Top Page  心霊現象の小部屋  No.40  No.38


No.39 道連れを拒否

住田登さんは、胃潰瘍で突然血を吐き、市内の病院に入院することになった。その病院で住田さんに当てがわれたベッドには、その隣にも入院している人がおり、その人は末期のガン患者だった。かなりやせ衰えて顔色も悪く、弱々しい。

その病院で住田さんの入院生活は始まったのだが、彼の隣の患者は投げやりというか、かなり意地の悪い人間であった。ことあるごとに住田さんに「あんたも、もうダメだろうね。」「あんたも長くないね。」などという言葉を繰り返す。

最初は同情していたものの、それがあんまり頻繁なので住田さんもいい加減、頭にきて、ある日、心の中で「長くないのはお前の方だろうが。さっさと死んじまいな。」と、叫んでしまった。


そしてある日の夜。住田さんが寝ている時、彼は自分が寝ているにも関わらず、急に意識がはっきりとし、何か身体がふわっと宙に浮くような感覚を覚えた。

ふと気づくと住田さんは、綺麗な川の岸辺に立っていた。この状態が夢なのか現実なのかは分からない。とにかく川のほとりに立っているのだ。すると向こう岸から誰かが川を渡ってくる。男は川を渡りきるなり、住田さんの手をつかみ「さあ、一緒に来い。」と手を引っ張り、住田さんを向こう岸に連れて行こうとする。

とっさに住田さんは「何をするんだ。俺は向こう岸などには行かんぞ」と、手を振りほどこうとしたが、相手の力は異常に強く、ずるずると身体が引きずられていってしまう。

相手の男の顔は、さっきからどうも見たとがあると思っていたが、ここにきてやっと分かった。なんと隣の入院患者だった。
「あっ」と住田さんも悲鳴をあげる。その入院患者は怒ったような顔をし、
「『さっさと死んじまいな』とは、よくも言ってくれたよ。俺は死ぬからお前も一緒に来な。」と言って更に強い力で住田さんを引っ張っていく。


引きずられながら住田さんは「助けてくれーっ」と悲鳴をあげた。と、その時、「大丈夫かっ」と、どこかから声がし、その声を聞いた瞬間、はっと目が覚めた。住田さんは病院のベッドで寝ており、医者や看護婦、家族たちが心配そうに顔を覗きこんでいたのだ。

「大丈夫かっ」というのはお兄さんの声だった。「今のは一体・・?」住田さんもわけが分からないまま起きだし、今見たことを兄に語った。

兄は顔を曇らせ、「それは臨死体験(ニアデス体験)というものかも知れない。普通は、死に瀕した状態でしか体験しないはずなんだが・・お前の横に入院していた患者さんが、ほんの2時間前に亡くなったことを考えると、それは夢ではなく、本物の臨死体験だったかも知れんな・・。」と、重い口調で語った。

住田さんが寝ている間に隣の患者は急に容態が悪化し、つい先程亡くなったというのだ。

2時間前にあの男が死んだ・・?では、もしもあの時、引きずられたまま川を渡っていたら、自分は死んでいたかも知れなかったか?住田さんは改めてゾッとした。死を間近に控えたあの男の魂が、住田さんの心の中を読み取り、その一言を恨みに思ってあの世への道連れにしようとしたということだろうか。


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