Top Page 現代事件簿の表紙へ No.050 No.048
このサイトの管理人吉田が、昔、空き巣に入られて50万円盗られた時の話。 ▼事件発生 平成8年ごろ、自分は広島市内の、あるアパートの2階に住んでいた。ある日、仕事から帰った時に、財布の中身が数千円になっていたので次の金を補充しようと、いつも現金を入れていたレターケースを開けた。 しかし開けてみてブッたまげた。完全にカラになっていて、何もなくなっている。そこには万札や千円札がごちゃ混ぜに入れてあったはずだ。
通帳に入れるのは引き落としにしている金額だけを入れて、後はいわゆるタンス貯金というやつで、この引き出しに貯めておいたのだ。 全部で50万くらい入っていたはずだ。といっても裕福な生活をしていたわけではない。あの当時、確か毎月1万円くらいは生活費を残すように心掛けてこの中に貯めるようにしておいた。それが30万ちょっとあった。単純計算で、30ヶ月かかって貯めた金だ。 それに加えて、もらったばかりでまだ封を開けていない給料袋がそのまま入っていた。当時の手取りは19万と少し。両方たして50万くらいになる。 更に自分には、今では亡くなってしまったが祖母がいて、祖母から以前に就職祝いということで3千円もらったことがあり、その金は特別な金だと思っていたので封筒に「おばあちゃんからもらった3千円」と書いてそのレターケースに入れておいた。それもなくなっていた。 その他、もらった商品券やビール券も一緒に入れておいたはずだが、全てなくなっていた。引き出しを間違えたのかと思って、次々別の引き出しを開けてみたが、やっぱり金も商品券も何もない。 使ったとか銀行に入れたなどということは絶対にない。自分の生活費と貯金のようなものなので、所在を記憶違いすることなどはない。 数秒間、身体が固まった。現状がよく理解出来なかった。「まさか空き巣に入られたんか?いや、あれはテレビの中の話であって、東京大阪だけの話じゃろ。」 気を取り直して昨日から今日にかけて、何か不審なことがなかったか、順々に思い出してみた。そういえば、思い当たることがあった。一週間くらい前になるが、1日ほどおかしな日があった。 ▼あの日が犯行の日だった 一週間前のあの日、自分が仕事から帰って、ドアを開けようと、いつものようにカギ穴にカギを入れてひねった。カチャッと音がしたので、ドアのノブをひねってドアを開けた・・と思ったらカギがかかっていた。 カギを開けたつもりが逆にかかったのだ。ということは、それまでこのドアのカギは開いていたということになる。「朝、家を出る時、ドアのカギをかけ忘れたんか?今までそんなことは一度もなかったが・・。」 不安になって部屋に入ったが、別に部屋の中に変化はない。普段通りの光景が広がっていた。「あぁ、えかった。泥棒にでも入られたかと思った。」 と思って、ほっとして畳の上に座って手をつくと、手にザラザラとした感触がある。手のひらを見てみると「泥」がついていた。 「何で畳の上に泥が上がっとんじゃ?」と思ってじっくりあたりを見ると、畳のあちこちに微量の泥が落ちている。 「意味が分からん。」などと言いながら、部屋の中に一通り掃除機をかけた。
ベランダの窓は、いつもカギをかけないで、網戸にしたまま出勤していた。部屋の中で煙草を吸うので、部屋に臭いがつかないようにと思って、出かける時は窓は開けて網戸だけにしておいた。何年もそういう習慣になっていた。 更に自分がいたアパートは、中庭のようなスペースがあって、そこになぜか貯水タンクがあった。貯水タンクの上がちょうど自分の部屋のベランダと同じような高さで、貯水タンクにはハシゴがついていた。 中庭といっても草がボウボウで、普段ここに来る人はいない。更に三方を小規模なビルに囲まれており、それぞれのビルはこちら側に窓はない。人目につかずに侵入するにはもってこいの立地条件だった。 あの日、貯水タンクに昇ってそのまま自分の部屋のベランダに侵入した空き巣は、あっさりと網戸を開けて部屋の中に侵入し、レターケースの中にいれてあった現金を盗むと、ドアのカギを内側から開けてドアから出て行った。 土足で侵入したので畳に泥が上がっていたのであり、自分が家に帰ってきた時にドアのカギが開いていたのも、ドアから逃げたためだ。 全力で考えてこうした結論にたどり着いた。謎は全て解けた。解けた謎はイヤ過ぎる現実だった。全てを悟った後、「あぁぁぁぁぁっ」と声を出してヒザからがっくりと崩れ落ちた。ちなみに涙も出そうになった。 ▼警察の人が言うには すぐに110番して警察を呼んだ。間もなく鑑識の人を含めて4〜5人の警察官がやってきて現場検証が始まった。 ここ一週間で雨も降っており、建物の外からは犯人の痕跡は多分検出されないだろうと言われた。鑑識の人が部屋の中で犯人が触っていそうな場所の指紋を採取していたが、犯行から時間が経ち過ぎているようで、きちんと指紋が採取できるかどうかは分からないと言う。 警察の人が言うには、やっぱり空き巣は自分が推測した通りに侵入して盗んで行ったんだろう、とのことだった。 更に警察の人が言う。 「しかしアンタも分かりやすいところに現金を置いてたもんやね。この部屋で現金が置いてありそうな場所はどこか?・・ここ! 一発で分かる。」 レターケースを指差しながらそう言われた。 「まぁ、犯行時間は5秒くらいだろう。」とも言われた。 「だいたい泥棒に入るヤツってのは、現金がどこに隠されてあるか、すぐに見抜くもんなんだよ。よく、冷蔵庫とか米ビツの中に現金隠してる人がいるけど、あれは全くのムダ。 そういう所ってのはいかにも隠してありそうな場所って感じで、泥棒に入られたら一発で見抜かれるよ。もっと変わった場所に隠さないとね。 捜査はもちろんするが、盗られたお金が返ってくることはまずないと思っていいよ。盗ったらすぐ使うのが普通だからね。」 「はぁ。」としか言えなかった。諦めろと言われた気分だった。 だいたい盗みに入られた家というのは、タンスがあちこち開けっ放しになっていて衣類が散乱してメチャクチャな状況になっているという印象があったが、自分の部屋は全く荒らされた形跡がなかった。 要するに、犯人がほとんど一発で金のありかを探(さぐ)り当てたので、全く荒らされていなかったのだ。 ▼壁を登る男 それから何ヶ月か経った。 ところで自分はベランダに風呂イスを置いていて、ベランダで煙草を吸う時にはそこを定位置にしていたのだが、ある日の夜、そのイスに座ってベランダで煙草を吸っていると、数メートルほど横の、「ベランダよりも外の空間」で何か動く気配を感じた。 数メートル横といってもここは2階なので、おやっと思ってそっちへ視線を向けると、1人の男がアパートの壁をよじ昇っていた。 男は雨どいをつたったり、ベランダの屋根や柵(さく)に手をかけ足をかけ、まるでロッククライミングのように壁を昇っている。 年は30歳くらいに見える。男は上だけに視線を向け、こっちに気づいているのか、いないのか、2階にいた自分の横を通り過ぎて、そのまま3階まで昇って行った。 あまりにもびっくりして声も出なかった。2階に住んでいて、ふと目をやると自分の横を男が昇っていれば誰でもびっくりする。そのまま呆然(ぼうぜん)としながらその男を見送った。 「何だ、あの男は!ひょっとして、いつかの空き巣か?! 上の部屋に侵入しているのか?それとも3階に住んでいる人がカギをなくして、壁を昇って自分の部屋に帰っているところなのか?」 どちらかは分からないが、その後別に騒ぎもなかったし、またこのアパートで空き巣があったという話も聞かないので、この時は何もなかったんだろう。だが、あれは絶対、あの空き巣男だと思う。しかしアパートの壁というのは、あちこちに手足をかければ、身軽な奴なら昇っていけるものだと改めて感じた。 ▼犯人逮捕の連絡 それから更に数ヶ月が経ち、空き巣に入られてから一年近くが過ぎた。ある日の朝7時ごろ、まだ寝ていた時、枕元にある電話が鳴った。出てみると、 「もしもし、こちらは広島中央警察署の者ですが、吉田さんのお宅ですか?」 「はい、そうです。」 「あなた、去年の○月○日に空き巣の被害届けを出されてましたよね。あの時の犯人が捕まりましてね、何件もやってた男で、自供した犯行の中に、お宅の家のことも含まれてました。建物の場所と住所を照合したんですがね。 それであなたにその調書を見てもらって、お宅の家のことかどうか確認してもらいたいんですよ。お手数ですが、警察署の方まで来てもらえますか?」 「はい、分かりました。今日行きます。」 たまたまその日は休みだったので、すぐに警察署に出向いた。警察署に着いて用件を告げると、担当の刑事さんらしき人が出てきて「どうぞこちらへ。」と言う。 案内されて入ったのは多分、取調べ室だった。よくテレビで見かける、机が1個だけ置いてあるような狭い部屋だ。 「どうぞおかけ下さい。」 「それでこれがあの時の調書なんですが、ちょっと読んでいただけますか?」 空き巣の調書とは、一体何が書いてあるのかと思ったら、そこにはその時の自分の部屋の状態が箇条書きにしてあった。 ・カーテンは青色で模様が入っていた。 ・壁につけるようにして布団が敷いてあり、かけ布団の色はだいだい色だった。 ・小さい花瓶に花が活(い)けてあった。 ・棚の上にダルマが置いてあった。 ・四畳半の部屋と六畳の部屋がふすまで区切られている部屋だった。 ・台所には瞬間湯沸かし器があった。 ・薄い引き出しの中に、現金が約50万と商品券などがあった。 ・窓に近いところに青の三段ボックスがあって、その中には本が入っていた。 など、全部で20項目くらい書いてあった。 「盗られた金額はあなたの出された被害届けと、相手が自供した金額が一致してますが、他のところはどうですか?合ってますか? 」 と刑事さんが聞く。違っていたのは確か布団の色と三段ボックスの場所くらいで、大半の項目は自分の部屋の状況にピッタリあっていた。 「こことここが違ってますが、他は全部合ってます。でもこれ犯人が言ったんですか。もう1年くらい前になるのによくこれだけ覚えてますね。」と言うと、 「盗みに入る奴っていうのは、すごい集中力と緊張感で、入った現場のことをまるで写真を撮ったかのように正確に覚えてるもんなんだよ。それだけ精神が高ぶってるということなんだろうけど。で、これでだいたい間違いないね?」 「はい。」
それであなたにも被害金額が返ってくることになるはずなんだが、それは後日に弁護士の方から連絡があるはずだから。じゃ、ここにサインして。」 といってこの調書が合ってますという意味のサインをして警察署から引き上げた。しかし全く諦めていたものが返ってくるとなると、かなり嬉しい。 ▼テレビのニュース その日の夕方、ひょっとしてニュースで放送されるかも知れないと思って一応録画していたが、本当に放送されていた。 <放送内容の全文> 広島市内のマンションを中心に、2階より上の、戸締りの甘いベランダなどから侵入し、現金などを盗んでいた男が自宅の屋根裏に老後の蓄えとして現金2500万円を貯めていたことが分かりました。 この男は広島市南区東雲(しののめ)の無職三宅(みやけ)容疑者35歳です。 三宅容疑者は去年10月逮捕され、余罪を追求した結果、逮捕されるまでの5年間にマンションを中心に149件、現金や貴金属など、合わせて3800万円の盗みを繰り返していたことを自供しました。 県警は今日までに2000万円分の被害について追送検しましたが、三宅容疑者の手口は、高い階は大丈夫というマンションの住民の隙(すき)をついて夕方から夜間にかけて雨どいをつたってクモのように11階から2階までの間をよじ昇り、カギのかかっていない一室に侵入するというものです。 県警の捜査員は、普通では出来ない身軽な手口と驚いています。三宅容疑者は屋根裏の倉庫に現金や貴金属類2500万円相当を隠しており、増えていくのを眺(なが)めるのが楽しみで、老後のために貯蓄していたと供述しているということです。 この男か、犯人はっ! しかし顔は放送されなかった。ちなみに一番上の写真の人は犯人ではない。ニュースキャスターである。 しかし自分以外にも148件もやっていたとは、何か仲間が出来たような気がした。 ▼返還 何日かして、その弁護士の人から電話がかかってきた。 「私、三宅の弁護人の○○と申しますが、吉田さんでいらっしゃいますか?」という切り出しで始まり、このたびのことを彼に代わってお詫びいたしますというお詫びの言葉があり、その後、 「もちろんあなたにも、盗まれたお金を返還するつもりではありますが、それでその代わりと言っては何ですが、彼の刑を減刑するための嘆願(たんがん)書に名前を書いていただけませんか? こんなことを頼める筋ではないのですが、何とかよろしくお願いします。」 と言う。 「フザけんな、クソボケがぁっ!あいつは死刑にせぇーっ!」と心の中で思ったが、思っただけで 「はい、分かりました。」と返事をしてしまった。 数日後、弁護士の人から書類が送られてきた。中に入っていた手紙には、お詫びの言葉から始まり、押収された金が中央警察署から検察庁を経て、この弁護士の人の手に渡り、これから被害者一人一人に返還していくという、これまでの経緯と今後のことが書いてあった。 それから電話で言っていた嘆願書と、金額返済のための振込み依頼書が入っており、それぞれに必要事項を記入し、嘆願書にもサインをして送り返した。 その後、弁護士の人から50万を振り込んだという電話があったので、通帳記入に行くと、本当に振り込まれていた。 完全に絶望視していたのだが、自分の普段の行いが良かったのか、奇跡的に全額返ってきた。 ▼参考意見 この空き巣の話は、当時何人もの人にしたのだが、その中で「うちも空き巣に入られたことがある。」という人が2人いた。 2人とも年配の女性で、2人とも昔自宅で商売をしていた人だった。 このうちの1人の体験談だが、その人はかつて1階で家具や日用雑貨を販売する店を営業していて、2階が自宅という家に住んでいた。ある日の夜中、2階の部屋にいると、窓から何か「カチッカチッ」という音が聞こえてくる。 何だろうと思って耳を澄まして聞いてみると、まるで外から窓ガラスに小さな石を投げているような音だ。カーテンを開けて見てみたが、外には誰も見当たらなかった。 カーテンを閉めるとまた誰かが小石を投げてくる。しばらくすると相手も飽きたのか、石を投げるのをやめたようだ。 この小石はそれから3日くらい続いたらしい。そして4日目の朝、その人が起きて1階の店に行くと店内は荒され果て、相当のものが盗まれていたという。 また、もう1人の空き巣経験者の女性が言っていたが、その人も前述の人と同じ、自宅で商売していた人であるが、ある日から家に無言電話がかかってくるようになった。 無言電話は1日数回あり、こっちが電話に出ると切れる。それが数日続いた後、ある朝、店に行ってみると店の中はメチャクチヤに荒されて、かなりの物が盗まれていた。 この2人の女性の意見であるが、空き巣に入られる前には何かの前兆があると言っていた。2人の場合は小石と無言電話だった。 自分の場合も電話だったような気がする。家に帰ると留守電が反応しているのだが、メッセージを聞くと何も入っていない。こういうことが何回かあった。これがあの犯人がやったものなのか、全然関係ないただの偶然なのかは分からないが。 ここを読んでいる人も、例えば最近、見慣れない車がたびたび家の近くに停まっているとか、いたずら電話が急にかかるようになったとか、窓を開けると外に立っていた知らない人と目があったとか、そういうちょっとした不審な出来事が続いているようであれば、それは空き巣があなたの家をターゲットとして、下調べをしている最中かも知れない。 Top Page 現代事件簿の表紙へ No.050 No.048 |