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No.42 熱いコーヒーが飲みたい

北海道から東京へ向かって、夜間フライトを行っていた、ある旅客機の中。離陸してからしばらくして、一つの座席からスチュワーデスを呼ぶランプがついた。スチュワーデスがその席へ行くと、そのお客は、熱いコーヒーが欲しいという。すぐにコーヒーを持っていくと、そのお客は「寒い・・寒い・・。」と言ってコーヒーをすするように飲みだした。

しばらくするとまたスチュワーデスを呼ぶランプが灯る。また同じ座席からだ。今度は別のスチュワーデスが行くと、また熱いコーヒーをくれと言う。そのスチュワーデスがコーヒーを持っていく。

同じように「寒い・・寒い・・。」と言いながらコーヒーをすする。機内は一応、適温になっているはずなのだが、そのお客はやたらと寒がるのだ。まるでコーヒーで身体を暖めようとしているかのようだ。

「風邪を引いているのかしら?」そう思ってスチュワーデスが聞いてみたが、別にそうではないという返事が返ってきた。


しばらく経つとまたスチュワーデスを呼ぶ。今度はまた別のスチュワーデスが行ってみた。同じように熱いコーヒーを要求する。
それがほとんど5分おきくらいに要求してくるのだ。さすがに東京が近くなってきたころにはスチュワーデスたちの間で話題にのぼり始めた。

「あの、コーヒーばっかり注文してくるお客さんってほとんどビョーキね。」
「そうそう、あの○○番に座ってる人でしょ?よくあれだけ飲めるわよね。私ももう、何回も持っていったわ。」

などと噂しあってる時、別のスチュワーデスが、
「やっぱり痩せてる人って寒がりなのかしら。」と、何気なく言った時、彼女たちは異変に気づいた。

「あら、違うわよ。○○番の人よ。あの、太った人よ。コーヒーばっかり注文してくる・・。」
「だから○○番に座ってる人でしょ?太った人じゃないわよ。すごく痩せた人よ。私、何回もコーヒー持っていったんだから。」
「私だって何回も持っていったわよ。あの座席に座ってる人は太ってる人だって」


議論しながら、何か言いようのない気味悪さがこみあげてきた。
「私、もう一回見てくるわ。」

一人のスチュワーデスがそう言って機内を確認しに行った。そしてしばらくして帰ってきた彼女は青ざめていた。
「あの席には誰も座っていなくて・・周りの人に聞いてみたら、最初っから誰も座っていなかったって言うのよ・・。それにシートがびっしょり濡れてたわ・・。」

彼女たちは一斉に青ざめ、背筋がゾーッとするのを感じた。

この時点ではまだ彼女たちは知らなかったことではあるが、この飛行機には実は2体の遺体が積んであったのだ。先々日、北海道で釣り舟が転覆して、その時に釣り客が2名亡くなっていた。その釣り客は2人とも関東の人だったので、遺族の願いもあって飛行機で遺体を送ることになったのだ。その釣り客のうちの一人は痩せていて、もう一人は太った人だった。


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