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No.54 11人殺害・亡霊たちが食卓を囲むクロンベルク旅館



1919年。ハンガリーのティサクルトという小さな町で、ラツィオ・クロンベルクとその妻のスシーは小さな旅館を経営していた。このあたりの地方は一年の大半が雪で覆われるような寒い土地で、クロンベルク旅館は人里離れた丘の上にあったにも関わらず、この辺を訪れる旅人はここしか止まる場所がなかったので、お客の入りはそれほど悪いものではなかった。

だが時は第一次世界大戦のさ中。戦争が始まってからというもの、旅館の客はめっきりと減ってしまった。このクロンベルク夫妻はすでに老夫婦となっていたが、子供たちに関しては不幸続きで、娘は家出して売春婦になってしまったし、息子の方は9歳の時に不良仲間に入って父親に叱られたのがきっかけで家出してしまい、全く家には帰ってこなかった。


お客は減り、収入も減り・・だが老いた身体では他に何をすることも出来ず、貯金も使い果たしてしまった。明日の生活にも困るようになってしまい、追い詰められた夫婦は、ついに「旅館に泊まった人間を殺害して金品を奪う」という方法を思いついたのである。

殺害にはストリキニーネという毒薬を使うことにした。夫が街に降りてストリキニーネを小袋いっぱいに買った時、店員に何に使うのかと尋ねられたところ、「近ごろオオカミが出て困っているので、その退治に使うのだ。」と言ってごまかした。

殺人計画は実行に移され、1919年から1922年までの3年間に渡ってこの旅館では、実に10人もの人間が殺されることとなった。


夕食に出すワインにストリキニーネをたっぷりと入れ、お客を殺害した後、死体は谷底へと投げ捨てた。あたりに民家はない上に、雪が春まで解けないので発見されることはほとんどない。

仮に発見されたとしても、その時にはオオカミが食いつくして骨だけになっている。時々死体を、パンを焼くかまどで焼いて処分することもあったようだ。

もちろんこのようなことを繰り返していれば、この付近で次々と人間が行方不明になるという噂は警察の耳にも入る。だが場所が場所だけに、旅人たちは遭難したとか、暴漢に襲われたとか、オオカミに食われたとか、そうした形に思われていたようだ。

もちろんこの夫婦が、殺しているのではないかという噂もたくさん立ったが、何よりも証拠がなかったし、死体も発見されることはなかった。驚いたことに殺害を繰り返していた3年間、一度も警察の捜査を受けなかったのである。何よりも夫婦がとても明るく、そのような暗いうわさを吹き飛ばしている感さえあった。


しかし何人も殺すにつれ、段々とクロンベルク夫妻も慎重になり、これまで強奪した金品で随分と裕福にもなった。そこで、あと、もう一人殺したら、永久に殺人はしまいと夫婦で誓い合うことになった。

1922年8月14日、最後のターゲットが選ばれた。その男は30代半ばのわりと小太りの男で、荷物のスーツケースにはたっぷりと現金が入っている様子だった。話を聞くと男はこれまで貯めた金でどこかの土地を買いたいのだという。

そして夕食時になった。夫婦は男とともに2時間ほど夕食を楽しんだ。男は人柄も良く、話も弾んで殺すのに躊躇(ちゅうちょ)するほどであったが、ここで考えを曲げていけないと思い直し、いつものようにストリキニーネをたっぷりと入れたワインを差し出した。

男は何も疑いもせずワインを飲みほし、たちまち毒がまわり、唇はめくりあがり、目をむいて身体をのけぞらせ、のたうち回りながら、あっという間に死んでしまった。

最後の殺人も成功した。夫妻は男の泊まっている部屋に戻ってスーツケースを開けてみると、やはり思った通り大金が入っていた。また、その他の男の荷物も物色して、他に金に変えられる物はないかと探してみた。

だが・・その荷物の中から驚くべきものを発見してしまったのだ。


なんと若いころのクロンベルク夫妻・・つまり自分たちのスナップ写真が入っていたのだ。この写真を見た瞬間、全てを理解した。
この男は長い間家出していた自分たちの息子そのものだったのだ。これまで犯した殺人の罰だろうか。夫妻は恐怖におののき、自分たちを犯した罪にさいなまされ、全身は震え、一晩中泣き明かしたという。

数日後この旅館に別の旅人が訪れ、その旅人の通報で、村の人たちが旅館に足を踏み入れてみると、旅館の食堂で3人の死体を発見した。

一人は夫妻に殺された息子のもの。そして残りの二つはクロンベルク夫妻のものである。三人ともストリキニーネの服用による目を覆いたくなるような死に様だった。

それから何年もの間、この旅館は無人の状態が続いていたが、何人かはこの旅館を買おうとして宿泊したことがあった。しかしその者たちはいつも一様に恐ろしい目に会い、旅館を買うどころかすぐに逃げ出してしまった。

夜になると食堂で食卓を囲んでいる13人の犠牲者たちの亡霊・・。彼らはストリキニーネ特有の死に方・・目をむき身体をのけぞらせ、ものすごい形相をしてイスに座っているのだ。

このクロンベルク旅館の亡霊の噂は瞬く間に広まり、すでに誰も旅館に近づかなくなってしまった。

1980年9月23日、朽ち果てたクロンベルク旅館は突然炎上し、灰になってしまった。噂によれば誰かが放火したのだろうということになったが、その犯人を突き止めようとする者はもう誰もいなかった。



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