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洞窟の骨Skeleton Dance 2000
アーロン・エルキンズAaron elkins(青木久惠訳・ミステリアスプレス文庫)
旧石器時代の洞穴から人骨が発見された。担当のフランス警察ジョリ警部は友人の人類学者ギデオン・オリヴァーに鑑定を依頼した。骨はどうやら射殺されたもので、凶器はライフル空気銃であろうということが判明する。当地では、数年前「タヤックの老人」にまつわる捏造事件が起きており、骨はその事件に関係したブスケという人物のものではないかと思われたのだが、ギデオンがさらに骨を鑑定することを阻止するような事件が起きたり、実は骨は捏造事件を企んだのか、それとも騙されたのか不明のまま事故死したカーペンターのものであるということが判明する。ではカーペンターの事故死は殺人なのか?複雑に絡み合う先史文化研究所の人間関係に隠された真相とは一体?
★★★「スケルトン探偵」ギデオン・シリーズ第九作。
相変わらず仲のよいオリヴァー夫妻(ギデオンとジュリー)に当てられっぱなしですが(^^)ここのところ、キャラに頼りすぎじゃない?と思っていたこのシリーズ、今回はかなり原点に返っていい作品に出来上がっていると思います。
まず、犬が掘り出したことで発見された骨が一体誰のものなのか?ということから始まって、発掘品捏造事件だの、その後の飛行機事故だのと、特に派手な展開もないのですけど、謎が謎を呼ぶ、という感じでひっぱってくれます。お約束のギデオン襲撃事件も(期待にたがわず)起こりますし^_^;私の場合、ギデオンが骨から読み取るさまざまな真実を、楽しんで教えてもらうって感じで、あんまり謎解きには熱心じゃないんですけど。ただ、今回は一点気に入らない点が(ーー;)犯人が・・・である、ということには異論はないのですが、・・・がたまたま・・・だった、というのがちょっとね。でも、私が気が付かなかっただけで、ちゃあんと伏線があるのかもしれないけど(^^ゞいずれ、この点を頭に入れて読み直してみよう。
骨に関する薀蓄が楽しいのも、相変わらずだし、先史文化研究所の面々の人物像も面白い。素人からみても、いかにもね^_^;って言う雰囲気をかもし出してますよね。ポーピエールとか最高。ドクター・ルーシーヨもいい感じです。う〜ん、このシリーズって、魅力的な人がたくさん出てくるので、それがこのシリーズそのものの魅力になってるんですよ〜(*^^*)
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人形館の殺人 1989
綾辻行人(講談社文庫)
「私」飛龍想一と叔母(養母)沙和子は、父高洋の残した「緑影荘」に移り住んだ。日本家屋の母屋と、西洋風の離れからなり、離れは学生向けのアパートとして貸し出されている「緑影荘」には高洋の残したマネキンがそこここに配置されている。ところが、そのマネキンたちは全て、体の一部が欠損しているのだ。ある日、アトリエにしている土蔵に、血まみれの人形が置かれる、という事件が起きた。ちょうどその頃、町では連続通り魔事件がおこり、想一の身の回りにも不審な出来事が頻発するようになる。それはやがて明らかな脅迫となり始め、ついには沙和子が焼死する事件が起こる。想一の脳裏に去来する風景の示唆するものとは?
★★★「館」シリーズ第四弾。
この作品は、「悪い予感があたった」というのが率直な感想でした。二人目はだいたい予想がつきますよね。三人目も・・・まさかね〜と思いつつ。
これが真相である、というならば、何でもあり、になってしまうわけで・・・しかし、視点を変えて読めば、「人形館」は、ある意味では違ったかもしれないけれども、やはり他と同様に人の運命を狂わす館の一つであったのだということを、強く感じました。形はどうあれ、これもまた「館」シリーズ、なんですよね。
しかし、本音のところ、これは私の読み不足であろうと感じております。なんだか、割り切れないものが残る作品です。(架場さ〜ん、君の正体が分からないよ、君はなぜ、あえて「彼」を放っておいたのですか)もう少ししてもう一度、いや二度くらい読むと、ああそうだったのか・・・!と思うことがあるのではないか、と望みをつないでおきます。
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迷路館の殺人 1988
綾辻行人(講談社文庫)
推理小説界の老大家、宮垣葉太朗の住む屋敷「迷路館」に集合した四人の作家と、評論家、編集者、ミステリマニアの七人を待ち受けていた運命とは。宮垣の還暦を祝うパーティーのはずが、実は直前に自殺を遂げた宮垣の、莫大な財産の後継者を決めるための推理小説コンテストと変貌したとき、恐るべき惨劇の幕は切って落とされた。廊下が複雑な迷路状に入り組んだ「迷路館」を舞台に、四人の後継者候補を次々と姿なき犯人が襲う。しかも、自らの書いた殺人方法に従って・・・?
★★★建築家中村青司の手による館を舞台にした「館」シリーズ第三弾。今回の舞台は「迷路館」ですが、この屋敷の平面図を見ただけで頭がくらくらしてきますね〜。方向感覚ゼロの私だったら、一日中迷子になっていること請け合いです(^^ゞ
ストーリー構成が、作中作という形をとっているので、これが何を意味するのかなあ、と考えつつ読んだんですけど。読み進めるうちに、四人の作家も作品を書く、ということになってくるし、今読んでいるこの話って、ホントのこと?それとも小説の中のこと?とずっと疑いつつ読む羽目になってしまいました。
謎に関して・・・私はほとんど最後のへんまで、「え〜(ーー;)・・・」と思いつづけていたんですよ。だって・・・ダイイングメッセージとか(手元に現物がないので、確認できなかった)、迷路館の特徴を生かした誘導とか、自分の書いたとおりに殺されるとか、さらには「犯人」にしても・・・ありがちじゃん!これが真相です、って言われてもねぇぇ・・・と偉そうに(とほほ〜)
でもね、私の詳しくないギリシャ神話の「名前」の中に、何かきっと謎が隠されているに違いない・・・と最後まで望みを捨てずにいたら。やっぱりやられました〜(~_~;)これこそ、意外な真相、ってやつですね。やっぱり、私に見破られるような甘い罠であるわけないよねぇ。
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私家版Tire a Part 1993
ジャン=ジャック・フィシュテルJean-Jacques Fiechter(榊原晃三訳・創元推理文庫)
「ニコラ・ファブリはゴンクール賞を受賞する」悪魔が囁く予言が現実となったとき、「私」の仕掛けた時限爆弾は作動を開始した。アレキサンドリアの社交界のダンス・パーティーで出会って以来、「私」の心を虜にし、ずたずたにしたニコラ。一度たりとも「私」に目を向けようとしなかった親友ニコラに対する憎悪が、彼の作品『愛の学校』を見せられたとき、残酷な「懲罰」をニコラに与える引き金となったのだ。復讐の成就のために、この小説を利用できる・・・。「私」は恐るべき綿密さで、復讐のための巨大なジグソー・パズルにとりかかった。
★★★「本が人を殺す・・・」この本の帯の言葉って、どういうことだと思いますか?
「私」(明らかにゲイ)が、ニコラに対して抱きつづけた憎悪は、いささか理不尽です。自尊心と、自己否定。この狭間で苦しむ「私」の心理はとてもよくわかるのですが、ここまで・・・という思いはあります。「私」が唯一愛したヤスミナ、という女性の存在にしても、自己否定を正当化するための口実、のように思えます。かつて愛した人がいたのだ・・・という感傷に浸っている自分、という存在なら、受け入れられるけれど、ニコラを愛していたけれど、全然相手にされなかった、というのは決して受け入れられない、という訳でしょうね。もちろん、誰でも自分を正当化できることを、真実だと言いたいものですから。この作品はミステリのジャンルに入れるべきじゃなかったかも。なぜって、本が人を殺す、というテーマは確かにミステリではあるけれど、(この手法はなかなか面白かったです)本を凶器に人を殺したこの「私」の心の暗闇と、その復讐の罠にはまって、徐々に狂わされていくニコラの運命こそが、恐怖をよび起すのですから。う〜ん、しかしこの復讐の行方は・・・。因果応報なんてことは信じませんし、後日談にも興味ないですけど、やはり、この結末に理不尽を感じる人も多いでしょうね。
わたしは、ニコラみたいな人物はどこにでもいるような感じがするので、「私」にそこまで恨まれて、ちょいと可哀相・・・かな、と思ったんですけど。「私」はニコラに取り憑つかれていたと思っていたでしょうけど、ニコラのほうはそんな気は全然なかったものね。ああ、そこが問題だったのだわ。
はからずも「私」に愛されてしまったニコラの魂が、平穏な眠りにつけたとも思えないし、「私」にはまた、新しい悪魔が取り憑くんじゃないでしょうか。
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水車館の殺人 1988
綾辻行人(講談社文庫)
「水車の回る城」・・・水車館に今年も客が訪れる。去年までは四人だったが、今年は三人だ。去年のあの嵐の夜の惨劇を誰も忘れることなど出来ない。水車館の主人、藤沼紀一が、画家であった父一成の作品のコレクションの鑑賞を唯一許している、年に一度の一成の命日の夜、ゲストの一人の古川が紀一の友人正木を殺し、絵を盗んで逃げたあの夜だ。後には正木の切り取られた薬指と、焼却炉の中で焼け焦げた死体だけが残されていた。交通事故で傷を負った顔を、白い仮面に包んだ男と、幽閉された美少女が暮らす「水車館」に、いつもの客が訪れた日、再び惨劇の幕が開く。
★★★異才の建築家中村青司が設計した館を舞台にした『館』シリーズ第二弾。前作は孤島での惨劇というシチュエーションでしたが、今回も外界から遮断された山中の奇怪な屋敷で殺人事件が起こります。
まずは、一年前の謎を多く残したままになっている事件。古川は一体どうやって屋敷を脱出することが出来たのか?探偵役の島田潔は、古川犯人説に疑問を持っているようですが・・・。そもそも、発端は家政婦の転落死。これは一体事故だったのか?島田の出現によって、事件が再構成され、当事者であった一同が揃う中、またしても殺人が!
仕掛けに関しては、切り取られて残された薬指とか、焼け焦げた死体、それに白い仮面とか、なかなか物々しいのですが、やや分かりやすかったかな。犯人の「障害」(動機といってもいい)も、途中、脅迫状にまつわる描写でやや不審な点がありまして、それで分かっちゃいました。だから、真相にたどり着いた衝撃!というのはやや弱かったけど、一成の遺作とされる絵の真相が・・・!すごかったですね(-_-;)
もう一度読み直すとね〜この構成の必然を感じて、とても素晴らしいと思いました。非常に気を使ってかかれてあるな・・・と。過去と現在を行き来するこの手法こそが、ミステリだったのですね。・・・というわけで、次は『迷路館』を訪問させていただきたいと思っております。
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囁く影He who whispers 1946
ジョン・ディクスン・カーJohn Dickson Carr(斎藤数衛訳・HM文庫)
ギデオン・フェル博士のゲストとして「殺人クラブ」を訪れた歴史学者マイルズは、クラブのメンバーが一人も見えないことに驚く。そこにいたのはやはりゲストとして招かれたバーバラと、主賓であるリゴー教授。彼は数年前フランスで起きた殺人事件の講演をするために招かれていたのだった。その事件は高い塔の上で行われ、しかも殺人が行われたとされる時間に、その塔に登った人間は決していなかったはずだという。事件の主要人物であるフェイの写真に魅せられたマイルズは、その直後に、偶然にも財産の図書を整理する司書の職に応募してきたフェイと出会うことになる。彼女を雇うことに決めたマイルズが、妹のマリオンとフェイの三人で屋敷に戻ったその夜、屋敷にはフェル博士とリゴー教授が居合わせていたのだが、リゴー教授は驚くべき推論を展開する。かの殺人事件は吸血鬼の仕業・・・というのが彼の考えだ。そしてその夜、マリオンが何者かに襲われるという事件が起こる。瀕死の彼女は、何かが「囁いた・・・」と繰り返し呟いているという。
★★★愛し合う男女・・・だが、女の方はやや正体不明で不思議な雰囲気をもつ。結婚の許しも出て幸せなはずの二人だが、突然、男のほうの父親が女に対する不信感を剥き出しにし、村の住民の中にも、女に対し、公然と怒りをぶつけるものさえ出てきた。そしてついに、まったく不可能な状況で、殺人事件が起きる。吸血鬼・・・?そして女が行くところ、またまた不可能犯罪が・・・!
雰囲気ありますね〜。フェイという女性は何者なのか?人が想像するような性悪女なのか?はたまた吸血鬼か〜^^;かなりまじめに議論されてますが、そのくらいつかみ所のない人物なんですね。人物造形が見事ですし、最後まで彼女の正体の謎だけでも話に引っ張られます。しかし、たまたま聞いた殺人事件の関係者として話に出てきた当の人物が、たまたま雇われるというのもちょっと偶然っぽいけど、まあ、そんなことはちっちゃいことですね、はい(^^)あと、バーバラの兄、ジムと彼宛の手紙もちょっと無理っぽい設定だけど・・・まあ、まあ^^;
と文句を並べましたが、この話、えらい装飾がたくさんついているけど、すごくシンプルな謎解きものなんですよ!なぜ、マリオンが襲われたのか〜、ということは注意深く読めばわかるはず・・・です(が、私は例によってわかんなかったけど)それさえわかれば、犯人はすぐそこに・・・!ヒントもかなり盛りだくさん。特に凶器に重大なヒントがあるんですけど、この謎の真相はすごい^_^;殺人の状況としては想像を絶してます、が、前提に従って考えれば、なるほど・・・と納得せざるをえないでしょう。二つ目の殺人未遂については、カリョストロ伯爵の生涯について、知ってたらなお分かりやすいですよ(笑)こういう手練手管がいかにもカーらしいってところなのかな?
訳者のノートによりますと、この作品のフェイ博士はとっても控えめなんだそうです。他のを読んだことがない私としては、比較の仕様がないけど。フェイ博士はともかく、リゴー教授が面白いですね〜。吸血鬼説を大まじめで力説するあたり、楽しんでいるとしか思えない・・・^^;「実際的なのはわたしであり、迷信的なのはきみなのだ」
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夜勤刑事Night Cover 1976
マイクル・Z・リューインMichael Z. Lewin(浜野サトル訳・HM文庫)
若い女が連続して殺される事件が起きた。いずれも指を叩き潰されている。二人目と三人目は顔も見分けがつかないほどだ。事件を追う夜勤刑事リーロイ・パウダー警部補は、同時にある高校生から、学校で行われている不正な成績操作についての訴えを受ける。この件を私立探偵サムスンに依頼するよう高校生に紹介したパウダーだが、やがてその高校生の友達の女子学生が行方不明になっている事を知り・・・。インディアナポリス市警察に起こるさまざまな事件と、それにかかわる警察官の姿を夜勤刑事パウダーの目を通して描き出す。
★★★サムスンシリーズから独立した、パウダー警部補シリーズの第一弾。
パウダー警部補なる人物のキャラクターがすごいですね。ぜんぜんいいヤツではないです。頑固でタフで、いやみっぽくて、周囲には厳しい。組織のつまはじきになる要因を全て取り揃えたような人物でして、しかもワーカホリック。妻に忌み嫌われるのもしょうがない・・・。しかし、パウダー警部補は主人公なのに、彼の事情というのはほとんど、と言っていいくらいよくわかりません。これは作者の意図なんでしょうか?畑仕事、夜勤刑事になってしまったわけ、妻との確執、息子のこと・・・。それらに対するパウダーの行動が語られるだけで、しかもとても控えめです。多分、人が他人を理解しようとしても、真実の気持ちを吐露することなんてあんまりないし、他人の事情を隅々まで知ることなんて不可能。この限られた言葉の中で、パウダー警部補という人物をみなさんの心の中で定義してください、ということなんだろうと勝手に解釈しています。
ストーリーはある一つの事件を突き詰めていく、というより警察の中で起こるさまざまな出来事がやがて一つの形となって真相にたどりつく・・・という形式ですから、ある意味地味な感じは受けます。真実を追究しようという警官の地道な戦いが実を結ぼうとする瞬間、警察組織の壁が立ちはだかるかもしれません。それを乗り越えて、いい警察官になろうとする人々に、自分の頭で考えようとする警察官になってほしいものだと、思うような作品でした。
とりあえず、中年パワー炸裂のパウダーは、くたびれおじさんたちの希望の星?かな〜こんなに上司や部下に好き勝手なことを言い、嫌いなやつの不運を素直に喜ぶひともなかなかいませんね。しかも、天才肌の名探偵なんて事はまったくないし。地道っていうのも、いまどきはやりませんが(^^ゞ違った意味で、ヒーローといえるのかも。
この作品の中で、パウダーが惚れるアデル・バフィングトンは、実はサムスンの恋人で、やがて 『そして赤ん坊が落ちる』の主人公となる女性です。
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十角館の殺人 1987
綾辻行人(講談社文庫)
大学のミステリ研究会の仲間たち「エラリー」「カー」「ポウ」「ルルウ」「アガサ」「オルツィ」の六人は漁船で孤島へ向かっていた。その島は半年前凄惨な四重殺人事件がおきたところで、六人が向かっているのは事件の現場「青屋敷」の離れ「十角館」だった。船頭の漁師に事件以来無人島となった島に幽霊が出る、と言う噂話を聞かされても一向に動じる風もなく、六人は島に降り立った。一足先にやってきていた「ヴァン」に迎えられて十角館に落ちついた翌朝、ホールに七枚のプレートが置かれていた。プレートにかかれていたのは五枚に「被害者」そして「探偵」「殺人犯人」。何の冗談か、と戸惑う七人だが、ちょうどその頃、本土では元ミステリ研究会の江南(かわみなみ)と守須(もりす)のもとへ妙な手紙が送りつけられていた。
★★★「孤島もの」といえば、クリスティ「そして誰もいなくなった」を思い浮かべるところですね。もちろんこの作品の中でも、登場人物に「あのプレートが、例のインディアン人形と同じ役割ってことでしょう」とか言わせてますので、この作品への挑戦状と言うわけですね。
十角館、という屋敷が面白いです。十角形の外観の内部に、十角形のホールを作り、大小の十角形の頂点同士をつなぎ合わせて十個の空間を作る。部屋は片方が長い台形をしているということです。これだけでも、なんとなく長く住んでいるとちょっと頭がくらくらしてきそうな感じがしますよね。しかも家の中の小道具もことごとく十角形に拘っていたりして、この屋敷を建てた中村青司なる人物の奇矯ぶりが伺えます。そういうわけで、この手の込んだ連続殺人を企てたのが、もしかしたら先の事件で殺されたとされている青司が実は生きていて・・・という推理もかなり現実味を帯びてくるんです。現に死体の身元が完全に確認された、と言うわけではないということだし。さてさて、この事件の真犯人は七人のうちの一人なのか、それとも死んだと思われていた青司が実は生きていて、島のどこかに潜んでいるのか?
ストーリーは、訳もわからないままに孤島の連続殺人の渦中に投げ込まれた七人の恐怖と、本土で手紙の謎を追う江南、守須、島田の三人の動きが並行して進んでいき、最後までぐいぐい読まされます。落とし穴は時間と、名前、ですかね(~_~;)
ところでニックネームと人物の性格付けがぴったりはまって、面白かったです。そして最後の審判・・・海が下したこの結論に、人は首をたれるしかないようです。
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ダイナマイト・パーティへの招待Invitation to a Dynamite Party 1974
ピーター・ラヴゼイPeter Lovesey(中村保男訳・HM文庫)
ロンドンではダイナマイトによる一連のテロ事件が続発していた。アイルランド系アメリカ人によると見られるこの事件は、アイルランド自治問題を政治問題化し、英国政府をアイルランド自治派の言うなりにさせようというのが目的と見られる。ある日、ジョエット警部に造兵廠へ呼び出されたクリッブ部長刑事は、驚くべき話を聞かされる。ここで時限爆弾についての知識を身に付けて、ダイナマイト爆破団の中にもぐりこむ密偵になれというのだ。しかもその手段は、爆破団に密告をしている疑いのかかっている警察官に近づいて、その手蔓を利用しろという。内通しているという警察官とは、クリッブの部下サッカレイであった。サッカレイの動向を調べつつ、爆弾にも精通し始めた矢先、クリッブは爆破団に捉えられてしまう。そこで、自らを爆弾のプロと売り込むことに成功したクリッブだが・・・
★★★時は19世紀末、アイルランド独立を叫ぶテロが続発していた時代の史実に題材をとった作品です。おなじみクラッブ&サッカレイのコンビ・・・と言いたいところですが、なんとサッカレイは密告者の汚名を着せられそうになっています。長年、自分の右腕として働いていたサッカレイのことを信じつつ、しかしサッカレイの私生活のことなど何一つ知らないことに気がついたクリッブは、心ならずもサッカレイの身辺を洗います。しかし、サッカレイはやっぱり、無邪気な奴のようですね^^;危険な兆候に気が付くことができるんだろうか、と少々心配しつつ。
今回のクリッブ部長刑事は、ちょっと一味違いますよ。危険極まりない爆破団にプロの傭兵としての自分を売り込むことに成功した後は、ダイナマイトを盗みに行って身軽なところを見せつけるし、組織の責任者を務める、と言っても二十歳そこそこの美女ロザンナに惚れこまれるというおまけ付き(~_~;)冒険者を気取るクリッブが、彼女にモーションをかけたと誤解されて、「冒険者としての値打ちが少し下がった」気がした、なんてうそぶいているあたり、ちょっと!なになりきっちゃってんのよぉ、と茶々を入れたくなってしまいました。
じつは、組織のもとのボスで、ロザンナの父マクギーの正体について、なんか裏があるのかも〜と、ちょっと期待して読んでたんですけど、これは私の考えすぎでした。それにしても、マクギーが潜水艦を操るというのはちょっと無理があるんじゃないかと・・・^^;途中まで、この組織にあんまり現実味がなかったんですが、カースとミラーが現れてからぐっと引き締まりましたね。血も涙もない組織はやっぱりこうでなくっちゃ。
帯の宣伝文句は、「ラヴゼイ流007」。と言うことで確かに活劇風です(^^)気軽に楽しめるアクションものとして、おすすめです。
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