泉鏡花(1873〜1939)
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ちくま日本文学全集−泉鏡花−(筑摩書房) |
『雛がたり』『国貞えがく』『三尺角』『高野聖』『山吹』『天守物語』『縁結び』『歌行燈』『湯島の境内』
★★★感想と言うほどのものではなく、ただ印象のみですが・・・(^_^;)
『雛がたり』・・・春の夜の、雛の思い出。薄暗い真昼の、半開きの襖のむこうに見えた雛と、釣瓶の雫、なんだか映像的な。
『高野聖』・・・高野山の上人が語る話。若い修行時代のこと、親切心から分け入った山中で散々な目に会い、ようやく見つけた一軒の山家には、白痴の若い男と棲む美しい女がいた。一夜の宿を頼んだ彼を待ち受けていたのは。どこから魔界に入りこんだものか。清らかな涼しい声で謡をうたう白痴、「今夜はお客があるよ」と女に追い返された畜生どもの気配。そして驚愕の真相!なぜ助かったのか…「白桃の花だと思います」嬢様別してのおなさけじゃわ。
『山吹』・・・画家に声をかけた夫人は理不尽な婚家を出てきたのだという。魔界との境に居る夫人の行き着く先は。美しい、とあさましい、が一緒になると、凄まじいになるのか。
『天守物語』・・・「奇異妖変さながら魔所のように沙汰する天守」白鷺城の天守を支配する魔界の住人たち。文字でこそ感知出来る迫真。恐ろしくもあるが、舌長姥思わず正面にその口を蔽う、ところなどユーモラス。最後のめでたしめでたしにはちょっと笑える。
『歌行燈』・・・弥次郎兵衛と捻平が旅籠屋に呼んだ芸者の舞をみて感服。その仔細を聞いてみると。かたや門附が饂飩屋で語るのは。二つの話はすれ違い、行きつ戻りつ、やがて一つに繋がり大団円。
『湯島の境内』・・・「婦系図」のひとこま。有名な、早瀬がお蔦に別れを切り出す場面。「切れるの別れるのッて、そんな事は芸者の時に云うものよ。」ちなみに私は「別れろ切れろは・・・」と覚えていましたが。
※読みにくいのを覚悟でしたが、案外読みやすい。というのもこのちくま版では旧仮名は現代仮名づかいに直してあるし、ルビあるいは脚注なども多いのです。物足りない向きもありましょうが、日本文学を読む教育をほとんど受けていない私などにはありがたいことでございます(^_^;) |
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夜叉ケ池(講談社文庫) |
『夜叉ケ池』『海神別荘』『天守物語』
★★★鏡花の代表的戯曲。
『夜叉ケ池』・・・日に三度、明六つ、暮六つ、丑満に鳴らすのが定めの鐘。それはむかし、人と、夜叉ケ池に封じ込まれた龍神との間に交わされた約束。一度でも忘れると、龍神は思うままに天地を馳すると。人間に比べて魔界の住人のなんと義理堅いことか。それゆえに容赦はない。人間どもが何やらごちゃごちゃと、そんなものはこの凄まじき電(いなびかり)とともに。そして後には…月。
『海神別荘』・・・海底の国の公子のもとへ、陸の国からお輿入れ。その美女は身の代とひきかえに、女房につきそわれ、黒潮騎士に守られて、やがてこの琅カン(漢字が出ない!)殿へ。色とりどり、というか、総天然色という感じ。鯛や比目魚の舞い踊り〜♪のイメージがあるなあ、と思えば、この公子、乙姫さまの弟とのこと。お七のはなし、引廻しの刑罰のはなしなど、何やら妖しくも美しく、この海底にぴったり。
『天守物語』・・・これは↑のものと同じだが、旧仮名づかい。一度読んでいるせいか、非常に理解しやすい。この本のほかの二編も旧仮名だが、できうれば旧仮名で読むほうが雰囲気がやはり・・・。慣れればそんなに難しくないかも?しかし、ルビは必需品ですね。 |
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高野聖・眉かくしの霊(岩波文庫) |
『高野聖』『眉かくしの霊』
★★★ともに代表作。
『高野聖』・・・これは↑に雑感を書いています。再読しましたがやっぱりいい。(やあ、だいぶ手間が取れると思ったに、御坊様もとの体で帰らっしゃったの)というセリフにいまさら気がつく。ぞくぞくと妖しげでなぜか可愛らしくもあるこの女の正体って?
『眉かくしの霊』・・・木曽街道、奈良井の宿に侘しげな旅籠屋、そとには奈良井川の瀬が響く。「鷺が来て、魚を狙うんでございます」ちゃぶり、と湯の音、提灯…振り向く首筋に見えるのは姿見に向かううしろ姿。夢から覚めた境が宿の料理番から聞いたのは、桔梗ケ池の奥様とお艶の因縁話。幽という字がとても似合う、音と色と気配を味わいたい。筋にとらわれるひとはいないと思う。二つ巴の提灯、池の鯉、桔梗の青、山の黒、雪の白、山火事、鏡に向かって化粧する女、一面の水・・・どこに魔が隠れていても不思議ではないような。 |
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外科室・高野聖(角川文庫) |
『義血侠血』『夜行巡査』『外科室』『高野聖』『眉かくしの霊』
★★★巻末に鏡花の年譜が収録。
『義血侠血』・・・「腕車よりおそかったら代は戴きません」美女を引っ抱えてひらりと馬に跨り人力を追った馬丁村越とその美女が再会。美女は水芸の太夫として評判の「滝の白糸」。侠気から村越の学資を貢ぐことになった白糸が犯してしまった罪により、検事として凱旋した村越と白糸は裁判の場でふたたび会いまみえる。なんとも救いようのない結末である。いわずとしれた「滝の白糸」の原作。
『夜行巡査』・・・職務遂行の鬼であった。「職掌だ」と言い残し、愛する女との間を引き裂いた憎むべき老人の危機に、死を賭して彼を救わんとした巡査の行為を人は仁と称するが。この老人が怪物。死んだほうがずっとましだがこういう人は生きつづけるに違いない。やや面白みに欠ける内容。
『外科室』・・・「私はね、心に一つ秘密がある」譫(うわ)言をいうことを怖れた伯爵夫人は、外科手術での麻酔を拒否。外科医高峰のメスは胸を切り裂き、夫人はそのメスに片手を添えて…。「あなたは、私(わたくし)を知りますまい!」「忘れません」あまりに唐突な幕引きに、ニブい私は三度読み返した。この小説のために作者はどれほどのものを書き、どれほどのものを削ったのだろうか。最後の一行にはなにやら心がおののく。映画化されたものは見ていないが、これに肉付けするという行為は骨の折れることだったに違いない。 |
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