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No.40 霊の出る物件を借りると・・。

岐阜県の大垣市に一軒の借家があった。その借家は、うっそうとした藪(やぶ)の中に建っており、近所の評判では、その藪の中に女の幽霊が出るというのだ。当然借り手もない。その借家を管理する不動産屋は、せめてもの供養にと、その藪の中に一体の観音像を建てて供養していた。

ところがある日、その借家を借りたいという男が現れたのだ。北岡勉さん(仮名)という29歳の男性だ。不動産屋も、後になって揉めては困るので、その借家のことは正直にその男に話した。

だが北岡さんは平然とし、「その噂のことは知ってるよ。だから家賃が一万円なんだろ。俺も実際にそういうものが出るものなら、是非見てみたいね。」と言い放った。そして「俺は空手2段だから。」ともつけ加えた。


彼がここを借りたのは、家賃のこともあるが親元から離れて、ここで彼女と同棲するためだった。しかし甘い生活を送る予定であったが、実際に住んでみると本当に出てしまったのだ。

夜、彼女と一緒に布団に入って寝ていると、いつの間にか枕元に白い人影が立っている。人影はやはり女性であり、じっと上から2人を見下ろしている。彼女にもその女性がハッキリと見えるようだ。「キャーッ」と悲鳴をあげて彼女は気を失った。

「出やがったな、こいつ。」
気丈にも北岡さんは起きあがって、その女に突きや蹴りを入れる。だが、何の手応えもない。そしてフッと消えては再び北岡さんの後ろに現れるのだ。霊につかみかかられた瞬間なのか、一瞬頭に霞(かすみ)がかかったようにボーッとなって激しくめまいがする。


その女性の霊は、一人で寝ている時にも当然現れてくる。首を絞められるような苦しさで北岡さんが目を覚ますと、上から立ってじっと見下ろしているのだ。そんなことが一ヶ月くらい続いた。だんだんと北岡さんもノイローゼ気味になり、酒に頼ることが多くなった。

毎日のように一升近くも飲んでしまう。同僚と飲みに出た時もベロベロになるまで飲み、「この化け物がっ」と言いながら、店の中でも路上でも、見えない相手に向かって突きや蹴りを繰り出す。
さすがに上司も同僚も心配し始めた。

ある日、やはりかなり酔った状態で車で帰っている時、不動産屋の建てた観音像に車をぶつけて倒してしまった。北岡さんも、完全に酔っているので、直しもせず、その場を走り去った。

そのうち、会社も休むようになり、朝から酒を飲む生活になってしまった。北岡さんの心の中も荒れる一方で、上司が訪ねてきても暴れて追い返す始末だ。

そんな生活が続いていた、ある夕暮れ。いつものようにかなり酔った状態で車を運転して帰ってきた北岡さんは、家の近くで二つの白い人影を見た。「今までは一人だったが、2人になりやがったか。」そう思うと、また恐怖と怒りが同時にこみあげてきた。「死ね!化け物!」と言いながら、そのままアクセルをふかし、二つの人影に突っ込んでいった。


何かにぶつかったような衝撃が車と北岡さんを襲う。だが酔っていたせいもあったのか、衝突のショックで気を失って、北岡さんはそのまま車の中で寝てしまった。

そして翌朝。目を覚ました北岡さんは、血の気が引く思いがした。自分の車の前に、彼女と自分の母親の死体が転がっていたのだ。昨日突っ込んでいった二つの人影は、彼女と自分の母親だったのだ。

息子の異変を彼女から聞かされた母親が、心配になって一緒に様子を見に来ていたのだった。そこへ精神が錯乱していた北岡さんが、人間と亡霊の区別がつかずに突っ込み、そして2人を引き殺す結果となってしまった。

この後、北岡さんは完全に精神が崩壊し、病院に入院することとなった。後に聞いた話によると、終戦後にこの近辺で、若い女性が強姦された上に殺されるという事件があったらしい。その時の女性の霊が出るのだろう、という噂だ。

しかし北岡さんがここまでの不幸に見まわれるのは、霊自体を最初っから軽く考えていたということと、観音像を車で倒してそのままにしていたことに起因するのではないかという話である。


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