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No.060 近所の住人を13人射殺 〜 ハワード・ウンルー

元兵士のハワードは軍を退職した後、故郷で再就職を試みたが、どこも長続きせず、無職でひきこもりの毎日を送るようになる。近所の住人が無職の自分を馬鹿にしていると信じ込んでいたハワードは、ある日ついに近所への怒りが爆発する。

▼精神が崩壊しつつあったハワード・ウンルー

ハワード・バートン・ウンルー(28)は、かつてアメリカ陸軍の兵士として、ヨーロッパの戦場へと派遣され、第二次世界対戦を戦い抜いた勇者であった。身長188cmの立派な体格を誇る、まさに軍人であった。世界大戦が終結した後、ハワードは故郷アメリカへと帰国し、終戦を区切りに軍を名誉除隊して、母の待つニュージャージー州のカムデンへと帰って来た。

両親はすでに離婚していたので、ハワードはここで母親との2人暮らしを始めることとなった。

ここで新たな仕事に就(つ)いて次の人生を始める予定であったが、元兵士に一般社会の仕事は合わなかったのか、いくつか仕事には就いたものの、どれも長続きはしなかった。腹の立つことがあるとすぐに辞めてしまう。

失業を繰り返す息子に母は色々と言葉をかけるが「うるさいな!」と、いつも怒ったように言われる。そのうちハワードは家に引きこもるようになった。それと同時に母との会話も極端に少なくなっていった。

ずっと家にいると今度は隣近所のことがしきりに気になってくる。窓から見ていても、やることなすこと、腹の立つことが多い。隣近所が庭を手入れする音や近所の子供が楽器の練習をする音もうるさい。それに加えて定職に就(つ)いていないことに焦(あせ)りや自己嫌悪(けんお)もあった。

腹の立つことは細かくメモし、いつか仕返ししてやると近所の連中に復讐を考えていた。また、失業期間の長い自分のことを近所の連中は絶対、話のネタにし、自分の悪口を言っていると信じ込んでいた。

軍を辞めてこの地に住み始めて4年。失業を繰り返し、家に引きこもり、それゆえに細かいことが気になり、近所の連中に対する怒りも頂点に達していた。殺すリストは普段からメモしてある。すでに彼の精神は崩壊していた。

▼復讐の開始

1949年(昭和24年)9月6日、これまでの怒りや不満が一気に爆発した。

この日の朝、ハワードは2階の自分の部屋で目を覚ますと、顔を洗って母の待つ1階へと降りて来た。この日に限ってハワードはスーツに蝶(ちょう)ネクタイという格好であった。

台所で母が用意してくれた朝食を食べる。母はコーヒーを入れてくれている。

「今日はきちんとした服装をしてるけど、どこかへ出かけるの?」

普段はほとんど会話のない親子だったが、母が思い切って聞いてみた。聞かれてじっと母を見つめるハワードの目はいつもと違っていた。親子だけあって、息子の精神が普通ではないことを母はこの時直感した。

それと同時にハワードは拳(こぶし)を握りしめ、全力で握りしめた手が震え始めた。明らかに普段と違う。母は強烈に悪い予感がした。

突然ハワードは立ち上がったと思うと、物入れから一本の棒を取り出した。この棒を振りかぶり、母親目がけて振り下ろす構えに入った。

「ヒッ!」

「殺される」そう思った母親はとっさに両手で頭をかばい、目をつぶった。しかし棒は振り下ろされなかった。恐る恐る目を開けてみると、ハワードは空(くう)を見つめて呆然(ぼうぜん)としている。

「ハワード、何をする気なの!? 私を殺す気!?」

叫んだ母はすぐに裏口から逃げ出し、隣の家に助けを求めた。数分経った後、家の中から数発の銃声が響いてきた。

「ハワード、何てことをするのよ!ここに住めなくなってしまうわ!」


母は恐怖と落胆に満ちた声を上げた。


9時20分、
ハワードは棒の代わりにドイツ製ルーガー自動拳銃を握った。ポケットに大量の弾丸を詰め込み、外へ出た。「復讐の開始だ。」ハワードは標的たちに向かって歩き始めた。


「これまで近所の奴らから散々悪口や嫌がらせを受けてきた。いつも俺を目の敵(かたき)のようにしやがる。母親の稼ぎで生活していることがそんなに悪いか。」

「まず胸を狙って撃つ。そして頭を撃って確実に殺す。」

戦争を経験してきた元兵士は、そう思いながら、第一の標的に向かった。殺すべき相手は普段から考えてある。

▼街を歩きながら次々と射殺

ハワードが最初に訪れたのは靴の修理屋をやっているジョンだった。数軒先にあるジョンの店まで歩いていって、店の中へ入ると、ジョンは懸命に靴の修理をやっていた。

ジョンがハワードの気配を感じてこっちを見た瞬間、ハワードは引き金を引いた。銃声が響き渡り、ジョンの身体は後ろへと倒れた。ゆっくりと近づき、今度はジョンの頭に向かって弾丸を発射した。

ジョンはその場で死亡した。


ジョンを殺した理由は妬(ねた)みだった。ジョンもハワードと同じく戦争からの帰還兵だ。母親に養ってもらっているハワードと違い、ジョンは自分で店を経営している。

ハワードは人から「ヘイ、ユー(おい、お前)」と呼ばれるが、ジョンは「ミスター」と、「さん」付けで呼ばれる。それがうらやましかった。だから殺した。


ジョンを片付けた後、次にハワードは散髪屋をやっているクラーク・フーバーの店へとやって来た。クラークは白い木馬にまたがっている、6歳の子供の髪を刈っているところだった。店内のソファーには、その子の母親らしき女性が座って散髪を見ている。

開いていた店の入り口の前で立ち止まったハワードは

「クラーク、よくも今まで俺を苦しめてきたな!」

と叫んで銃口をクラークへと向けた。

びっくりしたクラークは、とっさに木馬の陰に隠れた。弾は数発発射された。1発はクラークに命中し、もう1発は散髪していた子供の胸に命中した。

子供が木馬から転がり落ちる。「私の子供が死んでしまう!」と、半狂乱になって悲鳴を上げた母親が子供にかけ寄った。

ハワードはその親子は無視して、
血だらけで倒れているクラークに近づき、頭をめがけて発射して、とどめを刺した。子供の方も死亡した。


次はここから数軒先で、雑貨店を経営しているコーヘンだ。ハワードが最も憎んでいる相手でもある。

コーヘンの店に向かって歩いていると、一人の知り合いにばったりと出会った。保険会社に勤務しているハットンである。

「ハワード、おはよう。どこへ行くんだい?」と、何も知らないハットンは話しかけてきた。

「ハットンさん、急いでいるので道をあけて下さい。」

ちょうどハットンが、自分の向かう方向をふさぐような位置に立っていたので、ハワードはちょっとイラついた感じでハットンに言った。

この時、ハワードの手に銃が握られていることに気づいたハットンは、ビクッとして、一瞬身体が固まった。

「どけ」と言うのにつっ立っているハットンに対してムカついたハワードは、ここでハットンも撃った。鮮血が飛び散り、ハットンはその場に崩れ落ちた。ハットンは重傷ではあったが、何とか命はとりとめた。


ハットンを撃ったのは、これから向かうコーヘンの店のすぐ近くだったので、コーヘンにも、この銃声は聞こえた。

その時コーヘンは自分の雑貨店の1階で伝票整理をしていたのだが、何事だろうと道路に出てみると、銃を持ってこちらへ歩いてくるハワードが目に入った。

「ハワードが俺を殺しに来た!」コーヘンはすぐに悟った。


すぐに自宅に使っている2階へと駆け上がり、妻のローズと14歳の息子に

「早く隠れるんだ! ハワードがやって来る!」と叫んだ。

コーヘンの真剣な叫びにただごとではないと察した妻ローズは、息子を押し入れの中に隠し、自分は戸棚の中へと隠れた。コーヘンの老いた母親は隣の部屋へ逃げ込んだ。

そしてコーヘン自身は、2階の窓から逃げるつもりだった。


雑貨店に着いたハワードは、店の中に誰もいないことに気づくとすぐに2階に駆け上がった。ちょうどコーヘンが、2階の窓から外の屋根に逃げようと、窓を乗り越えている最中だった。ハワードはすぐにコーヘンの背中めがけて発射した。

背中を撃たれたコーヘンは、そのまま前のめりに屋根に落ち、屋根を転がって地面に叩きつけられて死亡した。

戸棚の中でじっとしていた妻ローズだったが、ハワードは戸棚の中の人間の気配に気付き、扉ごしに数発の弾丸を叩き込んだ。

すぐに扉を開け、その中で震えていたローズに向かって数発発射し、ローズを射殺した。更に隣の部屋で警察に電話をかけていたコーヘンの母親に気付き、その母親の額(ひたい)に銃口を押しつけ、そのまま引き金を引いた。母親も即死だった。唯一、押し入れに隠れていた息子だけが助かった。


コーヘン一家を始末した後、ハワードが向かったのは、トーマス・ゼグリオの洋服屋だった。しかしハワードが店に着いた時、店内には誰もいなくなっていた。ハワードが店の裏口にまわってみると、そこには妊娠中のトーマスの妻がいた。

銃を向けると
「撃たないで! お願い!」

と彼女は悲鳴を上げた。しかしハワードはためらうことなく引き金を引き、この妻を射殺した。



先ほどから街に響き渡る銃声と悲鳴で、街の人々も異変を感じ取り、街はパニック状態となっていた。誰もかれもが悲鳴を上げて家の中に逃げ込み、得体の知れない恐怖に怯えていた。

通りには誰もいなくなっていた。それぞれ窓を閉めて、カーテンの隙間から外の様子をうかがっている。


しかしその中で、ある家の2歳の子供が、窓に顔を押しつけて外を見ていた。何も分からない子供は、外に立っている男をじっと見つめていた。

ハワードがそれに気付いた。子供に近寄り、窓ごしに子供の頭を撃ち抜いた。鮮血が飛び散り、子供は即死した。


街を歩いている人は周囲には誰もいなくなっていたが、車は走っていた。赤信号で停まっていた一台の車に目を付けたハワードは、その車に近寄り、運転していた男を射殺した。

そしてまた別の車が走ってきて、赤信号で停まった。またもやハワードは車に近寄り、運転していた女性を射殺し、助手席に乗っていたその女性の母親も射殺した。後ろ座席の13歳の子供も撃ち、重傷を負わせた。


この後、ハワードは、酒場に入ろうとしたが、カギがかかっていたので諦め、今度はすぐ近くのレストランに入ろうとした。しかしここもカギがかかっていた。

このレストランのオーナーは、店にカギをかけて2階に避難しており、2階から見ているとハワードの姿が確認出来た。オーナーは、2階の窓を開けると同時にハワードに狙いをつけて引き金を引いた。

弾はハワードの尻に命中した。唯一、ハワードに攻撃を加えた瞬間だった。
しかしハワードは倒れず、その場に立ちつくしていた。致命傷とはならなかったのだ。

そして次の瞬間、何台ものパトカーのサイレンが聞こえ始めた。相当の数のパトカーがこっちへ向かって来ている。

▼逮捕

ハワードは走って自分の家へと帰ると、すぐにカギをかけ、2階にある自分の部屋にたてこもった。うるさいほどのサイレンを鳴らしながら、次々とパトカーが到着し、瞬(またた)く間にハワードの家は数台のパトカーに取り囲まれた。

散弾銃やライフルを手にした警官たちが続々と降りてきて、ハワードの家を包囲した。

ハワードも戦うつもりで、銃に弾を込めていると、その時突然電話が鳴った。

「警察からか?」

不審に思いながら、ハワードは受話器を取った。

「もしもし、ハワードさんですか?」電話をかけてきたのは見知らぬ男だった。

「そうだが、何か用か!」

「私は新聞記者です。まだ警察は突入してきていないのですか?」

「家を取り囲んではいるが、まだ突入してきていない。」


「何人殺した?」

「何人殺したかのか覚えていない。しかし殺すべき相手は殺した。」

「なぜ殺したのですか?」


ハワードはこの質問には答えなかった。

「今、説明している時間はない! お前の電話に付きあってる暇などない!」

ガチャン!と電話を切った。

電話を切ってわずかな時間の後、突然、ハワードの部屋に催涙弾が撃ち込まれてきた。警察が攻撃を開始したのだ。部屋の中は煙が充満してきて、ハワードはたちまち呼吸困難となった。

2階の窓を開け

「分かった! 降伏だ! 武器を捨てて、これからそっちへ行く!」

と警官たちに向かって叫んだ。


両手を上げて家から出たハワードはすぐに多数の警官たちにに取り囲まれ、その場で逮捕された。


「お前、気でも狂ったのか! なぜあんなに大量の人を殺した!?」
という警官たちの問いかけにハワードは

「俺は正気だ。気の狂った奴にあんなことが出来るか!弾さえあれば、何百人でも殺してやったんだがな。」

と答えた。

ハワードによって射殺されたのは13人、時間はわずか12分という惨劇だった。

アメリカでは銃の所持が認められているとはいえ、一般人がこれだけの人数を射殺したという事件はこれまでほとんど例がなかった。この事件はアメリカのみならず、世界中で報道された。

軍隊時代のハワードの経歴

ハワード・ウンルーは、1921年1月21日、アメリカ・ニュージャージー州のカムデンで生まれた。両親は、ハワードが2歳の時に離婚し、それ以来、母親一人の手によって育てられた。

 ハワード・ウンルー
 逮捕されたハワード。周囲は警官隊。
1939年、高校を卒業したハワードは、フィラデルフィアのアメリカ海軍基地の職員として働き始める。そこに2年ほど勤め、20歳になった時、ハワードは軍人となることを希望して、アメリカ陸軍へと入隊した。

入隊したハワードは軍隊での生活が合っていたのか、全てにおいて優秀な成績で、同期で入隊した者から一目(いちもく)置かれるような存在となっていた。

そしてこの頃からハワードは、銃器に異常なほどの興味を持つようになった。好きこそものの得意なれで、射撃練習は人一倍行い、銃のテクニックはあっという間に相当のレベルにまで向上した。

休みの日にも、他の隊員と一緒に遊びに行くようなことはほとんどなく、自室で銃を分解しては油をさし、また組み立て、丁寧に掃除を行い、銃をいじりまわしていた。
時間があれば熱心に聖書を読んでいた。


また、ハワードは、毎日のように誰かに手紙を書いていた。同僚の兵士が相手の女の名前をちょっと見てやろうと、宛名を覗(のぞ)いてみると、手紙の相手はハワードの母親だったことが分かった。ハワードにとって母はとてつもなく大きな存在で、この思いが後にハワードの感性をゆがめていくことになった。

毎日、母に手紙を書く「マザーズ・ボーイ(お母さん子)」と陰で言われるようになった。いわゆるいわゆるマザコンと噂されるようになったのだが、ハワードは訓練の成績がかなり優秀で同期でも大きな存在となっていたため、こういったことを本人に直接言うような兵士はいなかった。

この時代は第二次世界対戦の真っ最中で、やがて訓練を終えたハワードは、戦車隊の一員としてヨーロッパの戦場へと派遣された。

イタリアでドイツ軍と戦い、その後フランスの戦場へも派遣された。彼の役目は戦車の射撃手だった。

それぞれの戦闘が終わって、自分たちの軍が勝利するとハワードは、いつも自分が射殺したドイツ兵の死体を一つ一つ観察してまわっていた。

ある日同僚が、ハワードがいつも持ち歩いている手帳をつい盗み見てみると、その手帳には、ハワードが殺したドイツ兵一人一人のデータがメモされていた。戦場と日付、そして死体の状況などが細かく書かれ、まるで殺すことを楽しんでいるようなメモだった。



やがて戦争は連合軍(アメリカ側)の勝利で終結した。激戦を戦い抜いた兵士たちが続々と帰国し、ハワードもその中の一人だった。1945年、軍を名誉除隊したハワードは母の待つ故郷カムデンへと帰って来た。軍を辞めてこれからここで次の人生を始めるのだ。

母への思いが強烈なハワードは、てっきり自分が帰って来ると、母から抱きしめられてキスをもらえるものと信じていたが、母の態度はいたって普通であり、ハワードは相当に落胆した。この時の思いは強い印象となって残り、今後の母への態度を変えることとなった。

仕事を探して何とか就職したが、腹の立つことがあるとすぐに辞めてしまった。薬剤師の資格を取ろうと専門学校へ入学したこともあるが、ここも結局三か月で辞めてしまった。

次第に無職が当たり前になり、家にずっといることが多くなった。日本で言う「引きこもり」である。家にいて、母の収入で養ってもらいながらも、自分は大好きな銃のことに熱中していた。

自宅の地下室で射撃練習を行い、しょっちゅう銃の手入れを行っていた。

心配した母親が、仕事に就くように言っても「うるさいな!放っといてくれ!」と反論し、無職であることがだんだん母との会話を少なくし、そのうちほとんど口をきかなくなってしまった。

生活も夜型になり、昼間は家にいるが、夜になるとどこかへ出かけるという生活が定着してしまった。

▼母親を性の対象として悩み、同性愛に走る

ハワードにとって、夜になると出かけるというのは、大きな理由があったからである。それは母親と夜に二人きりになるのを避けたいということだった。

普段はほとんど口をきかないとはいえ、やはり母に対する思いは強烈で、ハワードは母親を性の対象として見ていたのだ。たびたび母親とセックスする夢を見ては無精をくりかえしていた。

この当時はハワードは25歳、母親は47歳である。


このまま夜、家で二人きりになれば、自分はいつか母親を襲って犯してしまうかも知れない。

自分にはいつかそういう衝動が起こる予感がしていた。母には断じてそういうことをしたくないという思いと、襲いたいという思いが心の中で渦巻いており、それを避けるためには、自分は夜、家にいない方がいいのだ。

そうした思いで毎晩のように、車で1時間かけてフィラデルフィアの歓楽街へと出かけて行った。


だがある夜ハワードは、自分の性欲を変える事件に遭遇した。いつものように深夜映画館で座ってウトウトしていると、隣に座っている中年男がハワードの股間に手を伸ばしてきて、ハワードの男性器を触り始めたのだ。

最初は驚いたものの、しばらく触ってもらっているとだんだんと気持ち良くなり、そのままなされるがままになった。


ハワードはこれをきっかけとして男を愛することに目覚めた。同性愛者が多く出入りするバーにも出入りするようになり、男と共にベッドを共にし、一晩の快楽にふけった。


元々、母親への性的衝動を抑えるための夜の外出だったが、いつしかハワードは完全に同性愛者となってしまい、数えきれないほどの男たちと性的関係を持つようになった。ハワードは、女性との交渉は一度もなかったという。

▼腹の立つ近所の住人たち

明け方家に帰り、昼間はだいたい家にいるのだが、毎日家にいると、今度は近所のことが気になり始めた。近所の連中に対して腹の立つことが多いのだ。

ある日、隣の家の主婦が、庭の芝生を刈っていた時、自分の庭の芝生を刈り終えると、親切心からか、今度はハワードの家の芝生も刈り始めようとした。

これを見たハワードは頭にきて「よけいなことはするな!」と怒鳴った。

また、隣の家の息子が練習しているトランペットの音がうるさくて、これにも相当に腹を立てていた。いつもの自分の手帳に「読書の邪魔をする許されない行為」と書いて、いつかは復讐するリストに名前を書いた。

腹の立つことのメモは、ことあるごとに増えていった。


外部から完全に自分を遮断したくなったハワードは自分の部屋の位置を中心に、家の周りを高い木製の壁で覆(おお)った。「自分だけの空間に誰も入って欲しくない」との思いを込めた壁の設置だった。

誰からも見られないように自分の部屋を設定した後は、今度は近所の噂が気になり始めた。

「28歳にもなって無職で、母親に養ってもらっている。夜になると出かける。どこへ行っているのか。地下室で射撃練習するのはうるさくて迷惑だ。女性に興味がないようだが、同性愛者じゃないのか。」

実際ハワードに直接このようなことを言った人はいない。こう言われているだろうという彼の勝手な思い込みだった。

近所の人間や他人に対して腹が立ってしょうがなかった。少しずつ、彼の精神は異常のレベルに近づきつつあった。

軍を除隊して、母と暮らし始めてから4年の月日が経った。すでにハワードの精神は崩壊していた。

犯行に及んだ日は、いつものようにフィラデルフィアで映画を見てから、深夜3時ごろ、家に帰りついた。その時自宅の裏庭に設置していた壁が壊されていることに気づいた。ハワードが近所との接触を立つために作った壁だ。

「近所の連中がやったに違いない。」この時、ハワードは近所への復讐を決意した。殺すべき相手はすでに決まっている。夜が明けて一気に来た激情のおもむくまま、彼は次々と銃の引き金を引いた。


ハワードは逮捕後の精神鑑定で心神喪失と診断された。このため裁判は行われず、ハワードは州立精神病院に収容され、生涯ここに監禁されて治療を受けることとなった。



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