Top Page 心霊現象の小部屋 No.42 No.40
1992年5月。大阪の千日前で、深夜2時ごろ、あるタクシーに女性客が乗った。女性客の年齢は30歳前後くらい。水商売をしているらしく、乗った瞬間から酒の匂いをさせていた。運転手は、この道20数年のベテランドライバーだった。 運転手が走り出すと、その女性客は妙に馴れ馴れしく話しかけてくる。 「ど〜お〜?元気でやってるぅ?」 まるで自分と知り合いであるかのような喋り方をするのだが、運転手には、どうにも記憶にない。どこかで聞き覚えのあるような話し方ではあったが、酔った客の相手も面倒なので、適当に返事をしておいた。 適当にあしらわれたのが気に食わなかったのか、女性客は今度は不満を言いだした。「全くぅ。知ってるからせっかく乗ってやったのにさ。そういう態度はないじゃん。」 運転手も内心、「誰やねん? ワシの知り合いで、こないな女、おったか?」などと思いながら車を走らせていた。しばらくすると、その女性客が「ああ、暑い暑い。」と言ってハンカチを出して汗を拭き始めた。 「ねぇ、ちょっと暑いわよ。エアコン入れてくれる?」 女性客が暑がるのでエアコンのスイッチを入れてやった。だがまだ、言っている。「暑い、暑いぃぃ。暑過ぎるわ。」 今は5月。今日は確かにちょっと暖かいものの、汗をかくほどではない。この暑がりようはちょっと異常だ。 そのうち「暑い」が、「熱い」に変わってきた。「熱い、熱いぃぃぃ、いやーっ熱いーっっ!」と、後ろの席で悲鳴をあげ始め、その女性客はばったりと倒れこんだのか、ルームミラーから見えなくなった。さすがに運転手も気になって車を止め、後ろの席を振り返った。 だが、そこに女性客の姿はなかった。あれだけ大騒ぎしていたのに・・。しかし酒の匂いだけは残っている。そして何か鼻をつく異様な匂いもしてきた。まるで髪が焼けるような・・そんな匂いだ。 また、他にも何か焦げ臭い。よく見ると座席には、さっきまで女性客が汗を拭いていたハンカチだけが焼け焦げて残されていた。「何だ、これは・・?あの女は後ろで燃えてしまったのか・・?」そう思うと、運転手は言いようのない恐怖で背中がゾクゾクしてきた。 「あっっ!! 思いだした! あの女は・・」運転手は思わず声をあげた。 その日は5月の13日。1972年(昭和47年)のこの日に、大阪の千日前の繁華街で火災が起こり、デパートやキャバレーが焼け、100人以上の死者が出た日であった。 運転手は、その時焼失したキャバレーの常連客だったのだ。あの、ちょっと独特の「やってるぅ?」という言いまわしは、当時そこで働いていた、「こずえ」というホステスの口調そのものだった。 |