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No.25 殺されて食われた男の怨霊

ロンドンの街を、ある一台の馬車が走っていた。馬車を操っているのはダドリーという男。元船乗りで、2週間前にこの仕事に転職したばかりだ。

ある角を曲がると、突然馬車を引っ張っている2頭の馬がめちゃくちゃに暴れだした。まるで何かに驚いたかのような様子で普通の暴れ方ではない。当然その衝撃は運転席を直撃し、馬車を操縦していたダドリーは馬車から放り出され、頭を地面に叩きつけられてそのまま即死してしまった。

事件を目撃した人の話によると、いきなり馬車の前に人間が現れたというのだ。しかもその人間は全身を包帯で覆われた不気味な人影だった、と。馬はそれに驚いたのだ。


この事件は単なる事故として新聞に小さく報道されただけだったが、この記事を読んで震え上がった男がいた。その男は、ある船の船長をしているラットという男だ。ラット船長はこの記事を読んだ瞬間、「その包帯の男はディックだ!ディックに間違いない!奴が復讐にやってきたんだ!」と叫んだ。

ラット船長は、この記事を読んだ直後、すぐに自分の元で働いていたホーンという男を訪ねていった。

最初に馬車から転落死したダドリー、そして記事を見て震え上がったラット船長、そして元船乗りのホーンという男。この3人には共通点があった。3人は同じ船に乗って働いていた時期があったのだ。


1884年7月のある日、太平洋でピエロ号という船が転覆した。その時の乗組員である4人がダドリー、ラット船長、ホーン、そしてディックだった。4人は船が転覆した際、救命ボートに乗り込んで何とか命だけは助かったが、そのあとが地獄だった。25日間、何も食べるものがなく、全員が飢餓状態におかれた。

このままでは全員が死んでしまう。そう考えたラット船長は、「誰かが犠牲になって、残りの者はその死体を食べて生きのびよう」ということを提案した。その犠牲になる者をくじ引きで決めようというのだ。

3人は賛成したが、その時に一番若いディックだけは反対した。「人間の死体を食べるなんて冗談じゃない、そんなことをするよりはこのまま死んだ方がマシだ」と。

皮肉にもこの言葉が犠牲となる人間を決めたようなものだった。ラット船長はディックが寝ているのを見計らってノドへナイフを突き立てて、あっさりと殺してしまった。3人は、ディックの死体を切り刻んで食べ、飢えをしのいだ。


それから5日後、彼らは別の船に救助された。救助してくれた船の船長は切り刻まれた死体を見て状況を察したようだ。3人は救助したが、死体の方は、いくら死体といえど放っておくわけにはいかない。

バラバラにされたそれぞれの部分を包帯でぐるぐる巻きにしてイギリスへ持ち帰ることにした。
3人は裁判にかけられ、いったんは死刑を宣告されたものの、その時の状況を考えると叙情酌量の余地ありということで半年の禁固刑に減刑された。

まもなくラット船長は警察へ駆け込んだ。このまま自分を保護してくれというのだ。事情を話しても最初は警察官も相手にしなかったが、ラット船長があんまり真剣に訴えるので「一晩泊まるだけなら」ということで留置場へ泊まることを許可した。


留置場にカギのかかっていることを何度も確認し、ラット船長は眠りに入った。だが深夜3時過ぎ、留置場からものすごい声が聞こえてきた。警官たちが駆けつけてみると、そこには、目を見開き身体を硬直したまま、すでに死んでいるラット船長の姿があった。

手にはなぜか血のついた包帯を握り締めていたという。

そして最後に残されたホーン。彼は恐怖のあまり酒びたりとなり、とうとう病院に収容されることとなった。しばらく入院生活を送っていたが、ある日、全身に包帯を巻いた男が彼の見舞いにやってきた。

包帯の男がホーンの隣に座り、何かを話しているのを同室の患者たちは目撃している。そしてその男はいつの間にか消えてしまった。
その翌日、ホーンはベッドの中で死んでいるのが発見された。