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第十回『細い赤い糸』 |
飛鳥高(講談社文庫) |
公団の汚職事件に関わる自殺事件。その部下もまた、なぜか鈍器で撲殺されていた。落ちこぼれ青年の計画した稚拙な強盗。主犯の青年は、鈍器で撲殺された。恋人の裏切りを懸念した女が探偵社に調査を依頼した内容とは。やがて女も鈍器で撲殺された。外科病院の副院長は、部下の外科医との間に軋轢を感じていた。副院長も鈍器で撲殺された。この四つの事件は連続殺人なのか? ★★★日本推理作家協会賞受賞作。 一見なにも関係のなさそうな四つの事件。鈍器で撲殺されたという点だけが共通点なのですが。ミッシングリンク、というやつですね。 時代背景の古さが、良い味わいを出しています。しかし、作品自体が「古めかしい」とか「時代遅れ」という感じがするかというと、全然そんなことはなくて、現代にも通じる普遍的なテーマを持った作品でした。結局、犯人の動機はたった一つの「死」、それもほんのささやかな、不運だったね、で済まされてしまうような、誰の記憶にも残らない「死」。しかし、どんな「死」も理不尽に断ち切られた生の果てであることには変わりなく、そこに込められた無念の思いは、これほどの復讐をも可能にしてしまうものなのですね。自分の何気ない行動が、実は誰かの運命を大きく狂わせることもあるかもしれないと思う少々怖い。「いや〜ん、悪気は無かったのよお〜」なんて、甘えたことを言う人間にだけはならないようにしよう、と決意したりする今日この頃。すでになっているという噂もあるけど、それはそれ(って、おいおい^^;) なんとなく、心にずしりと来る作品でした。時系列を微妙な配置にしているけど、読者を惑わせるためというような作為的なものがあまり感じられず、素直に読めました。社会の中で複雑に絡み合った人間関係が、そのまま一つの構造として悲劇へと繋がっていく。この視点が、何かとても身近なものとして感じられたからでしょうか。 |
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