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横溝正史

自選人形佐七捕物帳(一)・羽子板娘(角川文庫)
自選人形佐七捕物帳(二)・神隠しにあった女(角川文庫)
自選人形佐七捕物帳(三)・舟幽霊(角川文庫)

 


自選人形佐七捕物帳(一)羽子板娘
羽子板娘・・・羽子板になった江戸三小町の一人、深川のお蓮が大川端で水死体となり、しかも初七日の晩、お蓮の羽子板が首のところで真っ二つ切られて投げ込まれた。しかも続いて、おなじ羽子板娘、辰源のお蝶が殺されたという。人形佐七、颯爽と初手柄。
恩愛の凧・・・新年明けて、桜田門外のお堀端で江戸城からの諸侯ご退出を見物していた辰に豆六は、なにやら胡散臭いお菰の二人ずれに気が付く。ある若侍が門から出てくると、そいつらがもっていた凧が風にあおられたかのように若侍の袖に絡みついた。佐七一家、きんちゃくの辰五郎、うらなりの豆六、女房お粂、が勢ぞろい。
浮世絵師・・・見世物一座の花形役者、市川鶴代を書かせてほしいやってきた猫亭独眼斎という浮世絵師、いかにも不気味な男だったが口説かれてついつい絵を書かせることを承諾してしまう。翌日迎えの駕籠で連れ込まれたのは、なんとも薄気味悪い屋敷。そこで浮世絵師は世にもおぞましいことを言い出す。
石見銀山・・・おんな役者の一座十三人が石見銀山ねずみ取りを飲まされて、九人が死ぬという恐ろしい事件が起こる。いつものすし屋のじいさんが病気だといって、かわりに孫娘が持ってきたさげ重のすしを食べている最中の出来事だった。
吉様まいる・・・大店紅殻屋の主人が佐七に頼み込んできた事件はいささかへんてこだった。娘お七が子を生んですぐに急死。子の父親の名前を頑として言わないままだった。ヒントは手紙に書かれた「吉様」という名前だけ。この「吉様」をめぐって、いまや三人の「吉」がわれこそ、と名乗って出ているという。
水芸三姉妹・・・ある旗本が殺された現場に落ちていた博多独楽。それは水芸で人気を博している博多屋三姉妹が使っているものだった。なぜこれが殺しの現場に?ところが、姉妹の一人、小梅が舞台を勤める最中に、どこからか飛んできた小柄にのど元を貫かれて死ぬ事件が起こる。やはり、三人と旗本殺しには関連があるのか?
色八卦・・・評判の女易者、妙見堂梅枝が殺された。長屋の筋向いにすむ弥平・お梅親子が梅枝と言い争っていたらしいが、なんでも湯島の富くじで、一の富、つまり千両のあたりくじを妙見堂に騙り取られたと悔しがっていたという。
うかれ坊主・・・江戸の名物男、飴売りのうかれ坊主が死んだという。さっそく長屋の衆が弔いを出し、翌朝はやく早桶をかつぎだした。ところが運ぶ途中桶の中から「おいおい」と呼びかける声。驚いて一度は逃げ出したものの、戻ってきて中を覗いてみると、なんとなんと、中身が変わってた。
☆☆☆神田お玉が池の親分、あんまり男ぶりがいいものだから人形佐七とよばれる、寛政二年のうまれだから明けて二になります、という佐七の初手柄が『羽子板娘』文化十二年のこと。この話ではとばっちりを食った娘が可哀相でしたね。『恩愛の凧』も親心がしみじみとするいい話です。ここから佐七・辰・豆六トリオに女房お粂も登場しています。『浮世絵師』は、話の筋はよくできているんですが、なんとも気味がわるい話でした。『吉様まいる』は、最後の番頭の忠義心がなかなかいいですね。『水芸三姉妹』これもよく出来た話、でも二人も死なさなくてもいいのに〜。『うかれ坊主』は読後感のよい話でした。

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自選人形佐七捕物帳(二)神隠しにあった女
神隠しにあった女・・・小松屋の手代宗七がついつい出来心で遊んだ舟まんじゅうのおんなは、小松屋の親戚にあたる宝屋の娘お福であった。彼女は最近神隠しにあったといわれており、びっくり仰天した宗七は大事な商売もの、備前長船の刀を舟に置き忘れてしまう。
好色いもり酒・・・茶道の師匠をしている笹井夫婦は、女敵持ちで、国元を出奔してきたらしいという噂。女房に気のある銭屋万右衛門はほれ薬のいもりの黒焼きを酒にまぜてみようと試みるが、何者かに仕込まれた石見銀山で女房は死に、銭屋も死にかける。
百物語の夜・・・篠崎鵬斎という旗本の隠居がひらいた百物語の席に招かれた佐七とおなじみ辰に豆六。一番手になった佐七は、話のついでにそこにくる途中に出会った若い男にことづかったといって、客の一人、室井という怪談作者に手紙を渡す。その後、室井のようすがおかしくなった。
彫物師の娘・・・伊丹屋市兵衛は、亡き娘の忘れ形見信乃をわが孫として引き取ることが出来なかった。娘の駆け落ちした相手は彫物師、信乃の背中には父親の彫った見事な彫物があったのだ。五年後、後悔した市兵衛は信乃を引き取ろうとするが、信乃と名乗り出た娘が二人いるから困ってしまった。
ほおずき大尽・・・海老屋万助は還暦の赤い衣装をきたまま、気が狂ってしまい、座敷牢に押し込められていた。そばにはお気に入りの元遊女、お国。お国の言うことだけは聞いていた万助がある日突然、座敷牢の格子を打ち破り、お国に切りつけたまま行方不明に。そして万助が恨みを抱いている人物が次々と殺される。
春宵とんとんとん・・・叶屋の一人娘お染がこよい忍び会おうとしているのはまむしと異名のある札付きの安御家人、丹三郎。乳母のおもとは悔しくて仕方がない。しかも丹三郎は叶屋をゆすっているらしいというのに。ところがその丹三郎が殺されてしまった。死体の手には赤い手がらが。それは、お染のものらしいが。
緋鹿の子娘・・・佐七の子分豆六が危うくおぼれかけたのは、永代橋で身投げ女を助けようとしたからだった。女はお艶といい、あわれな事情から気が狂ってしまっていたのだ。だが、身投げをしようとしたとき、お艶の着物の片袖は血でぐっしょりとぬれていたのだった。やがてお艶とゆかりのある男女二人の死体が発見された。
三河万歳・・・ことし三河万歳の春太夫が引き当てた才蔵亀丸は、器用で愛嬌もよかったのだが、何か事情がありそうな感じが気がかりだった。そんな折り、宮部という浪人者が殺され、そばには花かんざしが。かんざしの持ち主を探るうち、三河万歳とのかかわりが明らかになってきた。
☆☆☆『神隠しにあった女』備前長船の因縁話がいいですね。『好色いもり酒』はもう石見銀山大安売り。みんなしてそんな・・・『百物語の夜』これはまず、ある外国作品を思い浮かべるところですが、それはともかくとして物悲しいような余韻の残るいい作品ですね。『彫物師の娘』娘が実は・・・というのがちょっとどんでん返し。これも読後感よし。『ほおずき大尽』は悲しい話です。お国っていう人はそれなりに幸せになれた人かもしれないのに。『緋鹿の子娘』のお艶は本当にあわれ。悪いやつらの死に方がいいね。

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自選人形佐七捕物帳(三)舟幽霊
舟幽霊・・・江戸芸能界の大パトロン大枡屋の月見の宴に招かれた佐七たちは、中村富五郎とお駒ののった屋形船に便乗させてもらう。乗り込むときに船宿のおかみがずぶぬれの女の幽霊を見た、といったのが気がかりだ。はたして、大枡屋の寮の池に女の死体が。女はおえん、といい富五郎といい仲だったという。
万引き娘・・・小間物屋紅屋に大家の娘と思われる客が訪れた。丁寧に対応したところが、実は万引きらしい。押し問答をしているところへ用心棒が現れて、娘の腕をつかんだその時、土手っ腹をえぐられてその場に倒れこんだ。娘の姿はすでにない。しかし、紅屋の番頭は娘の正体を知っているらしい。
くらやみ婿・・・甲州屋の娘お松は二十にもなるのに嫁に行っていない。器量はいいが、体の弱いのと、両親の溺愛が嫁きおくれの理由だ。そんなお松がなんと身重だという。父親はくらやみ祭りの夜、契った男だが、お松が相手だと信じていたのは新三郎という浪人。ところがこれが浪人などとは全くの偽り、とんでもない悪党で、その夜は牢屋に入っていたというのだ。では一体お松の相手は誰なのか?
女難剣難・・・よくあたると評判の易者白雲堂は、このところ自分に女難の相が出ていると悩んでいた。いっそひとおもいに女を殺して・・・などとぶっそうなことを言った白雲堂のことが気になっていた佐七だが、女役者が殺される事件が起こってしまう。その女役者こそ白雲堂がいれあげていた相手だったのだ。
遠眼鏡の殿様・・・赤松源之丞は竹斎と称して楽隠居のご身分だ。その竹斎、実はひそかな楽しみがある。隅田川の岸の隠居所の高殿に、遠めがねをすえつけて暇さえあればのぞいているのだ。その上秘事の最中の男女をおどして、矢を射掛けるなどという悪戯まで。ある日佐七たちが来ているときもそうして遊んでいたら、たまたま人殺しを見つけてしまう。
風流六歌仙・・・風流六歌仙に、パトロンのお大尽茨木屋が持ちかけた趣向はこうだ。いしにえの六歌仙になぞらえた各人の似顔絵を鳩の足につけて放ち、七日後の月見の夜、その似顔絵を持ってきたものに褒美を出そうというのだ。六枚全部そろえたものには五百両という気前のよさだ。ところが、六歌仙の一人が殺されて、その死体には本人の似顔絵が突き刺されていた。
夜毎来る男・・・茶屋の娘お鈴が佐七に相談がある、と言っていた矢先姿を消した。実はお鈴には暗い過去があった。高利貸しの久庵夫婦と下男の銀造が、久庵を恨みに思っていた源兵衛に焼き殺されたという事件があったが、その久庵夫婦の娘お品が、お鈴だという。お鈴は毎晩のように茶屋にやってくる頭巾をかぶった男に悩まされていた。
恋の通し矢・・・「三十三間堂の通し矢において、恐ろしき人殺しとりおこなわれるべく候・・・」佐七のたもとにこんな手紙が投げ込まれた。翌日通し矢の勝負が逸見一夢斎と、破門された元高弟貝塚喬之助の間で行われることになっていた。とりあえず勝負の場にでむいた佐七だが、はたして一夢斎が殺される事件が起こってしまった。
☆☆☆『舟幽霊』いや、この幽霊の正体というのが!しかし、これも怖いけど、生身の尼さんのほうも、怖くない?『万引き娘』では、ずぶぬれのお地蔵様をみて佐七が謎を解きますが、これが笑える(^^)『くらやみ婿』この時代って、闇夜は本当に暗かったんでしょうね〜。なかなか錯綜した謎でしたが、お粂の働きもあってめでたしめでたし。『女難剣難』これはほっとしました。『遠眼鏡の殿様』悪趣味ですね・・・と思っていたら、けなげな事情があったのでした。『風流六歌仙』げに恐ろしきは嫉妬?『恋の通し矢』佐七の見事な謎解きはよかったのですが、ちょっと後味の悪い話でした。死んだおきんが可哀相過ぎる。

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