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第十回〜はこちら

 

『あなたと夜と音楽と』の管理人Luckさんが、HP開設一周年企画で下さった、

特別セレクト本の感想を書いちゃいます。ちょっと辛口になることもあるかもしれないけど、

可哀相なアホの子が書くことなので、

笑って許してくださいね!>Luckさん♪

 

 

 
第一回『人形はなぜ殺される』
高木彬光(光文社文庫)
探偵作家の松下研三は、お気に入りの喫茶店「ガラスの塔」のマスターから、新作魔術発表会に招待された。アマチュア魔術師たちの趣味の会とはいえ、なかなかの盛況だったが、途中で奇妙な出来事が起こる。施錠されていたはずのケースから、「マリー・アントワネットの処刑」という魔術に使うための人形の首が盗まれ、ブロンドの鬘が代わりに入っていたのだ。松下が神津恭介にこの話をした矢先、ある家で女の首無し死体と、盗まれたはずの人形の首が発見された。
※(神津恭介って?)コウヅじゃなくって、カミヅです、念のため。当年とって35歳の売れ頃独身男。東大医学部卒業で、大学の助教授。医学と数学で博士号を持つ天才(?)探偵。先祖代々の財産もある、日本人離れのした美男子。「どうして世の中の女の子が、彼をいつまでも独身でほおっておくのか」?知らんがな。

★★★この作品は昭和30年(1955年)の書き下ろしだそうです。そのわりには古さを感じさせませんね。
趣向はなかなか凝っていて、喫茶店「ガラスの塔」の風変わりな雰囲気、そのマスターは大フーディニエの再来といわれたこともある往年の魔術師、殺人の方法はギロチン(!)に、列車による轢死、何より殺人の前に必ず犠牲となる人形…、不気味な黒ミサといい、悪意に満ちた童謡の替え歌を歌う亀背の詩人といい、ゾクゾクさせられますね〜。とはいえ、感触はどちらかというと淡々とした感じなので、癖があって読みにくいというようなことはありません。私は時代の匂いのするような作品が好きだったりするので、ちょっと物足りない、というか味気ない気もしましたけど(^_^;)
やはり、名探偵神津恭介の明晰なる頭脳による、素晴らしい推理が爆発!というところを期待したいところですが、この作品ではそこんとこはどうなんでしょうね?彼とは初対面なのでよくわかんなかったのですが、この作品って、名探偵神津恭介危うく失敗するところだった〜の巻、なのかな?まあ、それだけ強敵だったということでしょうかね(^^)最初スカしてた神津恭介が、最後には頭をかきむしるというあたりは、なかなか見ものです♪この作品だけでは、神津氏を深く味わうところまでは行ってない気がするので、好き嫌いの判断は控えさせていただきます(笑)
謎解き本格ものとしては、名作といわれるだけのことはあります。犯人の正体に関しては、今時の読者なら、どうしても途中で看破してしまうことと思いますが、それでもその手段の細かい部分や、特に第一の殺人やそれに先駆けた人形の首盗難事件などの真相には瞠目させられることでしょう。やや衒学的ではありますが、雰囲気にあってて良いと思いました(^^)しかし、松下クンはよく助かったもんだ〜、作者としても殺すに忍びなかったのですかね(笑)このキャラはいいかも♪
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第ニ回『切断』
ジョイス・ポーターJoyce Porter(小倉多加志訳・HM文庫)
「この間抜けめ!」急ブレーキで、フロントグラスに頭をしたたかぶつけて目を覚ましたドーヴァーは、細君を怒鳴りつけた。「だって、ウィルフ!」彼女が震え声で訴えたところによると、人が崖から飛び降りたらしい。知らん振りを決め込むつもりのドーヴァーだったが、何の因果かこの事件を捜査する羽目に。飛び降りたのは、地元警察署長の甥の巡査で出世街道まっしぐら、自殺の理由はなさそうだ。だが、その死の直前、彼は突然一週間も寝込んだり、彼女と別れたり、なにやら悩みがあった様子ではある。彼が目下捜査中だった事件とも何か関係があるのだろうか?
★★★ドーヴァー警部シリーズの四作目。あとがきによると、ドーヴァーはヤードの定員外(?)警部であるということだ。どこからかやってきて、ヤードに居着いてしまったらしい。この厄介もののお守りをさせられているのが、可哀相なマクレガー君である。
どこといって不満のなさそうな生活をしていたコクラン巡査が何故自殺をしなければならなかったのか?結局のところ謎はその一点だけであり、ドーヴァーとしても大して興味を持てるような事件ではない。が、仕方なく捜査を進めるにつれ、コクランが自殺する直前まで関わっていた事件がぷんぷんと匂ってくるようになる。死因は自然死、だが死体は素っ裸で手足が切断されているという奇っ怪な事件である。コクランの自殺とこの事件、どんな関わりがあるのだろうか?
ドーヴァー警部という人物、とにかくどこまでもあくどい人間なのだ。食い意地が張っていて、ケチで自分勝手で、部下をこき使うことを生甲斐にしていて、「おれはこうと思ったら途中で引き下がるような男じゃない、という見当違いな自惚れがある」という手におえない人物だ。読み進めるうちに、きっといつかはほろっとさせられるような場面に出会えて、あら、ドーヴァーって人も実はいいトコあるんじゃあ〜ん♪(^^)と思えるに違いない、などと甘い考えをもっていたのだが、その期待は裏切られた。とんでもない人物だ。この作品でも、可哀相なマクレガーくんに仕掛けた罠の悪辣さは絶対に許せ〜ん!マクレガーくんもドーヴァーに対する人物理解がまだまだ進んでいないらしく、批判的ではあるがかなり無邪気だ。罠を仕掛けるドーヴァーの行動は、私にはすぐにはピンと来なかったんだけど、後でこの真相を知って、ぞっっとしちゃった(^_^;)マクレガーくんも後で事の真相を知ったのだろうか……。
そんなドーヴァーだが、何故か冴えている。到底、論理などが構築されていそうにもないのに、彼の頭脳の中では奇妙なひらめきにも似たものがぴかっと光り、真相が見えてくるらしい。まさか尊敬すべき○○○の方々が、××してるなんて・・・(おっと、ネタバレ^_^;)ドーヴァーでなければ思いつかないに違いない。素晴らしい探偵ぶり、というべきなのだろうなあ。ユーモアミステリ、というジャンルらしいけど、ユーモアというには極悪人ドーヴァーはハードすぎるし、ストーリーにほのぼのとしたところはほとんどない。しかし、なぜか楽しい。他人事だからだろうか(笑)
◇◆この本はSSさんからのプレゼント本です。SSさんどうもありがとうございました(*^^*)◆◇
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第三回『星を継ぐもの』
ジェイムズ・P・ホーガンJames Patrick Hogan(池央耿訳・創元推理文庫)
トライマグニスコープの開発者であるハントは、会社の大口得意先であるUNSAへの出張を命じられた。とりあえずアメリカに渡ったハントが技術者として参加することになったプロジェクトは、驚くべき内容のものだった。月面探査のための調査隊が整地作業の測量中に奇妙なものを発見したのだ。月面には珍しい洞窟、そしてその内部には土砂に埋もれた死体…チャーリーと名付けられた身元不明のその死体は、なんと五万年以上前のものだった。地球人とほとんど変わらない内部組織をもつこの死体の謎に迫るべく、科学者たちの奮闘が始まった。
★★★ジェイムズ・P・ホーガンの出世作らしいです。のちに『ガニメデの優しい巨人』『巨人たちの星』などの続編も書かれています。
今年(2001年)はしし座流星群が見れたりして(私は見てないけどね)星に思いを馳せた人も多かったのではないでしょうか(^^)私も、夏の夜はもちろん、冬でも風呂上りなんかには裏庭に出て星を眺めたりするようなロマンチスト(笑)ですが、なんで夜空の星って見上げたくなるんでしょうねえ〜。重力に縛り付けられた身の悲しさから、遥か無限に広がる空間に憧れるのか、はたまた空の彼方に実は存在する、遠い記憶の中の故郷を思うのか。どっちにしても、何故か見上げてしまう星空は、奇妙に人の心をワクワクさせますよね。
ストーリーは、月面で発見された死体(チャーリー)の謎を追うというもの。地球人とほとんど変わらない、しかし五万年前の死体。人類はかつて、月まで到達するような文明を持っていたことがあるのだろうか?だが、その文明の痕跡が全く残っていないとしたら、チャーリーは別の惑星の住人なのか?そんなことがあり得るだろうか…?議論が沸騰する中、木星の衛星ガニメデでは地球の現代を遥かに凌駕する高度な科学を持つと思われる宇宙船の残骸が発見された。しかもそれは二千五百万年前のものだという…。
物語の最初の部分だけで、お、これ(チャーリー)は○○の○○(←好きな言葉を当てはめてください)ってことなんだな!って分かるけど、それがどんな形で立証(?)されていくのか。テンポのいい展開に、もっともらしく納得させてくれる科学的難解記述(笑)、やや薄味ながらも魅力的な科学者たちの姿、作者の描きたかったものがストレートに伝わってきて、一緒にワクワクすることが出来ますね〜(^^)ちょっと物足りない部分もあるけど、この作品の世界観は好きだなあ。なにか、人が普遍的に宇宙に憧れる、その根源が描かれているような気がしました。ドラマチックな記述はほんとに少ないのに、ドラマを感じてしまうんだなあ〜(*^^*)
ハントの明かす月の真実には目からうろこ!って感じでしたが、その推論の中にある自明ともいえる不合理に他の科学者がちっとも気付かないという展開はちょっとどうかと思いました(笑 このまま終わったらどうしようかと思っちゃった(^^ゞ)でも、ダンチェッカー君好きだから、最後に彼に花を持たせてあげられて良かったかも〜♪
◇◆この本はせっかく頂いたのに火事で水を被ってダメになったという曰くつき(^^ゞでも、読めてよかった◆◇
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第四回『危険な童話』
土屋隆夫(光文社文庫)
幼い娘と二人暮しのピアノ教師、木崎江津子の家にある男が訪ねてきた。男の名は須賀俊二、五年程前に傷害事件を起こし、仮釈放された彼は、その足で江津子を訪ねたらしい。江津子は須賀の従兄弟の未亡人だったのだ。夕食をご馳走しようと江津子が家を空けたのはほんの十五分ほど。帰ってきた江津子はいきなり、血に染まった俊二の死体にぶつかったのだと証言した。上田署に赴任して初めての事件で須賀と関わった木曾刑事は、事件当時の江津子の行動に不審を覚える。状況は明らかに江津子に不利だったが、江津子は口をつぐみ、凶器のナイフも見つからないままであった。
★★★日本推理小説史上屈指の名作、ということです。
冒頭で、「月女抄」という小説の序章が語られます。作者は、この作品を完成することなく、精神を病んで自殺したのですが、この作品が後年、ある殺人事件に深く関わることになるのでした。美しくも哀しい、お月さまの物語・・・しかしそれは「危険な童話」だったのです・・・。
この作品の登場人物である木曾刑事は十二文(?)というでっかい足の持ち主で、兵隊の頃、被服係の上等兵から「お前の足を、靴にあわせるんだ」と怒鳴られた、というエピソードがありますから、時代はやはり昭和中期ということですね。日本のちょっと古い小説というのは、風俗描写が面白かったりして結構好きなんですけど、この作品はそういう楽しみは少なかったです。外国のものだと、最近のでも、ちょっと古くてもすご〜く古くても、どっちにしろ見知らぬ世界、ってことで楽しめるのですけど、日本の作品の場合、ただただ、「古いなあ〜」って感じになっちゃうのは厳しいところですね。しかし、端正な、まじめな作品で、よくまとまっているあたりはさすがに「推理小説史上屈指の名作」という感じです。「靴が小さい」ということから最後の指紋発見に至る部分はうまい展開だなあ〜と感心しました。「危険な童話」の真相には、その是非はともかく、それを語り聞かせている母と、それに無心に聞き入る少女の姿を想像すると、なんともいえぬ哀しさに胸が詰まりました。でね、そういう部分に比べると、ウイスキーの交換だの、ハガキの指紋のトリックだのは、あまりに作りすぎている感じがしてワタシ的にはしっくりこなかったんですけど、小技の数々がいわゆる推理小説の「基本を抑えてるぞっ!」って感じで、退屈はしないので良かったです♪
ところでわたし、被害者の須賀が、五年前の送監の朝、面会に行った木曾に言ったという言葉を誤解しておりました。須賀は何らかの事情があって、自分が殺されることがあるかもしれない…と思っていたから「もう一度お世話になるかも…」と言ったんだろうと思ってたのに、最後に出てきた日記によると、えらい能天気っていうか、こいつはアホか!みたいな考えを抱いていたということが判明してがっくりきました。なるほど、こりゃあ殺されてもしょうがないかも(^_^;)それともう一言だけ。挿入されているあの童話、あれは・・・うう〜ん、どうなんでしょ(爆)
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第五回『びっくり箱殺人事件』
横溝正史(角川文庫)
丸の内にある中ぐらいの劇場「梟座」では、豪華絢爛たる百万ドルレヴュー「パンドーラの匣」の幕が開いた。昭和の蜀山人と評判の高い深山幽谷先生による台本は大好評、興行成績も文句なし・・・と言いたいところだったが、好事魔多し、とんでもない事件が起こってしまったのだ。初日から七日目のこと、登場人物の怪物たちは舞台裏で何者かに殴打され、舞台ではエピミシューズ役の男優がパンドーラの匣を開いたとたん、仕掛けられていた飛び出す短剣によって刺し殺されてしまった。警視庁からはおなじみ等々力警部が出張るが、第二第三の殺人事件が次々と勃発、劇場は大混乱に陥る。
★★★等々力警部は出てくるけど、金田一さんは出てこないのでした。
昭和23年1月から9月まで「月刊読売」に連載された作品。どたばた活劇風が、当時の世相を感じさせて面白いです。猥雑で、活気があって、多分今よりずっと貧しいんだろうけど、なんだか、底抜けとでもいうような余裕を感じさせる時代ですねえ。
最初はさほどとも思わなかったのですが、話が進むほどに横溝センセイのペンもすべりが良くなったのか、ノリノリ状態(^^ゞセリフも妙に「決まってる」し、舞台ウラがそのまま舞台になってて、ほとんど(全然)深刻さがないのも、この作品の場合は成功してますね〜。なんともいえぬ軽さがよいです。しかし、本格推理小説としてもかなりのもので、きちっと読ませる構成を作り上げているあたりはさすがさすが。バランスの良い作品で、満足度も高いです。ただ一つだけ疑問もあるのですが…。紅花子嬢への警告の手紙を出した人って、誰?(既読の方、良かったら教えてくだされ〜^_^;)
同時収録
『蜃気楼島の情熱』・・・パトロンの久保から、友人でアメリカ帰りの志賀を紹介された金田一は、彼の住む瀬戸内海の小島の竜宮城のような住まいに招待された。志賀は以前、アメリカで妻を殺された経験があるというのだが、金田一らが到着したその夜、彼の二番目の妻が殺されるという事件がおこる。磯川警部登場作品。
こちらは金田一さんが登場する短編。典型的な情痴殺人の様相に、もちろん志賀が無罪だという前提でどういう解決がつけられるのかな〜と、興味津々でしたが、ここまで考えられた犯罪だったとは!短い作品のなかで、巧妙なトリックとそれを看破する金田一(「この問題、狼と子羊をおなじ岸へおかないようにして、舟で川をわたらせるあの考えものに似てるじゃありませんか。」)人間性のかけらもない真犯人の姿に、金田一も暗い気分になるわけですね(ーー;)ま、難をいえば、樋上四郎なる人物は別に登場させなくてもいい、というか非常〜に不自然ではないでしょうかね(^_^;)長編化でも考えていたのでしょうか?
◇◆この本はSSさんからのプレゼント本です。SSさんどうもありがとうございました(*^^*)◆◇
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第六回『真珠郎』
横溝正史(角川文庫)
「真珠郎はどこにいる」友人乙骨三四郎に誘われて、信州で夏を過ごすことになった私(椎名耕助)は、N湖畔のそばに建つ春興楼にやって来た。途中のバスで相乗りになった老婆に言われた予言めいた気味のわるい御宣託は少々気になったが、出迎えた由美の美しさにそんなことは吹き飛んだ。だが、私は見てしまったのだ、真珠郎を、「湖水の水の底から抜けだした妖精ででもあるかのように、蹌踉としてそこにたって」いた彼を・・・。そして浅間山が爆発した日、真珠郎は由美の伯父鵜藤を殺害し、武蔵野の逃げ水とともに消えてしまった。やがて、由美は乙骨と結婚するが、新婚生活は幸せではなかった。由美は真珠郎誕生の恐ろしい真実を私に語って聞かせた。
★★★この文庫のカバー絵が、なんとも意味深な感じ…。
この作品は由利麟太郎先生モノなんですが、横溝先生の「耽美的な浪漫世界」(あとがきより)にすっかり浸ってしまってたので、謎解きの探偵さんが出てきたのにびっくりしてしまいました。序章からしてもう、じっとりとした雰囲気に満ち満ちて…「それはある山国の湖畔における、森沈たる真夜中のことなのだ。私はゆりなくもその柳の樹のしたに、眼もあやに飛び交う無数の蛍火につつまれて、蹌踉として立った真珠郎の姿を垣間見たのである…」云々。そして第一章で主人公の「私」が空の雲にヨカナーンの首を認めて立ちすくむ姿は、前途の暗い予感にワクワク(?)させるのに十分なのでありました。ああ、それにしても「真珠郎」…なんとも空虚で、はかなげで、しかも印象的なこの謎の少年。現実と非現実の作り出すまがまがしい幻。美しい信州の情景のなかにこの「如法闇夜」を同棲させたこの作品、やっぱ名作ですね〜。まっ、謎解き物としてはどうしても少々無理があるような気もしましたケドね…(^_^;)はあ〜、もっとこういうの読みたいです…。
同時収録
『孔雀屏風』・・・私は、戦地にいる従兄弟の与一から不思議な手紙を受け取った。与一が幼い時からまぶたに描いていた不思議な幻の女性がある雑誌の口絵に出ているのだという。彼女の事を調べて欲しい、という願いに答えてその女性に手紙をおくった私のもとへ、彼女の伯父という人物が訪ねて来た。やがて、二人の間には、両家に伝わる三面屏風にまつわる不思議な因縁話があることが判明する。
これは非常に短い作品ですが、百年以上前の悲恋話、宝捜しの裏表とそれに絡む犯罪などなど、盛りだくさんなわりにはうまくまとまっていて良い出来ですね。まだ会った事のない二人の恋愛にも不自然さはなくて素敵な感じ♪ハッピーエンドだし(*^^*)
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第七回『エンジェル家の殺人』Muder Among the Angells
ロジャー・スカーレットRoger Scarlett(大庭忠男訳・創元推理文庫)
イタリアの宮殿のような陰気で不快な外観をもち、内部は対角線を引いたように二分されている。その屋敷に住むのは年老いた双子の兄弟、ダライアス・エンジェルとキャロラス・エンジェルを長とする二つの家族だった。兄弟の父親の遺言が二人の仲を隔てたのだ。どちらかが死ねば、財産は全部、生き残ったものの手に入る…長生きしたものへの褒美。いま、ダイライアスは死を目前に苦悩し、キャロラスは健康のためだけに生きている。アンダーウッド弁護士を通じて、死後の財産分与について話し合おうとしたダライアスだったが、キャロラスの反応は鈍かった。ところが一発の銃弾が、二人の運命を逆転させる。
★★★江戸川乱歩によって「三角館の恐怖」に翻案された密室殺人の名作。
Lを裏返しにしたような形をして、そのLの基部でまっぷたつに仕切られた屋敷。両翼には二つの家族が住んでいました。ダライアス・エンジェルと二人の息子。キャロラス・エンジェルと養女とその夫、及び養子。ダライアスかキャロラスか、二人のうち生き残ったほうとその跡取りが莫大な財産を相続し、もう一方の家族には何も残されない。それが健康きちがいだった兄弟の父の遺言だったのです。長生きこそ全て!ってことですね。いや〜想像力に欠けるお父さんですな。そんなわけで、当然のことながら双子は疎遠な仲に。今となっては似ているところすらなくなり、ひたすら「相手よりは長生きするぞ〜」という執念のみが生きる糧。やがて死期を悟ったダライアスは、キャロラスの人間性に訴えてみることにしてみました。結果は…当然のことながら。ところが、健康のためだけに生きていたようなキャロラスが、何者かに射殺されてしまったのです。屋敷に入り込んだ不審な男の正体とは?
う〜ん、雰囲気ばっちりで面白かったです〜(^_^)妙な形をしたでっかくて陰気な屋敷に渦巻く愛と憎しみ、欲望と陰謀。神出鬼没の見知らぬ、オーバーを着た男。がたごとと動く鉄の箱。古典本格作品ならではの舞台装置ですね。いやがうえにも盛り上がりますとも!執事のブラードが、私の好みの無表情で沈着冷静で、ちょっとユーモラスっていうタイプじゃなくて、いやにぱっとしない小物なのは残念だけど(笑)両家の家族は、これがまたロクなのがいなくて、そこがまた良いというか。ま、カール君がちょっとましなのかな?そのぶん影が薄いけど(^_^;)やはり、欲望を剥き出しにしているぐらいが、人間らしいってことなんでしょうね。てなわけで、この作品、どっちかというと密室殺人とかのほうが評価されているのかもしれませんけど、わたし的には人間関係のほうがひたすら面白かったです、あからさまで(笑)トリックとかはね…エレベーターの方はま、ともかくとして(^_^)最初のキャロラス殺人事件は、ちょっと説明を聞いても無理があるような気がしたのですが、どうなんでしょうか?ちょっと、やりすぎって感じが・・・(^_^;)ま、それはともかく、ケイン警部って一体なんなのでしょうかね?こりゃ、ダライアスも殺されるぞ、と思っていたらあっさり殺されて、しかも「彼の死が君を助けた面もあるんじゃないか?」「うん、ある点ではね」って、おいおい〜(^_^;)アンダーウッド弁護士もあるまじき不注意ぶりを発揮するし、のんびりした時代だったのかしらん。アンダーウッド弁護士のキャラクターがイマイチ安定していない印象を受けたのは残念でした。探偵役に魅力がない。
とはいっても、全体にメリハリが利いていて、サスペンスフルでぐいぐい読める作品でした。最後のあたりはちょっとドラマチックに傾きすぎて、犯人にも脳味噌があるということを無視している感じもしますが、読んでいるほうは楽しかったですね。動機も、なるほどな〜というひねりがあって、しかも作品の雰囲気にぴったりで、とても良かったと思います。
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第八回『弁護側の証人』
小泉喜美子(集英社文庫)
『……を死刑に処する。判決理由。・・・』元ヌードダンサー、ミミイ・ローイこと漣(なみ)子は、この判決を聞きつつ、新たな決意を固めていた。「信じていてね、罪もないひとを死刑にすることはだれにもできないのよ」―金網越しに口づけをかわした夫の顔は、新しい不安と期待に震えているようだった・・・。事件の始まりは何時だったろう?漣子がはじめて夫の杉彦に出会ったとき、彼女はヌードダンサーで、彼は富豪の一人息子だった。周囲の反対を押し切り結婚した二人だったが、杉彦の父龍之介はもちろん、姉洛子も、女中頭として君臨する志瀬も、漣子を決して杉彦の妻として認めてはいなかった。そして事件は起きたのだった。家族が一堂に集まった夜、漣子の妊娠が発覚、これで心が和らぐかと思われた龍之介が惨殺死体となって発見された。
★★★知るひとぞ知る有名な作品ですが、このサプライズエンディングについて全然予備知識なく読めたのは幸せだったというべきでしょう。
えっと、あらすじを紹介するのは大変難しい(っていうか、ネタバレするのも申し訳ない)ので、ここでは書かないことにします。ま、実は完全に騙されちった、というわけでもないんですが、読み返してみても破綻なく構築されているのには感心しました。ま〜、難を言うと、そうだったの?と思いつつ読み返すと、ちょっと心理描写としては不自然かなと思える部分も、無きにしも非ずなのですが、大変良く出来ていると思います。
実は私は、こういうビックリさせられ方は、技巧的に感じることが多くてあまり好きではないのです。ど〜よ、凄いでしょ!ビックリしたでしょ〜!!という作者の、鼻をうごめかしている感じが前面に出すぎると、このためだけにこの作品を書いたのか〜この人、とちょっと鼻白んでしまうのですね。でも、この作品は気にいりました。
なんていうか、全然感心しないんですけどね、漣子という主人公にも、杉彦にも。幼いし打算的だし。でも、漣子の打算が、何となく分かるというか。愛も打算もひっくるめて、この女性(ひと)にとってはまさに真実だったんだろうな、と思わせる、リアリティを感じさせる作品でした。
ストーリーは、一人称や三人称を取り混ぜての構成が、いつのまにか読者を幻惑していきます。漣子とともに読者の頭の中にも再現されたはずの事件が、第十一章「証人」において、息もつせぬ迫力で反転させられていく様は圧巻です。そして「終章」・・・私の心に残ったのは漣子でも杉彦でもなく(彼らの運命はある意味で当然の帰結であり、同情には値いしません)、「弁護側の証人」の「荒涼としたキャベツ畑を背にのっそりと立っている、アメリカ野牛に似たうしろ姿」だったかもしれません。
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第九回『ジェゼベルの死』Death of Jezebel
クリスチアナ・ブランド(恩地美保子訳・HM文庫)
帰還軍人のためのページェント。華やかなアトラクション劇の主役を務めるのはイゼベル(またはジェゼベル)・ドルー。見守る観客の目前で、イゼベル演じるところの女王が、高い塔へ進み出たとたんに落下した!落ちる前すでに、何者かの手にかかって絞殺されていたのだった。舞台は騒然、白騎士の乗る馬は驚いて駆け出し、赤騎士はふらふらと死体のそばに屈みこんだとおもうと姿を消した。予告された殺人劇。その発端は七年前のある青年の死。愛する人に裏切られ、失意の自殺を遂げた青年の、これは復讐の始まりだったのだろうか?
★★★クリスチアナ・ブランド長編第五作。
物語のそもそもは、やはり七年前のジェニイ・ワイズの自殺に遡らなければ。婚約中のパーペチュア(パピー)を訪ねたジェニイは、そこで思いもよらぬ恋人の裏切り行為を目にすることに。そのまま彼は、行き止まりの路地に向かって思い切りアクセルを踏んだのだった。時は流れ、悪巧みの仕掛け人、イゼベルとアール、そして二人にはめられた哀れなパピーは、脅迫状を手に不安におののく。昔馴染みのパピーから助けを求められたコックリル警部(コッキー)は、脅迫状の、ただの冗談半分の悪ふざけにしてはあくどすぎる響きに懸念を持っていた。かくして、殺人劇の幕は切って落とされた。
いや〜、これがまた、ろくでもない登場人物ばっかりで(^_^;)誰が殺されてもぜ〜んぜん構わないもんね、という気分にさせられてしまう。イザベルは「ジェゼベル」というありがたくない仇名を頂戴するのが相当とおもえる、どこがいいんだか全然わからない中年悪女だし、アールは寄生虫のようなロクデナシだし、パピーは一度自分をはめた人間にふらふらとくっついてるバカ女だし。それ以外も、「マザーディアーストーカー少年」「浮気しつつ泣き言ばかりの男」「妙な言葉遣いの外地帰り男」「自己嫌悪がめんどくさい女」と、殺人者候補にも魅力的なのはいない。ううむ、ここまで読者の感情移入を拒否するとはさすがブランド!、と意味不明の感動を覚えたり(^_^;)
ま、その分、トリックって言うかプロットって言うか、は魅力的(^^)どう考えても不可能な犯罪に、コッキーは悪態をつきつつ挑むのであった。コッキーは馬鹿にしてたけど、私はチャールズワース警部もなかなか良かったと思うけど。どっこいどっこいでは(笑)「とっくにわかってたよ」なんて言ってたけど、どうも信じられないぞ(^_^)もし、あの「首切り落し」の真の理由に気がついていたとしたら…コッキー、アンタは悪魔だ〜。
謎解きは、ラストの手前でかなりごちゃごちゃする。みんなが告白ごっこをしたりして。こういう展開はあんまり好きじゃないんだよね〜。しかも愛せない人たちばっかりなので余計にムカムカと(^_^;)で、あまりにごたごたと告白があったりなんかするので真犯人があまり引き立たなかったな。ここらへんの匙加減は難しいところかも。最後まで読んで、もう一回告白ごっこから読み直して、ようやく誰がホントのことを言ってたのかが分かって納得。頭の悪い読者ですいません(^_^;)しかし、噂にたがわぬ傑作(というか力作というか)であることは確か。好みではないけど、面白かった(^_^)
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