ニューヨーク在住の実業家である、フランク・ジェームズは連日、仕事で世界中を飛び回っていた。ある日のこと、彼はまた仕事でサンフランシスコへ行くことになった。

当日は飛行機の時間の時間もあることだし、寝過ごすわけにはいかない。出発の前日、フランクは早めに帰宅し、明日に備えて夕食が終わるとすぐにベッドへ入った。

彼が眠りについてからしばらく経ったころ、妻もそろそろ寝ようと寝室に入ってくると、ベッドの中から何ともいえないうめき声が聞こえてくる。びっくりした妻はすぐにフランクを揺り起こし、「どうしたの!? すごく苦しそうな声をあげていたけど、何か変な夢でも見たの!?」と聞いてみた。

目を覚ましたフランクは、全身にびっしょりと汗をかいていた。
「あぁ・・。そうだ・・。変な夢を見ていた。若い女が僕の手を引っ張って、僕をどこかへ連れて行こうとしてるんだ。助けを呼ぼうにもあたりには誰もいない。逃げ出そうにも全身が金縛りにあったようで動けない。時々、女が僕の方をふり向いてニタッと笑うんだが、その顔の恐ろしいこと・・。

そうやってしばらく引っ張って行かれて、どこかの階段の前まで連れてこられた。13段の階段だ。女はそこで立ち止まって、僕に階段を登れと命じる。冗談じゃない。これは絞首刑の階段だ。なぜ僕が死刑にならなけりゃいけないんだ?

僕は必死で逃げようとしたが、やっぱり金縛りにあって身体が動かない。君が起こしてくれたのは、ちょうど僕が逃げようともがいているところだったんだ。」

「イヤな夢ね。何か不吉な知らせかしら・・?」と、妻は心配したが、「いや、最近忙しかったからこんな夢でも見たんだろう。もうちょっと寝ることにするよ。」と、フランクは再び眠りについた。

翌日、予定通りフランクは飛行場へと向かった。だが、朝、ちょっと手間取って飛行場へ着いたのは搭乗時間に間に合うか間に合わないかという時間になってしまった。

「サンフランシスコ行きの飛行機に乗られるお客様はお急ぎ下さい。」と、場内アナウンスが聞こえる。
フランクもスーツケース片手に走って飛行機へと向かう。どうやらサンフランシスコ行きの、この飛行機に乗るのは彼が最後らしい。ぎりぎりで間に合った。

飛行機へ接続してある階段を駆け上りながら「一段・ニ段・・」と、特に意味はなかったが、階段の数を数えながら登って行った。階段は全部で13段あった。そして最後の13段目を登りきった時、その飛行機のスチュワーデスが、奥の方から何の気なしにちょっと顔をのぞかせた。

その瞬間、フランクとスチュワーデスはたまたま目があってしまった。が・・!そのスチュワーデスの顔を見た時、フランクは「あっ!!」と声をあげた。昨日の夢の中に出てきた、あの女だ。なぜ、このスチュワーデスが僕の夢の中に・・!?

びっくりしたフランクは思わず手に持っていたスーツケースを落としてしまい、スーツケースは階段を転がり落ちた。とてもじゃないが飛行機に乗る気にならなくなったフランクは階段を駆け下りて、そのままケースを拾うとそうそうに家に引き返してしまった。

仕事には若干の支障をきたすが、イヤな予感の方を優先させたのだ。だが、その日の夜、妻と一緒にテレビを見ていたフランクはその判断が正しかったことを思い知った。

テレビのニュースによると、彼が今日乗るはずだった飛行機がエンジントラブルを起こして墜落し、乗員乗客全員が死亡したというのだ。

事件を知って妻と二人でゾッとした。もしあのまま飛行機に乗っていたら・・。しかしあのスチュワーデスはなぜフランクの夢の中に?フランクに「飛行機には乗るな」と警告してくれたのだろうか・・。

乗員乗客全員が死亡、ということは、もちろんあのスチュワーデスもその中に含まれている。フランクに事件を予告してくれた、当のスチュワーデスは自分の運命を夢にも知らず、そのまま事故に巻き込まれてしまったとは極めて皮肉な結果である。


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