Top Page  心霊現象の小部屋  No.62  No.60


No.61 私たちの家は燃えない

東京都の足立区に住む河田由紀子さんは、ある日夫の健一さんと共に由紀子さんの実家である千葉県へと向かっていた。由紀子さんのおばあさんが亡くなったため、急遽(きゅうきょ)葬式にかけつけることになったのだ。

幼いころからずっとおばあちゃん子だった由紀子さんの悲しみは相当なもので、行きの車の中でもずっと泣き通しだった。

おばあさんは生前、由紀子さんに「私がいずれあの世に行っても、ずっと由紀子のことを守っててあげるからね。」と口癖のように言っており、今では結婚して実家を出ている由紀子さんであるが、その言葉だけは常に忘れたことはなかった。


通夜、葬式と終わり、由紀子さん夫妻はそのまましばらく実家の方に滞在した。そして一通り片がついたころ、やっと東京の方へと帰ることにした。一週間ぶりの帰宅である。やっと家の近くまでたどり着いた時には、すでに夜の10時をまわっていた。

だがもう少しで家という所まで来た時、何か家の方が騒がしいことに気がついた。消防車のサイレンが鳴り響き、多くの野次馬がうろうろしている。空が妙に赤い。どこかが火事であることはすぐに分かったが、それはまさに自分たちの家の方角であった。

「まさか、私たちの家が!?」
びっくりして二人は野次馬をかき分けて前の方へと進んだ。「ちょっと道を開けて下さい! 私たちの家かも知れないんです!」

やっと人ゴミの前に出て、火事の現場を見られる場所まで来ると、由紀子さんの家の、隣の家が大きな火の手に包まれて燃え上がっている最中だった。自分たちの家に燃え移るのは時間の問題だ。


夫の健一さんが、急いで家の中の貴重品などを取りに入ろうとすると、すぐに消防士に静止された。
「今、中に入るのは危険です!」 
「いや、でもあれは私たちの家なんです!」
「まさか中に子供さんでもいるんですか!?」
「いや、子供はいませんが・・!」 
「でしたら私たちにお任せ下さい。あなたを火の中に行かせるわけにはいきません!」

消防士とやりとりしている間にも、火の手はみるみる広がっていく。付近の別の家まで燃え始めた。

「もう、だめか・・!」
健一さんが焦りと絶望を感じている中、由紀子さんの方は、冷静にじっと火災現場を見つめていた。


「大丈夫よ。私たちの家は大丈夫よ。燃えないわ。」
「由紀子、それは気休めだ。あそこまで激しく燃えてたら、もう時間の問題だ。」

「見えるのよ、私には。おばあちゃんが家を守ってくれてるのが。」

由紀子さんの目には、先日亡くなったおばあちゃんが白い着物を着て、必死の形相をしながら髪を振り乱し、手を大きく振って家の周りを走り回っている姿がはっきり見えるというのだ。

「おばあちゃんが走って壁を作ってくれている。おばあちゃんが火を防いでいてくれている。だから私たちの家は決して燃えないわ。」

由紀子さんはそう言って、片時も目を離さずに火災現場を見つめていた。

そして深夜になってようやく火事は鎮火した。由紀子さんの言った通り、まさに二人の家だけは、ほとんど燃えることなく残っていた。周りの家はみんな燃えてしまったというのに・・。

「おばあちゃん、ありがとう。前々から言ってた約束を本当に守ってくれたんだね。」
一人つぶやく由紀子さんを、健一さんは不思議そうな目で見つめていたのだった。