いつの間に降りたんや?」などと言い出す。 「いえ、お客さん、最初から一人でしたよ。」 といって運転手が説明するパターンが結構ある。運転手はまたそのパターンかと思い、 「助手席の女の子ですか? いや、お客さんは始めから一人で乗ってらっしゃいましたよ。」 と答えると、 「あっ! そうか。君には見えないんだった。ごめん、ごめん、今の言葉忘れて。」 と言って降りていった。 一瞬運転手も身体が固まった。 ・・・・・すると、何ですか、今、この助手席には、自分の見えない女が座っているとでも言うんですか・・。 彼は霊能者だったのか。いや、多分酔っぱらいのいたずらだろう。そう分かってはいても、それ以降、運転手は助手席が気になってしょうがなかった。 ▼幽霊と熊 あるタクシー運転手が、夜中の2時ごろ、飲み屋街で一人の男のお客を拾った。行き先を聞くと、このあたりでもかなりの田舎であり、山の中でもある。 タクシーを走らせて、その山の中まで来た。 お客が指示する通りに走っていると、細い道に入った。車が一台通れる分の幅しかない。進んでいくと、じわじわと道幅も狭くなっていく。街灯もないし、ガードレールもない。 車の右側は切り立った崖のようになっていて、うかつな運転をすると脱輪してしまいそうな道である。 しかも左からは木の枝と葉が垂(た)れ下がっていて、不気味なこと、この上ない。 慎重に進んでいくと、お客が口を開いた。 「運転手さん、正面にちょっと大きな木が見えるでしょう。」 「あ、はい、ありますね。」 「何年か前に、あの木で女が首吊り自殺をしたんですよ。 それ以来、この道で、夜中に女が立っているのを見た、という人が結構いましてね。ここは幽霊が出るかも知れませんから、帰りは気をつけて下さいね。」 「はい、ご親切にありがとうございます。でも、自分が気をつけてても、出るものは出ますよね・・。」 「はは、そりゃそうですね。」 それからもう少し走って、やっとお客の家の前に着いた。道が極端に細い上に不気味なところなので、距離にすればたいしたことはなかったのかも知れないが、ずいぶんと長く走ったように感じた。なんでこんな秘境に住んでいるのか。 お客が降りる間際にまた一言言った。 「あ、運転手さん、それからこの辺はクマも出るんですよ。それも結構でかいのが。帰りは気をつけて下さいね。」 「あ、そうですか。ご親切にありがとうございます。でも、自分が気をつけてても、出るものは出ますよね・・。」 「はは、そりゃそうですね。」 お客の庭でUターンして、今来た山道を戻る。しかし一人になると、運転手はさっきの言葉が気になってきた。 もし仮に、走っている最中、何気にルームミラーを見ると後ろ座席に知らない女がいきなり座っていて、「うわあっ!」と思った瞬間、それと同時に目の前に巨大なクマが現れたりでもしたら・・。 しかし幽霊とクマが同時に現れたという話は聞いたことがない。 もしも、両者が同時に現れたとしたら、どっちが怖いかというと、やっぱりクマの方に決まってる。でも結局どっちも出なかったのでホッとして帰ったらしい。 |