「つきの―」は、
親友だった さくらと梨利は、ある出来事がきっかけで、お互いを避けるようになってしまった。
それ以来、さくらは宇宙船の設計図を描く不思議な青年 智の部屋に入り浸たり、空気のように、お互いに干渉し合わない関係に安らぎを感じでいた――
というような感じで始まるのですが、
特にこれといった夢も希望も思い浮かばないし、そんな先のことなんてわからないけど、世界も時間も回り続けて、あれやこれやといろいろあるけれども、やっぱり自分は自分で生きていかなければならないんだ――というお話・・・かな?。
中学生さくらの一人称の語られるさらっとした文章が読みやすく魅力的です。
好きな人を助けてあげたいんだけど、自分にいったい何ができるんだろうかと、自分の無力さに対するもどかしさやなにやら、とっても切ない話だったりもします。
「宇宙の―」は、
両親が仕事で留守がちな陽子と弟のリンは、2人だけの他愛のない秘密の遊びを楽しんでいた。
なんとなーく始めた登校拒否を、なんとなーく止めた陽子が、新しく思いついた遊びは、深夜の住宅地で、こっそりと他人の家の屋根に登る「屋ね登り」だった・・・という感じで始まって、全体的に見れば、「月の船」と似た感じのお話ですが、
深夜というのはやはり。ただの夜とはひと味ちがった、家も木も駐車場の車たちも。何もかもが眠っているように見えるぶん、自分だけはたしかに目覚めていて、見て、歩いて、足音を残して、生きている気がする。
というところや、
なにかにときめいてわくわくして、でもそれを我慢したらつぎからは、そのわくわくが少し減ってしまうような気がしていた。
なにかをしようと足踏みする、わたしのなかの千人の小人たちが八百人に減ってしまう。二回我慢したら六百人に。三回我慢したら四百人に。
そして最後にはわたしのちっぽけな体だけが残される。
からっぽのこの体だけ。
暗いところにひとりきりで。
という部分に、痛く共感してしまいました。
友達の大切さが語られる「宇宙のみなしご」の件も非常よいです。
「カラフル」は、
前世で罪を犯した魂が、抽選で選ばれ、ある自殺した中学生の身体にホームステイして、罪を償うことができれば、また輪廻転生のサイクルに戻れる――とホームステイ生活を始めるお話。
このホームステイ先の中学生というのが、友達もいない地味な中学生生活を送っていて、デキのいい兄には無下に扱われ、母の不倫と片思いの相手の援交現場と、上司が不正で捕まって昇進できると大喜びしている父の姿を一日の内に目撃し、生きていることが嫌になって自殺したというありさま。
でもまぁ、それは別の人格なんだからと、新しい魂は気にせず好きなようにやっているうちに・・・と、要は自分の心の持ちようだし、上辺だけでは人の心はわからない、それに人には人それぞれいいところがあるんだ――というようなお話。
これもタイトルの「カラフル」の件が素敵です。
「流れ星に―」は、
足が遅いのに体育係というだけでリレーの選手に選ばれてしまった桃子が、やる気のない他のみんなをまとめてリレーに勝ち、校長先生に願い事をかなえてもらおうというお話。
他の作品と違って小学生向けですが、用務員の仙さんとの心の交流やらあって、良い話です。
「ショート―」は、旅の香りを織り込んだショートショート集。
たまに真面目な話もありますが、ほとんどはオチノの効いたニヤリとさせられる話が多くて、「冒険王ヤーヤー」「ヒッチハイカーヨーコ」「借り物競争」「ファンタジア」などは、個人的に大ウケ(特に「ファンタジア」は、訴えられるんじゃないの?
ってギリギリな感じで)。
最初、図書館で読んだので、笑いを押し殺すのに必死でした。
4コマ漫画的にさらりと読めるので、どなたにでもおすすめ。
個人的には、女王様シリーズがもっと読んでみたいです。 |