Top Page 心霊現象の小部屋 No.78 No.76
昔、京都の東山の西のふもとに、ある廃墟の屋敷があった。以前は身分の高い人が住んでいたらしいが、今では住む人もなく屋敷も荒れ、草が覆い茂っていた。 この屋敷を浦井という侍が買い取った。もちろんここに住むつもりで買ったのだが、浦井の友人たちは揃(そろ)って「あの屋敷には妖蛇(ようじゃ)が住みついている。住むのはやめた方がいい。」と忠告した。 「別にあの屋敷にそのまま住むわけではない。屋敷をとり壊して新しい家を建てるのじゃ。それにワシはヘビの化け物なぞ怖くはない。」 友人たちの忠告には耳を貸さず、浦井は計画通り屋敷を壊し、そこに自分の新築の家を建てた。 ところが、その家に浦井とその家族、家来が住み始めて数日経ったころ、天井にヘビが3〜4匹這(は)いまわっているのを発見した。 「誰かおらぬか! 天井にいるヘビを何とかしろ!」 浦井は叫んだ。すぐに家来たちが駆けつけてきたが、ヘビはウロコを逆立て、鎌首をもたげてじっとにらむので、家来たちも不気味なヘビに怖がって手が出せない。 「こんなものにおじけづいてどうする!情けない奴らよ。」 浦井は自(みずか)ら、槍(やり)を取ってそのヘビどもを突き殺し、その死体は桶に入れて加茂川に流した。 「妖蛇が出るなど言っても、しょせんこの程度のことよ。」 浦井は勝ち誇ったように言った。 しかしその翌日もヘビが現れた。今度は14〜15匹になっていた。またもや浦井が一人で全部殺した。そして翌日、またもやヘビが現れた。今度は30匹くらいになっていた。 その翌日には50匹くらいになった。さすがに浦井も気味が悪くなってきた。家来たちは「妖蛇のたたりだ!」と怖がって全く役に立たない。 そしてついにヘビは200〜300匹にもなった。ヘビの中には2メートル以上あるものも何匹かおり、耳のあるヘビや手足のあるヘビ、目が4つあるもの、尻尾が何本もあるもの、などの奇怪なヘビも混ざっていた。 それらが天井いっぱいに張りつき、畳や廊下など、足の踏み場がないほどにウヨウヨと這(は)いまわっている。 「これはもはや人間の手には追えん!」 浦井も家族も家来たちも屋敷から逃げ出した。夜が明けて恐る恐る屋敷に戻ってみるとヘビは一匹残らず消えていた。浦井はすぐに僧侶を呼び、香を焚(た)いて地鎮祭(じちんさい)を行った。 地鎮祭の効果があったのか、その日の夜はヘビは出て来なかった。浦井がほっとして布団に入ると今度は「ドドーン!」と地の底から大きな音が聞こえて、屋敷がぐらぐらと揺れた。 「一体、何事かーっ!」 浦井は飛び起きて叫んだが、その声は震えていた。家来たちも「恐ろしや、恐ろしや、妖蛇のたたりじゃ。」と口々にささやき、全員、一つの部屋に集まって眠れぬ一夜を過ごした。 ようやく夜が明けて浦井たちが外に出てみると、庭の大きな石が砕け散っていた。また、庭の草の大半が赤く変色し、枯れ果てていた。 その中で一箇所、ちょうど円のような形に青い草が残っている部分があった。円形の中心にはちょっと大きめの石が転がっている。 「その石の下を掘り返してみろ。」 特に根拠はなかったが、この石の下に何かあると感じた浦井は家来に命じて石の下を掘らせてみた。家来たちがちょっと掘ったところで、突然の地面の中から長さ15cmくらいの真っ赤なヘビが飛び出してきた。 ヘビは草の上を這(は)って逃げていくが、そのヘビの通った後はみるみる草が赤く変色して枯れていった。 「そいつが妖蛇の正体だ! 叩き殺せ!」 浦井が家来に命じると、家来たちは一斉にヘビの後を追い、全員で叩き殺した。死骸をよく見ると、そのヘビには耳が二つと四本の手足があった。 「不思議なヘビもおるものよ。」 浦井は死骸を友人の侍たちにも見せたが、誰もが「そのようなヘビは初めて見た。」という。ある日、浦井の知人の僧侶が家に来た時、同じようにヘビの死骸を見せると、 「これは珍しい。経文に七歩蛇(しちほへび)というものが出てくるが、これはその七歩蛇に違いない。」と僧侶は語った。 「七歩蛇とは何だ?」と浦井が尋ねると、 「このヘビに噛まれると、七歩行くうちに必ず死ぬという、猛毒を持ったヘビです。」と僧侶は答えた。 浦井は僧侶の説明に改めてゾッとし、運良く命が助かったことに感謝した。その後、浦井の屋敷のヘビはピタリと出なくなった。 |