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No.32 不気味な一万円札

あるタクシーが、新宿の歌舞伎町で一人の酔っぱらい客を乗せた。お客も結構上機嫌で、「俺、新婚ホヤホヤなんだ! チップははずむからさ、運転手さん、急いでくれよ!」といった調子で、運転の最中も結構会話が弾んだ。目的地に着いて料金を提示するとそのお客は黙って一万円札を出し、おつりはいらないという。

言った通り、かなりのチップをはずんでくれたのだ。「あ、ありがとうございます!」と言って運転手はその一万円札をしまおうとした瞬間、手に何か変な感触があることに気づいた。見てみると、手にべっとりと血がついている。「何だ・・、この一万円、なんでこんなに血がついてるんだ?」
ひょっとして今のお客がどこか怪我でもしているのかと思い、すぐに車を降りて探したが、そのお客の姿はもうどこにもなかった。


何か釈然としないながらも、車に戻ろうと歩いていると、一人の女性が道路の脇にぽつんとしゃがんでいるのが見えた。深夜ということもあって、これまた具合が悪い人ではないかと思い、「どうかされましたか?」と、声をかけてみた。

よく見ると、道路脇には白い花が手向(たむ)けられ、女性は線香をあげながら合掌している。
「実は・・つい先日、新婚の夫が酔って帰ってきて、ここで轢(ひ)き逃げされて亡くなったのです・・。」

その言葉を聞いた瞬間、運転手はサーッと血の気が引いた。「じゃ、さっき乗せたのは幽霊だったのか!」

すぐに奥さんに今あったことを全て話し、「一万円は返します」ということで車に戻ってきた。こんなお金をもっていること自体、怖くてしょうがない。これは奥さんに返すべきだ。だがさっき、確かにここに置いたはずの一万円札がどこにもない。


必死で探していると、後ろから奥さんが近づいてきた。
「いいんですよ。そのお金は私たちの、せめてもの気持ちです。」と一言だけ言って、奥さんは向こうにある立て看板の方へ歩いていき、そのまま運転手の目の前でスーッと、姿を消してしまった。

まるで煙がなくなるかのような消え方をした女性を見て、運転手は再び度肝を抜かれた。「まさか・・! あの女も・・!」

ふと気がつくと、さっきまでそこにあった線香も花も消えている。と、同時に女性が消えた立て看板に書いてある文字が目に入った。

「ここで男女二人のひき逃げ事件が発生しました。目撃者はご協力をお願いします。」

それは事件解決の協力を呼びかける、警察の立て看板であり、運転手が出会ったものは二人ともこの世の人ではなかったのだ。


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