Top Page  心霊現象の小部屋  No.63  No.61


No.62 窓から買ったラーメン

32歳の川中敬一さんは、ある冬の日、友達と一緒にスキーに出かけた。だがその日、滑っている途中で運悪く転んでしまい、足を骨折して急遽(きゅうきょ)入院することになってしまった。

入院といっても、身体は元気なのに一日中病院で寝ていると退屈でしょうがない。楽しみといえば食べることとテレビを見ることくらいだ。その日も消灯時間になったが、猛烈に腹が減って寝つかれない。

「あー、腹減った。何か食うものないのかよ・・。腹減って寝られないよ。」

などと思っていると、外からチャルメラの音が聞こえてきた。ラーメンの屋台が来たようだ。すぐにベッドから身体を起こし、その屋台に向かって思いっきり手を振った。
「おーい、おーい。」


ラーメン屋さんも気づいてくれたようだ。屋台の車の音がこっちへ近づいてくるのがわかる。
屋台のおっちゃんが車から降りてきて、すぐ窓の横まで歩いてきた。

「ありがとうございます。およびでしょうか?」
窓が少し高いせいもあって、外に立っているおっちゃんは、頭の部分しか見えない。

「すいません、ラーメン一つもらえますか?」
「へい、ありがとうございます。」

「それですいませんが、俺、ベッドから起きられないので、窓からラーメン入れてもらえますか?」
「分かりました。少々お待ち下さい。」
おっちゃんは再び車に戻り、しばらく経ってラーメンを持ってきた。

「どうもお待たせしました! 600円になります。」
と言いながら窓からラーメンを差し出してくれた。

「じゃ、千円でお願いします。」
「はい、では400円のお返しですね。」
「食べた後のどんぶりはどうしたらいいかな?」
「私は毎日この辺をまわってますから、明日もまた来ますよ。その時に回収に伺います。」

そう言ってラーメン屋さんは帰っていき、川中さんも腹が満ち足りて眠りについた。


そして次の日。川中さんがベッドの下に隠しておいた、昨日のどんぶりはすぐに看護婦さんに見つけられてしまった。

「まぁ、川中さん、何なんです、これ。 昨日の晩、ラーメン食べたんですか。」
「いや〜、すいません、あんまり腹が減ってたもんで・・。屋台がまわって来たんで、つい買っちゃったんですよ。」

「足が悪いというのに、よく歩いて買いにいきましたね。」
「いや、ラーメンは窓から入れてもらったんですよ。さすがにちょっと歩けないんで。」

「窓から入れてもらったって・・? 何言ってるんですか。ここは4階ですよ。」

川中さんもハッと気づいた。「え・・? そういえば、ここは4階・・。いや、だって確かに昨日はその窓からラーメンを入れてもらったし、ちゃんとお釣りの受け渡しまでしたんですよ!」

看護婦さんも変な顔をして聞きなおす。
「どうも言ってることが変だけど・・。そのラーメン屋さんは今日は来ないのかしら?」
「いや、毎日この辺まわってるって言ってましたし、今日はこのどんぶりを回収に来るはずです。」

「じゃ、今日はそのラーメン屋さんに、私がどんぶりを返しにいってくるわ。ちょっと昨日のことも聞きたいし。」
そう言って二人で屋台の来るのを待つことにした。


そして夜、昨日と同じ時間に同じ屋台がまわってきた。看護婦さんがどんぶりを持って下へ降りていった。下の方からラーメン屋さんと話している声が聞こえてくる。昨日とは違ってずいぶんと距離を感じる。

しばらく経って看護婦さんが上がってきた。
「どうでした?あのラーメン屋さん、何て言ってました?」
川中さんも焦って聞いてみた。

「あのおじさん、確かに毎日のように来る人なんだけど、昨日は確かにこの建物の1階の人に呼び止められたって言うのよ。それでラーメンも窓から入れたって・・。

私が、『その買った人というのは、ちょっと声の高い、30代の男の人だったでしょ?』って聞いたら、『いや、手もかなりシワがあってやせ細ってましたし、あの声はどう考えても老人でしたよ。私はてっきり老人病棟の患者さんかと思ってました。』って言うのよ。


それで1階のどの窓に入れたのかを聞いたら、この部屋のちょうど真下に当たる部屋なの。あの部屋は今は使ってないし、夜、人がいるわけはないのに。何かお互いの話が全然食い違ってるわ。」

看護婦さんの話に背筋がぞくっとした。だが確かに昨日は窓からラーメンを受け取った。では、ラーメン屋さんが見たという、その細い腕は一体なんだったのだろうか。