Top Page 現代事件簿の表紙へ No.016 No.014
当時、犯人が14歳という少年だったために大部分のマスコミは少年の名前も写真も公表しなかったが、それにも関わらず、ネットの掲示板では少年の名前を始めとして、事件関係者の個人情報が流れた。当時の掲示板の流れを追う。 No.14の酒鬼薔薇聖斗事件の続きになるが、この事件を語る時、同時に問題となったのは、加害者であるA少年が当時14歳という未青年だったため、マスコミは各社自主規制をして少年の名前も写真も報道はしなかった。しかしそれにも関わらず、インターネットの掲示板で実名が書かれ、写真も掲載されたという点である。 ちなみに写真を掲載したのは新潮社の「写真雑誌FOCUS(フォーカス)1997年7月9日号」である。写真が掲載されていることが販売前に判明し、大手の販売業者が販売自粛していたにも関わらず、新潮社は回収せずにそのまま販売を強行し、一部の書店のみに並んだ。雑誌はたちまち完売。 更に翌日「週刊新潮」で、目隠し入りの写真も掲載された。法務省がFOCUSと週刊新潮を回収するように要請したが、新潮社側は回収を拒否した。 この写真がスキャンされて、ネットのいくつかのサイトに掲載されたのだ。しかしこれらの写真は新聞報道のようなきちんとした写真ではなかった。写真の顔のみが切り抜かれて、身体部分はグラフィックソフトで落書きのように描き足されていたり、ブルース・リーの胴体と合成してあったりして、いかにも茶化した雰囲気の画像に仕上がっていた。 ▼逮捕後に書き込みが急増 これ以降は当時のインターネットの掲示板の動きを見てみたい。 このファイルは、当時の掲示板を保存した画面が管理人のハードディスクの中にいくつか残っていたので、それらを参考にして書いたものである。 (※なお、書き込みの文章は抜粋で、内容を同じにして表現や文体を変えてあります。「だいたいこういう感じだった」という雰囲気だけをご理解下さい。なお、○○の部分には全て固有名詞が入っていました。) 当時、この事件は、あまりにも世間に衝撃を与えたために、事件発生からまもなくして「酒鬼薔薇聖斗」の名前を、タイトルの中に入れたホームページがいくつも立ち上げられていた。それらのサイトはだいたい掲示板も設置してあり、連日様々な書きこみがなされており、世間の注目の高さを表していたと言える。 そして少年が逮捕された6月28日から、特にアングラ系の有名掲示板に莫大なアクセスが集中し、超スピードで書き込みが行われ、これらを始めとして各地の掲示板はさながらお祭り騒ぎのような状態となった。 当時2ちゃんねるはまだ存在しておらず、アングラ系の有名掲示板といえば「無法地帯」や「あやしいわーるど」が、その筆頭格だった。 当時はまだ、掲示板の存在そのものが新鮮だった頃で、法の整備もほとんどない時代だった。個人情報やプライバシー、著作権などといった意識は、投稿する人の良識のみに任されているような状態だった。 また、この事件に限らず、アングラ系の掲示板には、何か事件が起こると、当事者の周囲の人たちが、関係者の実名や住所や電話番号などを投稿していた。(もちろん一般の良識ある掲示板ではそういうことをする人はいなかったが。) 話はそれるが、当時色んな掲示板で時々見かけていた投稿で 「遊んで欲しいの。電話してね。」 などと文章を添えて、女の名前と電話番号が書かれている投稿がちょくちょくあった。 普通の女性なら、不特定多数の人が見る掲示板に、自分からこういった、誘うような書き込みをするはずがない。 別のサイトで知った情報であるが、こういう投稿は、腹の立つ女の電話番号を公表して誘うような文章を載せ、全国の男たちから一斉に電話をかけさせようとする嫌がらせなのだそうだ。 もちろん、中には本当の書き込みとか、ビジネスの誘いとか(これもロクなものじゃないが)もあっただろうが、女に対してこういう復讐の仕方も当時あったようだ。 今こんなことをやったら逮捕されてしまうが、自分も当時、何回もこういった投稿は見たことがある。はっきり言ってめちゃくちゃな時代であった。 ▼いくつかの名前 その中でも話題の中心は、やはり少年の名前である。最初は三つか四つの名前が何人かによって書かれていて、掲示板を見ている人も、どれが本当の名前か分からない状態だった。 書き込みによる流れを見てみると、事実を知りたがる書き込みがいくつもあり、
などと、数人の名前があがっていたが、特にその中の一つを特定する書き込みが多くなり、ほぼ本名はこれだ、という雰囲気にはなっていた。
その名前が漢字で書かれていたため、正確な読み方を求める書き込みがあり、
それに対して、すぐに読み方をひらがなで表記する書き込みもあった。また、この掲示板からリンクを張って別の掲示板を紹介したり、
掲示板から掲示板へと情報がどんどん流れていった。 ▼実名が特定される そして6月30日、これら一連のことが、ある新聞社のホームページで報道された。(※原文を参考にしたもので、原文ではありません)
掲示板に投稿された文章を新聞社が引用したことで、この掲示板を見ていた人ならば「報じられている問題の掲示板」というのは、ここのことだとすぐに分かった。 また、この時点では何人かの名前が出まわっており、実名ははっきり特定出来ない状況だったが、複数の新聞が「インターネットに実名が掲載された」と報じたことで、書かれていた名前のどれかが実名だったことも判断出来た。 そして書き込みのタイトルや時間まで掲載したために、「この掲示板のどの書き込みが本当の名前なのか」容易に特定出来てしまった。 新聞記事によって実名を特定出来ると気付いた人が、掲示板からその新聞記事にリンクを張って紹介したのだ。問題に気付いた新聞社は、すぐにその記事を削除してしまった。削除したことがますます事実だということを証明してしまう。 皮肉なことに掲示板の違法性を指摘した新聞ニュースが、逆に書き込みの真実性を証明し、どの名前が本当なのかを教えてしまう結果となった。これ以降、掲示板では少年の実名が投稿のあちこちで書かれることとなった。 ▼氾濫(はんらん)する情報 また、それに便乗して
ちなみに上記の14人の人たちは、事件とは何の関わりもないのだが。 こういった書き込みや、少年の通っていた中学校の校長の名前や住所、電話番号も書かれ、少年の担任だった教師の名前・住所・電話番号、少年にこういうことを言ったのは○○(科目)担当の○○だったとか、A少年に体罰を課した教師の名前や、あるいはこの中学校の教師の○○がストリップを見に行っていたとか、およそ事件とはまるで関係のない情報まで書き込まれた。 また、真偽が分からないものについても語尾に「本当か」と付け沿えて
など、あることないこと書かれ、掲示板ではあやふやな話も含めて個人情報暴露(ばくろ)合戦のような状態となっていった。中核を務めた掲示板では、一番盛り上がっていた6月30日(少年逮捕の2日後)には98万ヒットもあったという。 ▼社会が動き出す しかしこのような状況を世間が許すはずもない。新聞社や弁護士、神戸市長、プロバイダなどが取り上げて、大問題となった。 「ネットで個人情報を載せた人間を特定する」と弁護士会が発言したニュースが掲示板の中でも話題となった。
そして神戸市長からも、個人情報を掲載していたサイトの所属するプロバイダや、そのリンク先などへ 「青少年の人権を著しく侵害する表現が数多く見られ、このまま放置することは絶対に許されないものです。即刻、掲示板を削除されるよう強く抗議します。」との抗議文が送られた。 ただ、サイトそのものはプロバイダのサーバーにあっても、問題の掲示板は海外のサーバーを使っている場合もあって、そうした場合ではプロバイダが掲示板を削除することは出来ない。そうしたことも含めてプロバイダ側は市長に返信したようである。 ▼消えていく掲示板 そして、ある管理人は自主的に、またある管理人はプロバイダからの削除要請を受け、違法性のあるサイトや掲示板は次々と削除されていった。まだ生きている掲示板の中でも、あちこちの掲示板が消されていくことが話題となっていった。
▼全て消滅 そして決定的だったのは、ある大手の全国紙(某新聞社)が、各プロバイダに「個人情報や誹謗中傷をしている酒鬼薔薇関連のページを削除しなければ、新聞にプロバイダ名を公表する。」と警告を行ったことである。 プロバイダから、それらの各管理人に出された警告メールの一部であるが、
ちなみに少年法第61条に 「(犯罪を犯した少年について)氏名、年齢、職業、住所、容貌(ようぼう)等により、 その者が当該事件の本人である事を推知する事が出来るような記事又は写真を新聞その他の出版物に掲載してはならない」とある。罰則は定められていないものの、未成年の個人情報をネットで流すこと自体が違法であり、良識に反する。 この大手新聞社から各プロバイダに対する警告は強烈であった。各プロバイダは軒並み違法サイトの削除にとりかかった。基本的には対象とされるサイトの管理人に通達のメールを出し、了解を得て削除したが、中には警告なしで一方的に削除されたサイトもあったようである。 表現の規制を守り、報道としてこの事件を扱っていたサイトはともかくとして、事件を茶化したり個人情報を掲載していた良識に反する酒鬼薔薇サイトはこうして全て消滅することとなった。 Top Page 現代事件簿の表紙へ No.016 No.014 |