Top Page  心霊現象の小部屋  No.92  No.90


No.91 友人の奥さんの行方

山中さん川島さんは、男同士とても仲の良い友人である。学生時代、2人とも同じ東京の大学へ通っており、そこのサークルで知りあった仲であったが、「男同士でデキてるんじゃないか」と、他の友人からからかわれるほど、いつも一緒に行動していた。

やがて2人は卒業したが、2人とも東京都内の会社へ就職したので、学生時代同様とまではいかないものの、しょっちゅう電話で話したり一緒に飲みに出たりもしていた。

やがて時は流れ、二人とも結婚した。結婚した後も交流は続き、今度はお互い家族ぐるみで遊びに行ったり飲みに行ったりなどの付き合いへと変わっていった。それは互いに子供が出来てからも同じだった。

できればこのまま一生、身近な友人でいたいと互いの家族が思っていたが、数年経った時、川島さんの方が四国へ転勤することとなってしまった。山中さんはショックではあったが、彼のために家族同士だけのささやかな送別会を行い、数日後川島さんは四国へと行ってしまった。


それからはちょくちょくメールのやり取りはあったものの、時が経つに連れてお互い仕事のある身であり、段々と距離が離れ、次第に年賀状だけのやり取りとなってしまった。

「中国・四国に来ることがあれば是非連絡して下さい。また一緒に一杯飲みましょう。」

年賀状には二年連続でこういった文面が書かれてあった。山中さんとしては、機会があれば会ってみたかったが、自分の母が入院していることもあり、なかなか東京を離れるわけにはいかず、結局何年経っても川島さんとの再会は実現しなかった。


ある12月の初旬、一通のハガキが山中さんの元へ届いた。差し出し人は川島さんの奥さんからである。

内容を呼んでびっくりした。川島さんが10月に亡くなり、喪中のために、年賀状は控えさせていただきます、といったことが書かれてあったのだ。

「川島が死んだ?そんな馬鹿な!」

「あいつが死んだのなら、その時に俺に連絡が来ないわけがない。川島とは家族ぐるみの付き合いで、あいつの奥さんも子供もよく知っている。連絡してくれれば会社を休んででも葬儀に行ったのに、なぜその時に知らせてくれなかったんだ?」

山中さんは、すぐに四国の川島さんの家に電話をかけてみた。しかし何回鳴らしても誰も出ない。奥さんの携帯にもかけ、メールも送ってみた。たが全く返事がない。

何日か連絡を取ろうと試みたが、相変わらず何回かけても呼び出し音が聞こえてくるだけであった。


山中さんは、以前川島さんにもらった名刺のことを思い出し、今度は川島さんの会社へ電話してみた。さすがに会社となると今度は電話が通じ、受け付けの人に川島さんのことを聞くと、やはり今年の10月に交通事故で亡くなったという。

この会社で、川島さんの家の電話番号を聞くと、それは数日前から自分が何回もかけている番号と同じものだった。やはり間違い電話をかけていたわけではなかった。

山中さんは、電話やメールで返事がないのなら、と、今度は川島家宛に手紙を出してみた。だが何日経っても返事は返ってこない。出した手紙が返送されて来ないということは相手に届いているはずだ。全く連絡してこない川島さんの家族に対してだんだんと腹も立って来た。

だがそのうちにだんだんとショックも苛立(いらだ)ちも和(やわ)らぎ、山中さんも川島さんのことがだんだんと頭から離れていった。


そしてそれから数ヶ月後。年が開けて夏も近づいた時、一通のハガキが山中さんの元へ届いた。

ある夜、山中さんが帰宅すると、奥さんが怯(おび)えたような顔をして「このハガキ・・、川島さんから来てるわ・・。」と、一通の暑中見舞いを差し出した。

それはごく普通に印刷された暑中見舞いのハガキであったが、余白の部分に

「ご無沙汰してますが、お元気ですか? 近いうちに東京に行くことになりました。出来ればまた一緒に一杯やりたいですね。」

と書かれてあった。


山中さんは、これまで川島さんから来た手紙や年賀状を引っ張り出して来て、筆跡を比べてみた。余白に書かれた文章も表書きも、間違いなく川島さん本人の字だ。

「どういうことなんだ?あいつ、生きているのか?」

ひょっとして死んだことにしなければならなかった、誰にも言えない理由があったのかも知れない。もしそうだとしたら、奥さんから何の連絡もないことも納得出来る。

これ以上あいつの家に電話をかけたり手紙を出したりすることはかえって迷惑になるかも知れないと思い、山中さんも今回はあえて連絡を取ろうとはしなかった。


それから数日が経ち、ある夜、山中さんは同僚と飲みに出ていた。2軒ほどまわってかなり酔っているのが自分でも分かっていたが、なぜか飲み足りないという意識があり、「もう一軒行こう」と、何人か誘ったが、誰も応じてくれない。

みんなもう帰るというので、仕方なく、山中さんは一人で行きつけのスナックへと向かった。店の扉を開けると中にはかなりお客がおり、一番奥のカウンターの席が2つほど空いていた。

そこに座って焼酎を注文し、一杯飲み終わった時、誰かが後ろから声をかけてきた。

「おう、すまん、すまん、ずいぶん待たせたな。」

誰だろうと思って山中さんが振り向くと、そこにはまぎれもない川島さんが立っていた。びっくりして一気に酔いがさめるような思いだった。

「川島!川島なのか、お前!」
「当たり前じゃないか。久しぶりだな。」

生きていたのか・・。まあ、いきなり事情は聞くまい。山中さんはそう思って以前と同じように、横に座った川島さんと他愛もない話を続けた。
1時間も経ったころ、やはりどうしても聞いておきたいと思い、会話が一段落したところで思い切って切り出してみた。

「川島、お前、死んだんじゃなかったのか?」

「ああ、死んだ。去年の10月に交通事故でな。即死だったよ。」

山中さんは、彼が冗談を言っているようにしか聞こえなかった。横に座っている川島さんは、実体のないようなものには見えず、全く幽霊などという感じではない。さっきから何度も肩が触れ合ったが、人間の感触が確かにあった。

「冗談だろ。」
「いや、確かに死んだ。今はいわゆる『あの世』って所にいるよ。」

「本気で言ってるのかよ。俺はお前のことが気になって、何度もお前の家に電話をかけたり手紙を出したりしたんだぜ。でも奥さんからは何の返事もなかったけどな。でもこの前の暑中見舞いでピンときたよ。死んだことにしなけりゃならない何かの理由があったんだ、ってな。で、奥さんと子供はやっぱり家にいるんだろ?」

「いや、さっきから俺が言ってることは本当だ。女房も子供も、家にはいない。今は俺と同じところにいる。一人でいるのは寂しかったから俺が呼んだんだ。」

「え?」

「そこでお前に相談があって今日は来たんだ。一緒にいる女房と子供が、私たち家族だけじゃ寂しいから、今度はお前を呼んでくれって言ってるんだ。

俺も是非お前に来てもらいたいと思ってる。お前は一人で来るかい?それとも家族全員、まとめてこちらへ呼ぼうか?」

山中さんは、じっと川島さんの目を見つめた。川島さんは本気で言っているようだ。

「いや、俺は・・まだこっちの世界でやり残したことがあるから、遠慮しとくよ。」

「そうか、出来れば早い方がいいんだが。まあ、また誘いに来るよ。その気になったらいつでも言ってくれ。」

そう言った瞬間、川島さんはどんどん透明になり、目の前で完全に消えてしまった。山中さんも酔ってはいたが、これまでのことは断じて夢や見間違いではないという確信があった。

「今までいたあいつは、幽霊だったのか・・?」

一気に冷や汗が出て腰が抜けるような思いがした。

「俺は断った、もう来ないでくれ、川島。」毎日そう思いながら生活する日々となった。幸いあれから川島さんからの手紙も訪問もまだない。だが、お誘いはまた今日来るかも知れない。