ドーピングで使用する薬物は、選手側が、あらかじめ禁止薬物と承知の上で使用する場合も多いが、中にはそれと知らずに飲んでしまって検査に引っかかる場合もある。

禁止薬物(成分)は、決して特殊な薬ばかりというわけではなく、市販されている風邪薬や漢方薬、サプリメントの中にも含まれている。 競技直前に風邪を引いたり身体がだるいなどの不調があっても、ドーピング検査を恐れて薬の類(たぐい)は全く飲まない選手も多い。

以下は、冤罪(えんざい)とも言える不運な選手たちの出来事である。

アンドレーア・ラドカン(女子・体操)

アンドレーア・ラドカン選手は、シドニーオリンピックで体操女子個人総合で金メダルを獲得したが、 興奮剤であるプソイドエフェドリンを使用していたことが発覚し、金メダルを剥奪された。

事前に飲んだ風邪薬の中にその成分が入っていたということであり、彼女自身16歳ということもあって、そのような知識や注意力もなく、また同行していたルーマニアの医師団にもドーピングに関する十分な知識がなかった。

同じ風邪薬を他の八人の選手も飲んでいたが、陽性反応が出てしまったのは彼女だけであり、不幸な偶然が重なったと言える。

体操競技での興奮剤を飲んでいても、競技能力が上がるはずもなく、この陽性反応は事故のようなものだと分かってはいても、ルールにのっとってドーピングということになり、IOC(国際オリンピック委員会)内部からも同情する意見が多々あがった。

彼女は個人総合の金、団体総合の金、跳馬の銀と三つのメダルを獲得していたが、剥奪となったのは個人の金だけにとどまった。

リック・ガトームソン(プロ野球)

2007年8月10日、福岡ソフトバンクのリック・ガトームソン投手がドーピング検査で陽性反応を示し、薬物使用の疑惑をかけられた。
処分は、投手には20日間の出場停止、球団側には制裁金750万円となった。

彼が使用しているサプリメントや薬などを調査した結果、 約二年前から使っている発毛剤に「フィナステリド」という禁止成分が含まれていることが判明し、これが原因であることが分かった。

リック・ガトームソン投手は、2007年のキャンプの時に球団側にその発毛剤を使用していることを申告していたため、比較的軽い処分で済んだ。

我那覇 和樹(がなは かずき)(Jリーグ)

2007年5月8日、 川崎フロンターレの我那覇 和樹選手がドーピング禁止規定に違反したとして6試合の出場停止処分となった。

原因は、我那覇が風邪を引いていた時に医師に相談したところ、「ニンニク注射がいいでしょう。」と勧められ、打ってもらった注射である。 「ニンニク注射」は、身体が熱くなり、すぐに疲れが抜けるなどの即効性があり、プロスポーツ選手や芸能人も受ける人がいる栄養注射である。

ニンニク注射自体は違反ではないが、Jリーグでは「正当な医療行為以外の静脈注射は禁止」という規定があり、これに該当する行為とされた。

当時、我那覇は熱も出ており、食事もろくに出来ない状態だったため、栄養が確保出来ない状態での注射は正当な医療行為である、との抗議文をJリーグに送ったが、Jリーグはこれを却下した。川崎には1000万円の制裁金が課された。

しかし最終的には我那覇の無罪が認められ、Jリーグが謝罪した。

田中幹保と下村英二(バレーボール)

1984年のロサンゼルスオリンピックでは、日本のバレーボールチームの田中幹保と下村英二選手が風邪気味であり、ドクターに相談したところ、 漢方薬である葛根湯(かっこんとう)を処方された。しかしこの葛根湯を飲んだがために二人はドーピング検査に引っかかり、失格という結果になってしまった。

※葛根湯(かっこんとう):大半の人がご存知とは思うが、極めて一般的な漢方薬で、どこの薬局でも売っている。


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