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このコラムは1993年から2005年まで手作りチラシ「MYDOやまます酒店です」に書いたものです。
その後は上のちゅうぶラリン」にて25回にわたり「初心者のための日本酒講座」を連載しました。
内容に関しまして正確ではないもの
もあるかもしれませんが、ご容赦ください。

TITLE リスト

視点は両面から
別に、国粋主義者じゃないんだけど
ワインブームに
「槽汲み」行き
空前のワインブーム
肩書きで惑わされるな
臓器移植
新米杜氏迷想(これは、私の知り合いの杜氏が書いたものです。)
ご注意あれ
日本酒滅亡の日
視点は両面から

 話が大変大仰になって申し訳ないのだが・・・。

 雑誌やテレビなどで「地球温暖化」の話題が多く取り上げられ、その原因は「人間の日常活動によって二酸化炭素が増加し、それによって気温が上昇する」事にあると言われている。私もそうなんだ、と思い込んでいた。
 だが、これはどうやら100%事実ではないらしい。多くの科学者が地球温暖化理論の科学的根拠として挙げている「気候変動に関する政府間パネル」の「第二次報告書」の結論では「我々(科学者)は、何が起こっているのか現状ではまだ把握しきれておらず、少なくとも5年間その問題について研究を続ける必要がある」としているのである。つまり、「まだはっきりとは言えない。」というのが真実らしい。どうも我々はメディアが言っていると、それが唯一無二の真実のように受け取ってしまいがちである。上記した「真実らしい」と書いた事も雑誌で読んだものだから、それが正しいかどうかは知らない。しかし少なくとも大勢の言葉と異なった視点を与えてくれている。

 話は変わるが、皆さんはNHKの「甘辛しゃん」を見てますか?(別に見なくたっていいんだけど)阪神大震災の後、瓶詰めラインの再開で酒を出荷するかどうかという場面をやっていた。立ち直るために、問屋にいかにスムーズに出荷するかが大問題のようです。先日の放送ではその問屋の仕入れ担当者が「露誉」の蔵を訪れて瓶詰めラインの復旧状況を視察して、帰ってゆきました。そして無事注文を受けたのです。

 ここで私、おやっ?と思ったのですが皆さんはどうでした?

 普通(私の中では常識)は、仕入れ担当者なら、また蔵元なら、真っ先に無事残った酒の品質チェックつまりきき酒をするのではないでしょうか。いくら美辞麗句をならべようとも、女頭首が美人であろうとも、所詮酒の数ばかりしか気にしないような問屋と付き合っているようじゃあ「露誉」の先行きは暗い。今後の展開は知らないが今時点の榊酒造は、大手の出荷ばかり気にしているアホでしかない。中小の蔵が生き残る展望(いかに品質を上げていくか)を全く持たない危ない蔵である。
 それに、お蔵があんな状況にありながら電話がかかってくるのは問屋だけというのがおかしな話である。まっとうな酒蔵ならまず最初に、その蔵の酒を一生懸命売っている小売店から問い合わせや、援助(人的援助)がある筈である。「○○酒店さんが今日はお手伝いに来ています」というのが、当たり前の時代背景のはずである。現に私が阪神大震災のニュースを見たのは大谷酒造の会所場(休憩室)であった。
 更に、ドラマの中では瓶詰めされた日本酒を太陽の光が直接当たる中庭のようなところに運び出している。あんなことをすれば、酒は直射日光によってひとたまりもない。ドラマだからと済ましてしまえばそれで良いのかもしれないが、いくらなんでも日除けのテントぐらいしていてほしい。

 先日の事である。私が店の窓拭きをしていると「甘辛しゃんという酒はありませんか?」と訪ねてこられたお客様がいた。一般には先に書いたような事まで気にして見る人はいないでしょうから、テレビドラマ「甘辛しゃん」の片方の面だけを見て、「なんか、のんでみたいなぁ」と思われたのでしょう。別にそれはそれでいいんですけれど、メディアが表現する裏側から見る事もあっていいんじゃないでしょうか。この文章が、「地球温暖化」の問題のように大勢のとは違った視点を与える事ができれば幸いです。

PS;「甘辛しゃん」という酒は、機械化のすすんだ、手造りとは程遠い、大手の蔵元がテレビの力を借りて売ろうとしている酒です。決して生もと造りの酒などではありません。
PS其のA 4月4日、最終回を迎えた「甘辛しゃん」の結末。人情的なところはさて置いて、今後の蔵の方針には愕然としてしまった。

 「近代蔵を造ります。」
 「時代時代で、多くの人に届く露誉・・・云々。」

 詮索し過ぎかもしれませんが、「甘辛しゃん」の銘柄を造った灘の大手メーカーが圧力をかけたのかと思ってしまう。機械化した酒造りの言い訳、自己弁護のように思えてならない。こんなふうに、テレビドラマを見たりするのは結構疲れるんですけどね。

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別に、国粋主義者じゃないんだけど

 ウイスキーが減税になって4ヶ月過ぎた。果たして、諸外国の思惑通りに輸入ウイスキーの消費拡大になったのだろうか?そして、彼らの目の敵にされた焼酎はウイスキーにその地位を奪われてしまったのだろうか?
 そもそも、日本にウイスキーが輸入されたのは、明治4年「猫印ウイスキー」が最初である。国産ウイスキーが登場するのはそれから約60年後の昭和8年のことである。一方、焼酎は15世紀後半には琉球に出現し、16世紀後半には九州でも庶民の間で飲まれるようになっている。つまり両者には約300年の歴史の違いがある。
 ウイスキーにまだ級別があった頃、スコッチウイスキーなどの輸入物は全て特級に位置付けられ高い税金がかけられた。だから、消費者にとっては高嶺の花であった。そんな背景の中で焼酎ブームは起こり、低価格ウイスキー(当時の1級や2級ウイスキー)の市場はさらに安い焼酎に侵食されていった。
 そして1回目の外圧でウイスキーの級別は廃止され、大幅に減税された特級ウイスキーの市場回復が期待された。しかし、焼酎の税率はまだ低く、さらに低価格のパック焼酎の出現により見事にその期待は裏切られる結果となった。この時点でのキーワードは「安さ」であったが、第一次焼酎ブームの頃から、「いいちこ」を代表とする一部の焼酎ファンの間では味に対する追求が脈々と受け継がれていたことも事実として記しておかねばならないだろう。(現在、いいちこが当時のように旨いかどうかは疑問であるが)
 そして、2回目の外圧、昨年の10月焼酎の増税、ウイスキーの減税が実施された。「安さ」を求める消費者にとって、いくら高くなったからといって1.8L詰めで1500円そこそこの焼酎は、やはりウイスキーの比ではないほど安い。諸外国の思惑はまたしてもはずれ、ウイスキー市場は微増したに過ぎない、しかも皮肉な事に国産ウイスキーを中心に。

 ここで、私の言いたいのは「焼酎は安い」何てことではない。他の店は知らないが、安いパック焼酎の売れ行きは落ち込み、美味しさを売り物にした地方の中小の蔵元の焼酎がよく売れるようになってきたのである。皮肉にも焼酎の増税によってやっと焼酎の歴史と風格にあった値段に近づいてきたと言えるかもしれない。
 ウイスキーに関しては更なる減税、そして焼酎に関しては更なる増税が待っている。本物の焼酎ファンの皆さん、「値上げ反対」なんて言っても、もう遅いんです。我々焼酎ファンのすべきことは、焼酎の旨さをより多くの人に伝え、焼酎蔵の存続のためにその地位の向上を訴えるべきではないでしょうか。そして、「こんなに旨いものならもっと高い金を払っても飲みたい」ぐらいまで意識を引き上げようではありませんか。
 そのためには、早急に、中小でも頑張って造っている蔵の焼酎をどんどん飲み、消費を拡大して造り手に「造る意欲」を湧かせようではありませんか。そして、悪いところがあれば直に蔵に対して注文をつけましょう。(大手は注文をつけても、現在売れているものですから、聴く耳は持ちません)

 ここで更に、この行動を急がねばならないと言う事をお伝えしておかなければいけません。中小の蔵はその製造数量がかなり限られいますから、ただの流通の一部にすぎなくなっている問屋ルートでは自蔵の大切な商品は流しません。小売店を限定して直接取引のみで商品は流れます。しかもその選定は、厳しいところでは一つの県に一店舗、だいたいが一つの市に一店舗ぐらいの割合なのです。ですから、今(少し遅いくらいですが)手に入れておかないと、いくら美味しいという噂を聞いても指をくわえて見ていなければならなくなってしまいます。大消費地を抱えたところでは、不況も手伝ってそうした焼酎がどんどん売れています。そして今、能力のある酒販店は蔵の酒全てを買い込んでいます。そうなれば山陰に入ってくる分なんてありません。
 賢明なる当店のお客様ならご理解頂けるものと信じております。焼酎は立派な日本酒です。そして各地に地酒があります。清酒同様、その火を消してはいけません。その火を消す事こそ、日本は今度こそ本当に敗戦国になりさがります。

 なぜなら、それは日本国の文化そのものなのですから。

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ワインブームに

 その昔、ぶら下がり健康器という代物があったよね。あれだってきちんと使えばある程度健康に寄与した筈である。ところが、人々はすぐに物干しにしてしまった。続けて行かなければ意味はなく、ついには邪魔物扱い。
 今ワインブームではあるが、今回あげた効用がまさかたった1本のワインを飲んだだけで得られるわけはない。(もちろん1ヶ月や2ヶ月常用したぐらいでも、同じ事である)ブームではなく習慣としなければ、満足いく効用はないと思って下さい。


「槽汲み」行き

 長崎はもう梅の花が咲いているそうですが、先日福岡に行った時は雪化粧でした。今年も「槽汲み」を詰めに、福岡は三潴の蔵に行ってきました。夜行バスで夜9時10分出発、天神に7時10分到着するのですが、これを利用するのは目的が3つあります。まずは、誰でも想像はつきますが交通費が安いから、もう一つは自家用車で行けばその時間の間中運転以外出来ないから、つまり公共機関を利用すれば本の1冊や2冊読めるから(因みに1冊は「夢ワイン(江川卓 著)」)、3つめは、素人や酒の事を知らない酒屋には想像がつかないと思いますが、朝一番に着くという事に重要さがあります。「まいど」をご愛読の諸氏は、かなり酒通が多いからお判りかもしれません。
 なぜ、朝一番がいいのか...、蔵に対して印象が深いから?そうじゃありません。槽汲みという酒は、酒を搾る機械から流れ出てくる酒を、タンクに一度ためたりせず、そのまま瓶詰めするものです。ということは、流れ出てくる酒が品質が均一ではないのです。どういう事かと申しますと、酒を搾った後の酒粕をまず想像して下さい。搾る前の状態は、あの酒粕に十分に酒が染み込んでいる状態で、どろどろの液体です。搾る事によって徐々に酒粕状態になっていきますから、搾りはじめの方が粕には程遠いことになります。つまり、遅い時間にいくと酒粕に近い状態から無理矢理搾った酒を買う事になるのです。
 槽汲みを販売している酒屋さんは、県内にも何件かありますが、ひどい人(ひどいとは言い切れませんが)になると、蔵に行きもしないで酒を送ってもらうのです。私が、いらないって思う部分の酒を...。蔵に行ったにしてもここまで考えがまわる人は何人いるでしょうか?(手前味噌かな?)

 ところで、本を読みながら行ってきた訳ですが、江川の本以外にもう一冊読んだんです、実は。お酒の研究をしているという人が書いた「酒の雑学」(?)とかいう本だったのですが、日本酒の記述あり、ウィスキー、ワイン、ビール、ブランデーなどあらゆる酒に関する雑学が記載されていました。正直、実につまらない本でした。何故かと申しますと、ほんと、色々な文献に書かれている事を寄せ集めただけの本で、著者の研究成果の発表という事では全くなかったという事と、「所々に、間違いが平気で記載されている」からです。いかにも素人うけしそうな本なんですが、こんな本を読んで記載されている事を鵜呑みにしてしまっては大変です。酒に関する本はたくさん出ていますが、100%間違いではないにしろ、いいかげんな記載の物が多い事は知っておいて下さい。
 その本ですか?一応最後まで読みましたが、あまりにくだらない本なので、某スナックのママさんにあげました。「この本に書かれている事の中で、間違いを探す事が出来ればあなたも一流ですよ。」と付け加えておきました。

 蔵には青々とした酒林(杉玉)が新酒ができた事を伝えています。春は、そこまできています。私はもうしばらく大谷酒造に通って、お手伝いをしながら、水のぬるむのを体感したいと思います。

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空前のワインブーム

 昨年末から、ワインが爆発的に売れている。これまでワインに見向きもしなかった年代層までも、どんどん買っていく。非常に有り難い事である。テレビで、「ワインは健康に良い」といった途端に売れはじめたのであるが、これまでも、わたしは「健康に良い、癌を抑制する作用がある。」など言い続けてきた。それが、ど素人の「みのもんた」の言う一言に負けたかと思うと少々悔しさがある。第5次のワインブームではあるが、第4次の時のように「安いから買うんだ」という風潮はあまり見られないのが救いである。
 その中で少々気にかかることがある。確かに「赤ワイン」がクローズアップされてはいるが、何でもかんでも赤ければいいってものじゃないと思う。これまでワインなど飲んだことがないから、いきなり「多少の渋味」に出会って戸惑うのも解るが、「赤玉スイート」の赤はないだろう。全く効能が無いとはいいませんが、その赤は「赤ワイン」に甘味料を入れて、アルコールで伸ばしてある代物ですから、十分な効果が望めない事は肝に銘じておいてほしい。当店にはたまたま優良な「甘口赤ワイン」がありますが、基本的に言って発泡性のものを除いて赤ワインは辛口が基本です。軽やかなのか、どっしりとしているかによって選び分けて頂きたい。

 しかし、倉吉でこれだけ早く世の中のブームが伝わったなんて、これまであっただろうか?(たまごっちは除いて)アメリカで流行って日本に伝わるのが約3年遅れ、そのまた半年以上も遅れて倉吉というパターンが多かっただけに、これは異例の速さである。なかには、倉吉に入ってくる前にブームが終わってしまうものも多いだけに、驚きである。例えば、チリワイン。今でこそ「赤ワインブーム」に乗って倉吉にも入ってきているが、およそ10年も前の事だろうか、このチリワインのブームは都会ではかなりのものだった。当店も遅れてはならじと仕入れたものでしたが、ブームは倉吉に到着する前に終わってしまった。
 倉吉の人は「熱くなりやすく冷めやすい」のではないだろうか。あのミスタードーナツの開店の時などどうだ。あれだけものすごい人が詰め掛けていたにもかかわらず、今や閑散としている。この赤ワイン、いや、「ワインブーム」が本当にワインの飲酒人口を増やすかどうかは、ひとえに酒屋の良心にかかっている。売れるからといって、何でもかんでもワインと名の付くものを売っていけば第4次の時のようにすぐに売れなくなってしまう。消費者の皆さんが「健康に良い」という事を差っぴいても、飲んでみたい、もう一度飲みたいという物を売って行かなければワインはほんのひとときの賑やかしで終わってしまう。これは絶対に断言できます、味見もしないで「条件の良い物」(つまり、利率の高いもの)を、さもこれしかないような言い方で売る酒屋が必ずあることは。お気を付けあそばせ。ただ、一言蛇足を付け加えさせて頂くなら、当店においてもワイン(ニッカやサントリー、アサヒ、サッポロが輸入しているもの以外)は、ほかの商品に比べると確かにわずかに利率は良い、しかし、それらを仕入れるために(他業界では当然の事ではあるが)関西はもちろん、東京まで買い付けに出かけていることは、知っておいてほしい。

 なにとぞ、何種類あるか私も知りませんが、そのほんの一握りを飲んでみたところで「やっぱり、ワインは自分にはあわないや。」なんて、いわないで下さい。ブームに終わらせないで下さい。年始のお願いです。
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肩書きで惑わされるな

 新聞に「きほんのき」というタイトルで酒の燗のつけかたや、燗に合う酒の事を東京・新宿の京王プラザホテルの日本酒バーの店長が書いていた。感想は「遠からずだが、当たっていない」である。前の同日本酒バーの店長の「井上」女史ならあんな事を書かなかったろうと嘆かわしくも思われた。肩書きがあり、しかも新聞記事に書いてあれば、プロでなければ信じてしまうだろう。私は、彼の意見とは違う。だが、多くの人は彼のいう事の方を信じるのだろうと思うと、情けなく、悲しい気持ちで一杯である。
 彼は、46歳だ。ホテルマンとしての実績は確かにあると思われる。だが、彼らホテルマンが日本酒の事を勉強し始めたのはほんのここ5〜6年ぐらいのことである。しかも、勉強するのは「いかににして、飲ませるか」ということ。つまり、いかに旨いものを見つけだし、さらには旨いものを創り出すかという事では絶対にないのだ。(なぜなら彼はオーナーでは無いから、とことん追求する事は出来ず、あるもので勝負するしかないのだ)

 さて、なにが私にこんなにも落胆と、怒りを与えたか。「燗をするなら、濃厚な純米酒か本醸造酒がおすすめ。吟醸酒は特有の香りが飛んでしまうから燗に向かない」「味が濃いお酒ほど燗に向きます」なんて悲しい事を言うんだこの人は・・・。彼のまわりには燗で旨い吟醸酒がないという事だけの話じゃないか。彼は、吟醸酒を香水と間違え「吟醸酒=香り」と思いこんでいるに過ぎないだけじゃないか。吟醸の命は香りではなく「吟味」である。燗を付けてこの吟味が失われるような酒は、ただの軟弱ものである。バイオ酵母で造った吟醸や、酵母仕込の吟醸である。純米酒や本醸造酒にしても味が濃いものが燗に向くのではなく、燗にしなけりゃ飲めないだけである。つまり「純米だろうが本醸造だろうが吟醸だろうが、燗で旨い酒がたくさんある」というのが本当のところだ。もう少しつっこんだ事をいえば「同じお酒でも熟成の度合いによりベストの飲用温度がある」ということだ。
 どうも最近、看板だけ、肩書きだけの「酒のプロ」が多くて困る。15年も前の酒の情報で「この銘柄が旨いんだよ」なんていう輩。
 料理屋のくせして元値の3倍以上の値段で酒を売る連中、ただ冷やして、綺麗な器で飲ませるだけのことに、何の「おもてなしの心」があろう。冷やすだけなんていうのは全く技術料、サービス料がとれるものではないのだ。造った蔵元(つまり技術を駆使した人達)でさえ製造原価の3倍もとりはしない。なんか間違っとる。

 酒の酒類を揃えただけでいきなり「地酒のなんとか」なんていう看板をあげる酒屋は、言うに及ばない。

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臓器移植

 臓器移植法が施行された。「臓器提供意思表示カード」が手元にある。「脳死判定に従い、脳死後、移植のために○で囲んだ臓器を提供します。心臓、肝臓、肺、膵臓、腎臓、その他」ねぇ・・・。蚤の心臓はいらんだろうし、アルコールづけの肝臓は役に立たない、ニコチンパワーの肺もどうだろう?要るという人があれば、あげなくも無いけど、自信を持っておすすめはできませんなぁ。燗酒をするから、舌ならあげられるレベルだろうか?
 先日、「第9回ここに美酒あり選考会」の審査員として、出品総点数108点の日本酒を一次審査で半数に、二次審査でその半数に、最後の三次審査で順位を決めるという、そう多くはないが、決して少なくない数(計算すれば延べ189点)の燗酒をやってきた。

 一次審査は、自分流にくだけていえば「ナンパ」みたいなもんかなぁ。素性の知れない大勢の中から、素性を想像しつつ容姿で選ぶ。前号をお記憶の方はお解りになるでしょうが、容姿で、といえども「整形手術」は排除する。つまり、活性炭素濾過のやたら厳しいものや、味と香りが全く離れ離れのものは「3(1=優、2=良、3=可、4=不可)」と採点。

 二次審査に残ってきた酒は、十数名の審査員の「釣書」付きみたいなもんだから、ある程度良家の子女である。しかし、生まれは良くても性格が悪い奴、体の弱い奴は排除する。ナンパと対比するならお見合いかなぁ。私の言う酒の性格が悪いとは、バイオ技術でつくりだした酵母を使用しているもの(こいつは、長い付き合いの中では必ず豹変する)、酒の体が弱いとは、お燗で美味しくならないもの、線が細くて味わいに幅が無いこと。一次で「3」としていても他の審査員が良い点をつければこの二次にも残ってきているのでそういう時には迷わず「3」!

 三次審査の酒は、生まれも育ちもしっかりしたものばかり、という前提でみる。ところが、妙な酒も混じっていることがある。審査の酒は、一次審査から三次審査まで同じ酒を使うから、開封して何時間も経つ。更に冷蔵保存しながらみるのではないから(どの酒も同じ条件なのだから、文句を言う筋合いのことではない)、中には劣化速度の早いものもいる。開封時に酒が「女になった」と考えれば、酒の一生からいって三次審査のころは年齢的に、おばさんだ。いい年の取り方をしているおばさんはいくつになっても、きれいなもんだ。しかし、女になってからえらい崩れてしまって「オバタリアン」化した酒がでてくる。こいつが妙な酒というわけだ。三次審査のころになると突如ガラが悪くなって・・・。

 一番気を付けなければいけないことがある。一次審査から三次審査まで良いものは良いという軸がぶれない様にすることだ。そのあたりは、経験と天性のもが必要だが。自分が一次でダメだと思った酒が、仮に三次審査まで残ったとしても、どの段階でも良い点を打たないことだ。(頭痛い事に、実際は、段々良くなるというあまのじゃくな酒もあるから更にややこしいのだが)
 
 燗酒のできるということは、舌の味蕾細胞が破壊されていない限り、酒をみるために頭が使えるかどうかということなのだ。臓器移植で舌を移植するなら脳味噌もセットでなければ何の意味も無いということだ。
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新米杜氏迷想(これは、私の知り合いの杜氏が書いたものです。)

 前杜氏の引退に伴い、昨@酒造年度、未熟ながらも杜氏を任された。杜氏になって初めて実感したことがある。そのことを書いてみたいと思う。

 それは、杜氏として手掛けた最初の酒に対面した時に感じたことである。私には、この酒を造ったのが自分だとは思えなかった。A出来が良かったという意味ではない。この酒が生まれるために自分が為し得たことなど、何と些細なことかと感じたのである。だから、その酒を手にした時には「自分が造った酒だ」という感慨はなく、「酒が出来た」という他人事のような実感の方が強かった。自分の作品というよりも、「恵み」、「授かりもの」だと思えてならなかった。
 酒は、微生物や米、水、天候など自然の力によって出来る。しつけ(方向付け)と環境調整さえきちんとすれば、酒は自分で育つ力を持っている。我々が昼夜なく気を配り、どんなに頑張ったとしても、それは単に酒が育つための手伝いをしているに過ぎない。酒造りの本来の技術とは酒を育てる技術の筈であり、酒造りにおける「造る」という言葉は、元々は育むという意味ではなかったかと思う(もっとも、不思議なことに同じ生き物の相手の農業では、米“作り”と言うのだが)。
 私は従来から、純米酒こそが本来の酒だと信じてきた。それは、酒が米から造るものだという観念的な理由、酒は元々純米だったという歴史的な理由(B柱焼酎を盾にアル添こそ本来の酒とする意見には、私は断固反対である)、純米酒の方が旨い、個性が出やすいという結論的な理由などからであった。出も今は、もう少し違う理由も加わった。アルコールを添加することによって、恵みである酒の味を人工的に変えてしまうことに気が進まないのである。アルコールに限らず何かを添加すること、あるいは無理な濾過をして香味を取り去ってしまうことは、授かった酒とは別物に仕上げるということで、人間の身の程、分際を越えていると感じるようになってしまったのである。
 人為的に手を加えることを、酒業界では「化粧する」と言う言葉で表すことが多い。少し香りを着けることを、「薄化粧」といって肯定的に捉えたりする(あまりに露骨なものは、否定的に「厚化粧」と呼ぶ)。しかし私にとっての自然な化粧とは、軽い濾過までのことである。アル添を化粧と呼ぶことは少ないが、その量に関わらず、アルコール、C酵素、D香(伝統的貯蔵容器である樽による木香は除く)などの添加やEきつい濾過は、酒の骨格に手を触れることだから、化粧と言うよりは整形手術とでも言った方がよいと思う。
 ただ、同じ整形手術でも、増量あるいは矯正のための加工と、作為的に香味を造るのではその精神が違う。前者はある程度仕方がないと思う。例えば、米が足らない時などには、アル添やF三増はありがたい方法だろう。米が余っている現在でも、コスト絡みで量を増やす必要もあるかもしれない。酒になりそうにない状況では、手を打たざるを得ないこともある。私もアル添はしている。オール純米でやれる(会社の)状態でもないし、技術的な自信もまだない。ただ、やはり違和感は残る。そして、それ以上に後者は、恵まれるべき味を意識的に変えてしまうという点で、私には、本来の酒造りの技術から外れていると映るのである(会社の方針だと、杜氏にとってやむを得ないのだが)。G香りが立つとか味が軽くなるなどの理由から、アルコールを添加したりする人は多い。そして、アル添を他の小細工と区別したがるのだが、なぜアル添だけが自然といえるのだろう。後者の意味では、アル添も着香も、私にとっては同格である。
 整形手術の技術は進んで、酒の香味をある程度コントロールすることは可能になってきた。そうやって作り上げた酒がおいしいのかどうかという不毛な論議はここでは避ける。
 “雑味のもとだからといって麹歩合をぎりぎりまで抑え、そのために力価が不足したら酵素を添加し、香りを立たせようとグルコースを加え、酸度が高ければ除酸剤で下げ、香りを残すためにアルコール添加のテクニックを使い、それでも香りが低ければHヤコマンを垂らし、味が重いとまたアルコールで割り、あるいは元の酒が想像できないほどの濾過をかける・・・。”
 少し誇張し過ぎたかもしれないが、酒税法違反はともかく、余分な手を加えなければ余分な手を加えなければ旨い酒は出来ないだろうか。こんな小細工が我々が誇る日本の酒造りの技なのだろうか。私には、そのような加工技術が酒というものの魅力を高めていくとは思えない。長い目で見た時、次世代に残すべき技術だとはどうしても思えない。だから私は、整形手術の技術などよりも、その年の原料の長所を最も発揮できるようなしつけ(原料処理、麹造り、酒母造り)をし、環境を整えてやる(もろみ管理)と言う本来の「造り」の技術をもっと磨きたいと思っている。

註釈 (これは、私が解説したもの)
@かつては、米の収穫後の10月1日から翌9月末日までを言ったが、現在は6月1日から翌5月末日までを言う。
A初めてにしては上出来である。
B江戸時代は精米歩合が低かったため、どうしても酒が重くなっていた。そこで、搾る前に焼酎を添加して、味をすっきりさせる手法があった。しかし、高精白のこの時代にもアルコールを添加することを「昔からの伝統的手法」と言い張り、正当化の盾にしている蔵元がある。
C麹の歩合を下げて酒を軽くしようとすると、麹からの酵素の力価が下がるため、酵素剤を加えること。プロは騙せない。
D着香すること。醗酵中に出る香気成分を取り出しておいて、後に戻す詐欺的操作。上善如水はその典型。
E活性炭素を酒にいれ、異臭、色などをとること。下品な酒向き。
F戦後、原料米が足らなかった時、酒を増量するのに考案された。酒を増やすために水を混ぜる。するとアルコールが不足する、補うためにアルコールを添加する。そのせいで旨味がなくなる、そこで水飴と味の素を加える。これで三倍の量の酒が出来る。現在でも多く存在するので、原材料表示は注意して見て頂きたい。
Gアルコールの分子が香りの分子を包み込んで、香りが逃げるのを防いでくれるのを利用した技法。
H着香のためにとった香り成分。非常に高いアルコール度がある。とても強い香りで飲めたものではない。

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ご注意あれ

 旅先でそこの地酒を買うのは実に楽しみな事である。だが購入の際、気をつけて頂きたい事がある。この夏、実際に経験した事を例にあげ、注意点を述べてみる。

 お客さん「あのぉ、この八海山の純米吟醸と日置桜の強力の冷やしてないのはありませんか?」「はっ?このお酒は、純米吟醸酒ですから冷やして保存するもんなんですよ。」と私。「えぇ、これから高知までもって帰りますから、冷やしてないもののほうがいいんですが。」まるで宇宙人と会話をしているようなものだ。彼は、おそらくこういうお酒は冷蔵保存しなければならないことを知らないで、一旦冷えているものが、温度が上がったらよくないとでも思ったのでしょう。
 「お車でお帰りになるのなら、クール宅急便で送りましょうか?」と促すも、「いや、いいんだ。」の一点張り。八海山なんて、もともと旨くもないんだからどうなろうと知った事じゃないが、強力だけは止めて欲しかった。もう少しで「お前なんかに、うちの酒は売れん!」と怒鳴りそうになる。どうか、ガンガンにクーラーをかけて、ノンストップで高知まで帰りますように、と願わずににはいられんかった。

 注意点その1、高知県で酒を買うな。じゃなかった、冷蔵管理をしていない酒屋で酒を買うな。(今から思うと、よくもまぁ、こんなこと書いたな・・・)

 「鷹勇って、ほら毎年安定してないじゃない。時々老ねてるし。」(大阪弁でしたが)「へっ?鷹勇は品質も高いし安定していいものを造る蔵の代表各ですよ。」「大阪に住んでますが、美味しい鷹勇に出会いませんよ。」
 大阪で、鷹勇の蔵元と直接取引のある酒屋さんは知ってますから、彼らがそんな管理の悪い状況で販売するわけもないし。どうやら、問屋系列で鷹勇の販売をしている酒屋で買ったらしい。問屋さんの大半は日本酒に限らないが、酒の知識のある人は皆無に等しく、まともに品質管理して流通させていない。そんな問屋さんから酒を仕入れる酒屋は当然、知識は無いし管理もしていない。知り合いの大阪の酒屋さんから聞いたんだが、「大阪には、蔵元にいった事もないのに蔵元に行ったなんていう酒屋はぎょうさんいてますよ。ましてや、直取引もしてないのにそうしてるって嘘ついてるひとなんて、山ほどいてる。」らしい。

 注意点その2、大阪で酒を買うな。じゃなかった、蔵元と直接取引のある酒屋で買え。どうやって調べるかって?伝票を見せてもらえばいい。蔵元の伝票か問屋の伝票か。

 「お宅の冷蔵庫暗いね。電気代けちってるんじゃないの?」「んっ?お酒は紫外線にとっても弱いの。だから、当店では冷蔵庫の照明は切ってあるんですよ。」これは、一目瞭然、調べなくても解りますね。ただ、紫外線が発生しない蛍光管もあるんで、そこはお店の人に直接聞いてみた方がよい。

 注意点その3、コンビニで酒を買うな。じゃなかった、こうこうと照明を酒に当てている酒屋で酒を買うな。要するに、酒は山枡酒店で買え。
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日本酒滅亡の日

 ついに、日本酒最後の蔵元「横山慎一郎5代目」は、息を引き取った。その遺言により彼の蔵に備蓄されていた全ての日本酒はその蔵内に封印されてしまった。「今後、10年の間何人も我が蔵の日本酒に口をつけることを、許さない。積年の恨み今こそ晴らそうぞ。」と、妙ちきりんな遺言だったらしい。
 時は、21世紀に入って間もない頃、20世紀若者だった年寄りの大部分は自国の文化に誇りを持つ事を忘れ日本酒を殆ど飲まなくなっていた。大手の日本酒メーカーは需要のなくなった市場からはいち早く手をひきビール製造にはしったが既存のメーカーに太刀打ちできるはずもなく、極一部が地ビールレストランのチェーン展開で生き残ったにすぎず、後は皆倒産の憂き目にあっていた。

 一方、地方銘酒蔵は大手や極小蔵がいなくなり一次的に左うちわになったものの、欲を出して増産に増産を重ね、品質が著しく低下。地方銘酒を支えてきた飲み手にそっぽをむかれ、増産のため投資した設備の消却が終わるまでに設備を使う必要がなくなり、残ったのは借金だけ。そして不渡り。
 そんななか「横山慎一郎5代目」だけは、純米酒しか造らない、15000石以上造らない、という信念を通し続け、彼の蔵の酒は地元でさえプレミアが付き1升瓶1本でン万円もしていた。それでも、冠婚葬祭、神事には欠かせなかった日本酒は出荷制限をしても3カ月で売り切れていた。だが、彼の遺言により今日から一切日本酒がこの世から消える事になるのだ。

 「かしこみ、かしこみ・・・。」三三九度でも注がれるのは、外圧に負けて強制的に輸入させられているバーボンウイスキー、花婿は咳こみ、花嫁は赤ら顔で披露宴に呼んだ昔の彼氏と逃亡。

 日本料理のかくし味もなくなり、煮物の照りや、味わいの深みなどという言葉も消えてしまった。

 「先ずは、ビールで・・・。」「そろそろ酒にしますか?」「なに?おやじ!酒が無いだと!これまでおれが、お前の店で借金した事あるか?一杯何万円も出して、何時も飲んでたじゃないか!こないだなんて、高いって言うからNY銀行で500万もおろして飲みにきてやったのに。何とか捜してこい!!」−居酒屋殺人事件−
 当の横山慎一郎5代目の葬儀でも酒を飲ませろ飲ませないので結局、後3人の葬儀が続けて執り行われるはめになった。

 もちろんこれは、全くの作り話だが、先日酒好きの友人と飲んでいていて彼がふと、「日本酒が10年間くらい全く無くなったら、みんなもっと日本酒の有難みがわかるのになぁ。」と呟いたことから、乏しい想像力で創り上げてみた。
 実際、考えてご覧なさい、ただでさえギスギスした世の中なのにあのほんわかとした気持ちにさせてくれる日本酒がこの世から消えてしまう日の事を。もっと色々な事件、珍事が起こるに違いない。

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