1900年代前半のルーマニア。あるところにベラ・レンツィと言う女性が住んでいた。彼女は適齢期になると年上の実業家と恋愛の末に結婚し、めでたく子供も出来た。

一見幸せそうに見えた家族であったが、いつの頃からか近所の人たちは、その家でベラの夫を見かけることが全くなくなってしまった。

いつ見ても家にはベラ本人と子供しかいない。不思議に思った近所の主婦が、ある日ベラに尋ねてみた。
「あの・・立ち入ったこと聞くようだけど、最近ご主人の姿を全然見かけないけど、お元気なのかしら?」と。

それに対してベラはこう答えた。
「夫は・・私に黙って別のところで愛人を作って、その人と一緒に外国へ行ってしまったわ。だからこの家には私と子供がとり残されたようなものなのよ。」

元々が派手好きな夫婦だったから、この言葉で近所の人たちも納得したようだ。それからしばらくしてベラは、ある年下の男と再婚した。ところがこの男も数ヶ月するとまた姿を消してしまったのだ。

またもや近所の人の問いかけに、「あの男は別の女と一緒に家を出て行ってしまい、後から私に別れの手紙をよこした」、と説明した。元々が浮気グセのある男だったので、今度も「あぁ・・やっぱり・・。」といった感じで周囲の人も納得したようだった。

そして3人目。この男とは結婚はしなかったが、同棲のような形で一緒にベラの家に住んでいた。そしてこの男もまた、しばらくすると忽然と姿を消してしまったのだ。

こうした形でベラの家には次から次へと新しい恋人が入ってきてはいなくなってしまった。でも大抵は、どこから来たのか分からない男や外国人だったので・・それに近所の人たちも男が入れ替わるということに慣れてしまい、誰も何も疑いもしなかった。

ところが32人目の男は、たまたまこの街でも有名な実業家の男だったので、蒸発した途端、その男の家族が捜索願いを出してしまったのだ。警察の捜査の過程で当然彼女の家にも捜査が入る。

そして・・彼女の家を捜索した警察はある部屋の光景を見て全員が驚愕した。なんと彼女の家の地下室から35個もの棺(ひつぎ)が発見されたのだ。

そしてそれぞれの棺には、これまでこの家で忽然と姿を消した男たちの死体が入っていた。棺にはそれぞれの死体の名前と年齢が書かれてある。

2人の夫に32人の恋人。そして最後の一つにはなんとベラの息子まで入っていた。警察も驚きを隠しきれない。即刻彼女は逮捕された。後に自供したところによると、全員ヒ素で殺したのだという。

「この男たちが、私を抱いた腕で別の女を抱くのではないかと思うとたまらなかったのです。」裁判で彼女はこう自供した。息子にしても、年頃になると別の女に取られてしまうのではないかと思い、殺して永遠に自分のものにしたかったらしい。

逮捕されるまで彼女は、夜になると毎日のように地下室に降りていき、ローソクで照らしながら、棺の一つ一つを開け、殺した男たちの死体を見るのを毎晩の楽しみにしていたという。


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