カブレラストーンとは、南米ペルーのイカという町で発見された、表面に様々な絵が刻みつけられた石のことである。
ペルーといえば「ナスカの地上絵」が有名であるが、カブレラストーンの発見地であるイカの町は、このナスカから北西に約200kmの場所に位置しており、周りを砂漠に囲まれた小さな町である。
▼奇妙な石の発見
1961年、数十年ぶりの集中豪雨がイカの町に降り注いだ。大量の雨は砂漠の砂を押し流し、海にもかなりの砂が流れていった。この集中豪雨の後くらいから、地元のインディオたちは奇妙な石を見つけるようになった。
それは石の表面に絵が描(か)かれてあるもので、砂を掘り返せば次から次へと出てくる。彼らはそれを拾っては民芸品として売り始めた。
このままの状態であれば、この奇妙な石はただのお土産品として歴史の中にうずもれていたかも知れない。しかし、この土地の医学界の権威である医師・ハヴィエル・カブレラ・ダルケアがこの石と出会ったことにより、状況は変わっていった。
<恐竜の絵。>
<恐竜の絵。>
▼カブレラ博士と石との出会い
ある時、カブレラ博士は友人の医師と会った時に、この石の一つをもらった。それは手のひらくらいの大きさの平べったい石で、表面に魚の絵が描いてある石だった。
この友人もイカの町で開業医をしているのだが、話によると、診察料の代わりにこの石を差し出す患者もいるという。この友人も人から人へと巡って来た石が手元にいくつかあり、ちょっと珍しいのでカブレラ博士にプレゼントをしたのである。
家に持ち帰ったカブレラ博士は何気なくこの石を見つめていたが、砂漠の中で製作されたものにしては魚の絵というのも不自然である。
それにこの絵は、塗料で描かれたものではなく、石の表面に溝を彫るという手段で絵が描かれている。
この魚を見ているうちにカブレラ博士は、魚にしては妙にヒレが大きいし、そのつき方も何か違うことに気づいた。
これは魚ではなく、太古に存在していた魚竜ではないのか?しかし貧しい生活をしているインディオたちが、写真や絵を手に入れて、しかも機械を使ってこのようなものを作れるとは思えない。
<カブレラ博士。イカ大学の創設者でもあり、実際に授業を行っていた時代もある。>
▼まぎれもなく古代の遺産
ある日、診察の傍(かたわ)ら、患者であるインディオの一人にこの石のことを聞いてみた。インディオたちがこの石をあちこちで売っていることはすでにこの辺りでは常識化していたので、製作者がいるのであれば、その人のことを聞こうと思ったのである。
しかしインディオの話によると、やはり自分たちが作ったものではなく、ある場所から掘り出してきたものだという。ますます興味を持った博士はその場所に案内してもらうように頼んだ。
しかしインディオたちにしてみれば、この石は自分たちの大事な収入源であるので場所は教えたくないようだ。カブレラ博士は場所のことは誰にも言わないから、と約束し、報酬を渡すことで何とか案内してもらうことになった。
現場での発掘作業を見た博士は、これらの石がまぎれもなく先史文明の遺品であることを確信し、この石を収集することを決意する。
インディオたちに「これからは君達が掘り出した石は全て私の所に持って来てくれ。もちろん全て買い取らせてもらう。」と話を持ちかけた。その日から博士の診療所には次々と石を持ったインディオたちが訪れるようになり、診療所の一つの部屋はたちまちこの奇妙な石でいっぱいになった。
石の大きさはバラバラで、小さなものでは手のひらに乗るくらい、大きいものは1メートルくらいのものもあった。
▼描かれている不思議な世界
石に絵が描かれてあるだけのものであれば、それは古代の遺品としてはありがちな品であるが、この石がオーパーツとされるのは、その描かれた絵の内容である。
そこには恐竜と人間が共存していたことを示す絵が多数描かれていたのだ。
恐竜が絶滅したとされているのは、今から6500万年前である。そして恐竜がこの世からいなくなって6000万年以上も経ってようやく人類が地球に現れた。
故(ゆえ)に、古代人は恐竜を見たこともなければ、そういう生物が大昔いたということさえ知らないはずである。
恐竜と人間が同じ時代を生きていたということが現実なのであれば、これまで考古学で定説とされていたことが間違いであったことになってしまう。
石に描かれていた光景は、「恐竜と人間が戦っている」、「人間が恐竜に乗って歩いている」、「人間が翼竜に乗って空を飛んでいる」、「人間が恐竜に食われている」、「恐竜の幼いころからの成長過程」などである。
人間が恐竜に乗っている絵では、人間は短パンや靴を穿(は)いており、頭にはヘルメットのようなものをかぶっている。そして手には刃物らしき武器も描かれている。
この他、恐竜を描いた石は200個以上に及ぶ。
また、描かれていたのは恐竜だけではない。現代医療で行われているような外科手術の光景も多数見つかった。
女性から心臓を摘出をしている絵では、心臓の心房や心室、血管なども描かれ、実際に見ていなければ描けないはずのものだった。
また、別の絵では、摘出した心臓と管がつながっており、血液循環器のようなものまで描かれてあり、心臓移植手術の光景と思われる。
帝王切開で子供を取り出している絵、脳外科手術の様子、望遠鏡で彗星を見ている人など、古代人が描けるはずのない絵が続々と発見された。
<恐竜と人間が戦っている。>
<恐竜に乗っている人間。パンツと靴を履き、手には武器を持っている。>
<脳外科手術の絵と思われるもの。うつ伏せになっているのが患者。>
<心臓を摘出している。上部には血液循環器のようなものが描かれている。>
<彗星を望遠鏡で観察している。観察している人は服を着て帽子までかぶっている。>
▼考古学界からは偽物と判断される
イカの町では昔から土器などが出土していたが、それらを勝手に持ち去っては売って金に変える人達も多くおり、そうした人達にこの発掘現場を荒らされることを恐れたカブレラ博士は、ペルー政府にこの場所の封鎖と本格的な調査を依頼した。
しかし政府側の対応は冷たく、本物かどうかも分からないような石のために予算を出すわけにはいかない、と断られてしまう。
仕方なく博士は、これまで発掘をしてくれたインディオたちにも改めてこの場所のことを口止めして独自に調査を進めていくしかなかった。
ある程度、石の数が集まり、考古学会に公表はしたものの学会からは反発を買った。
描かれた絵が現実にはありえないもの、つまり恐竜と人間が同じ時代にいるわけがない、古代に外科手術など存在するわけがない、というのである。
また、カブレラ博士が発掘場所を明らかにしなかったことも印象を悪くした。
要するにこれはあなたが作った偽物ではないかと判断されてしまったのである。
更に追い討ちをかけるように、石を持って来たインディオの一人が「博士に偽物を持って行ったこともある。」と発言してしまった。
博士が石を買い取るとなれば、貧しいインディオからすれば偽物でも持って行きたくなる気持ちも分からないでもないが、この発言が決定的となり、考古学界ではこの石たちは偽物であると決定を下してしまった。
▼年代鑑定により真実が判明
しかしこれらの石が先人の遺物であると信じるカブレラ博士は、鉱業会社であるマウリミオ・ホッホシルト社に石の分析と年代鑑定を依頼した。
1967年6月、鑑定の結果が出た。これらの石が彫られたのは、今から1万2000年以上前であるという。1万2000年前といえば、人類はまだ石器で狩猟生活をしていた時代である。
また、ペルー工科大学とボニ大学鉱物学・岩石研究所にも鑑定を依頼したが、同じ結果となった。一部、偽物が混じったとはいえ、掘り出した石はやはり本物であるということが証明された。
石の材質は安山岩という種類で、石の内部に比べると表面の方が妙に軟(やわら)らかくなっていることも分かった。これは自然現象かも知れないが、溝を彫るために石の表面を軟らかくする技術が使われたのかも知れない。
まだ、彫られている線の深さと幅が一定で、手彫りではなく機械を使ったとしか思えない。しかし機械を使えば、溝の中に刃の金属片などが残っているはずであるが、そのようなものは発見されなかった。かなり高度な技術で彫られている証(あかし)とも言える。
これらの石はカブレラ博士の名を取って「カブレラストーン」と呼ばれるようになった。