フランドルの呪画La Tabla de Flandes | 1990 |
アルトゥーロ・ペレス・レベルテArturo Perez-Reverte(佐宗鈴夫訳・集英社文庫) | |
ピーテル・ファン・ハイスが1471年に描いた「チェスの勝負」。絵画修復家フリアはこの作品のX線写真を見てほくそえんだ。絵の具の下に隠されたラテン語の文字「QUIS
NECAVIT EQUITEM」−誰が騎士を殺害したのか−が鮮明に浮かびでていたのだ。この事実はオークションでの競り値に大いに関係してくるに違いない。フリアは早速、チェスをしている二人の男(公爵と騎士)窓辺で本を読んでいる貴婦人(公爵夫人)、そして画家自身についての調査を始める。やがてその騎士はこの絵画が描かれる以前に暗殺されていたことが分かる。絵画の中のチェス盤にはその謎を解く鍵が隠されているらしい。そんな頃、フリアが調査を依頼した大学教授が不審な死を遂げた。 ★★★絵画に隠された文字・・・これを解明することは付加価値としてはかなり大きいものらしいですね。オークション会社も画廊オーナーも俄然張り切りますが、調査を依頼していた美術史家(実はフリアの昔の恋人)の突然の死は、フリアを不安に陥れます。この調査が進むことを喜ばない誰かがいるのか?隠されているのはただの謎解き問題だと思っていたのに、五世紀前に騎士は本当に殺されていたのだ・・・。 てなわけでフリアと古美術商でゲイのセサル、チェスプレーヤーのムニョスは絵に描かれたチェス盤の勝負をさかのぼることで、騎士を殺した犯人を突き止めようとします。しかし一体、この史実と現代に起こった不審死の間にはどんな関係があるのでしょうか? この本を読む上で、チェスの知識がどの程度あったらよかったのかがよく分かりませんが、駒の動かし方すらおぼつかない私にはあんまり面白くなかったんですよね〜(^_^;)最初は、ページに挿入された盤面の絵をみながら、「この駒がこう動いてぇ〜」と自分でも確かめつつ読んでいたのですが、だんだん面倒くさくなってしまって。だいいちチェス盤の動きでおっかけっこをした意味がよくわからないし(私がただのバカだからだとはおもいますが^_^;)チェス愛好家の方ならこの知的なお遊びの部分がとても楽しめるのだと思います。 セサルもムニョスも面白い人物に仕上がっていて、その点はよかったですね。とくにムニョスの、普段の姿とチェスプレーヤーとしての姿のギャップがかっこよかった(^^)主人公のフリアは可もなく不可もなくといったところですが、やはり修復家という職業には興味を惹かれましたね。あと気に入ったのはすごいウンチク爺さんのドン・ベルモンテ。もうちょっと絡んでくれたら面白かったかも。五世紀前の殺人事件と現代とのリンクが、もう少し面白い展開になってくれるかと期待していたのですが、そこらへんもちょっと物足りなかったかなあ。ミステリとしては、夢中になって読めた部分があまりなく、意外性というのも少なかったのですが、ラストで真犯人の共犯者の正体が明かされるところは・・・う〜む、なるほどと唸りました。うん、これは意外でした♪ と、なんだか文句ばっかり書いてしまいましたが、細部までこだわった密度の濃い作品だと思います。ただ、訳がすこしスムーズでない気がしました。スペイン語から仏語訳されたものを和訳するという形らしいので、それが関係あるのかな? |
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虚無への供物 | 1964 |
中井英夫(講談社文庫) | |
氷沼家は祟られている・・・アイヌ狩りの汚名をきたまま狂死した曽祖父。函館火災で焼死した祖父。原爆で死んだ叔母。そして蒼司、紅司兄弟の父親と、その弟で藍司の父親である叔父は洞爺丸沈没事故で。何かが起こるかもしれないと氷沼家を訪れた亜利夫に、紅司は四つの密室で起こる殺人事件を描く自作の推理小説の話をする。やがてその紅司が風呂場で頓死するという事件がおこるが、そこはまったくの密室だった。そして密室による第二の事件と、祟りの続きのような火災事件などが相次いで起こる。いったいこの一連の悲劇の裏には何があるのか? ★★★戦後推理小説ベスト3に数えられる一冊。ちなみに他の二冊は『黒死館殺人事件』(未読)『ドグラマグラ』(挫折)。 時は昭和29年。年間殺人件数が未曾有の新記録を樹立した頃。ゲイバア”アラビク”のカーテンが開き、舞台には妖しいサロメ。なんとも惹かれる導入部ですね。一応ヒロイン?紅一点の奈々村久生がフランスにいるフィアンセから妙な手紙を受け取ったことから、彼女の友人、光田有利夫はこの恐るべき連続密室殺人事件「ザ・ヒヌマ・マーダー」にかかわることになります。まずは紅司が風呂で死にます。もともと心臓が弱かったことから自然死として片付けられますが、みんなしてこれは密室殺人である、と考えそのトリックを考えあぐねます。 なんというか、現実感のない展開です。この密室についてあれこれ論議しますが、知的ゲームに興じているというか、議論のためだけの議論に終始している感が否めませんでした。古今東西のあらゆるミステリが登場し、あるいは『不思議の国のアリス』、アイヌのカムイ信仰、奇妙な数式、五色不動などなどと、面白いことは面白いのですが、ちとイライラします。牟礼田の書いた「凶鳥の死」について議論する場面などは、何やってんだこの人たちは?と疑問の嵐。この時点ではどうしてもこの作品の方向性を見つけることは出来ませんでしたね。登場人物たちの視線がどこを向いているのか、という点で大いに不満でした。 そして久生のとめどないおしゃべりに嫌気がさした頃・・・・一つの真相がある人物の心の深淵から浮かび上がってきます。そうだったのか!こんな問いかけが突きつけられるとは思いもよらないことでした。私自身が彼らの一人だったのに、彼らの視線が気に入らないといって怒っていたのです。 アンチ・ミステリーというのだそうです。その意味はよくわかりません。ただ、面白い密室物に仕上げようとすれば、いくらでも出来たはずである、ということはすでにこの小説の中で実証されています。それでもなお・・・。そこに作者のどんな思いがこめられているのか?それこそを、凄まじい虚無の中にあって、生涯を、多分見物人として終えるであろう私たちは、考えなければならないのかもしれません。 ・・・とかっこつけましたが、かなり読むの苦しかったです。特に中盤・・・^_^;せっかくここまで頑張って読んだのに、ああすっきり♪というカタルシスを味わえないのはいささか無念・・・とやっぱり私ってダメなヤツです〜。結局この作者(刊行時は塔晶夫名義)は私のような凡人には到底到達できない高みでミステリという虚無を愛した、その回答がこの作品だということでしょうか。おお、そう思うと題名にも納得、と何やら自己満足しつつ、カーテンを閉めることにいたします。 |
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金田一耕助の冒険 1 | |
横溝正史(角川文庫) | |
短編集。『霧の中の女』『洞(ほら)の中の女』『鏡の中の女』『傘の中の女』『瞳の中の女』『檻の中の女』 ★★★昭和三十二から三十三年にかけて「週間東京」に掲載されたシリーズ。あらすじと一口感想など(^^ゞ 『霧の中の女』・・・その夜の東京はひどい霧に覆われていた。銀座四丁目の宝飾店「たから屋」で万引き殺人事件が発生したときも。やがてこの事件は「たから屋」のすぐ裏手にあるサロンの常連が連れ込み宿で殺されるという事件に繋がっていくが。サロンのホステスさんが使うカタカナ言葉が時代を感じさせますね(^^)ポストにぶつかってペンキがついたというのが本当だったので却ってビックリしました。「いささか小説めいている」には笑えます。 『洞の中の女』・・・小説家がキャバレー経営者から買った家の庭の隅っこには、大きなケヤキの木があった。根元は大きなうつろになっており、なぜかセメントがぎっちり流し込まれている。ある日そのセメントから黒く長い髪の毛が生えているのが見つかった。艶歌師の坊やはもちろん、満州帰りの男もかたなしですなあ。 『鏡の中の女』・・・聾唖学校の先生、増本女史は読唇術のエキスパートだ。ある日金田一とお茶を飲んでいた女史は突然向かいのテーブルの男女の会話を読みはじめた。殺人の相談?その後それと全く同じ状況の殺人事件が起こる。が、犯人と被害者があべこべだった。金田一さんの言葉から、怪しんでいるのね、というのは察しておりましたが・・・ここまでするか〜?ストレス時代ねぇ。 『傘の中の女』・・・金田一がおよそ似つかわしくない海水浴を楽しんでいたら、隣のビーチパラソルではさほど若くもないカップルが甘ったるい会話を交わしている。忌々しく思いつつうたたねをしてしまった金田一のすぐそばで、カップルの女が殺害されてしまった!金田一とも知らずに利用しようだなんて、犯人もついてないですねぇ。これは筋書きもGoodですし、海水浴する金田一の図、というのが何よりいいではないですか。 『瞳の中の女』・・・何者かに後頭部を強打されて記憶を失った青年。覚えているのはただ、瞳に焼きついたある女性の面影だけ。病院で火事に遭遇したことで、何かを思い出したのか、彼はその運命の夜に出かけた場所を再び訪れた。なんで石膏像を作ったんでしょうかね〜(謎)この雰囲気には、こういうあいまいな解決もなんだか似合います。 『檻の中の女』・・・霧に包まれた川の向こうからリーン、リーンとなる鈴の音が近づいてくる・・・。水上署のランチの上でこの音を聞いた金田一と等々力は、得体の知れぬ舟を引き寄せた。そこには犬の檻に閉じ込められた意識不明の美女が。疑獄事件の顛末としての偽装殺人と思いきや。しかし、ちょっとやりすぎじゃないの?見つけてもらえなかったらどうするんでしょ?ラストはドラマチック。 |
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金田一耕助の冒険 2 | |
横溝正史(角川文庫) | |
『夢の中の女』『泥の中の女』『棺の中の女』『鞄の中の女』『赤の中の女』 ★★★「小白谷縮みの白絣に夏袴をはき、頭にはまあたらしいパナマをかぶり、かれとしては珍しく男振りをあげているつもりで、内心大いに得意…」だったりする金田一耕助の推理が冴える?短編集第二弾。 『夢の中の女』・・・行きつけのパチンコ屋の看板娘美禰子は「夢見る夢子さん」。三年前に殺された姉の事件の真相を金田一に探ってもらうことになっていた。ところが美禰子は金田一からと称する偽手紙におびき出されて殺されてしまう。どうする金田一?これは思わずうなるうまい展開でした。真相がそんなところにあったとは。可哀相な夢子さん・・・。 『泥の中の女』・・・尋ねた家が留守だったため、たまたま雨宿りをたのんだ隣家で留守番を頼まれたヤス子は死体を発見する。出ていった女は行方不明だし、警察とともに戻ってきたときには死体も見当たらない。勘違いなんてこと、あるだろうか?なんと複雑奇ッ怪な事件でしょうか。さすがの金田一もかなり混乱してますね。しかしみなさん、やることがストレートですね。 『棺の中の女』・・・美術展の落選作品の石膏像のなかから、女の死体が。しかもそれは実際に出品されていたものではないと言う。出てきた死体の正体は石膏像作者の以前の妻。彼女は作者の美術時代からの友人のもとへ行っていたというが。ふたつの「壺をもつ女」の謎。なるほどまさかもう一つにまで…おっとっと^_^; 『鞄の中の女』・・・町を走る車の後尾トランクから女の脚が?!結局笑い話で終わったこの小さな事件の裏には何かが隠されていたのか。金田一の下へかかってきた一本の電話が発端で、笑い話は殺人事件へと発展する。最新兵器?テープレコーダーが大活躍。いやあ、気がつきませんでした^_^;まあ、この被害者の男なんかは殺されても別にかまわないけど。 『赤の中の女』・・・海水浴場のホテルのテラスでうつらうつらしていた金田一のとなりでは、ちょっと奇妙な光景が展開されていた。一組の新婚カップル、その妻と夫それぞれと旧知の仲らしい男と女、彼らを憎悪の目で監視する青年。やがて妻が死体で発見されるという事件がおこる。狐と狸の騙し合い・・・も命のやりとりとなると大変ですね〜。服の色や帽子を使った目くらましがいかにもって感じでうふふ♪ |
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トレント最後の事件Trent's Last Case | 1913 |
E・C・ベントリーEdmnud Clerihew Bentley(大久保康雄訳・創元推理文庫) | |
アメリカ財界の大物マンダースンがイギリスの別邸で射殺体で発見された。ウォール街の大混乱をよそに、当地では《レコード》紙がいち早く特派員を派遣していた。本職は売れっ子画家、しかし《レコード》紙の臨時記者としても数々の難事件を解決してきた素人探偵トレントである。当地に赴いた彼はまず、マンダースンの若い妻メイベルの叔父カプルズと話をする。どうやら夫婦の間には少々問題が起こっていたらしい。そして事件当夜のマンダースンの不可解な行動が明らかになるが、この裏に隠された意図は不明だった。捜査を進めるうちトレントは一つの結論に達するが・・・。 ★★★ベントリーの処女作。処女作なのに「最後の事件」?その理由は本編ラストで明らかになります(^^) 1913年ということですから、ドイルのすこし後で、古典本格推理小説の先駆けみたいな作品なのでしょうか。舞台もイギリス海岸の町(避暑地でしょうか)、殺されたのは辣腕実業家(つまり金持ち、敵がいっぱい)、召使いがうようよいるお屋敷(もちろんお決まりの執事&秘書も)、誇りたかく魅力的な若い妻(秘書と何やら訳ありなのか?)と莫大な遺産、ロンドン警視庁の警部(やはりお間抜けなのだろうか)・・・揃ってますね〜(^^ゞ 推理小説の歴史には詳しくないのですが、証拠や動機をもとに論理的な推論を展開していくという手法(しかも読者にたいしてもフェアな形で)が用いられ始めた頃の作品ということでしょうか。しかも恋愛ドラマまで盛り込んでいるあたり、画期的だったのかなあ。また、二転三転のどんでん返しもきっと当時の読者をわくわくさせたことでしょう。今読むと、肝心の最後の章はかなり冗長な印象をぬぐえませんが。 ストーリー半ばでトレントはある結論に到達します。そこまでの推理はなかなか手際がいいですね。しかし後半はほとんど告白の形で終結するのがやや不満な点ではあります。また、古典ものにありがちの変装のトリックですが、私はこれはこの時代のものとして欠点には数えません(きっと当時は照明が暗かったんですよ)。しかし、警察のかかわり方はあまりにも中途半端ですよね。可哀相なマーチ警部^_^; 話そのものに関しては、被害者の性格や、追い詰められた人間がいかにも取りそうな行動などの描き方はとてもスムーズで無理のない展開になっており、しかもよく考えられているな、という印象です。できればマンダースンの未亡人をもっと有効活用して欲しかったですが、この時期まだ身分の高いご婦人を悪女に仕立てるのは紳士的でなかったのかしらん? 最初エキセントリックな印象だったトレントが最後にはなんだかお茶目な感じに。それもこれも恋愛の力なんでしょうね。ちょっと笑えました。 |
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黒いトランク | 1956 |
鮎川哲也(角川文庫) | |
1949年のことである。大きな黒いトランクが、福岡県から貨物列車ではるばる送られてきた。汐留駅で引取り人を待っていたそのトランクが、異様な臭気を発していると警察に連絡が入ったのは12月10日のあるうっとうしい日のことであった。警察官と駅員の見守る中、ふたを開けられたトランクから転がり出てきたのは、ざんぎり頭の男の死体だった。捜査線上に浮かび、犯人と目された人物は自殺と思われる死を遂げていたが、鬼貫(おにつら)警部は納得できない。かつての学友たちが絡んでいると思われるこの事件に、鬼貫の苦悩も深まる。鉄壁のアリバイを、二つのトランクの謎を、鬼貫は解明することが出来るのだろうか。 ★★★鮎川哲也名義の処女作だそうです。クロフツの『樽』を思わせる・・・といいたいところなのですが、『樽』に関してはあまりよく覚えてないんですよね。すごく細かい作品だったなということと、警察頑張ってるな〜、と思ったのは覚えているのですが(^_^;) この作品でも、警察頑張ってます。戦後四年ほど、という設定なので、この当時の警察力というのはどの程度だったのか、本当のところはわかりませんが、鬼貫警部以下みなさんとてもスマートな印象ですね。というか、登場人物が大体においてインテリ階級らしく、それ以外の人たちにも戦後まもなくの暗さはあまり見られません。世の中は平和で静かで、異様な事件を描きながらも生々しい陰惨さをあまり感じませんでした。 事件の要点は、二つあります。一つは死体をいれて配達された黒いトランクと、全く同じもうひとつのトランクの謎。それに関してはまた、殺人がどこで行われたかと言うことも問題になってきます。もう一つはアリバイです。東京と福岡を往復したトランクとともに、人間も陸路や海路を駆けまわり、周到なアリバイ工作が展開されます。犯人の足取りを追いかける、鬼貫警部の丹念な捜査ぶりには好感が持てました。時刻表ものは苦手なので、鬼貫の展開する推理についてゆくのが精一杯ですが、やはり独特の爽快感がありますね。 二つのトランクの謎に関しては、XトランクとZトランクが途中、頭の中でぐちゃぐちゃになってしまい閉口しましたが、真相は割と気がつきやすいですよ。途中でヒントがありますから(^_-) 非常にきっちりと緻密なのに、思いがけない軽やかな雰囲気の作品で、まじりっけのない推理の面白さが楽しめました。鬼貫警部もなかなか好人物で気に入った・・・と思っていたのですが、この最後の場面はいただけません!失礼なヤツですな! |
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コフィン・ダンサーCoffin Dancer | 1998 |
ジェフリー・ディーヴァーJeffery Deaver(池田真紀子訳・文藝春秋) | |
パイロット、エド・カーニーが操縦するハドソン・エア・チャーターズ社のリア・ジェットがオヘア空港の滑走路目指して着陸のための降下をはじめたその時、機体は激しく揺れ、爆発した。実業家ハンセンが、自らの犯罪の証拠を隠滅する行動を目撃した三人の人間を消すために雇った殺し屋の仕業と思われた。大陪審の開かれる日まで残る二人の身の安全を図るために、殺し屋「コフィン・ダンサー」(上腕に棺の前で踊る死神の刺青を持つ)を追跡する任務が、リンカーン・ライムに依頼された。四肢麻痺という障害をもちながら、最新のコンピューター機器を駆使し、ライムはコフィン・ダンサーの残した微細証拠物件から、殺し屋を追い詰めていく。 ★★★『ボーン・コレクター』に続く、リンカーン・ライムシリーズ第二弾。今回もすごいです(@_@) 蛆虫の幻影というトラウマに苦しむ殺し屋の、スナイパーとしての凄腕ぶりは、アメリア・サックスもちょっとびびるというほどで、なかなかのもの。しかも、内面描写をいろいろと聞かされてしまうので、ちょっぴりこちらに感情移入しそうな感じになってしまいますが、ストーリーはそんなに甘くありませんでした!中盤まで読み進めたら、イメージが重ならないような、ほんのすこしの微妙な違和感を感じるかも知れないのですが(あ〜、何のことだか言えないから意味が通じない^^;)そこまで深読みしてなかった私は、してやられた!という感じでした。そうだよね、ライムの宿敵、「コフィン・ダンサー」だもんね、こうでなくっちゃ(?) 相変わらず最初の入りはのろのろと読んでしまう私ですが、もう中盤以降はノンストップ!陳腐ですが、ホントです!動きもいいし、瑣末なところもこだわって書いてありますが、神経質にならずスピードにのって読めばいいかな、と思いましたが…ダメでしょうか(笑) サックスとライムの関係も徐々に進展の兆しあり、といったところでしょうか。サックスも科学捜査官としての成長著しく、それにかなり人間的になってきたみたいで、いよいよ先がたのしみですね。サックスと張り合うほどの可愛くない女パーシー(あまりの可愛くなさに最初はおいおい(^_^;)という感じでしたが、すごい人です。でも、人間的にはあんまり共感できなかった。そのせいで危機一髪の飛行場面も、場面としてはすごい迫力で面白いのですが、もうひとつすっきりとはしませんでした)と、ちょっと魅力的な南部男、ローランド・ベルの関係って、今後何かあるんでしょうかね(^_^)今回イチオシに気に入った男の人です♪今回はライムには私、そ〜んなに関心もてないんですけどね。なぜか・・・? いよいよ残りページが少なくなっても、まだ驚きは終わらない。登場人物すべてをなんとしても使い切ってしまおうとでも言いたげな感じ^_^;確かに伏線もあるし、文句はないのですが、読んですぐの驚きが去った後は・・・う〜ん、まあいいんですけど(^_^;) と、独りよがりな文句をたくさん書いてしまいましたが、面白いです。楽しめます。それは確かだと思いますよ♪ |
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シンデレラの罠Piege Pour Cendrillon | 1962 |
セバスチアン・シャプリゾSebastien Japrisot(望月芳郎訳・創元推理文庫) | |
「私は九月のある朝、きれいな寝具のなかで、あおむいたまま、われにかえった」全身にやけどを負いながら助け出された「私」が目覚めたとき、彼女は記憶を失っていた。やがて彼女には父、ミドラ伯母さん、面倒を見てくれていたジャンヌ、といった身内がいることが分かる。ミドラ伯母さんは億万長者で、すでに死亡していた。病院に会いにきたジャンヌに、彼女はミシェール、「ミ」と呼ばれていたと聞かされる。そして「私」(ミ)はジャンヌから、火事の前後の事情を聞く。火事が起こったとき「私」(ミ)は「ド」と呼ばれていた幼友達と一緒に暮らしており、火事によってその娘は死んでいた。しかし「私」のなかで甦りつつある記憶は混乱していた。 ★★★あとがきによると、この作品が発表された当時の宣伝文句はこういうものだったそうです。「私がこれから物語る事件は巧妙にしくまれた殺人事件です/私はその事件で探偵です/また証人です/また被害者です/そのうえ犯人なのです/私は四人全部なのです/いったい私は何者でしょう」う〜ん、トレビアン(^_^;)この宣伝文句に興味を惹かれないミステリファンはそう多くいないことでしょう。しかも各章の見出しが「私は殺してしまうでしょう/私は殺しました/私は殺したかったのです/私は殺すでしょう/私は殺したのです/私は殺します/私は殺してしまったのです」・・・殺すという動詞は五段活用ですな^^; 中身はたいそう野心的なプロットで、文章も訳文をよむかぎりなかなかモダン(?)な感じです。ただ、わけの分からないところも多々。しかしまあ、少々のことは気にせずに全体の絵を楽しむというほうがよろしいようで(もちろん私の頭が悪いのが一番イケナイのですが^_^;)。着想の面白さを生かす、というところに主眼を置いているためでしょうか、つじつまの合わないような印象のところもあるし、強引過ぎる設定も気にはなるし、しかし!いいじゃないですかこの大胆さ(^_^)細部の欠点を凌駕している・・・(と思いたい) 最後まで結構、うう〜む、と考え込みながら読みました。「私」の混乱と不安が伝染してしまいます。シンデレラの罠にかかったのは結局どっちだったのだろう?記憶ってものについても考えました。一度失われた記憶をもし取り戻すことが出来たとして、その記憶が確かに自分のものであるとどうやったら実感できるんだろう、そんな疑問をもったことはありませんか?ヒトの脳って柔軟すぎるところが、長所でもあり、弱点でもあるんですねぇ。 いつもにもましてアホバカ丸出しの感想で申し訳ないです^_^;薄い本ですので見かけたら一度読んでみてください、としか言えません。 |
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図書館の死体Do unto others | 1994 |
ジェフ・アボットJeff Abbott(佐藤耕士訳・ミステリアスプレス文庫) | |
ボストンで名高い出版社の編集者として成功していたジョーダン・ポティートは、母親がアルツハイマー病に侵されたことからその職をなげうち、生まれ故郷ミラボーの町に帰ってきた。小さな町で図書館長の地位を得たジョーダンだが、本の閲覧をめぐってベータ・ハーチャーと対立する。図書館を閉鎖に追い込む、と脅すベータと口論になったその夜、ベータは何者かに図書館で殺された。地方検事補から容疑者扱いされたジョーダンは、自ら犯人を探し出すことを決意する。手がかりはベータが持っていたメモ。そこには名前とそれに関連付けられた意味ありげな聖書の引用個所が記されていた。 ★★★『図書館の死体』という題名と主人公が図書館長という設定は、ひどく魅惑的な響きを感じさせます(^^)きっと主人公の図書館長は本好きで、ちょっとぼんやりしてて、時々他の世界にいっちゃってるみたいな(?)お人よしだったりもして、図書館という場所を愛してる、みたいな人に違いない♪・・・と思って読み始めたんですが、どうもそういうのではないらしい。ユーモアたっぷりの語り口で始まるので、話に入りやすいのは確かですね。殺されることになるベータという人物はなかなか興味深いし。いいんじゃない?と思って読み進めたのですが、どうもジョーダンのお人柄がつかめない。中途でだれてくるとあとがきを読んでしまう私のわるい癖が今回も出てしまってついつい読むと、どうやらジョーダンって「いまどき新鮮に感じるくらい、心優しい性格の持ち主」らしい。そうだったのか!彼の優しさが行間に滲むのを期待しつつ読み進めましたが、この人ってやさしいかなぁ。作者も特にジョーダンを心優しい人物として描いてはいないと思うけど^_^; ストーリーはなかなか楽しかったですね。聖書の引用句に隠された秘密の人物像を探る、なんていう展開は好きです〜。町中の人間がわるいことをしていたらしく、ベータの毒牙にかかってなかった人の方が珍しかったりして。よくこれだけ集めたな〜と、ベータの信仰によって湧き出て来たに違いないエネルギーに感服です。他のことを削っても、このおばさんをもっと掘り下げたら面白かったのに〜(^_^)警察何やってんだ?という部分があるのは確かで、こういう部分を気にさせないような展開の面白さがあってほしいんですが、犯人は結局メモの中のどの人物でも良かったじゃん?カタルシス、ってヤツがなかった。あと、残念なのが、お母さんの病気の問題。ただ設定に利用しただけという印象がどうも・・・。続編ではもっと突っ込んで描かれるのでしょうか。 やたらとはさまれる独(毒?)白にも最後には少々辟易。人を見下した目を感じたのは私だけでせうか(^^ゞそれに一箇所気になるところがあってね〜。これはただのミスなのか、それとも伏線なのか?と気が散ってしまって。結局なんの意味もなかったのが悔しい。 |
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