レディに捧げる殺人物語(犯行以前)A Murder Story for Ladies(Before the Fact) | 1932 |
フランシス・アイルズFrancis Iles(鮎川信夫訳・創元推理文庫) | |
「世の中には殺人者を生む女もあれば、殺人者とベッドをともにする女もある。そしてまた、殺人者と結婚する女もある。リナ・アスガースは、八年近くも夫と暮らしてから、やっと自分が殺人者と結婚したことをさとった」金にだらしなく、道徳観念に乏しい、しかしとっても魅力的なジョニー。リナは新婚旅行のときすでに、ジョニーに不安を感じ始めていたのだ。 ★★★アントニーバークリーがフランシス・アイルズ名義で発表した第二作目。サブタイトルは『犯行以前』。 上↑のあらすじで紹介したのがこの作品の冒頭部分。これがこの作品のほぼすべてでして、あれこれ書くとネタバレっていうか(^_^;) しかし、たいそう面白かったです。結構ながい作品なのですが、起伏に乏しい地味な展開。主人公のリナはあれこれ悩みつづけるばかりでな〜んにもしない。リナの夫で道楽者のジョニーは、これでもかっていうくらい類型的な人物に描かれていて、何の味わいも深みもない。・・・っていうか、登場人物すべてが分担された役割を果たしてるって感じなんですが。しかしそのことが、この実に技巧的な作品の中で素晴らしい効果をもたらしているのですね。 人間がこういう行動をしたら、こういう心理が働いて、周りにこういう影響を与え、結果こういう現象が起こる。そうねそうだよね、ううん、アイルズってばホント、人が悪い!でも上手い〜!!・・・読んでてずっとそう思ってました(笑) とにかく、ひたすらリナの心理を追っていくだけなんですが、本当に面白かった。当時のまあまあの家庭のお嬢さんであるリナの、ご令嬢的無知と知識欲旺盛な先進性、淑女の奥ゆかしさと頭のなかの性的煩悩。実に興味深いサンプルです。 そんなリナがとうとう最後に知ってしまう愕然とする事実とはっ?ま、当然の帰結なんですけど、それに対するリナの反応というかその過程というかが、もう凄ぉくサスペンスフル。ネタバレになってしまうので、もうこれ以上書けましぇん。 『犯行以前』というタイトルがいかにもいい得て妙って感じです。ラストはリナとジョニーの究極の愛の形っていうか、最も満足のいく形っていうか(^_^;)お互いに感極まってますが、その真相ははてさて? リナは多分、ジョニーと結婚して、幸せだったんだろうと思います。これ以外の結婚生活では、きっと退屈して退屈して、退屈死にしてしまったに違いありませんもの(^^) | |
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割れたひづめMr.Splitfoot | 1968 |
ヘレン・マクロイHelen McCloy(好野理恵訳・国書刊行会) | |
「ポルターガイスト作戦だ。ノックの音、ラップ音さ。今夜のディナーは何時?」ルシンダとヴァーニャは大人を怖がらせる作戦を思いついた。そしてその夜、ルシンダの呼びかけにラップ音は答えた。「わたしがやるようにやってごらん、割れ足さん!」トン、トン、トン…。しかしそれはヴァーニャの仕業ではなかった。しかもその夜、不吉な伝説の残る部屋に泊まった男が伝説どおりに死体で発見されるという事件が起こる。雪に追われ、たまたまその邸に滞在していた精神分析学者ウィリング博士がその謎に挑む。 ★★★ヘレン・マクロイの後期代表作。 大雪のなか、山中に迷い込んだウィリング夫妻。妻のギゼラは足をひどく痛めてしまった。最初にみつけた邸に助けを求め、ようやく居間に泊めてもらうことができそうだ。主人によると今日はホーム・パーティで、寝室がふさがっているのだと言う。しかし滞在客のひとりジヴネラは不審に思う。「階段を上がってすぐのところに、空いている寝室があるのをよくご存じでしょう。あの部屋のどこがいけないんですの?」 大人になりかけの不安定な年頃の、しかもコンプレックスをかかえた女の子と、ちょっと偉そうな男の子。二人は大人達を驚かせようといたずらを計画します。ところがこれがとんだ騒ぎに発展し、とうとう伝説の開かずの部屋に誰かが泊まって、忌わしい言い伝えを打ち消そうということに。その伝説とは、その部屋に泊まった人間が必ず翌朝には死んで発見される、というものだったのです。 出だしはたいそう魅力的で、雰囲気ばっちり、謎もばっちり、という感じ。登場人物もなかなか凝ってて妖しげだし、二人の子供(実際には子供という年齢でもないと思うんですが、妙〜に幼く描かれてます)が作った噴飯ものの手紙に対する、当事者たちの反応とか、面白かった(笑)しかしまあ、読みどころというとそのへんでしょうか。行間に漂う情景描写の美しさや的確さは確かに素晴らしいと思いますが、やや意味の無い部分に頁を割きすぎなのと、起伏に乏しい展開がなんとなく物足りない印象でした。 | |
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魍魎の匣 | 1995 |
京極夏彦(講談社) | |
「楠本頼子は柚木加奈子のことが本当に好きだった」そして二人は湖に映る月を見にいく。夏休みの三番目の金曜日。加奈子は駅のホームから転落し、瀕死の重傷を負う。ちょうどその場に居合わせたおかげで事件に関わることになった木場修太郎は、要領を得ない頼子の証言に、つくづく後悔していた。しかし、やがて加奈子の姉と名乗る女が登場し、木場は驚き動揺する。それが木場と木場のアイドル、女優美浪絹子との出逢いだった。瀕死の加奈子はやがて美馬坂近代医学研究所に搬送され、謎の失踪を遂げることとなる。 ★★★京極堂シリーズ第二弾。 いきさつの判明しない駅のホームでの転落事件。たまたま居合わせたばかりに当事者の頼子から事情を聞くことになった木場修は、やがて規律違反を犯してまでこの事件に関わることになる。なぜか?「・・・つまり木場は陽子を外敵から護ってやる箱になったのだ。敵がいったい何なのか、それは皆目見当がつかなかったけれど、その得体の知れぬモノから陽子を護ってやれるのは、たぶん自分以外に考えられないだろう。それこそが自分がここに来た本来の目的であるように、木場は錯覚した」−てなわけで、木場修は陽子(絹子)に恋をしてしまったのだ。そのことのみが木場修をして、この面倒な事件に関わりつづけさせることになる。 お馴染みの関口クンは、カストリ雑誌編集者鳥口の口車に乗せられて、連続バラバラ殺人事件の記事を書くことになる。ところが鳥口の信じられない方向音痴ぶりが思わぬ方向へ関口を導く。美馬坂近代科学研究所・・・その巨大な箱を思わせる建物から、加奈子が忽然と姿を消したのだ。加奈子は誘拐されたのか?実は加奈子は、日本の富の何分の一かを所有しているという、さる財界の大物の直系だったのだ。 面白かったです〜。前作よりずっと面白かった。京極堂をはじめ、関口クンも榎木津も健在。木場修はなんだか可愛らしい恋愛をしているし(本人は可愛らしくない)、新しく鳥口というキャラも登場。この人、これからもずっと出るのかな?結構気に入ったし〜♪ ストーリーはなんだか複雑。久保、なんて作家も登場して関口クンを圧迫する(精神的にね 笑)。妙な作中作も気になる〜。京極堂の薀蓄はまあ、それなりに読み飛ばして(?)榎木津が父親から無理矢理事件を押し付けられるあたりが面白かった。このお父さんは傑物って感じで良い良い(^_^)「偉かあないな。糸屋の社長だ」って、爽快じゃん。榎木津はやはり好きなキャラです。ああ、作者の思うつぼにはまってる気がする…(爆) で、複雑なストーリーで、いろんな人が登場するのですが、ま、加奈子と頼子の二人の少女のこととかを克明に描いているあたり、結局あんまり意味がないような(^_^;)サイドに散らばるストーリーはそんなには面白くなかったです。御筥様とかもね。しかし、これらをまとめ上げる核となる部分が凄い〜!匣と旅する男。『「誰にも云はないでくださいまし」男はさう云うと匣の蓋を持ち上げ、こちらに向けて中を見せた。匣の中には綺麗な娘がぴつたり入つてゐた』うう〜ん、この画!なんかスゴいっす。幸せって、何なの?みたいなことを考えさせられつつ、匣の蓋を開けては話し掛けている、という情景が目に浮かぶ。鬼気迫る、というより寧ろ微笑ましく。ああ、私も匣の中に入ってしまいたいっ(壊)。ぴったりと。きっと人が誰か(多分愛する人)に「ぎゅっと抱きしめられる」感覚に快感を覚えるのは、みっしりと詰まって隙間がないということに安心するからではないか知ら。などと、ちょっぴり作中作の作者に共感を覚えつつ(それも怖い ^^;)この画、このイメージ、この一点だけでこの作品大成功!と思えるのでした。 | |
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金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲 | 2002 |
赤川次郎・有栖川有栖・小川勝己・北森鴻・京極夏彦・栗本薫・柴田よしき・菅浩江・服部まゆみ(角川書店) | |
アンソロジー。『無題』『キンダイチ先生の推理』『愛の遠近法的倒錯』『ナマ猫邸事件』『月光座』『鳥辺野の午後』『雪花散り花』『松竹梅』『闇夜にカラスが散歩する』 ★★★ミステリ史上に燦然と輝く名探偵に現代気鋭の作家が挑む。とのこと。 『無題』(京極夏彦)−夏前に散々な目にあい、その脆弱な神経をずたずたにされた関口くんが、ある暑い日に出会った初老の紳士とは。・・・ああそうそう『魍魎の匣』よみました。感想書かねば(^_^;)ま、それはともかく、アンソロジーの入りとしては良いのでは。なんで『無題』なのか、なんで『陰魔羅鬼の疵』より抜粋なのか、事情通でないあたしにはぜんぜん分からないけど。横溝正史がいやにお上品(笑) 『キンダイチ先生の推理』(有栖川有栖)−ミステリファンの中学生とミステリ作家が解き明かしたミュージシャン殺人事件。・・・ま、それなりに楽しい作品。内容よりも、岡山県真備町に是非行って見たくなるところがミソ。 『愛の遠近法的倒錯』(小川勝己)−事件を終え静養に来た金田一に久保銀造は、酒の肴といいつつある事件の話を。・・・雰囲気は良く出てる。短いのによく練れた作品。ただべっとり絡みつく湿った感じがもう少しあったらなあ。動機は興味深い。こういうのは好き。 『ナマ猫邸事件』(北森鴻)−「教祖様、おりんが帰ってまいりました」鈴の音と共に発見されたのは、ナマ猫真教教祖の首なし死体だった。・・・うはは、メチャ面白い!最高!!顔の無い死体の真相(及びその理由)、こりゃ金田一も考えつかなかったかも(爆)ラストも秀逸。『黒猫亭』のパロディってことだけど、そうかなあ〜(笑) 『月光座』(栗本薫)−なつかしい稲妻座…幽霊座が新しい芝居小屋「月光座」として復興するという。そのこけら落しの演目は「鯉つかみ」。不安な思いを胸に金田一は舞台を見つめていた。・・・元の作品がネタバレしているような気もするが、つかみ所は面白い。でも、ちと甘いな〜、好みではないかも。 『鳥辺野の午後』(柴田よしき)−小説家の私と、大学時代の同級生で編集者の由紀子。二人の微妙な関係はやがて恐ろしい結末を。・・・ううむ、ま、作品としてはきちんとしている。面白くはないけど。金田一など盛り込まずに、普通の短編として書いたほうが制約がなくって良かったのでは? 『雪花散り花』(菅浩江)−「金田一探偵事務所」に依頼人が。祇園のクラブに勤める満枝は旦那を自殺で亡くしたばかり。ところが妙なハガキが送られてきて。・・・探偵三人のキャラは面白い。キムをもっと活躍させんかい!ストーリーはちと作りすぎかな。「ヨコミゾ的美学」は残念ながら覗えなかったかも。 『松竹梅』(服部まゆみ)−医者にかかった金田一は、その病院の院長の母タケの看護婦が殺されるという事件に巻き込まれてしまう。・・・これは面白かった。ババアの造詣も宜しいですね。歌舞伎を無理矢理入れている感はあるけど。最後のどんでん返しも「らしい」って感じ。 『闇夜にカラスが散歩する』(赤川次郎)−列車の中はまるで別の次元に迷い込んだかのようだった。そこへ乗り込んできた一人の男がおもむろに言う。「闇夜にカラス」。・・・ごちゃごちゃしてよくわからないが、読み返す気にもならず(爆)私、のキャラがなんか安定してない。最後には中学生かと思った(実は27)。 アンソロジーは久しぶりに読んだ。好き嫌いが如実に出るので、辛口になったものにはどうもごめんなさいです(^_^;) | |
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レイトン・コートの謎The Layton Court Mytery | 1925 |
アントニイ・バークリーAnthony Berkeley(巴妙子訳・国書刊行会) | |
「レイトン・コート」の主人、ヴィクター・スタンワース氏は、友人たちによるとまったく立派な人物という評判だった。温和な六十がらみの老紳士で、かなりな財産家で、気前が良くて。弱点というと、写真週刊誌に載っているような人々へのややあからさますぎる関心といったところが、まあ些細なことで短所というほどではない。そんな、何の心配事もなさそうなスタンワース氏が死んだ。密室の中で、遺書を残し、頭を打ち抜いて。たまたま偶然にもレイトン・コートに滞在していた作家のロジャー・シェリンガムは不審な匂いをかぎつける。「彼は殺されたんだ!」 ★★★バークリー長編第一作。ロジャー・シェリンガム初登場作品です。 レイトン・コートの主人スタンワースの自殺は、一見明白なように見えます。密室あり(シェリンガム自身が確認している)、遺書あり(少々簡単すぎる嫌いはあるけど)、使われたと思しき拳銃はスタンワース自身の手の中にあり。ただ、動機は?ま、それも「その人なりの立派な理由があるからだろうよ」というわけで、余人には窺い知れぬ苦悩があったに違いありません。ただ、どうにも腑に落ちないのは、「いったいどうして、スタンワースの額のまん中に傷があったんだ?」ってこと。こんな不自然な姿勢で自殺する人間がいるものだろうか?さらに、滞在客や秘書の、スタンワースの金庫をめぐる不審な行動は、シェリンガムの探偵魂を煽り立てることになるのでした。 いや〜、面白かったです(^^)シェリンガムというと、噂によると、でしゃばり暴走探偵のイメージですが、初登場のこの作品でもその片鱗が見えてますね。自明(としか思えない^_^;)の事実から自明の推理を働かせつつ、しかもその推理は二転三転。ワトソン役のアレックは引きずりまわされた挙句、意味不明の騎士道精神を発揮してシェリンガムをイライラさせるし、なかなか良いコンビですね。真相に辿り着くまでのシェリンガムの迷走ぶりが楽しくて、突込みどころ満載ではあるのですが、まああえて突っ込むまいと(笑)しかし、暴走迷探偵シェリンガムが次々と見つける重大な手がかりに、地元の警察がまったく気がつかないというのは、どういうことなんでしょう(^_^;)マンスフィールド警部は「仕事に必要なだけの想像力を備えて」いるという噂だったのですが、それも怪しいですな(笑)真犯人は・・・これもまた自明なのですが(^^)ま、告白以外にはこれといった決め手もないような気はするのですが、意外にも最初から伏線があったりするので、侮れません。 バークリー(アイルズ)の作品については、もう少し苦くて辛辣、登場人物にも冷たいという印象をもっていたのですが、この作品にはそういうところはあまり感じられません。それぞれの人物に役割分担をしっかりさせたうえで、はねっかえりのシェリンガムを上手く動かしているというか。読者を楽しませようという姿勢の感じられる作品だったと思います。 | |
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飛蝗の農場The Locust farm | 1998 |
ジェレミー・ドロンフィールドJeremy Dronfield(越前敏弥訳・創元推理文庫) | |
キャロルは夢をみていた。走る夢。夜の嵐の中を走る。救いを求めた家では、戸口で締め出される。出て行って!納屋までとぼとぼと歩いて…?突然キャロルは気がつく。締め出した女の顔は私だった、と。そして今、まぎれもないうめき声とため息が納屋から漏れてきた。キャロルはショットガンを掴んで、戸口のまばゆい長方形に浮かぶ黒い人影に向かう。銃口が火を吹く。男に応急処置を施すキャロル。男は記憶喪失だというのだが・・・?すぐにも出て行くという男を、キャロルは引き止める。こうして、奇妙な共同生活は、始まった。 ★★★2002年「このミス」海外部門第一位! 表紙の見返しのところに書いてある「登場人物」はたった三人。キャロル(農場主)・ロザリンド(その友人)・スティーブン(?)。それにしては、話の初めからたくさんの人が登場する。まずはナイジェル・インクペン。散髪屋で目にした何かの記事に驚いた挙句、髭剃りの途中で身動きして怪我をおったナイジェル。動揺しつつ家に帰った彼を待っていたものは一通の手紙だった。差出人は「汚水溝の渉猟者」。彼を追い詰めるのは、一体何者なのか? というわけで、ストーリーの一つの柱は、キャロルと記憶喪失の男(スティーブン)の、偶然に始まった共同生活。自身が過去に大きな問題を抱えているらしいキャロルは、ヨークシャーの荒涼たる土地の農場で孤独な生活を送っていた。友人といえばロザリンド(ロズ)ひとり。それはロズの強い性格に支配されたようないびつな友情でもあった。転がり込んできた男(スティーブン)の記憶喪失もかなり怪しい。一体男は何者で、何を隠しているのだろうか。 その一方で、時空軸をバラバラに、いくつかのサイドストーリーが展開される。ナイジェル、ポール、ミシェル、マイケル…。一体どうなって行くのか、話の展開が全く読めないところがなかなか面白い。 サイドで進む物語の一つ一つは興味深く読めた。ちょっと変わった話ばかりで、妙に不必要と思えるエロチックさがあるのが気になるが(笑)、これが今後どう絡んでくるのかしら、ワクワク、って感じ。それに比べると、本筋と思われるキャロルとスティーブンの物語の方はどうも退屈だ。キャロルという人物がどうもピンとこないのよね〜、深みがありそうで、でもなんか薄っぺらい感じもして。お前は一体、どうしたいんだよお〜っ!みたいな(笑)ストーリー展開のための存在という感じで終始したのは残念。 で、まあ、だんだんキャロルの過去が暴かれたりするうちに、サイドストーリーとの絡みもはっきりしてきて、パズルが嵌るごとく全体像が明瞭になっていくのだが。ま、ぶっちゃけていうと、折角ここまで面白い話を紡いできたのに、全体をまとめ上げる大事な核となる部分にあまり求心力がないな〜という感じを受けた(^_^;)なるほど、サイコ・サスペンス・ホラーっていうことなんだろうけど。サイコというには、ちょっとインパクトが足りず(「汚水溝の渉猟者」って名前だけはすごいんだが)、サスペンスというにはハラハラドキドキの迫力がなく、ホラーというには・・・飛蝗って何の意味があったのか、誰か教えて欲しい(爆!)読み落としたのかなあ〜?それとも宗教的な意味合いでもあるのかなあ〜…結局、わかんなかったっす(^_^;) 驚きどころもイマイチ分からなかった。どこで驚くべきだったのだろう(きっと私が鈍いんだろうなあ〜^^;)。ラストは、やはりこうなるんでしょうね、うん、これしかない。・・・というわけで少々辛口。やっぱ「このミス」一位ってことで期待が大き過ぎたってことで(^^ゞ | |
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さむけThe Chill | 1963 |
ロス・マクドナルドLoss Macdonald(小笠原豊樹訳・ハヤカワポケミス) | |
法廷で弁護側の証人として証言を追えた私(リュウ・アーチャー)に、一人の青年が話しかけた。「あなたは経験豊富な探偵さんですね?」青年(アレックス)の依頼は、新婚旅行の夜に行方不明になった妻を捜して欲しいと言うものだった。妻(ドリー)はその日の午後、鬚の男と面会した後で、ホテルから出て行き忽然と姿を消したのだという。青年の依頼を引き受けることにした私は、鬚の男の正体を突き止める。自分の娘に似たドリーと話をしてみたかっただけだという彼の話に不信感を抱く私だったが、やがてドリーが大学生として、ある老婦人の運転手のアルバイトをしていることが分かる。 ★★★初めて読みましたロスマク! 「私」こと私立探偵リュウ・アーチャーに持ち込まれた依頼は、新婚ほやほやで失踪した妻を捜して欲しいというものだった。結婚を嫌がっているだけなのでは?しかしアレックスは「ドリーは僕をまちがいなく愛していた」と断言する。しかし、ドリーには頑ななところもあったらしく、両親のことを尋ねたアレックスにひどく怒ったという。いささかファザコン気味のアレックスを持て余しつつも、ドリーに対する真摯な愛情になにがなし心を動かされた私は、依頼を引き受けることに。困難に思えた事件だったが、事態は意外と早い進展を見せ、アレックスはドリーと再会を果たす。だがそれは、ドリーが自分のせいだと主張するある殺人事件の渦中に巻き込まれることを意味していた。 う〜ん、面白かったです。ハードボイルド(で、いいんでしょうね、こういう作品の定義って?)は、さほど得意な分野ではないのですが。なぜって、なかなか探偵さんが好きになれないケースが多いからなんですよね〜。しかし、リュウ・アーチャーは気にいりました(^^)暗い過去かなんか、多分引きずってはいるのでしょうけど、さほど自己憐憫も強くなく、アル中でもなく、適度にドライで、適度にウエットで。この人(探偵)自身の人生が、作品の主人公になってないところが、好感持てましたね。 物語は、話が案外トントンと進むので、読みやすくてよかったです。こういう作品って、えてして、きっと最終的には関係してくるんだろうなあ…みたいなちっこい事実がぽつぽつと断片的に提示され、しかもそれがすごくさりげないことが多いので、読んでて気が抜けなくて疲れるのが常なんですが、今回はそれほど疲れなかった。しかし、構成はひどく複雑で、登場人物も複雑きわまりない人たちばっかりで、よくまあ最後にまとめ上げたなあ〜という感じでした。ちょいと無理無理な感じもしますが、渋くまとまったラストには撃たれてしまいましたね〜。 しかし、登場人物は悉くイヤなやつばっかり。最初の依頼の奥さん探しのときは若夫婦が主役かと思ったら、すごく長い時間をかけて醜悪な人生を生き抜いてきた老人とそれに翻弄された人々の悲劇が描き出されていて、なかなか深みのある作品でしたが、それだけに「嫌な話だったな〜」という印象が残るのも確か。アーチャーの一歩ひいたシニカルな視線が、それを救っているのかもしれません。 | |
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英国風の殺人An English Murder | 1951 |
シリル・ヘアーCyril Hare(佐藤弓生訳・国書刊行会) | |
マークシャー地方きっての古い家柄を伝える屋敷であるウォーベック邸は、クリスマスを控えて猛烈に冷え込んでいた。当主ウォーベック卿は年老いて病の床に伏せっていたが、一族をクリスマスの祝いに召集していた。息子にして「自由と正義連盟」指導者のロバート、ダウニング街の大物、大蔵大臣サー・ジューリアス(卿の従弟)、貴族令嬢レイディ・カミラ、次期大蔵大臣と噂されるアラン・カーステアズの夫人。このごく内輪のはずの集まりに、屋敷に居合わせた歴史学者ボトウィンク博士と、なぜか忠実なる執事ブリックズの娘スーザンも。奇妙な緊張の高まるクリスマスの晩餐のあと、ロバートは死の杯を干した。 ★★★もともとはラジオ用の戯曲の、小説化だとか? 部屋数が53(たしか)もある広大なカントリーハウスは、クリスマスを迎えて雪に閉じ込められていた。今年が最後になるかもしれない屋敷の主人のために、集まった一族たち。祝福されるべきクリスマスの夜にしては、彼らの間には不穏な空気が流れていた。左翼団体の指導者ロバートは、保守派の大物サー・ジューリアスに対する敵意を隠そうともしない。しかし、ロバートが密かに抱えていた問題は、じつは執事ブリックズの娘スーザンと関係があるらしい。レイディ・カミラはそんなロバートの様子に心を痛め、カーステアズ夫人のお喋りはとどまるところを知らない。かくして、悲劇は起こった。ロバートの飲み干したシャンペンには、青酸カリが入っていたのだ。 「英国風の殺人」とは、いい得て妙、としか言いようのない題名ですね(^_^)舞台装置としての「貴族の持ち物の田舎屋敷」「雪のクリスマス」「外界から遮断されたエリア」・・・これは好きな人にはたまらない設定ですね。もちろん私は大好きです〜♪ 眼目の「犯行の動機」が、ちょっと日本人には分かりにくいというハンディは確かにありますね(私は謎解きをしながら読む、ということをしないので全然問題ないんですが^_^;)。しかも、ほとんどこの一点のみが読みどころなので、物足りない向きもあるかもしれません。犯人の実際の行動等はあんまり検証されていないし、決め手もやや弱いという嫌いはあります。しかし、この「動機」ひとつで、視点が逆転していく感覚はなんともいえません。楽しかった〜(^_^)探偵役に外国人のボトウィンク博士を使うことで、より「英国風」を際立たせていますが、イギリス人って、自らの「英国風」に誇りを感じつつ、ちょっと突き放して見てる感じが面白くって好きなんです。 やはり、作品もつ雰囲気ですね、特筆すべきは。ゆとりとか、格調高さとか、趣味の良いユーモアとか、、、すでに言い尽くされている賛辞をここであえて書く必要もなさそうですが、本当に良いです、この感触。何度読み返しても、楽しめる作品だと思いますね。ま〜、これは全く、個人的な好みとしか言いようがないですが、やはりイギリスミステリは最高です、うふ♪ | |
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