バイロケーション、つまり一人の人間が、同時に二ヶ所に出現する事例は多く報告されている。いわゆる「分身」と呼ばれるものであり、No.14のドッペルゲンガーとよく似た現象である。

ただ少し違うのは、ドッペルゲンガーの場合はその場にいる人とほとんど喋らないと言われているが、分身の場合、結構喋ったりする。また、本体のすぐ近くにいて、本体と全く同じ動きをする場合が多い。

アメリカのカンザス州に住むサミュエルさんは、ある日、庭で草木をいじっていると、自分とまったく同じことをしている、もう一人の自分を見たという。また、散歩中に、自分の後ろにもう一人の自分が歩いているのを見たこともある。

シカゴのハロルドさんは家で食事をしている時、自分の目の前で、もう一人の自分が食事しているのを目撃している。

また、レニーさんは家で大工仕事をしている時、自分の横でまったく同じようなことをしている、もう一人の自分を発見し、「何をしてるんだ。」と話しかけると「レニーと同じことをしている。」という答えが返ってきた。

このように多くの場合、本体と分身は同じ動きをしていることが多いが、まれに分身がたびたび出て別行動をとったりする場合もあるようだ。

バイロケーションで世界的に有名な事件としてエミリー・サジェという女性に起こった事件が挙げられる。

1854年、ラトビアのリガ近郊の、とある学校にエミリー・サジェというフランス人の女教師が赴任してきた。当時サジェは33歳。もちろん、普通の社会人だ。

最初のころこそ何もなかったものの、赴任してきて数週間が経ったころ、サジェ先生の姿が同時にあちこちで見られるようになり、生徒たちはそのことを知って騒ぎ始めた。それでもまだ「見間違いだろう。」ということにはなっていたのだが、ある日決定的なことが起こってしまった。

授業中にサジェ先生の姿が教壇で二つに分かれたのだ。チョークを持った二人のサジェ先生が黒板の前に立っている。顔も服装も全く同じ。その時教室にいた13人の生徒が全員目撃している。見間違いなどではない。当然教室の中は大騒ぎとなった。

また、別の生徒はサジェ先生に着付けを手伝ってもらっている時に、鏡の中に二人のサジェ先生を見つけ、恐怖のあまり気を失ってしまった。

更にある日の夕方、二階の教室で42人の生徒が別の先生の授業を受けていた時のこと。その時、サジェ先生は校庭で花壇の世話をしていた。もちろん、その姿は二階の教室からよく見える場所だったので、多くの生徒がサジェ先生がそこにいることを知っていた。

だが、授業をしていた先生がちょっと教室から出て行った瞬間、サジェ先生が入れ替わるように急に教室に入ってきたのだ。しかし、何かサジェ先生の動きがおかしい。ギクシャクとして、まるで機械が動いているような動きなのだ。

まさかと思ってみんなが外を見てみると、そこでは相変わらずサジェ先生が花壇の世話をしている。さすがにこう、たび重なってくると大騒ぎまでにはならなかったが、ここで今回は勇気ある生徒が今入ってきたサジェ先生の身体に触れてみた。

だが手をふれようとすると、その手はスッとサジェ先生の身体を突き抜けてしまった。あきらかに実体のない像だったのである。

こうした出来事がたびたび重なり、ついには生徒の親たちにもその話は伝わるようになり、学校側としてはサジェ先生を退職させるしかない状況になってしまった。

退職を促すと彼女は、「私は今まで同じ理由で18回も職場を変わらざるを得ませんでした・・。」と語ったという。その後ロシア方面に行ったという話であるが、それからの消息は不明のままだ。


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