ヘンリー・リー・ルーカスが生まれたのは1937年。母親の名前はヴィオラといった。母親の仕事は売春婦で、父親は事故で両足を失い車イスの生活をしていた。

この一家を取り仕切っていたのは、母親であるヴィオラであった。まず、この母親の異常性について触れなければならない。

ヴィオラは、ことあるごとに夫とルーカスを虐待し、気に入らないことがあると、角材で頭を殴りつけていた。幼かったルーカスは殴られて気を失い、病院に運ばれたこともある。

また、ルーカスに対する虐待の一環として、頭にチリチリのパーマをかけさせ、靴も履かせず女の子の格好をさせて3年間も学校に通わせた。

また、ある冬の日には、夫の存在をうっとうしく思ったヴィオラは、夫を車イスごと外に放り出した。そしてそれが原因で夫は肺炎を起こし、そのまま死んでしまった。

更にヴィオラは、ルーカスに向かって「お前は、あのラバが好きかい?」と尋ね、ルーカスが「うん。」と言うと、すぐにショットガンを持ちだしてきて、ラバを射殺してしまった。

当時幼かったルーカスは、よく母親の売春シーンを間近で見せられていた。母親(ヴィオラ)が、あるお客とSMプレイをしていた時、その行為が終わった後、ヴィオラは何か気に食わないことがあったのか、いきなりお客の股間めがけてショットガンを発射した。相手は即死し、すぐ近くにいたルーカスは、大量の返り血を浴びた。

また、ルーカスには兄がいたが、いつのころからか、その兄と同性愛にふけるようになり、ある時感情のもつれからか、ナイフで左眼をくり抜かれてしまった。

このような環境で育ったルーカスは成長していくにつれ、その異常性はどんどん増し、完全に母親を超えることになる。

ルーカスは10歳で飲酒を始め、小学校には5年の時から行かなくなった。13歳で窃盗を犯して刑務所へ入っている。そして出所してからは14歳で初めての殺人を犯す。犠牲者は17歳の少女だった。理由は「誘いを断られたため。」という短絡的なものであった。

20歳で結婚して独立したが、ある時、あの鬼のような母親が、ルーカスの新居を訪ねてきた。
「妻にはこんな母親は見せたくない。」そう思ったルーカスはとりあえず母親を外へ誘い、人気のないところまで連れて来ると突然母親の首を絞め、そのまま絞殺してしまった。
そしてその後、すでに死体と化している母親の身体をナイフで何回も突き刺し、母の服を脱がせ、そして血まみれの母の死体を犯した。


この事件はすぐに警察の捜査が入り、ルーカスはあっさり捕まった。そして肉親殺しとして実刑40年の判決を受けた。だが、服役中、よほど態度がよかったのか、刑は短縮され、当局はなかば強引にルーカスを出所させてしまったのだ。

時は1975年。この出所を境に、大量殺人の幕は切って落とされる。ルーカスは出所して数時間後には、もう殺人を犯した。その後は逃亡生活を続けながら一日5箱のタバコと強い酒、ジャンクフードで生き長らえながらえた。

殺す相手は若い女性に限らず手当たり次第。後に逮捕された時、殺人をして「呼吸や食事と変わらない。」と言い放ったルーカスは、人を殺すことにまったく躊躇(ちゅうちょ)することはなかったようだ。

殺し方も残虐で、まるで殺人を楽しむかのように、ピストルを突きつけ、相手の指を一本一本ナイフで切り落としていく。また、タバコの火を肌に押し付けたりして、まずは拷問を行う。相手が気を失うとわざわざ正気に戻らせて拷問を再開する。そして最後に殺す。殺した後には必ず死体を犯した。

1976年。フロリダ州でルーカスはオーティス・トゥールという男と出会う。このトゥールという男はIQが75しかないような男で、同性愛者の男とSEXしては金をもらって生活していた。

話をしてみると、子供のころ女装させられていたことや、親から虐待を受けたこと、そしてアル中であること・・。次々と共通点が浮かび上がり二人は意気投合した。しかし何と言っても一番合った点は、このオーティス・トゥールもまた、全米を放浪する連続殺人犯だったことである。

二人は行動を共にするようになり、各地を点々としては無差別に殺人を繰り返した。ルーカスが殺した人の数は、6年半で300人にも上る。

ところで、ルーカスが出会ったオーティス・トゥールには、ベッキーという名前の姪がいた。ベッキーは当時9歳の少女。紹介されたルーカスは、30歳以上も年が離れていながら、このベッキーと肉体関係を持ち、そのまま一緒に行動するようになった。幼いベッキーを妻としたが、殺人癖は全く治らず、相変わらず各地を渡り歩いて殺人を重ねていった。

ある時ルーカスとベッキーは、些細なことから口ゲンカになってしまった。ルーカスは、ベッキーに顔を叩かれた瞬間逆上し、ベッキーの胸にナイフを突き立てて殺してしまった。殺した後はいつものように死体を犯し、死体を細切れにして周辺にバラまいた。
ついに最愛の人間までもその手にかけてしまったのだ。

ルーカスが逮捕されたのは1983年のことである。テキサス州の警官に、何でもない職務質問で止められたルーカスの車から、大量の人骨が発見された。

また、かつての相棒であるオーティス・トゥールは、フロリダで別件逮捕された。ルーカス一人だけでも300人以上殺している。オーティス・トゥールと一緒に行動していた、あの6年半の間に殺した人の数は、二人あわせると膨大な数になることは容易に想像出来るだろう。


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